株式会社COTSUBU

CHAPTER 09

業務改善でツールを入れると決めたとき

この章で分かること

  • 要件定義を始める前に通す3つの関門と、「設定を変える/買う/作る」の3択
  • 相手に渡す5枚(1行定義・数量・現状フロー・やめる/残す・判定条件)の中身
  • 予算を3つの枠(初期・月額・社内工数)で置く理由と、どの教科書に渡すか
この章の目次(11)
  1. 1要件定義はここでやらない
  2. 2最後の確認:3つの関門
  3. 33択:設定を変える/買う/作る
  4. 4引き渡しの5枚
  5. 5成功の判定条件を数で書く
  6. 6予算は3つの枠で置く
  7. 7相手に会う前に決める2人
  8. 8やめるときの条件を先に決める
  9. 9ここから先は、道具ごとの教科書へ
  10. 10よくある間違いを5つ
  11. 11この章の出口

道具を入れると決めたら、要件を書き始める前に止まってください。 この章でやるのは、要件定義ではありません。相手(社内の担当でも、外部の会社でも)に渡す5枚を作り、予算の枠と決裁者と「やめる条件」を決めるところまでです。 ここを飛ばして機能の話を始めると、業務の話が機能の話に化け、何のために始めたのかが1ヶ月で分からなくなります。

この章で分かること

  • 要件定義を始める前に通す3つの関門と、「設定を変える/買う/作る」の3択
  • 相手に渡す5枚(1行定義・数量・現状フロー・やめる/残す・判定条件)の中身
  • 予算を3つの枠(初期・月額・社内工数)で置く理由と、どの教科書に渡すか

要件定義はここでやらない

この本は、道具を決める前の仕事だけを扱います。だからこの章は、要件の手前で終わります。理由は3つです。

理由 中身
要件は道具によって形が違う 業務システム・サイト・AI利用で、決めることも順番も違う。1冊で書くと全部が薄くなる
要件から始めると、業務の話が消える 「この項目は必須か」の議論が始まった瞬間に、なぜやるかの議論が終わる
渡す相手のほうが詳しい 要件の形にする作業は、作る側と一緒にやったほうが速い。発注側が用意すべきなのは要件ではなく事実

発注側が持つべきものは、要件ではなく「事実と判断」です。 現状の数量、いまの流れ、やめると決めたこと、成功の条件——これらは作る側には書けません。逆に、項目の型や画面の構成は、作る側が書いたほうが速くて正確です。

この分担を守ると、打ち合わせの質が変わります。要件を書いて持っていくと、打ち合わせは「この要件は実現できるか」という確認の場になります。事実と判断を持っていくと、「この業務なら、こういう作り方がある」という提案の場になります。後者のほうが、相手の経験を引き出せます。お金を払って相手を呼んでいるのですから、相手が一番知っていることを出してもらうべきです。

もうひとつ、要件を先に書くと、書いた人がその要件を守る側に回ります。途中でもっと良い作り方が見つかっても、「最初にこう決めたので」と言いたくなります。決めたことを守るのは普通は美徳ですが、この場面では損をします。決めてよいのは業務の側の事実であって、実現の方法ではありません。

最後の確認:3つの関門

道具の検討に入る前に、3つだけ確認します。1つでも通らなければ、8章に戻ってください。

関門 問い 通らないとき
1. 選択肢 1〜5(やめる・減らす・まとめる・順番を変える・人を変える)を検討した記録があるか 8章に戻る
2. 対象 対象が1業務に絞れているか(業務一覧表の行番号で言えるか) 7章に戻って1本に絞る
3. 数量 現状の数量(件数・頻度・人数・やり直し)が数字で出ているか 4章に戻って数える

2番が最も多く引っかかります。 「受注まわり全体をシステム化したい」は対象ではありません。行番号で言えないものは、見積も取れず、90日で終わらず、効果も測れません。

3番も外せません。数量が無い状態で見積を取ると、相手は最大値で見積もります。 「月に何件ですか」に答えられない会社の見積は、必ず高くなります。これは相手が不誠実だからではなく、分からないものは安全側に積むしかないからです。

