株式会社COTSUBU

CHAPTER 07

自治体の内製と外注の線引き|職員が直せる範囲

この章で分かること

  • 内製と外注の線を引く3つの層(自分で直す/相談して直す/頼む)
  • 線を仕様書・設計・庁内の手順に落とす書き方と、変更の手順5つ
  • 内製にしてはいけないもの5つと、外注に必ず残す4つ
この章の目次(11)
  1. 1線は「できるか」ではなく「続くか」で引く
  2. 23つの層に割る
  3. 3層1の広さは、研修ではなく「触った回数」で決まる
  4. 4外注に必ず残す4つ
  5. 5線を3か所に書く
  6. 6変更の手順を、庁内で5つ決める
  7. 7内製にしてはいけないもの5つ
  8. 8費用の見え方が変わる
  9. 9契約の形で、線の意味が変わる
  10. 10よくある間違いを5つ
  11. 11この章の出口

自治体の内製と外注の線は、技術力ではなく異動の周期で引きます。 職員が自分で直せない範囲を残すと、次の異動で止まり、その翌月から改修の見積が届きます。 この章は、線をどこに引き、それを仕様書・設計・庁内の手順の3か所に書くための章です。

この章で分かること

  • 内製と外注の線を引く3つの層(自分で直す/相談して直す/頼む)
  • 線を仕様書・設計・庁内の手順に落とす書き方と、変更の手順5つ
  • 内製にしてはいけないもの5つと、外注に必ず残す4つ

線は「できるか」ではなく「続くか」で引く

民間の内製化は、社内にできる人がいるかで決まります。自治体では、できる人がいても数年でいなくなります。だから判断の軸が変わります。

判断の軸 民間企業 自治体
誰ができるか 特定の担当者にスキルが溜まる前提でよい 溜めた人が異動する前提で設計する
いつ直すか 必要になったとき 年度の途中でも直せる形にしておく(予算が無いから)
直せないとどうなるか 外注すればよい 改修のたびに契約と予算が要る。年度をまたぐと止まる
線の引き方 できる範囲の上限で引く 次の担当が引き継げる範囲の上限で引く

3行目が、自治体でこの線が決定的になる理由です。民間なら「直せないから外注する」で済みますが、自治体では直せないことが、予算要求からやり直す理由になります。項目を1つ足すのに翌年度を待つ、という状態が実際に起きます。

内製化の一般的な進め方(誰を直す人にするか、段階の上げ方)は、kintoneの教科書 15章(運用・定着と内製化)に書いています。 この章では、自治体で線の引き方が変わる部分だけを扱います。

3つの層に割る

「内製か外注か」の二択で考えると、線が引けません。3つに割ってください。

層 中身の例 誰がやるか 判断の基準
層1:自分で直す 項目を1つ足す/一覧の並び順を変える/絞り込みを追加する/通知の文面を直す/選択肢を増やす 所管課の職員 間違えても元に戻せる。1か所で完結する
層2:相談して直す 権限の変更/アプリをまたぐ設定/新しい様式の追加/集計の作り直し 情報政策担当、または庁内の詳しい職員 影響が他の課・他のアプリに及ぶ
層3:頼む 他システムとの連携/データ移行/プログラムを書くもの/外部と通信するもの 事業者 失敗したときに自力で戻せない

層1を狭く切りすぎるのが、自治体で最も多い失敗です。 「触ると壊れるから触らせない」という運用にすると、現場は紙に戻ります。項目1つの追加に見積と決裁が要る状態は、実質的に改善が止まった状態です。

逆に、層1を広く取りすぎるのも危険です。 権限の設定を層1に入れると、善意の変更で見えてはいけないものが見える状態が作れてしまいます(6章の点検8)。権限だけは、必ず層2以上に置いてください。

層1の広さは、研修ではなく「触った回数」で決まる

研修を受けただけの職員は、本番のアプリに触りません。壊す不安があるからです。 層1が実際に機能するかどうかは、納品までに職員が自分の手で何回変更したかで決まります。

当社が納品のときに必ずやるのは、職員が自分で1か所直してみることです(4章の検収の基準)。操作説明を聞いただけでは、触れるかどうかは分かりません。

島根県海士町では、職員と、大人の島留学で島に来ている若者を対象に研修を行い、以降の改修は庁内で回っています。 三重県名張市では、支援に入る前から「担当室が自らアプリを作成し、困った部分を支援側がサポートする」という運用方針が庁内で決まっており、当社の支援はその方針に沿う形で設計しています。

