CHAPTER 15
kintoneの運用・定着と内製化
この章で分かること
- 使われなくなる5つの原因と、直す人の決め方(なぜ1人ではいけないか)
- 変更の手順と、戻せる変更・戻せない変更の見分け方。止まったアプリに気づく方法
- 研修・引き継ぎで何を渡せば自走するか。内製化の4段階と、内製化しなくてよい領域
この章の目次(12)
- 1使われなくなる5つの原因
- 2直す人を決める
- 3変更の手順を決める
- 4止まったことに気づく
- 5研修のやり方
- 6引き継ぎに残す5つ
- 7内製化は、定着のあとに来る
- 8よくある間違いを5つ
- 9費用について
- 10この本の使い方
- 11更新の約束
- 12相談したいとき
kintoneが使われなくなる理由は、機能でも研修でもなく、「直す人が決まっていない」です。 使い始めれば必ず「項目が1つ足りない」「一覧の並びを変えたい」が出ます。そのとき直せる人が社内にいなければ、現場は待つのをやめてExcelに戻ります。 この章は、直す人・直し方・止まったことに気づく方法を決め、そこから内製化まで登るための章です。作る前に読んでも遅くありません。
この章で分かること
- 使われなくなる5つの原因と、直す人の決め方(なぜ1人ではいけないか)
- 変更の手順と、戻せる変更・戻せない変更の見分け方。止まったアプリに気づく方法
- 研修・引き継ぎで何を渡せば自走するか。内製化の4段階と、内製化しなくてよい領域
使われなくなる5つの原因
| 原因 | 現場で起きること | 効く手 |
|---|---|---|
| 直す人がいない | 要望が宙に浮き、3か月で諦められる | 主担当・副担当を決め、時間を確保する |
| 入力が増えるだけで、返ってこない | 「入れても誰も見ていない」 | 毎朝見る一覧を1つ作り、会議で使う(8章) |
| 入力が重い | 必須項目が多く、現場が後回しにする | 常時の必須は10個以内。例外は備考で吸収(5章) |
| 二重入力が残った | Excelもkintoneも書く羽目になる | 片方を必ず止める。並行運用の終了日を先に決める(11章) |
| 止まったことに誰も気づかない | 半年後に「あのアプリ、誰も使ってない」 | 月1回、入力件数を見る |
とくに4番目は致命的で、Excelを止めないまま始めた業務は、ほぼ確実に元に戻ります。 並行運用は1か月までにし、終了日を最初に周知してください。
直す人を決める
1人にしない
いちばんやってはいけないのが、詳しい人が1人だけいる状態です。その人が休んだ日、異動した月、辞めた週に、全部止まります。
決めるのは3つの役割です。兼任で構いませんが、名前を書いて周知します。
| 役割 | やること | 人数 |
|---|---|---|
| 主担当 | 項目の追加、一覧・グラフの変更、現場からの相談の受け口 | 1人 |
| 副担当 | 主担当が不在のときに同じことをする | 1人以上 |
| 業務のオーナー | 「その変更をしてよいか」を決める(部署長でよい) | 1人 |
アプリ管理権限は必ず2人以上に渡します(10章)。逆に、全員に渡すと項目が勝手に消えるので、そこは絞ります。
時間を業務として確保する
「余裕があるときにやってね」は、確保していないのと同じです。月2時間でよいので、上長が業務として認めた時間を置いてください。実務では、月1回30分の定例(要望を見て、直すものを決める)+作業1時間半で回ります。この形にすると要望が溜まっても「次の定例で見る」と言えるので、主担当が断りやすくなります。
この2つ(人と時間)が、点検リストの必須項目です。 ここが×なら、他の8項目が全部○でも、そのアプリは必ず使われなくなります。
選ぶのは、情シスでなくてよい
むしろその業務をいちばん分かっている人のほうが向いています。条件は3つ——その業務を毎日やっている/Excelの関数を自分で直せる/現場から相談されやすい立場にあり、月2時間を確保できる。逆に、業務を知らない人は「何を直すべきか」を判断できず、権限だけ持っていて現場にいない人は、要望が届きません。
変更の手順を決める
要望が来るたびに場当たりで直すと、誰が何を変えたか分からないアプリになります。手順は5つで足ります。
- 窓口に出す——スペースのスレッドか、要望受付アプリを1つ。口頭と個別のDMは受けない
- オーナーが決める——「やる/やらない/後で」。やらないものも記録に残す
- 戻せる変更かを見る——下の表で判断する
- 直して、アプリを更新する——kintoneの設定変更は「アプリを更新」を押すまで現場に反映されません。 ここが最後の確認ポイント
- 変えたことを伝える——変更した日・内容・影響のある人を、窓口と同じ場所に書く
| 変更 | 戻せるか | やり方 |
|---|---|---|
| フィールドを足す/一覧・グラフを足す・直す | 戻せる | そのまま直してよい |