この表は、順番どおりに通してください。3つとも独立した確認に見えますが、実際は1番が通らないと2番も通りません。選択肢を検討していない状態では、そもそも何を道具にやらせるのかが定まらないので、対象を1業務に絞る根拠も出てこないからです。1つでも×が付いたら、この章を読み進めずに、該当する章へ戻ったほうが早く終わります。

2番を飛ばすと、たとえばこうなります。卸売業の会社が「基幹システムを入れ替えたい」と複数社から見積を取ると、金額が数百万円から数千万円まで開き、比較のしようがなくなります。各社が想定した範囲がまったく違うからです。

ここで見積を止めて、業務一覧表に戻ります。実際に困っているのが、たとえば受注入力と出荷予定表の二重管理と、記載不備の差し戻しの2点だと分かれば、対象をその2つに絞り直せます。必要な仕組みは基幹システムの入れ替えではなく、はるかに小さいもので済むことが多く、最初の見積の一番安い金額より下におさまることもあります。

失うのは、見積を取り直す1〜2か月です。失わずに済むのは、入れ替えを決めていたら払っていたはずの金額と、その後の数年の保守費です。対象を絞る作業は、値引き交渉より確実に効きます。

3択:設定を変える/買う/作る

道具を入れると言っても、実際は3つに分かれます。上から順に検討してください(8章と同じく、上ほど安く、上ほど戻しやすい)。

順 選択肢 中身 向くとき
1 いまの道具の設定を変える すでに持っているものの使い方・権限・様式を変える 使っていない機能が残っている/権限を出せば済む
2 出来合いのものを買う 既製のサービスを契約して使う やりたいことが一般的な業務(勤怠・経費・請求など)
3 作る(組む) 自社の業務に合わせて構築する 自社固有の流れがあり、既製品に合わせると業務が壊れる

1番を必ず確認してください。 すでに契約しているのに使っていない機能、出していない権限、使われていない様式が、多くの会社に残っています。これは費用ゼロで、今月から効きます。

2番と3番の境目は、「自社の業務を、その道具に合わせて変えられるか」です。合わせられるなら買うほうが速くて安い。合わせると業務が壊れるなら作る。この判断は、業務の側(自社)にしかできません。

判断の目安をもう一段だけ具体にしておきます。その業務が、自社の売りと関係あるかどうかで分けてください。勤怠、経費、請求といった業務は、どの会社でもやり方がほぼ同じで、独自にしても売上は1円も増えません。こういう業務は買う側に倒し、自社のやり方のほうを既製品に合わせます。一方、顧客への提案の進め方や、自社独自の検査や加工の記録のように、そこが他社との違いになっている業務は、作る側に倒します。

迷ったときは買う側に倒してください。作ると、作った後にずっと直し続ける人が要ります。その負担は、導入時には見えません。買って合わなかったら、そのときに作ればよく、その頃には何が足りないのかが具体的に分かっています。順番として、買って失敗するほうが、作って失敗するより安く済みます。

引き渡しの5枚

相手に会う前に、次の5枚を用意します。この5枚は、これまでの章の成果物をそのまま使えます。新しく作るのは5枚目だけです。

# 渡すもの 出どころ 何のためか
1 対象業務の1行定義 3章の表(行番号・業務名・始まり・終わり) どこからどこまでかを相手と合わせる
2 現状の数量 4章(件数・頻度・人数・やり直し・年間の手数) 規模を伝える。見積の精度が変わる
3 現状フロー 5章(手描きA3横1枚) 受け渡しと待ちを見せる
4 やめる/残すの決定 6章・8章(残すムダ、改善カードの5欄) 何を作らないかを先に伝える
5 成功の判定条件 この章で書く 完成の定義を、機能ではなく数で決める

4枚目が、この5枚の中で最も効きます。 「いまの確認作業は残します(法令)」「この帳票はやめます」を先に伝えると、相手は作らなくてよいものを見積から外せます。やめると決めたことを伝えないと、いまのやり方がそのまま仕様になります。

3枚目は手描きのままで構いません。清書は不要です(5章)。むしろ、きれいな図を渡すと「決まったこと」として受け取られ、指摘が返ってきません。

この表の「出どころ」の列を見てください。5枚のうち4枚が、すでに手元にあるはずのものです。この章で新しく作る作業は、5枚目の1行だけです。もし出どころの章の成果物が無いなら、それはこの章の準備が足りないのではなく、前の章を飛ばしているということです。戻ってください。