どちらも共通しているのは、作る側が最初から「渡す前提」で作っていることです。 完成品を渡してから研修をするのではなく、作る過程に職員が入っています。

外注に必ず残す4つ

内製の範囲を広げても、次の4つは外に残したほうが安全です。自力で戻せない領域だからです。

残すもの なぜ残すか
設計の骨(アプリの分け方、持たせる項目、つなぎ方) 後から変えると全体に波及する。作り直しになる
他システムとのつなぎ 相手側の仕様変更に追随が要る。止まったときの切り分けが難しい
権限とログの設計 間違えたときの影響が、見えない形で出る(6章)
データの移行 1回しか起きないのに、失敗が最も重い

「設計の骨」を職員に持たせないのは、能力の問題ではありません。 日常業務を持ちながら、アプリ全体の構造を保ち続けるのは現実的ではないからです。骨は外、肉は中。 これが当社の決めごとです。

線を3か所に書く

決めた線は、必ず3か所に書いてください。 1か所だけだと守られません。

書く場所 書くこと 効き方
仕様書・契約 職員が自分で変更できる範囲(4章の仕様書12行の3) 事業者が「変更は有償」と言えなくなる
設計そのもの 層1の変更が、他に波及しない作りにする 触っても壊れない状態を作る
庁内の手順書 誰が、どこまで、どう変えるか 異動しても手順が残る

2つめが抜けがちです。契約書に「職員が変更できる」と書いても、設計が複雑なら実際には触れません。 変更する場所を1か所にまとめる、項目名を現場の言葉にする、といった設計の側の配慮が要ります(kintoneの教科書 5章)。

変更の手順を、庁内で5つ決める

層1・層2を動かすには、庁内の手順が要ります。 これが無いと、誰も怖くて触りません。

決めること 決め方の例
誰が変えるか 所管課の担当(氏名)と、情報政策担当の1名。2人以上の名前を書く
誰が承認するか 層1は課内で完結。層2は情報政策担当の確認を経る
どこに記録するか 変更した日・変えた場所・理由を1行。共有の場所に置く
いつ試すか 本番に入れる前に、検証用の環境で1件通す(本番データは使わない。6章)
戻し方 元の設定を控えておく。戻せないものは層2以上にする

「どこに記録するか」が、自治体では特に効きます。 異動の引き継ぎで最も欠けるのが「なぜこうなっているか」だからです。変更の記録が1行ずつ残っていれば、次の担当は経緯を読めます(9章)。

内製にしてはいけないもの5つ

点数や熱意に関係なく、職員の内製から外すものです。

外すもの 理由
権限の設計と変更 間違いが見えない形で出る。監査でも問われる
本番データの一括更新・削除 戻せない。操作ログだけでは復旧できない
外部と通信する仕組み セキュリティの手続きが別に要る(5章)
他システムとの連携 相手側の変更に追随が要り、止まったときに切り分けられない
法令・要綱で様式や計算が決まっているもの 改正のたびに直す責任を職員が負うことになる

5つめは判断を誤りやすい場所です。「計算式を職員が持つ」形にすると、制度改正のときに、改正の把握と設定の変更の両方が職員の負担になります。 計算の根拠が外部で決まるものは、外に置くか、少なくとも層2に置いてください。

費用の見え方が変わる

線の引き方は、5年で見た費用を変えます。 構築費だけを比べても意味がありません。

線を引いていない場合 線を引いた場合
初年度 構築費 構築費+研修の費用
2年目以降 改修のたびに見積・契約・決裁 層1の変更は費用ゼロ。層3だけ発注
異動のとき 引き継ぎが起きず、外注の依存が増える 手順書と記録が残り、次の担当が触れる

当社の場合、構築は1業務30万円(税込33万円)で、職員への操作説明を含みます。自分でアプリを作れる状態まで引き上げるのは職員研修(3か月・4名まで)60万円です。これは当社の決めごとで、金額の妥当性は自庁で判断してください(3章・4章)。

言いたいのは金額ではなく、「研修は構築のオプションではなく、線を引くための費用だ」ということです。 層1を職員が持つと決めたなら、その分の費用と時間を最初から予算に入れてください(3章の点検9)。

