先に正直なところを書きます。kintoneはMRP(所要量計算)や原価の自動配賦をする道具ではありません。 そこが業務の中心にあるなら、専用の生産管理システムを選んでください。
kintoneが向くのは、受注・製造指示・工程実績・在庫の記録を一本にして、遅れと不良に早く気づく用途です。実際に動かしている見本は製造業のkintoneにあります。この記事は、その線引きをどう決めたかの話です。
「生産管理」という言葉が指す範囲は広すぎる
同じ「生産管理システムが欲しい」でも、指しているものが人によって違います。まず機能ごとに分けて、どちらの道具が向くかを決めます。
| やりたいこと | kintone | ERP・専用システム |
|---|---|---|
| 受注の一覧と納期の管理 | ◎ | ○ |
| 製造指示を出す・進捗を記録する | ◎ | ○ |
| 工程ごとの作業時間・良品数・不良数を取る | ◎ | ○ |
| 在庫の入出庫を記録する | ◎ | ○ |
| 不良の原因と対策を積み上げる | ◎ | △(機能がない製品もある) |
| 多階層の部品表(BOM)を展開する | ✕ | ◎ |
| 所要量計算(MRP)・自動発注 | ✕ | ◎ |
| 原価の自動配賦(間接費の按分) | ✕ | ◎ |
| 設備・人の負荷の山積み/山崩し | ✕ | ◎ |
| 生産スケジューラでの自動組み替え | ✕ | ◎ |
✕のところは、頑張ってJavaScriptを書けば近いものは作れます。ただし作る費用と直し続ける費用が、専用システムの価格を超えます。 作らないほうがよい、というのが正直なところです。
ERPを先に検討したほうがよい3つのサイン
- 部品表が多階層で、そこから発注数量が決まっている(ネジ1本まで展開して自動発注したい)
- 間接費の配賦まで含めた原価計算が、値決めの根拠になっている
- 設備の能力が制約で、負荷を見ながら順番を組み替えている
このどれかが業務の中心にあるなら、kintoneはその周辺(受注・進捗・不良の記録)を担当する道具として考えてください。
kintoneのほうが向く場面
- 生産の指示がまだ紙とExcelとホワイトボードに分かれている
- 進捗を知るのに現場に聞きに行っている
- 不良が出たときの対策が記録に残っていない
- 既存の生産管理システムはあるが、現場が使っていない
最後の一行は多いです。機能が足りないのではなく、入力が続かないから使われていません。その場合に必要なのは高機能なシステムではなく、項目の少ない入力画面です。作り方は工程実績をkintoneで取る方法に書きました。
アプリの持ち方
見本は6つのアプリですが、生産の流れだけを見るなら次の4つです。
| アプリ | 1レコードの単位 | 主な項目 |
|---|---|---|
| ① 品目マスタ | 1品番 | 品番・品名・区分・単位・標準原価・在庫数・安全在庫・仕入先 |
| ② 受注 | 1受注 | 受注番号・得意先・品番・品名・数量・受注金額・納期・状況 |
| ③ 製造指示 | 1指示 | 指示番号・受注番号・得意先・品名・指示数量・工程(テーブル)・開始予定日・完了予定日・進捗 |
| ④ 工程実績 | 1工程1回 | 指示番号・工程名・作業者名・開始・終了・良品数・不良数 |
受注と製造指示を1つのアプリにまとめないでください。 1つの受注を2回に分けて作ることがあり、その時点で1対1ではなくなります。逆に「受注1件=製造指示1件」しか起きない工場なら、まとめても構いません。将来ではなく今の業務で判断するのが基本です(→5章 アプリ設計の基本)。
番号を人が決めない
受注番号(SO-FY2026-0001)と指示番号(MO-FY2026-0001)は、無料プラグイン自動採番で年度ごとの連番を振っています。人が決める運用にすると、必ず飛び番と重複が出ます。考え方はkintoneで連番・自動採番を作る方法にまとめています。
転記を止める
製造指示で受注番号を選ぶと、得意先・品名・数量がコピーされます(ルックアップ)。同じ内容を2回打つ工程が残っていると、そこで数量違いが起きます。 ルックアップの設定はkintoneルックアップ機能の使い方にまとめています。
受注の一覧です。品番を選ぶだけで品名と金額の計算が入り、納期までの残日数が自動で入ります。

遅れに早く気づく形にする
生産管理で毎日見るのは、「予定に対して遅れている指示はどれか」の1つです。これを見るために必要なのは3つだけです。
| 持つもの | 種類 | 役割 |
|---|---|---|
| 完了予定日 | 日付 | 基準になる日 |
| 完了までの残日数 | 数値(期限・残日数が自動で入れる) | あと何日かを数字で見る |
| 進捗 | ドロップダウン(未着手/進行中/遅延/完了) | 人が判断した状態 |
この3つに条件書式で色を付けると、一覧を開いた瞬間に遅れが見えます。

