株式会社COTSUBU

CHAPTER 08

自治体のkintone活用|庁内で使うときの型

この章で分かること

  • 庁内で使い始める前に決める4つ(名義・端末・管理者・異動の手順)
  • 押印や決裁の規程との関係を、誰と握るか
  • 基幹システムとの線の引き方と、庁内に広げる順番
この章の目次(9)
  1. 1この章は「kintoneの使い方」を書きません
  2. 2使い始める前に決める4つ
  3. 3ライセンスの数え方が、自治体では読みにくい
  4. 4押印・決裁の規程を持っている課と、最初に握る
  5. 5人事異動の月に、何が起きるか
  6. 6基幹システムとの線を、1行で書く
  7. 7庁内に広げる順番
  8. 8よくある間違いを5つ
  9. 9この章の出口

kintoneを庁内で使うときに時間がかかるのは、アプリを作る作業ではありません。 名義とライセンス、押印との関係、人事異動の月の手入れ、基幹システムとの線。この4つです。 この章は、自治体でだけ出てくる段取りを書きます。ツールの使い方そのものは、kintoneの教科書に譲ります。

この章で分かること

  • 庁内で使い始める前に決める4つ(名義・端末・管理者・異動の手順)
  • 押印や決裁の規程との関係を、誰と握るか
  • 基幹システムとの線の引き方と、庁内に広げる順番

この章は「kintoneの使い方」を書きません

アプリの作り方、つなぎ方、入力の守り方、移行、プラグイン、JavaScript。これらはすべてkintoneの教科書にあります。同じ表を2冊に書きません。

知りたいこと 読む場所
kintoneが向く業務・向かない業務 1章 kintoneとは何か
ライセンスと構築・運用の費用の全体像 2章 費用の全体像
1つのアプリの設計、複数アプリのつなぎ方 5章・6章
入力の守り方、一覧・グラフの作り方 7章・8章
決裁ルートなどのプロセス管理、通知 9章 業務の流れを回す
権限の切り方、ログ 10章 kintoneの権限設計|異動・退職で壊れない形
Excelからの移行 11章 Excelからkintoneへの移行手順
プラグイン・JavaScriptの判断 12章・13章
業種の型(台帳1つ+記録5つ)と専用システムとの線引き 14章 業種別の型
運用・定着と内製化の一般論 15章 運用・定着と内製化

当社が島根県海士町で実際に作った電子決裁・入札関連情報の一元管理・定期健診管理の中身(持たせた項目、権限の切り方、何が消えたか)は、自治体のkintone活用事例:海士町で作った3つのアプリに書いてあります。ここには同じ説明を置きません。

ここから先は、役場の中でだけ出てくる話です。

使い始める前に決める4つ

アプリを1つも作らないうちに決めるものです。後から直すと、全部作り直しになります。

決めること 何を決めるか 決めないとどうなるか
1. 名義 契約・管理者アカウントを自治体名義にする 退職・異動・契約終了でログインできなくなる(4章の仕様書12行の5)
2. どこから使うか どのネットワーク区分から、どの端末・ブラウザで使うか 作った後に「その経路では使えない」が出る(5章)
3. 誰が管理者か 管理者の権限を持つ職員の氏名。2人以上 1人しか持たないと、その人の異動で誰も設定を変えられない
4. 異動の月の手順 人事異動のときに、誰が何をするか 4月に権限が実態と合わなくなり、見えてはいけないものが見える

この4つは、アプリの設計より前に決めるという点が共通しています。どれも後から変えられないわけではありませんが、変えるときに動いているものを一度止める必要が出ます。とくに1と2は、決め直すとデータの置き場所ごと移すことになるので、実質的にやり直しです。

順番としては2を最初に確認してください。2の答え次第で、そもそもkintoneを使う前提が変わることがあります。5章の4つの問いを済ませていれば、ここは確認するだけで終わります。

1と3は、事業者が入っている案件ほど抜けます。 構築を頼んだ相手が管理者を持ったままになっていないか、検収の前に確認してください(4章の検収の基準)。

ライセンスの数え方が、自治体では読みにくい

職員の数がそのままライセンス数にならないのが、自治体の面倒なところです。先に数えてください。

数えるときの論点 確認すること
会計年度任用職員・非常勤の扱い 入力する人か、見るだけの人か。年度で入れ替わる人数はどれだけか
見るだけの職員 全庁に見せるアプリがあるか。見るだけの人にもライセンスが要るか
出先機関・指定管理者 庁舎の外から入る人がいるか。その人たちの扱いは契約でどうなるか
年度替わりの増減 4月に増える人数と減る人数。契約の変更のタイミングと合うか
共有アカウントで代用しようとしていないか 代用しない。1人1ID(5章の点検10)

