株式会社COTSUBU

CHAPTER 10

業務改善で現場に反対されたときの進め方

この章で分かること

  • 反対の3分類と、それぞれの見分け方(同じ言葉でも理由が違う)
  • 「今のやり方に理由がある」反対を、隠れた要件として設計に戻す方法
  • 説明の順番(5分の型)と、言ってはいけない言葉
この章の目次(10)
  1. 1反対には3つしかない
  2. 21 立場が脅かされる
  3. 32 今のやり方に理由がある(隠れた要件)
  4. 43 単純に手間が増える
  5. 5見分け方:同じ言葉でも理由が違う
  6. 6説明の順番(5分の型)
  7. 7巻き込む3つの役
  8. 8それでも動かないとき
  9. 9よくある間違いを5つ
  10. 10この章の出口

現場が反対する理由は3つしかありません。立場が脅かされる・今のやり方に理由がある・単純に手間が増える。 この3つは、手当ての仕方がまったく違います。混ぜて「説明が足りないから反対されている」と考えると、説明会を増やすだけで何も変わりません。 この章は、出てきた反対を3つに仕分け、2番目(今のやり方の理由)を要件として拾い上げ、残りを約束と段取りで手当てするための章です。

この章で分かること

  • 反対の3分類と、それぞれの見分け方(同じ言葉でも理由が違う)
  • 「今のやり方に理由がある」反対を、隠れた要件として設計に戻す方法
  • 説明の順番(5分の型)と、言ってはいけない言葉

反対には3つしかない

現場から返ってくる言葉は多様でも、理由は次の3つに収まります。どれに当たるかで、やることが正反対になります。

分類から入るのは、反対を「抵抗」という1つのかたまりとして扱うと、手当てが1つしか思いつかなくなるからです。1つしか思いつかないとき、たいていの会社が選ぶのは説明です。説明会を開き、資料を配り、もう一度説明する。ところが3つの理由のうち、説明で解けるものは1つもありません。だから説明会を重ねても状況が変わらず、最後は「現場の意識が低い」という結論に落ち着きます。

もうひとつ、分類しないと2番を見落とします。2番は反対の形をしていますが、中身は業務の情報です。これを他の2つと一緒くたにして押し切ると、情報を捨てたうえに、情報をくれた人を敵に回すことになります。棚卸しで最も高くつく失敗が、この形です。

反対が出ることを、計画の失敗だと考えないでください。反対は、これまでの章で拾いきれなかった事実が出てくる最後の機会です。反対が1つも出ない改善のほうが、むしろ危険です。誰も本気で自分の業務が変わると思っていないか、思っていても言えない空気があるか、どちらかだからです。

# 理由 出てくる言葉 手当て
1 立場が脅かされる(評価・雇用・存在意義) 「今のままで困っていない」「うちは特殊なので」 約束(評価に使わない・人を減らす目的ではない)を明示する
2 今のやり方に理由がある(隠れた要件) 「それだと◯◯のときに困る」「前にそれで事故があった」 要件として記録し、設計に戻す。 これは正しい反対
3 手間が増える(移行期の負担) 「今忙しいので」「落ち着いてからにしてほしい」 期間・量・支援を具体的に示す。 繁忙期を外す

2番だけは、説得してはいけません。 2番の反対は情報です。押し切って進めると、稼働後に必ず同じ問題が起き、そのとき「だから言ったのに」となって、以後の協力が完全に止まります。

1番と3番は、説明では解けません。1番は約束(誰が何をしないと決めたか)、3番は段取り(いつ・どれだけ増えるか)で解きます。

この表は、3列目の「出てくる言葉」から引いてください。実際の場面では、理由ではなく言葉が先に届きます。聞こえた言葉を3列目で探し、その行の4列目を見る、という使い方です。ただし、同じ言葉が複数の行に出ることがあるので、確定できないときは後述の見分け方の3問に進みます。

1人の中に複数の理由が同居することもあります。手間が増えるのが嫌で、かつ立場も気になっている、という状態は普通です。その場合は、3番の手当てから先に打ってください。3番は具体的な段取りの話なので、相手にとって受け取りやすく、こちらの本気度も伝わります。段取りが示された後で、1番の約束が効いてきます。順番を逆にすると、約束が空手形に聞こえます。

1 立場が脅かされる

最も表に出にくい反対です。本人も「立場が心配だから反対している」とは言いません。出てくるのは「今のままで困っていない」「うちの業務は特殊だ」という一般論です。

何を恐れているか 手当て
人減らしの材料にされる 着手前に、人を減らす目的ではないと明言する。 目的の6行(1章)を見せる
自分の仕事の遅さが露見する 原因を人ではなくつなぎ目で書く(6章)。個人別の作業時間を資料に載せない
自分しかできない仕事を失う その人に新しい役割(答える人・広める人)を先に渡す
決め方に自分が入っていない 決める場に呼ぶ。決まった後に説明しない

「棚卸しの結果を人事評価に使わない」は、口頭ではなく、着手の場で全員に宣言してください。 これを言わずに聞き取りを始めた棚卸しは、実態より軽い数字が返ってきます(自分の作業を少なく申告する)。数字が歪めば、着手順が歪みます。