契約の形で、線の意味が変わる

同じ「外注」でも、契約の形によって職員が指示できる範囲が変わります。 ここを混同すると、線を引いたつもりでも現場が動きません。

形 外部の人の立場 線を引くときの注意
業務委託・請負 成果物を納める。日々の作業の指示は受けない 層3の範囲を成果物の形で書く。 曖昧な包括条項にしない(4章)
準委任 作業そのものを引き受ける 何をどこまでやるかを、期間と回数で書く
派遣・協定に基づく着任(地域活性化起業人など) 庁内の一員として働く 層1・層2を一緒にやれる。職員に移すことを最初から業務に入れる(11章)

3行目が、この本で勧める形です。外の人が庁内に入ると、層1と層2を「一緒にやる」ことができます。 委託では、教えることは契約の外に置かれがちです。

ただし、人が中にいること自体は成果ではありません。 1人が入って1人分の仕事をするなら、委託と変わりません。入っている間に、層1を担当する職員を2人以上作れたかどうかが判定の基準です(11章)。

よくある間違いを5つ

「内製か外注かを二択で決める」 ——全部を職員がやるか、全部を事業者に頼むかで考えると、どちらかに寄りすぎます。直し方:3つの層に割る。層1(自分で直す)を具体的な作業名で列挙する。「項目を1つ足す」「一覧の並び順を変える」のように書く。

「触ると壊れるから触らせない」 ——改善が止まり、現場は紙に戻ります。運用費だけが増えます。直し方:壊れても戻せる範囲を層1にする。戻し方を決めておけば、触らせられます。

「権限の変更を職員の層1に入れる」 ——善意の変更で、見えてはいけないものが見える状態が作れます。直し方:権限だけは層2以上に固定する。変更には情報政策担当の確認を経る(6章)。

「研修を納品後のオプションにする」 ——完成品を渡してから教えると、職員は本番に触りません。直し方:作る過程に職員を入れる。納品の条件に「職員が自分で1か所直した」を入れる(4章)。

「線を契約書にだけ書く」 ——契約に書いてあっても、設計が複雑なら実際には触れません。直し方:仕様書・設計・庁内の手順書の3か所に書く。設計の側で、変更する場所を1か所にまとめる。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 3つの層の一覧(層1の作業名/層2の相手/層3の範囲と頼む先)
  2. 変更の手順5つ(誰が・誰が承認・どこに記録・いつ試す・戻し方)
  3. 10項目の○×(必須3項目がすべて○)

線は引けました。次は、その線を実際の道具の上でどう実現するかです。当社が自治体で使っているのはkintoneですが、ツールの使い方そのものは別の教科書に譲ります。この本で書くのは、庁内で使うときにだけ出てくる段取りです。

次の章へ:8章 自治体のkintone活用|庁内で使うときの型

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:内製と外注の線引き(10項目)

設計に入る前と、検収の前の2回通します。

# チェック項目 合格ライン
1 層1(自分で直す)の中身を、作業名で列挙した 「項目を足す」等、具体的な作業が3つ以上書いてある
2 層1の範囲を仕様書・契約に書いた 4章の仕様書12行の3が埋まっている
3 層2(相談して直す)の相手を決めた 情報政策担当か、庁内の詳しい職員の氏名がある
4 層3(頼む)の範囲と、頼む先を決めた 連携・移行・プログラムの扱いが書いてある
5 層1を担当する職員が2人以上いる 氏名が2人以上書いてある(1章の点検7)
6 権限の変更を層1に入れていない 層2以上に置いている
7 内製にしてはいけない5つを外した 権限・一括更新・外部通信・他システム連携・法定の計算
8 変更の手順5つを決めた 誰が・誰が承認・どこに記録・いつ試す・戻し方
9 変更の記録を置く場所を決めた 共有の場所にあり、異動しても残る
10 検収で、職員が自分で1か所直した 実際に手を動かした記録がある(4章の検収の基準)

合格ライン=10項目中8以上。ただし 2・5・8 のどれかが×なら検収しない。

  • 2が×:納品後、項目を1つ足すたびに見積が出てきます。運用費が構築費を超えます
  • 5が×:完成した瞬間に、次の異動までのカウントダウンが始まります
  • 8が×:手順が無いと、誰も怖くて触りません。層1を作っても使われません

1・3・4 が×でも検収はできますが、層の中身が具体的な作業名になっていないと、後から「これは層1か層3か」で揉めます。 言葉ではなく作業名で書いてください。

読んでも決めきれないところは、一緒に決めます

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更新日 2018年10月20日