この表は、数える前にどこで数え間違えるかを知るための表です。5行のうち上の4行は、いずれも「職員数」という感覚から漏れる人たちです。契約の話を始める前に、4行それぞれについて人数を書き出してください。書き出す作業自体は30分で終わりますが、やらずに契約すると、年度の途中で足りなくなるか、使わないライセンスを1年持つことになります。

「見るだけの人」の数え方で、費用が大きく変わります。 全庁に見せるアプリを作る前に、見る人の人数と、その人たちの扱いを確認してください。費用の考え方そのものはkintoneの教科書 2章にあります。

年度替わりの増減は、契約の更新時期と人事異動の時期がずれることがあります。ずれる場合、4月から数か月は多めに持つか、逆に足りない状態になります。3章の年度の暦と合わせて、先に確認してください。

ライセンスとは別に、構築を外に出す場合の費用がかかります。1業務ずつ切って発注すると、少額随意契約の限度額内に収まることがあります(限度額は団体区分と契約種別で異なるので、自庁の財務規則で確認してください)。当社が1業務単位でお引き受けする場合の金額と進め方は自治体向けkintone構築に出しています。調達の形そのものの判断は4章です。

押印・決裁の規程を持っている課と、最初に握る

庁内の決裁や合議をkintoneに載せる場合、情報政策担当だけでは決められません。

当社が島根県海士町で電子決裁を構築したときに、最も時間がかかったのはこの論点でした。決裁の記録がkintone上に残ることをもって押印に代える運用を、内部規程で定める必要があったからです。これは総務・文書担当と最初に握りました。

握る相手 聞くこと
総務・文書担当 決裁・合議・保存に関する庁内の規程。電子で行う場合の扱い
契約・会計の担当 金額が絡む決裁の扱い。支出の証拠としてどこまで電子で足りるか
監査・法規の担当 後から見られる形になっているか

聞き方は「電子決裁はできますか」ではありません。 「この業務の決裁を電子で残す場合、庁内のどの規程を直す必要がありますか」と聞いてください。できるかどうかではなく、何を直すかが答えとして返ってきます。

規程を直すには時間がかかります。その期間を工程に入れてください(5章の点検5と同じ考え方)。

人事異動の月に、何が起きるか

4月は、自治体のシステム運用で最も事故が起きる月です。やることを先に1枚にしてください。

1枚にする理由は、作業が難しいからではありません。4月にこれをやる人自身が、異動しているかもしれないからです。手順が頭の中にしかないと、引き継いだ側は何をすべきか分かりません。しかも、やり忘れても画面上は何も起きないので、誰も気づきません。気づくのは、見えてはいけないものが見えていると指摘されたときです。

異動のときにやること 誰がやるか
異動した職員の権限を外す 管理者の職員
新しい担当に権限を付ける 管理者の職員
組織・所属の情報を直す 管理者の職員。人事担当の名簿と突き合わせる
通知の宛先を直す 所管課の担当
前任の引き継ぎメモを、次の担当に渡す 所管課(9章)

「権限を外す」が最も忘れられます。 異動した職員が、前の課のデータを見られる状態のまま残ることがあります。外す作業を、付ける作業とセットの手順にしてください。

退職・休職の扱いも先に決めてください。 アカウントを消すのか、無効にして記録を残すのか。消すと、その人が入力した記録の扱いが変わることがあります。消す前に、どうなるかを確認してください。

基幹システムとの線を、1行で書く

自治体でkintoneを使うときに、監査・議会から必ず問われるのがここです。重複投資に見えるからです。

線の引き方 書き方の例
基幹の中で完結しているものは触らない 「税・国保・住民記録の計算と管理は基幹システムで行う」
基幹の外に出ている作業だけを対象にする 「基幹から出力した一覧を使った受付・進捗管理をkintoneで行う」
受け渡しの方法を決める 「基幹からCSVで出力し、手動で取り込む。自動連携は行わない」

3行目を最初から「自動連携」にしないでください。 連携を作ると、相手側の仕様変更に追随が要り、止まったときの切り分けが難しくなります(7章の外注に残す4つ)。手動の受け渡しで足りるなら、それで始めてください。

この1行があると、2章の点検10(基幹システムとの線)と、4章の随意契約の説明の両方が同時に片付きます。

庁内に広げる順番

1件目が動いたあと、全庁に一斉展開しないでください。 広げ方にも順番があります。

順 広げ方 効く理由
1 同じ課の、隣の業務 同じ人が触るので、覚え直しが要らない
2 相談が来た課 意思がある(2章の点数表 軸1)
3 多くの課が使う共通の業務(公用車、備品、研修の受講など) 全庁の職員が触るので、存在が知られる
4 個人情報の重い業務 庁内の実績ができてから、設計を先に決めて着手する(6章)