数値と日付は文字の並びではなく大小で比べられるので、「残日数が 3 より小さい」のような条件がそのまま作れます。色の付け方はkintoneの一覧で条件に合う行に色を付ける方法に詳しく書きました。
納期より後の完了予定日を、保存前に止める(JavaScript)
受注の納期より製造指示の完了予定日が後になっていたら、その時点で納期遅れが確定しています。保存前に気づく最小の例です。
(() => {
'use strict';
const ORDER_APP = 2; // 受注アプリのID
const ORDER_NO = '受注番号';
const DUE = '納期'; // 受注アプリの日付フィールド
const PLAN = '完了予定日'; // 製造指示アプリの日付フィールド
const EVENTS = ['app.record.create.submit', 'app.record.edit.submit'];
kintone.events.on(EVENTS, async (event) => {
const rec = event.record;
const no = rec[ORDER_NO].value;
const plan = rec[PLAN].value;
if (!no || !plan) return event;
const resp = await kintone.api('/k/v1/records', 'GET', {
app: ORDER_APP,
query: `${ORDER_NO} = "${String(no).replace(/"/g, '\\"')}" limit 1`,
fields: [DUE],
});
const due = resp.records[0] && resp.records[0][DUE].value;
if (!due) return event;
// 日付は "YYYY-MM-DD" の文字列のまま比べる(時差でずれない)
if (plan > due) {
rec[PLAN].error = `受注の納期(${due})より後です`;
event.error = '完了予定日が納期を過ぎています。日程を見直してください。';
}
return event;
});
})();
30行ほどです。日付は YYYY-MM-DD の文字列のまま比べると、時差でずれません。JavaScriptカスタマイズの基本は13章 JavaScript・API・外部連携にまとめています。
完了した指示を編集できなくする
進捗が「完了」になった製造指示の指示数量と工程を、あとから直せる状態にしておくと、実績との突き合わせができなくなります。無料プラグイン条件付き入力禁止で、「進捗 が 完了 と等しいなら、指示数量と工程を編集できない」を設定だけで作れます。
実際の画面
製造指示の詳細です。工程はサブテーブルで持ち、行番号はテーブル行番号が自動で振ります。下には、その指示に対する工程実績と不良が関連レコード一覧で並びます。

指示を開けば、実績も不良も同じ画面にある。 これが「一本につなぐ」の中身です。データはすべて架空です。同じ画面は製造業のkintoneで全部見られます。
どこから始めるか
全部を一度に作ると、運用が始まる前に力尽きます。順番は次をおすすめします。
| 順番 | 作るもの | これで分かること |
|---|---|---|
| 1 | 品目マスタと受注 | 納期と受注残 |
| 2 | 製造指示 | どの指示が遅れているか |
| 3 | 工程実績 | どの工程で時間がかかっているか |
| 4 | 在庫入出庫 | 実際の在庫数と安全在庫割れ |
| 5 | 不良・是正 | 同じ不良が繰り返されているか |
1と2だけでも、「納期に対していま何件残っているか」が分かります。在庫の作り方は製造業の在庫管理をkintoneで作る方法に分けて書きました。
正直に言っておく限界
| 限界 | どうするか |
|---|---|
| MRP・多階層BOM・原価の自動配賦はできない | 専用システムに任せる。kintoneは記録側を担当する |
| 山積み・山崩しの画面はない | 同じ作業者の時間の重なりは期間重複チェックで警告できる |
| ガントチャートの表示はない | カレンダー表示と残日数で代替する(→建設業の工程管理に詳しく書きました) |
| 会計ソフトとリアルタイムには繋がらない | CSVで受け渡す。まずCSVで運用を固める |
| 無料プラグインはパソコンの画面のみ対応 | 現場からの入力は項目を絞った実績アプリに寄せる |
kintoneとスクラッチ開発の比較はkintoneとスクラッチ開発どちらを選ぶかにまとめています。
進め方と費用
初回30分で業務を聞き、その場で画面の形を出します。そこから1〜4週目で構築し、動くアプリを現場の声で直します。ここまでが0円です(1業務1アプリまで、最大1か月)。1ヶ月後に使うか使わないかを決めていただき、使うと決めた場合だけ月額5万円から(最低12ヶ月)で改善と追加を続けます。
kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。使い続けるといくらかかるかは2章 費用の全体像にまとめています。
まとめ
- MRP・多階層BOM・原価の自動配賦・山積みが業務の中心なら、ERP・専用システムを選ぶ
- kintoneが向くのは、受注・指示・実績・在庫の記録を一本にして、遅れと不良に早く気づく用途
- 受注と製造指示は分ける。番号は自動採番で振り、転記はルックアップで止める
- 毎日見るのは「完了予定日・残日数・進捗」の3つ。期限・残日数と条件書式で一覧に出す
- 納期より後の完了予定日は、保存前にJavaScriptで止められる
- 作る順番は 受注 → 製造指示 → 工程実績 → 在庫 → 不良
→ 製造業のkintone(実際の画面つき) → 製造業の在庫管理をkintoneで作る方法 → 工程実績をkintoneで取る方法 → 建設業の工程管理をkintoneで作る方法 → kintone導入支援の詳細 → kintone無料プラグイン一覧
よくある質問
kintoneは生産管理システム(ERP)の代わりになりますか
MRPでの所要量計算や原価の自動配賦まで求めるなら、専用の生産管理システムのほうが向きます。kintoneが向くのは、受注・製造指示・工程実績・在庫の記録を一本にして、遅れと不良に早く気づく用途です。まずここを固めてから、足りない部分を専用システムに任せる順番をおすすめします。
部品表(BOM)は持てますか
1階層であれば、製品の品番に対する部品の明細をサブテーブルで持てます。多階層の展開や、そこからの所要量の自動計算は標準機能にはありません。多階層のBOMが業務の中心にあるなら、専用システムを検討してください。
生産計画の山積み・山崩しはできますか
できません。kintoneの一覧はカレンダー表示までで、設備や人の負荷を横棒で見る画面はありません。ただし「同じ作業者の作業時間が重なっている」ことは無料プラグインで警告できます。
エクセルの生産管理をやめるべき目安はありますか
一概には言えませんが、よく聞くのは「同じ内容を2か所以上に打ち直している」「進捗を聞かないと分からない」「ファイルを開いている人がいると入力できない」の3つです。このうち2つ以上が当てはまると、Excelの限界というより運用の限界が来ています。
作るのにいくらかかりますか
構築は1業務1アプリまで最大1か月0円です。使うと決めていただいた場合だけ、月額5万円から(最低12ヶ月)で改善と追加を続けます。kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。