| 必須にする・外す | 戻せる | 既存レコードは空欄のまま残る点だけ周知 |
| 選択肢を足す・プラグインの設定を変える | 戻せる | 変更前の設定をメモしてから |
| フィールドを消す | 戻せない | 中のデータごと消える。CSVで書き出してから |
| フィールドの型を変える(作り直し) | 戻せない | アプリをコピーして試す |
| プロセス管理を変える | 戻しにくい | 進行中のレコードの扱いを決めてから(9章) |
| JavaScriptを入れ替える | 戻せる(ソースがあれば) | ソースを必ず社内に保管(13章) |
kintoneには本番と別のテスト環境がありません。 戻せない変更は「アプリをコピーして、コピー側で試す」のが実務的な回避策です。データを含めずにコピーできるので、設定だけの検証ならすぐ終わります。
止まったことに気づく
定着していないアプリは、静かに止まります。 誰も報告してくれないので、こちらから見に行きます。月1回、見るのは2つだけです。
- アプリごとの直近30日の入力件数
- 想定していた件数との差
件数の少ない順に見ます。0件なら、止まっているのではなく「そもそも要らなかった」可能性も考えてください。使われていないアプリを残しておくと、引き継ぎのときに全部が重荷になります。要らないものは、CSVで書き出してから消します。
件数だけでは分からないことは、現場に1つだけ聞きます。「これ、いま何が面倒ですか」。 「使ってますか」と聞くと「使ってます」としか返ってきません。
あわせて、壊れ方が静かなものを年1回だけ確かめます。JavaScriptカスタマイズ(画面の刷新で無言で止まる)、モバイルでの入力チェック、外部連携のWebhook(受け側が落ちていても気づかない)。いずれも13章の点検項目です。
研修のやり方
研修で身につくかどうかは、題材で9割決まります。
当社は島根県海士町で、電子決裁と定期健診管理を構築し、職員と島留学生への研修を行いました(14章)。そこで効いたやり方を、そのまま書きます。
題材は「本人が毎週やっている面倒な作業」にする。 研修用の架空の課題では残りません。Excelの転記、紙の集計、毎月同じ表を作る作業。本人が「これが面倒だ」と言ったものを題材にすると、研修が終わったあとも自分で触り続けます。ここが分かれ目です。
1回で教えることを3つに絞る。 アプリとレコードの関係(1レコードが何を表すか)/フィールドの型(文字列・数値・日付・ドロップダウン)/一覧の絞り込みと並び替え。権限もプロセス管理もルックアップも、初回では教えません。 詰め込むと手が止まります。必要になったときに教えるほうが、はるかに速く覚えます。
その週のうちに実務で使わせる。 翌週まで寝かせると忘れます。本番のデータを入れてもらうと必ず不便が出ます。「この項目が足りない」「並び順を変えたい」。この不便が、次に教える内容そのものです。直したいという動機があるときにだけ、人は新しい機能を覚えます。
人数は1回4名程度まで。 それ以上だと、手が止まった人に気づけません。頻度は週1回よりも、2週間に1回×数回のほうが、間に実務が挟まって定着します。1単位は3か月で見ます(当社が自治体向けに行っている職員研修も、この3か月・4名までを1単位にしています)。段階3(作れる)まで行くのに必要な期間と一致するので、そこで区切るのがいちばん無駄がありません。
自分の業務が作れたら、残りは2段あります。他の人から要望を聞いて作らせる——ここで初めて業務設計の訓練が入ります。自分の業務は聞かなくても分かってしまうので、他人のために作って初めて「何を聞けばいいか」が問題になります。そして教える側に回らせる。 教えると定着します。ここまで来れば自走で、これが段階4です。
引き継ぎに残す5つ
担当者が代わる前提で、5つだけ残します。作った会社が持っている状態は、引き継ぎとは言いません。
| 残すもの | 中身 | 更新のタイミング |
|---|---|---|
| アプリ一覧 | アプリ名・用途・管理者・使う部署・作った日 | アプリを作ったとき |
| 項目一覧 | フィールド名・フィールドコード・型・必須・選択肢 | 項目を変えたとき |
| プラグイン一覧 | 入れているプラグインと、その設定内容 | 設定を変えたとき |
| JavaScriptの置き場所 | ソースの保管場所・誰が書いたか・何をしているか | 入れ替えたとき |
| 外部連携の一覧 | APIトークン(どのアプリの・どの権限の)・Webhook・連携先・用途 | 作ったとき |
置き場所は1か所にまとめます。 担当者のPCの中ではなく、kintoneのスペースにファイルとして置くか、共有フォルダに固定します。外部の会社に作ってもらった場合は、この5つが納品物に入っているかを契約前に確認してください(3章の見積チェック)。
