kintoneが使われなくなる理由は、機能でも研修でもなく、「直す人が決まっていない」です。
使い始めれば必ず「項目が1つ足りない」「一覧の並びを変えたい」が出ます。そのとき直せる人が社内にいなければ、現場は待つのをやめてExcelに戻ります。作る前に、直す人・直し方・止まったことに気づく方法の3つを決めてください。
この記事は「作った後に回し続ける仕組み」の話です。社内の人がどこまで自分で作れるようになるか(内製化の到達点と教え方)は15章 運用・定着と内製化に分けています。内製化は「作れる人を育てる」話、定着は「作ったものを使われ続ける状態にする」話です。順番としては定着が先で、内製化はその延長にあります。
使われなくなる5つの原因
| 原因 | 現場で起きること | 効く手 |
|---|---|---|
| 直す人がいない | 要望が宙に浮き、3か月で諦められる | 主担当・副担当を決め、時間を確保する |
| 入力が増えるだけで、返ってこない | 「入れても誰も見ていない」 | 毎朝見る一覧を1つ作り、会議で使う |
| 入力が重い | 必須項目が多く、現場が後回しにする | 必須を10個以内に。例外は備考で吸収 |
| 二重入力が残った | Excelもkintoneも書く羽目になる | 片方を必ず止める。並行運用は1か月まで |
| 止まったことに誰も気づかない | 半年後に「あのアプリ、誰も使ってない」 | 月1回、入力件数を見る |
とくに「二重入力が残った」は致命的で、Excelを止めないまま始めた業務は、ほぼ確実に元に戻ります。
直す人を決める
1人にしない
いちばんやってはいけないのが、詳しい人が1人だけいる状態です。その人が休んだ日、異動した月、辞めた週に、全部止まります。
決めるのは3つの役割です。兼任で構いませんが、名前を書いて周知してください。
| 役割 | やること | 人数 |
|---|---|---|
| 主担当 | 項目の追加、一覧・グラフの変更、現場からの相談の受け口 | 1人 |
| 副担当 | 主担当が不在のときに同じことをする | 1人以上 |
| 業務のオーナー | 「その変更をしてよいか」を決める(部署長でよい) | 1人 |
アプリ管理権限は必ず2人以上に渡します(→kintoneの権限設計)。逆に、全員に渡すと項目が勝手に消えるので、そこは絞ります。
時間を業務として確保する
「余裕があるときにやってね」は、確保していないのと同じです。月2時間でよいので、上長が業務として認めた時間を置いてください。
実務では、月1回30分の定例(要望を見て、直すものを決める)+ 作業1時間半、くらいで回ります。この形にすると、要望が溜まっても「次の定例で見る」と言えるので、主担当が断りやすくなります。
直す人を選ぶ基準
情報システム担当である必要はありません。むしろその業務をいちばん分かっている人のほうが向いています。
| 向いている | 向いていない |
|---|---|
| その業務を毎日やっている | 業務を知らない(何を直すべきか判断できない) |
| Excelの関数を自分で直せる | 「触ると壊れそう」と思っている |
| 現場から相談されやすい立場・月2時間を確保できる | 権限だけ持っていて現場にいない |
変更の手順を決める
要望が来るたびに場当たりで直すと、誰が何を変えたか分からないアプリになります。手順は5ステップで足ります。
- 窓口に出す — スペースのスレッドか、要望受付アプリを1つ作る。口頭とチャットの個別DMは受けない
- オーナーが決める — 「やる/やらない/後で」。やらないものも記録に残す
- 戻せる変更かを見る — 下の表で判断する
- 直して、アプリを更新する — kintoneの設定変更は「アプリを更新」を押すまで現場に反映されません。 ここが最後の確認ポイント
- 変えたことを伝える — 変更した日・内容・影響のある人を、窓口と同じ場所に書く
戻せる変更・戻せない変更
| 変更 | 戻せるか | やり方 |
|---|---|---|
| フィールドを足す | 戻せる | そのまま直してよい |
| 一覧・グラフを足す/直す | 戻せる | そのまま直してよい |
| 必須にする・外す | 戻せる | 既存レコードは空欄のまま残る点だけ周知 |
| 選択肢を足す・プラグインの設定を変える | 戻せる | 変更前の設定をメモしてから |
| フィールドを消す | 戻せない | 中のデータごと消える。CSVで書き出してから |
| フィールドの型を変える(作り直し) | 戻せない | アプリをコピーして試す(→フィールド設計) |
| プロセス管理を変える | 戻しにくい | 進行中のレコードの扱いを決めてから |