この順番は、技術の難易度ではなく、抵抗の少なさで並んでいます。1と2は相手がすでに前向きなので、説得が要りません。3で初めて、関心のない課にも存在が知られます。4に進むのは、庁内に「あれは使えるらしい」という評価が溜まってからで構いません。順番を飛ばして4から始めると、調整に時間を取られている間に1件目の熱が冷めます。

三重県名張市で支援している案件の並びも、この順で読めます。子ども・若者の居場所の受付と来館者管理、公用車の運行管理、会計年度任用職員の勤務報告や時間外の集計、そして地域包括支援センターの相談記録。個人情報を含む業務は、庁内の実績が積み上がった順番に置かれています。

「広げる」は「作る数を増やす」ではありません。 触れる職員の数を増やすことです(7章・9章)。

よくある間違いを5つ

「管理者アカウントを事業者が持ったままにする」 ——契約が終わっても設定を変えられず、次の事業者にも引き継げません。直し方:契約とアカウントを自治体名義にし、管理者を職員2人以上にする。検収の条件に入れる(4章)。

「ライセンスを職員数で数える」 ——会計年度任用職員、見るだけの人、出先の人で数が変わります。年度替わりの増減と契約の更新時期もずれます。直し方:数え方の5つの論点を先に確認する。全庁に見せるアプリを作る前に、見る人の人数を確認する。

「電子決裁はできますか、と情報政策課に聞く」 ——決裁と押印の規程を持っているのは総務・文書担当です。直し方:「この決裁を電子で残す場合、庁内のどの規程を直す必要がありますか」と、規程を持っている課に聞く。直す期間を工程に入れる。

「4月の手順を決めていない」 ——異動した職員の権限が残り、前の課のデータが見える状態になります。直し方:異動のときにやること5つを1枚にする。「外す」を「付ける」とセットの手順にする。

「基幹システムと自動連携させたがる」 ——相手側の仕様変更に追随が要り、止まったときに切り分けられません。直し方:手動の受け渡し(CSV)で始める。線を1行で書いて、監査と議会の説明にそのまま使う。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 使い始める前の4つ(名義・端末とネットワーク・管理者2人・異動の月の手順)
  2. 基幹システムとの線の1行(監査と議会の説明にそのまま使える形)
  3. 12項目の○×(必須3項目がすべて○)

作る工程は終わりです。ここから先は続ける工程に入ります。最初に来るのは研修と引き継ぎです。自治体では、この2つは別の話ではありません。異動を前提にすると、同じ話になります。

次の章へ:9章 自治体の職員研修と定着|異動への引き継ぎ

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:庁内kintoneの型(12項目)

アプリを作り始める前に通します。 5章・6章の点検リストを通した後に実施してください。

# チェック項目 合格ライン
1 どのネットワーク区分から、どの端末で使うかを確認した 情報政策担当に確認済み(5章の点検2・11)
2 契約と管理者アカウントが自治体名義になっている 個人名義・事業者名義になっていない
3 管理者の権限を持つ職員が2人以上いる 氏名が2人以上書いてある
4 ライセンスの数え方を確認した 会計年度任用職員・見るだけの人・出先・年度替わりの増減
5 ライセンスの契約更新時期と、異動の時期のずれを確認した ずれる場合の扱いが決まっている(3章)
6 人事異動のときにやることを1枚にした 外す・付ける・組織の更新・通知の宛先・引き継ぎメモ
7 退職・休職のときのアカウントの扱いを決めた 消すか無効にするか。記録がどうなるかを確認した
8 決裁・押印が絡む場合、規程を持っている課と握った 総務・文書担当に確認した日付と相手の氏名がある
9 規程を直す必要がある場合、その期間を工程に入れた 日数の見込みがある
10 基幹システムとの線を1行で書いた どこまでを扱い、受け渡しをどうするかが書いてある
11 外部に公開するビュー・共有リンクを作っていない 作っていない(6章の点検8)
12 広げる順番を決めた 隣の業務→相談が来た課→共通業務→個人情報の重い業務

合格ライン=12項目中10以上。ただし 2・6・10 のどれかが×なら本番で使い始めない。

  • 2が×:契約が終わった瞬間に、自庁で何も変えられなくなります。引き継ぎもできません
  • 6が×:4月に権限が実態と合わなくなり、見えてはいけないものが見える状態が残ります
  • 10が×:重複投資と見られ、監査でも議会でも説明できません

8・9 は、決裁や押印が絡まない業務では対象外として構いません。ただし「絡まない」と判断したこと自体を、総務・文書担当に一度確認してください。

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更新日 2018年10月20日