内製化は、定着のあとに来る
定着ができていないうちに内製化を目指すと、作れる人は育ったのに、作ったものが使われないという状態になります。順番があります。
| 段階 | できること | 到達の目安 | 次へ進んでよい判断 |
|---|---|---|---|
| 1. 使える | 登録・検索・一覧の絞り込み | 1日 | 3か月、入力件数が落ちていない |
| 2. 直せる | フィールドの追加、一覧の設定、グラフ作成 | 2週間 | 外注の依頼が月0〜1件になった |
| 3. 作れる | 業務を聞いて新しいアプリを設計・構築 | 2〜3ヶ月 | 2業務目を自分たちで立ち上げられた |
| 4. 教えられる | 他の人に作り方を教える | 3ヶ月〜 | — |
多くの会社が1で止まります。そして1と2のあいだが、いちばん脱落します。 越えるために必要なのは技術ではなく、権限(アプリを作れないと練習もできない)と時間(研修枠ではなく、業務時間中に実際の業務でやる)、そして詰まったときにすぐ聞ける相手です。3つめだけは、外部の人が入る意味があります。
段階2に上がるのは2週間です。項目の追加や一覧の変更を毎回外注していると、1件2万円でも年10件で20万円かかり、そのうえ依頼して待つ時間が発生します。ここに投資しない理由がありません。
全部を内製化する必要はありません。JavaScriptカスタマイズ(保守できる人を社内に抱えることになる)、外部システム連携(相手側の仕様変更に追随し続ける)、大量データの移行(一度きりの作業で習得が引き合わない)、権限設計の初期構築(間違えると後で直しにくい)——この4つは、外に置いたほうが結果的に安く済みます。標準機能の範囲は社内、それを超える部分は外部。 この線引きが現実的です。
進めると「野良アプリが増える」という懸念が必ず出ます。禁止ではなく統制で対応します。作れる人(承認制)・命名規則(部署名_業務名)・個人情報を扱う場合は事前申請・年1回の棚卸し、この4つを先に決めておけば足ります。
AIで作れる時代に、社内に残す技能
AIを使えば、フィールド構成の案出しもJavaScriptの生成も速くなります。短縮されないのはテストと判断です(13章)。だから社内に残すべき技能は、コードを書く力ではありません。
①「この業務はkintoneに入る形か」を見分ける力(1章)、②1レコードが何かを1文で言える力(5章)、③直すか直さないかを決める力(この章の「オーナー」)。この3つは、AIが代わりにやってくれない部分で、しかも社内の人にしか持てません。
よくある間違いを5つ
1. 作ってから「誰が直すか」を考える——納品の日に決めようとすると、押し付け合いになって決まりません。 → 直し方:構築を始める前に、主担当・副担当・オーナーを名前で決めます。 3章の発注チェックにも「作ったものを自社で直せる状態で渡されるか」が入っているのは、このためです。
2. 権限を渡さずに「自分たちで直して」と言う——アプリ管理権限がなければ、練習も改修もできません。 → 直し方:まず権限を渡し、ルールで統制します。 作れる人を承認制にし、命名規則と年1回の棚卸しを決めれば、野良アプリは増えません。
3. Excelを止めずに並行運用を続ける——「慣れるまで両方で」が半年続くと、必ずExcelが残ります。 → 直し方:並行運用の終了日を最初に決めて周知します(11章)。長くて1か月。止める日に、Excelのファイルを読み取り専用にするところまでやります。
4. 月1回の点検をやらない——入力が止まっても誰も報告しないので、気づくのは半年後です。 → 直し方:定例30分を固定し、直近30日の入力件数を見ます。 件数の少ない順に、現場へ「これ、いま何が面倒ですか」と1つだけ聞きます。
5. 引き継ぎ資料を作った会社だけが持っている——契約が切れた瞬間、社内に何も残りません。 → 直し方:5つ(アプリ一覧・項目一覧・プラグイン・JSの置き場所・外部連携)を自社の1か所に置きます。 納品物に入っているかは、契約前に確認します。
費用について
定着のための機能に、追加費用はかかりません。要望の窓口はスペースのスレッドかアプリ1つ、入力件数の確認は一覧の絞り込み、設定書はアプリの設定から書き出せます。かかるのは人の時間(月2時間)だけです。
当社は構築だけして引き上げる形にしていません。1業務1アプリまで、構築は最大1か月0円。 使うと決めていただいた場合だけ、月5万円から(最低12ヶ月)で、改善の作業・質問対応・月1回の定例を続けます。この定例が、この章に書いた「月1回、要望を見て直すものを決める」場そのものです。
kintoneのライセンス料はスタンダードコース 1ユーザー月1,800円(税抜)・最小10ユーザーで、サイボウズ社とのご契約です。使っている無料プラグイン23本はMITライセンスで、外部のサーバーと通信しません。当社との契約が終わっても、そのまま使い続けられます。