| JavaScriptを入れ替える | 戻せる(ソースがあれば) | ソースを必ず社内に保管 |
kintoneには本番と別のテスト環境がありません。戻せない変更は「アプリをコピーして、コピー側で試す」のが実務的な回避策です。データを含めずにコピーできるので、設定だけの検証ならすぐ終わります。
止まったことに気づく
定着していないアプリは、静かに止まります。 誰も報告してくれないので、こちらから見に行く必要があります。
月1回、次の2つだけ見れば十分です。
- アプリごとの直近30日の入力件数
- 想定していた件数との差
一覧の絞り込みでも出せますが、アプリが増えたらまとめて数えたほうが早いです。
// ブラウザのコンソールで実行する。アプリごとの直近30日の入力件数を数える
(async () => {
const APPS = [10, 11, 12]; // 見たいアプリID
const rows = [];
for (const app of APPS) {
const info = await kintone.api('/k/v1/app', 'GET', { id: app });
const res = await kintone.api('/k/v1/records', 'GET', {
app,
query: '作成日時 > FROM_TODAY(-30, DAYS) limit 1',
fields: ['$id'],
totalCount: true,
});
rows.push({ アプリ: info.name, 直近30日の件数: Number(res.totalCount) });
}
rows.sort((a, b) => a.直近30日の件数 - b.直近30日の件数);
console.table(rows);
})();
上に来たアプリから見ます。0件なら、止まっているのではなく「そもそも要らなかった」可能性も考えてください。使われていないアプリを残しておくと、引き継ぎのときに全部が重荷になります。要らないものは、CSVで書き出してから消します。
件数だけでは分からないことは、現場に1つだけ聞きます。「これ、いま何が面倒ですか」。 「使ってますか」と聞くと「使ってます」としか返ってきません。
研修のやり方
研修で身につくかどうかは、題材で9割決まります。
COTSUBUは島根県海士町の役場で、電子決裁と定期健診管理を構築し、職員と島留学生への研修を行いました。そこで実際に効いたやり方を、そのまま書きます。
題材は「本人が毎週やっている面倒な作業」にする
研修用の架空の課題では残りません。Excelの転記、紙の集計、毎月同じ表を作る作業。本人が「これが面倒だ」と言ったものを題材にします。
題材が自分ごとだと、研修が終わったあとも自分で触り続けます。ここが分かれ目です。
1回で教えることを絞る
初回に説明するのは3つだけにします。
- アプリとレコードの関係(1レコードが何を表すか)
- フィールドの型(文字列・数値・日付・ドロップダウン)
- 一覧の絞り込みと並び替え
権限もプロセス管理もルックアップも、初回では教えません。 詰め込むと手が止まります。必要になったときに教えるほうが、3倍速く覚えます。
その週のうちに実務で使わせる
作ったものを翌週まで寝かせると、忘れます。作ったその週に本番のデータを入れてもらうと、必ず不便が出ます。「この項目が足りない」「並び順を変えたい」。この不便が、次に教える内容そのものです。直したいという動機があるときだけ、人は新しい機能を覚えます。
人数は1回4名程度まで
それ以上だと、手が止まった人に気づけません。頻度は週1回よりも、2週間に1回×数回のほうが、間に実務が挟まって定着します。
引き継ぎの作り方
担当者が代わる前提で、5つだけ残します。作った会社が持っている状態は、引き継ぎとは言いません。
| 残すもの | 中身 | 更新のタイミング |
|---|---|---|
| アプリ一覧 | アプリ名・用途・管理者・使う部署・作った日 | アプリを作ったとき |
| 項目一覧 | フィールド名・フィールドコード・型・必須・選択肢 | 項目を変えたとき |
| プラグイン一覧 | 入れているプラグインと、その設定内容 | 設定を変えたとき |
| JavaScriptの置き場所 | ソースの保管場所・誰が書いたか・何をしているか | 入れ替えたとき |
| 外部連携の一覧 | APIトークン・Webhook・連携先・用途 | 作ったとき |
項目一覧は手で作らなくても、アプリの設定から書き出せます。コードまで含めて一覧にする方法はフィールド設計の記事に載せています。