個人名の入った作業時間の一覧を作らないでください。 3章で担当を「部門・役割・人数」で書き、氏名を書かないと決めているのは、この事故を防ぐためです。

2 今のやり方に理由がある(隠れた要件)

この本で最も重要な反対です。 一見ムダに見える手順の多くに、過去の事故や例外への対応が埋まっています。

反対の言葉 裏にある要件
「それだと月末の締めに間に合わない」 締切の制約。処理のタイミングに条件がある
「前に同じやり方で事故があった」 検査・確認が事故対応として入っている
「◯◯社だけは別の様式でないと受け取ってもらえない」 取引先ごとの例外。契約・慣行の制約
「この確認を外すと監査で指摘される」 記録を残すこと自体が目的(6章の「残す」)
「紙でないと現場が見られない」 環境の制約(端末・通信・手が汚れる)

これらは、聞き取り(3章)では出てきません。 本人が「当たり前のこと」として省略するからです。変えると言ったときに初めて出てきます。 だから、反対が出たときが唯一の採取機会です。

拾い方は単純です。「それをやめると、具体的に何が起きますか」と聞き、答えを一覧に書き足す。 1行ずつ記録し、改善カード(8章)か、引き渡しの5枚の4枚目(9章)に反映します。

2番を押し切ると、たとえばこうなります。食品加工の会社で、出荷前の目視確認をやめる打ち手に対して、現場の担当者が「前にそれで出荷後に返品があった」と反対したとします。その返品は数年前のことで、記録も残っていない。記録が無いなら根拠にならない、という判断で、そのまま進める。

稼働から数か月後、同じ種類の出荷ミスが起きます。損害そのものは大きくなくても、問題はその後です。反対していた担当者は何も言わなくなり、以後、聞き取りに対して「特にありません」としか答えなくなります。他の業務の改善に進もうとしても、現場から情報が出てこなくなり、棚卸し自体が続けられなくなります。

ここで押さえておきたいのは、記録が無いことが問題ではない、という点です。現場の記憶にしか残っていない事故は、どの会社にもあります。記録が無いからといって、起きていないことにはなりません。やるべきなのは、反対を却下することではなく、「その返品はどういう条件で起きたのか」を聞き、その条件のときだけ確認を残す形に設計し直すことでした。

この一手間をかけると、反対していた人が設計に関わったことになります。同じ打ち手でも、押し切った場合と、条件を組み込んだ場合とでは、稼働後の協力がまったく違います。2番の反対は、味方を作る機会でもあります。

「例外は後で考える」と言ってはいけません。 後で出てきた例外が、稼働後に仕組みを壊します。ただし、例外の件数を数えて(6章)、8割の道を軽くしたうえで例外を別手順にするのは正しい進め方です。

3 単純に手間が増える

改善の移行期は、必ず作業が増えます。新旧の並行運用、覚え直し、データの移し替え——これは事実であり、否定してはいけません。

やること 中身
増える量を先に伝える 「最初の2週間は、入力が1件あたり1分増えます」
期間を区切る 並行運用の終了日を先に決める(8章)
繁忙期を外す 月末・決算・繁忙月に移行日を置かない
支援を付ける 最初の1週間は、聞ける人がそばにいる(または電話がつながる)
元に戻せると伝える 「3ヶ月やってダメなら戻します」(7章の戻し方)

「一時的に増える」を隠さないでください。 「楽になります」とだけ言って始めると、増えた瞬間に「話が違う」となり、1番(立場の不安)に火が付きます。

見分け方:同じ言葉でも理由が違う

「今忙しいので後にしてほしい」は、3つすべてで出ます。見分けるには、次の順で聞きます。

順 質問 反応で分かること
1 「いつなら手が空きますか」 具体的な時期が出れば3。出なければ1か2
2 「今のやり方を変えると、どこが困りますか」 具体的な業務上の不具合が出れば2(要件として記録)
3 「この件で、誰かが評価されたり責任を問われたりしますか」 ここで初めて1が出ることがある

3番目の質問は、本人にではなく、その人の上長か、旗振り役(1章)が別の場で確認してください。本人に直接聞いても答えは返りません。

説明の順番(5分の型)

現場に説明するとき、順番を間違えると1番に火が付きます。この順で話してください。

順 話すこと 例
1 何のためか(会社の目的ではなく、その人の困りごと) 「差し戻しの問い合わせが月8件来ていると聞きました」
2 何を変えるか(1つだけ) 「受注の入力を1か所にします」
3 何を変えないか 「確認の手順と、月次の締めは変えません」
4 いつ・どれだけ増えるか 「12月の2週間、並行で入力が要ります」
5 やめる条件 「3月に判定して、ダメなら戻します」

この5つは、順番を入れ替えないでください。とくに、2番と3番を逆にしないことです。変えることより先に変えないことを言うと、相手は「本題を隠している」と受け取ります。変えることを短く言い切ってから、その範囲を区切るのが順番です。

