島根県海士町で、kintoneを使って電子決裁、入札関連情報の一元管理、健康福祉課の定期健診管理の3つを構築しました。この記事は、その設計と効果の記録です。
筆者は2024年に地域活性化起業人として海士町に着任し、役場の業務改善に従事しました。
なぜkintoneだったのか
自治体の業務システムには共通の課題があります。
- 業務が課ごとに違い、パッケージが合わない
- 予算規模が小さく、スクラッチ開発は割に合わない
- 制度改正で頻繁に変更が必要になる
- 直せる人が庁内にいない
kintoneはこの4つ全てに効きます。 特に4番目が大きく、職員が自分で直せる状態を作れるかどうかが分かれ目でした。
庁内説明では「担当者の好みで選んだのではない」と言える材料をそろえることが重要でした。他の自治体での導入実績や、情報セキュリティポリシーとの照合結果を先に用意しています。
事例1:電子決裁
もとの状態
紙の回覧で決裁が回っていました。問題は遅いことではなく、どこで止まっているか分からないことでした。
作ったもの
プロセス管理で決裁ルートを組みました。
起案 → 課長確認 → 部長確認 → 決裁 → 完了
↓ 差し戻し
フィールドは件名、起案課、起案者、起案日、内容、添付、金額、決裁区分。金額と決裁区分を持たせたのが肝で、後から「いくらまでは誰の決裁か」の統計が取れます。
効果
- 誰のところで止まっているかが一覧で見える
- 出張中でも決裁が進む
- 過去の決裁を検索できる
- 差し戻しの理由が記録として残る
つまずいた場所
押印との関係です。決裁の記録がkintone上に残ることをもって押印に代えるという運用を、内部規程で定める必要がありました。情報政策担当だけでは決められず、総務・文書担当と最初に握っています。
聞き方にもコツがあります。「電子決裁はできますか」ではなく「この業務の決裁を電子で残す場合、庁内のどの規程を直す必要がありますか」です。誰に何を聞くかと、規程を直す期間を工程にどう入れるかは自治体DXの教科書 8章 庁内kintoneの型にまとめています。
事例2:入札関連情報の一元管理
もとの状態
入札の情報が担当者ごとに散らばっていました。新しい案件のたびに「前はどうしたか」を探すところから始まり、担当が変わるとその記憶ごと消えます。
作ったもの
アプリを2つに分けました。予定価格は秘匿性が高いため、閲覧範囲を限定する必要があるためです。
| アプリ | 中身 | 閲覧範囲 |
|---|---|---|
| 入札案件 | 件名、所管課、種別、方式、公告日、開札日、参加業者、結果 | 庁内広め |
| 予定価格 | 積算根拠、予定価格 | 担当課と契約担当のみ |
「参考にした過去案件」を関連レコードで持たせたのが効きました。案件同士がつながり、次の担当者が経路をたどれます。
少額随意契約も入札方式のドロップダウンに入れ、同じアプリで管理しています。年度末に「今年度どれだけ随契だったか」を集計できるようになりました。
効果
- 過去案件をキーワードで検索できる。前例探しの時間が消えた
- 所管課をまたいだ横断の一覧ができた
- 担当が変わっても情報が引き継がれる
事例3:定期健診の対象者管理
一番効いたのがこれです。
もとの状態
電話で受け付けたメモとExcelの名簿が別々にあり、毎日突き合わせが発生していました。料金の判定は担当者の記憶に依存し、案内の作成は名簿を整形し直す手作業でした。
作ったもの
1つのアプリに統合しました。
- 対象者の管理(氏名、生年月日、住所、地区、対象健診)
- 料金区分(年齢と所得区分から計算フィールドで自動判定)
- 受付状況(未案内、案内済、予約済、受診済)
- 受付メモ(電話を受けながら該当レコードに直接入力)
効果
- 電話メモとExcelの突き合わせが消えた
- 料金判定が自動になり、確認の手間と間違いが減った
- 案内の一括出力ができるようになった
- 過去の受付履歴が残り、問い合わせに即答できるようになった
担当者の負担が目に見えて減り、この1件が庁内の信用になりました。以降、他の課からも相談が来るようになっています。
注意点
健診情報は要配慮個人情報を含みます。閲覧権限を担当課に限定し、操作ログを残し、外部公開のビューは作らない。この設計を最初に行っています。個人情報を含む業務に着手する順番(庁内の実績が積み上がってから)は自治体DXの教科書 8章 庁内kintoneの型の「庁内に広げる順番」にあります。
一番大きかったのは、人を育てたこと
3つのアプリより重要なのがこれです。
大人の島留学で来ていた若者にkintoneを教えました。プログラミング経験はありません。自分でアプリを作り、直せる状態を目標に、実際の業務を題材に一緒に作りました。
外部委託であれば、契約が終われば人も知識も出ていきます。1人が入って1人分の仕事をするなら委託と変わりません。5人分の手を作れば、任期後も庁内で回ります。
進め方で意識したこと
- 役場のペースに合わせる。民間のスピードをそのまま持ち込まない
- 現行フローを尊重する。二重管理の時期も受け入れる
- 小さく確実に効くものから。全庁のシステムではなく1つの課の1業務から
急に切り替えると現場は元に戻します。ここは経験しないと分かりません。
まとめ
- 電子決裁は、金額と決裁区分をフィールドに持たせるのが肝
- 入札管理は、予定価格を別アプリにして権限を切る
- 健診管理は、電話メモをアプリに入れることで突き合わせが消える
- 押印と個人情報の扱いは最初に整理する
- 一番大きいのは、職員が自分で直せる状態を作ること
→ 自治体向けkintone構築(1業務30万円から) → 自治体DXの教科書 8章 庁内kintoneの型(名義・ライセンス・押印・異動・基幹システムとの線) → 地域活性化起業人の受け入れ支援(庁内に人ごと置く形) → kintone導入支援の詳細 → 自治体DX支援の詳細
よくある質問
自治体でkintoneは使えますか
使えます。島根県海士町では、電子決裁、入札関連情報の一元管理、健康福祉課の定期健診管理の3つをkintoneで構築しました。業務が課ごとに違う、予算が小さい、制度改正で頻繁に直す必要がある、という自治体の事情に合っています。
電子決裁で押印はどうなりますか
決裁の記録がkintone上に残ることをもって押印に代える運用を、内部規程で定める必要があります。情報政策担当だけでは決められないため、総務・文書担当と最初に合意しておくことが大切です。
個人情報を扱う業務でも大丈夫ですか
閲覧権限を担当課に限定し、操作ログを残し、外部公開のビューを作らない、という設計を最初に行います。健診情報のような要配慮個人情報も、この設計で扱っています。
1つの業務だけ試すことはできますか
できます。海士町でも電子決裁の1業務から始めました。COTSUBUの自治体向けの料金は1業務30万円(税込33万円)からで、多くの市町村で少額随意契約の限度額内に収まります。