渡し方にも順番があります。相手に会ったら、1枚目と4枚目を先に出してください。どこからどこまでの話で、何を作らなくてよいのか——この2つが最初に共有されていると、その後の会話がぶれません。数量とフローは、話が具体になってから出すほうが頭に入ります。5枚を一度に机に並べると、相手はどれから見てよいか分かりません。

成功の判定条件を数で書く

5枚目だけは、この章で新しく書きます。1行でよいので、必ず数を入れてください。

悪い書き方 良い書き方
業務を効率化する 年9,600項目の転記を0にする
情報を一元管理する 受注情報の正の台帳を1つにし、Excel側への入力を0件にする
誰でも使えるようにする 3人が、手順書を見ながら1人で入力を完了できる
ミスを減らす 記載不備の差し戻しを月8件から月2件以下にする

この1行が、検収の基準になります。 機能が全部できていても、この1行が満たされなければ成功ではありません。逆に、機能が予定より少なくても、この1行が満たされれば成功です。

判定の日も一緒に決めてください(7章で決めた完了予定日から90日後が目安)。測り方は11章です。

予算は3つの枠で置く

金額を決めるのではなく、枠を3つ置きます。 1つでも欠けると、後から必ず揉めます。

枠 中身 決め方
初期 構築・設定・移行・教育にかかる一度きりの費用 「いくらまでなら決裁できるか」を決裁者に先に聞く
月額 利用料・保守・サポートにかかる毎月の費用 年額に直して初期と並べる。 3年分で見ると逆転することがある
社内工数 自社の人が使う時間(移行・教育・並行運用) 誰が・何時間・いつ使うかを、着手前に上長に通しておく

3つ目を忘れる会社が最も多くいます。 道具の費用がいくら安くても、移行と教育に現場の時間を使います。その時間を見込まずに始めると、繁忙期に重なって止まります(10章)。

月額を年額に直して初期と並べてください。 初期が安く月額が高いものと、初期が高く月額が安いものでは、3年で総額が逆転することがあります。どちらが良いという話ではなく、同じ土俵で比べるという話です。

見積の中身を自社で判断できないときは、見積のセカンドオピニオン(見積診断1社分 5万円〜、3社までの比較 10万円〜、打ち合わせへの同席 5万円/回、いずれも税別)のような形で第三者に見てもらう手もあります。ただし、この章の5枚が無い状態で見せても、判断の材料が足りません。

相手に会う前に決める2人

役 やること 条件
決裁者 予算と着手を決める。期日までに決める 1章の発注書6行目と同じ人。氏名で書く
窓口 相手からの質問を受け、社内に確認して返す 1人。 複数にすると回答が食い違い、手戻りになる

窓口を1人にしてください。 窓口が複数いると、同じ質問に違う答えが返り、作る側がどちらを採用するかで判断を迫られます。手戻りの原因の多くはここです。

窓口の人は、社内の決めごとを確認できる立場であることが必要です。「確認します」と言ったまま2週間止まると、そのまま納期が延びます。

やめるときの条件を先に決める

始める前に、やめる条件を書いてください。「いつまでに、何が起きなければ止めるか」の1行です。

場面 やめる条件の例
試しに使ってみる段階 1ヶ月後に、対象3人のうち2人が毎日使っていなければ止める
構築を頼む段階 見積が予算の枠を超えたら、対象を分割して出し直す
使い始めた後 3ヶ月後に判定条件を満たさなければ、旧のやり方に戻す

やめる条件が無い導入は、止まりません。 使われていないことに全員が気づいていても、費用を払った手前、誰も止めようと言い出せなくなります。最初に条件を書いておくと、止めるのが誰かの失敗ではなくなります。