置き場所は1か所にまとめてください。 担当者のPCの中ではなく、kintoneのスペースにファイルとして置くか、共有フォルダに固定します。
外部の会社に作ってもらった場合は、この5つが納品物に入っているかを契約前に確認してください(→kintoneパートナーの選び方)。入っていない会社に頼むと、自社で直せない状態が続きます。
内製化とのつながり
定着ができていないうちに内製化を目指すと、作れる人は育ったのに、作ったものが使われないという状態になります。順番はこうです。
| 段階 | ここでやること | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 1. 定着 | 直す人を決め、入力件数を月1回見る | 3か月、入力件数が落ちていない |
| 2. 直せる | 項目の追加・一覧の変更を社内でやる | 外注の依頼が月0〜1件になった |
| 3. 作れる | 新しい業務を社内で設計・構築する | 2業務目を自分たちで立ち上げられた |
1と2のあいだが、いちばん脱落します。 ここを越えるために必要なのは技術ではなく、時間の確保と権限です。3の段階の育て方は15章 運用・定着と内製化にまとめています。
カスタマイズと外部連携は、内製化してもなお外に置いたほうが安く済む領域です。標準機能の範囲は社内、それを超える部分は外部という線引きが現実的です。
COTSUBUの関わり方と費用
構築だけして引き上げる形にはしていません。1業務1アプリまで、構築は最大1か月0円です。使うと決めていただいた場合だけ、月5万円〜(最低12ヶ月)で、改善の作業、質問対応、月1回の定例を続けます。この定例が、上に書いた「月1回、要望を見て直すものを決める」の場そのものです。
kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。
使っている無料プラグインは23本すべて公開していて、外部のサーバーと通信しません。当社との契約が終わっても、そのまま使い続けられます。
まとめ
- 定着しない原因のほとんどは「直す人が決まっていない」
- 直す人は2人以上。主担当・副担当・業務のオーナーを名前で決める
- 月2時間でよいので、上長が業務として認めた時間を確保する
- 要望の窓口を1か所にし、変更したことを同じ場所に書く
- 設定変更は「アプリを更新」まで反映されない。戻せない変更はアプリをコピーして試す
- 月1回、直近30日の入力件数を見る。0件のアプリは止まっているか、要らなかったか
- 研修の題材は、本人が毎週やっている面倒な作業にする。初回は3つだけ教える
- 引き継ぎに残すのは5つ。アプリ一覧・項目一覧・プラグイン・JSの置き場所・外部連携
- 定着ができてから内製化。順番を逆にすると、作れる人だけが育つ
→ kintone導入支援の詳細 → 15章 運用・定着と内製化 → kintone導入で失敗する5つのパターンと対策 → kintoneの権限設計
よくある質問
kintoneが定着しないのはなぜですか
ほとんどの場合、直す人が決まっていないからです。使い始めれば必ず「項目が足りない」「一覧の並びを変えたい」が出ますが、直す人がいないと、そのままExcelに戻ります。機能や研修より先に、直す人とその人の作業時間を決めてください。
kintoneを直す人は社内に何人必要ですか
2人以上です。1人だと、その人が休んだ日・異動した月に全部止まります。アプリ管理権限を2人以上に渡し、主担当と副担当を決めてください。あわせて、その人が月に何時間この作業に使ってよいかを、上長が業務として認めておく必要があります。
運用中のアプリを直すとき、テスト環境は必要ですか
小さな変更なら不要です。kintoneの設定変更は「アプリを更新」を押すまで現場に反映されないため、その手前で戻せます。ただしフィールドの削除・型の作り直し・プロセス管理の変更のように戻せない変更は、アプリをコピーして試してから本番に入れてください。
社内研修はどうやれば身につきますか
研修用の課題ではなく、参加者が毎週やっている実際の面倒な作業を題材にします。COTSUBUが島根県海士町で行った研修も、職員と島留学生に対して、実際の業務を題材に進めました。1回で教える内容を絞り、作ったものをその週のうちに実務で使わせるのが、いちばん残ります。
担当者が辞めてもkintoneを引き継げるようにするには何を残しますか
アプリ一覧(用途・管理者・利用部署)、アプリごとの項目一覧(フィールドコード付き)、入れているプラグインとその設定、JavaScriptのソースの置き場所、外部連携のAPIトークンの一覧、の5つです。これが揃っていれば、引き継ぐ人が1日で全体像をつかめます。