この本の使い方
15章を通しで読む必要はありません。自社が今いる場所の章から読み、その章の点検リストに○×を付けてください。 全15章に16本・158項目の点検リストが入っています。
| 今いる場所 | 読む章 | 手元に残る点検リスト |
|---|---|---|
| 入れるかどうかを決める | 1〜3章 | 向き不向き10/費用8/見積書10・選定8 |
| どこから始めるかを決める | 4章 | 点数表6項目+最初の1業務8 |
| 作る | 5〜9章 | アプリ設計12/つなぎ方10/入力の守り方12/見える化10/流れ10 |
| 渡す・移す・足す | 10〜12章 | 権限10/移行12/プラグイン10 |
| 広げる | 13〜14章 | カスタマイズ着手前10/業種の型8 |
| 続ける | 15章 | 運用と自走10 |
読み方は3通りあります。通しで読む(初めての導入を自分で設計する場合)、点検リストだけ先に印刷して付ける(すでに動いているkintoneの健康診断)、発注前に3章と13章だけ読む(外注する場合。見積書と保守の約束を見る2章分です)。
判断に迷ったときは、この本の骨になっている3つの原則に戻ってください。
- 1業務・1部署から始める。 全社の合意を取っているあいだに、最初の熱が冷めます(4章)
- 直しにくい決定から先に決める。 1レコード=何か、キー、型、サブテーブルか別アプリか。それ以外は後から直せます(5章)
- 作る前に、直す人を決める。 ここが決まっていない構築は、品質に関係なく使われなくなります(この章)
更新の約束
- 正本はこのフォルダのMarkdownです。 ホワイトペーパー(PDF)・スライド・音声・動画は、すべてここから作ります。内容が食い違ったら、こちらが正しいと考えてください
- 出典のない数字は書きません。 料金と仕様は時点を明記しています(本書の記載は2026年9月時点。kintoneの料金はサイボウズの料金ページ、当社の料金は当社のページが最新です)
- 実物にない機能は書きません。 本書の実例は、当社が実際に作った見本3業種18アプリの定義、無料プラグイン23本(いずれも0.1.0・PC画面のみ)、そして海士町での構築と研修から引いています
- kintoneの仕様変更、プラグインの追加・更新、料金の改定があったときは、該当する章を直し、更新履歴に残します
相談したいとき
- 実物を見たい — 不動産・建設・製造 の見本を、画面のまま公開しています
- 設定だけで解決したい — 無料プラグイン23本。無料・MITライセンス・会員登録不要・外部と通信しません
- 作ってほしい/今のkintoneを見てほしい — kintone導入支援。1業務1アプリまで、構築は最大1か月0円です。動くものを見てから決めてください
この本の点検リストに×が付いた項目を持ってきていただくのが、いちばん早い相談のしかたです。 どこが×かが分かっていれば、話は「何を作るか」ではなく「何から直すか」から始められます。
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:運用と自走(10項目)
本番を始めた日に1回、そのあとは半年に1回、○×を付けます。
| # | チェック項目 | ○の条件 |
|---|---|---|
| 1 | アプリを直せる人が社内に2人以上いるか | 主担当・副担当が名前で決まっている |
| 2 | その人の作業時間が業務として確保されているか | 月2時間以上を上長が認めている |
| 3 | 直してほしいことを出す窓口が1か所にあるか | ある(スレッド・要望受付アプリ等) |
| 4 | 利用状況(直近30日の入力件数)を月1回見ているか | 見ている |
| 5 | 入力が止まった業務に気づく仕組みがあるか | 件数の点検が定例に入っている |
| 6 | アプリの設定書(項目一覧)が最新か | 最新(フィールドコードまで入っている) |
| 7 | 管理者が交代しても引き継げる資料が5つ揃っているか | 揃っていて、置き場所が1か所 |
| 8 | 定例(月1回)で改善を回しているか | 回している |
| 9 | 新しく入った人に説明する手順があるか | ある(初回は3つだけ教える形) |
| 10 | 外注先に依存しないと直せない箇所を把握しているか | 把握している(JS・外部連携の一覧がある) |
合格ライン=10項目中8つ以上。ただし1・2 は必須(この2つが×なら、必ず使われなくなります)。
1と2は、導入の翌月には効きません。効いてくるのは3か月後からで、そのころには構築の熱が冷めています。だから、熱があるうち(着手前)に決めておくのが唯一の方法です。
この章に関係する記事
更新日 2018年10月20日