ここから先は、道具ごとの教科書へ

5枚がそろったら、この本は終わりです。要件・発注・構築の話は、道具ごとの教科書に渡します。

入れるもの 渡す先 そこで決めること
業務システム(kintone) kintoneの教科書 1章(向くかの判定)→2章(費用の全体像)→3章(外注か自社か・見積の読み方)→4章(最初の1アプリ) 向き不向き・費用・発注先・アプリの範囲
Excelからの移行が中心 kintoneの教科書 11章 移行の手順と、移さないものの決め方
サイト・LP・フォーム サイト制作の教科書 2章(要件)→4章(発注先と契約) ページ構成・原稿・更新体制・相見積
AIを業務に使う AI活用の教科書 1章(人が見る線引き)→4章(道具の選び方) 任せる範囲・社内ルール・道具の型
自治体・公共の調達 自治体DXの教科書 予算年度・調達方式・仕様書

渡すときは、5枚をそのまま持っていってください。 書き直しは要りません。この本の3章の表も、5章のフローも、相手の教科書の入力としてそのまま使える形にしてあります。

よくある間違いを5つ

「要件定義書を自社で書き切ろうとする」 ——項目や画面を発注側が書くと、業務に合わない仕様が固定され、直すたびに追加費用になります。直し方:事実(数量・流れ)と判断(やめる・残す・成功条件)だけを渡し、要件は相手と一緒に作る。

「対象を決めずに見積を取る」 ——「受注まわり全体」では、相手は最大値で見積もります。直し方:業務一覧表の行番号で対象を言う。

「月額を年額に直さずに比べる」 ——初期の安さで選び、3年後に総額が逆転します。直し方:初期・月額(年換算)・社内工数の3つを同じ表に並べる。

「成功の条件を機能で書く」 ——機能が全部できても業務が変わらないことがあります。直し方:判定条件を数で1行書く(転記0、差し戻し月2件以下、など)。

「やめる条件を決めずに始める」 ——使われていなくても止められず、費用だけ払い続けます。直し方:「いつまでに何が起きなければ止めるか」を着手前に書く。

この章の出口

この章を終えたとき、手元にあるべきものは3つです。

  1. 引き渡しの5枚(1行定義・数量・現状フロー・やめる/残す・判定条件)
  2. 予算の枠3つ(初期・月額・社内工数)と、決裁者・窓口の氏名
  3. やめるときの条件(1行)

ここまでが、この本の範囲です。この先は、入れる道具ごとの教科書に渡してください。

ただし、5枚がそろっても動かないことがあります。現場が「今のままでいい」と言う場合です。これは説得の問題ではなく、理由の見分けの問題です。次の章で、反対の3つの型と、それぞれの手当てを扱います。

次の章へ:10章 業務改善で現場に反対されたときの進め方

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:道具を入れる前(12項目)

相手(社内の担当でも、外部の会社でも)に会う前に付けます。

# チェック項目 ○の条件
1 対象が1業務に絞れているか 業務一覧表の行番号で言える
2 1〜5の選択肢を通したうえで道具を選んだか 8章の検討記録がある
3 引き渡しの5枚がそろっているか 5枚とも紙になっている
4 現状の数量が入っているか 件数・頻度・人数・やり直しが数字で入っている
5 成功の判定条件を数で書いたか 何がいくつになったら成功かが1行ある
6 いまの道具の設定変更で済まないかを確認したか 確認した結果が1行ある
7 買う/作るのどちらを前提にするか決めたか 決めている(未定なら「両方に見積を取る」と書いてある)
8 予算の枠を3つ(初期・月額・社内工数)で置いたか 3つとも数字が入っている
9 決裁者と決裁の期日が決まっているか 氏名と日付
10 社内の窓口が1人に決まっているか 氏名(1人)
11 やめるときの条件を決めたか 「いつまでに何が起きなければ止める」が1行
12 機能の話を始める前に、この12項目を埋めたか 埋めてから相手に会う段取りになっている

合格ライン=12項目中10以上。ただし 1・2・5・8 のどれかが×なら、見積を取りに行かない。

  • 1が×:対象が広いまま見積を取ると、金額も期間も膨らみます。戻る先は7章です
  • 2が×:1〜5を飛ばしています。いまのやり方をそのまま電子化することになり、ムダが固定されます
  • 5が×:完成の定義がありません。検収で揉め、効果も測れません(11章)
  • 8が×:社内工数を見込んでいないケースがほとんどです。移行と教育の時間を取れず、繁忙期に止まります

この章の合格ラインだけ10としているのは、ここから先はお金が動くからです。1〜8章は、やり直しても時間しか失いません。

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更新日 2018年10月20日