5分という枠も守ってください。長く話すほど、聞き手は「そんなに説明が要ることなのか」と身構えます。5つの項目をそれぞれ1分ずつで話せる分量に削ると、自然と具体的な言葉だけが残ります。削れないなら、それは対象が広すぎるということなので、7章に戻る合図です。

3番(変えないこと)を言うと、反対が目に見えて減ります。 人が身構えるのは、どこまで変わるか分からないときです。範囲を区切ると、身構える必要がなくなります。

全社の目的(DX・生産性)から話し始めないでください。 その人の作業がどうなるかが1つも出てこない説明は、聞いている側には「何かが変わるらしい」という不安だけが残ります。

巻き込む3つの役

現場から3つの役を出してもらいます。全員を巻き込もうとしないでください。

役 やること 選び方
答える人 業務の質問に答える。例外を教える その作業を毎日している人。ベテランでなくてよい
試す人 最初に新しいやり方を使う 新しいものに抵抗が少ない人。1〜2人で足りる
広める人 周りに教える。困りごとを拾って戻す 周囲に影響力がある人。反対していた人が向くことがある

3つ目に、反対していた人を充てるのは有効です。 反対の理由が2番(今のやり方に理由がある)だった人は、業務を最もよく理解しています。要件として取り入れたうえで役を渡すと、最も強い味方になります。

それでも動かないとき

3つの手当てをしても動かない場合、原因は現場ではなく決め方にあります。

症状 実際の原因 戻る先
誰も自分の仕事だと思っていない 打ち手の担当が部門名で書かれている 8章(担当を氏名に)
「やる意味が分からない」と言われる 目的が1行になっていない 1章(発注書6行)
議論が発散して決まらない 対象が広すぎる 2章・7章(1本に絞る)
上が決めないので進まない 決裁者が決まっていない 1章(決める人の氏名)

現場の抵抗に見えるものの多くは、上流の決めごとの不足です。 説明会を3回開くより、1章に戻って目的を1行にするほうが早く動きます。

よくある間違いを5つ

「反対を説得しようとする」 ——2番(今のやり方に理由がある)を押し切ると、稼働後に同じ問題が起き、以後の協力が止まります。直し方:まず3分類に仕分ける。2番は要件として記録し、設計に戻す。

「説明会を増やす」 ——1番(立場の不安)と3番(手間)は説明では解けません。必要なのは約束と段取りです。直し方:評価に使わない宣言と、増える量・期間・戻し方を示す。

「全社の目的から話す」 ——その人の作業がどうなるかが分からず、不安だけが残ります。直し方:その人の困りごとから話し、変えないことを明示する。

「一時的に作業が増えることを言わない」 ——増えた瞬間に「話が違う」となり、反対が正当化されます。直し方:量・期間・終了日を先に伝える。

「管理職にだけ説明する」 ——実際に手を動かす人に届かず、現場では別の理解が広がります。直し方:作業をしている人に直接説明し、決まったことと決まっていないことを紙で配る。

この章の出口

この章を終えたとき、手元にあるべきものは3つです。

  1. 反対の仕分け表(3分類・全件に区分付き)
  2. 隠れた要件の一覧(2番から拾ったもの・打ち手に反映済み)
  3. 3つの役の氏名(答える人・試す人・広める人)と、並行運用の終了日

これで、決めて・選んで・実行するところまで来ました。残るのは、やった結果をどう数えるかです。着手前の数字を取っていなければ、効果は永久に言えません。次の章は、着手の前に戻って読む章でもあります。

次の章へ:11章 業務改善の効果測定|何を数えるか

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:現場の巻き込み(10項目)

打ち手を実行に移す前と、移行の1週間後に付けます。

# チェック項目 ○の条件
1 反対の声を、3つの理由のどれかに仕分けたか 全件に区分が入っている
2 2番(今のやり方の理由)を要件として記録したか 一覧になっていて、打ち手に反映されている
3 棚卸しを人事評価に使わないと、着手前に宣言したか 宣言した場と日付がある
4 原因を人ではなく、つなぎ目で説明しているか 資料に人の名前が原因として出てこない
5 最初に説明した相手が、実際にその作業をしている人か 管理職だけに説明していない
6 移行期に作業が増えることを、先に伝えたか 増える量と期間を伝えている
7 並行運用の終了日を、始める前に決めたか 日付がある
8 現場から「答える人」を出してもらったか 氏名
9 決めたことと決めていないことを、書いて配ったか 紙がある
10 効果を、その部門の言葉で伝えたか その人の作業がどう変わるかで説明している

合格ライン=10項目中8以上。ただし 2・3・7 のどれかが×なら、実行に入らない。

  • 2が×:隠れた要件を捨てています。稼働後に必ず表面化し、そのとき現場の協力は二度と戻りません
  • 3が×:評価に使わない宣言が無いと、数字が実態より軽く返ってきます。4章で数えた数字そのものが歪みます
  • 7が×:終わらない並行運用は、二重管理(6章のムダ4)を自分で作る行為です

1が×でも進められますが、仕分けをしないまま対応すると、2番の反対に説得で応じるという最悪の手を打ちます。

読んでも決めきれないところは、一緒に決めます

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更新日 2018年10月20日