CHAPTER 11
業務改善の効果測定|何を数えるか
この章で分かること
- 着手前に取る5つの数字と、取り忘れたときの代替手段
- 比べ方の3つの約束(同じ定義・同じ長さ・同じ季節)と、報告6行の形
- 効果が出ないときの3つの原因と、金額に換算してよい場合・いけない場合
この章の目次(11)
- 1着手前に数字を取る(これが全部)
- 2取るのは5つ
- 3比べ方の3つの約束
- 4時間削減で報告しない
- 5報告は6行
- 6効果が出ないときの3つの原因
- 7金額に換算してよい場合・いけない場合
- 8悪くなったものも書く
- 9数字を取り続ける必要はない
- 10よくある間違いを5つ
- 11この章の出口
効果は、着手前に数字を取っていなければ、永久に言えません。 改善が終わった後で「どれくらい良くなりましたか」と聞かれ、「だいぶ楽になりました」としか答えられない会社は、次の予算が取れません。取れないから2本目が始まらず、棚卸しは1回きりの行事になります。 この章は、着手前に5つの数字を押さえ、90日後に同じ物差しで比べ、6行で報告するための章です。
この章で分かること
- 着手前に取る5つの数字と、取り忘れたときの代替手段
- 比べ方の3つの約束(同じ定義・同じ長さ・同じ季節)と、報告6行の形
- 効果が出ないときの3つの原因と、金額に換算してよい場合・いけない場合
着手前に数字を取る(これが全部)
この章で守ることは1つだけです。打ち手を実行する前に、対象業務の数字を記録する。
| いつ | やること |
|---|---|
| 打ち手の実行日の前 | 5つの数字を、日付付きで記録する |
| 実行日 | 変えた内容と日付を記録する |
| 90日後(7章で決めた判定日) | 同じ5つを同じ方法で取り、並べる |
取り忘れたら、後からは取れません。 「先月までどうだったか」を後から思い出して書いた数字は、必ず改善後の結果に都合よく寄ります。
どうしても取り忘れた場合の代替は2つです。①システム・メールなどに残っている記録から遡って数える(4章の実データ)、②「着手前の数字が無いため効果は測れない」と正直に書く。 2つ目は敗北に見えますが、推測の数字で報告するより害がありません。
取るのは5つ
4章で数えた4つに、待ち日数を足した5つです。新しい物差しを持ち込まないでください。 着手順を決めたときと同じ物差しで比べるから、比較が成立します。
| # | 数字 | 取り方 | 例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 件数・頻度 | 実データから月あたりの件数 | 受注入力 月160件 |
| 2 | 触る人数 | その業務に関わる人の数 | 3人 |
| 3 | 年間の手数 | 回数 × 1回の手数(4章) | 転記 9,600項目/年 |
| 4 | やり直しの回数 | 差し戻し・訂正・作り直しの件数 | 月8件 |
| 5 | 待ち日数 | 受付から着手まで/申請から承認までの日数 | 平均2.0日 |
5番の待ち日数は、改善の効果が最も早く表れる数字です。 手数が減るより先に、滞留が減ります。1〜3が動く前に5が動いていれば、改善は効いています。
数字の精度は、4章と同じ扱いでよい(概数・期間の明記・丸め方)。着手前と着手後で、同じ雑さでそろえることのほうが、精度より大事です。
比べ方の3つの約束
| 約束 | 中身 | 破るとどうなるか |
|---|---|---|
| 同じ定義 | 「1件」の数え方を変えない | 数え方を変えると、増減が改善なのか定義の変更なのか分からなくなる |
| 同じ長さ | 30日と30日、1か月と1か月で比べる | 期間が違うと、比較そのものが無効 |
| 同じ季節 | 繁忙期と閑散期を比べない | 繁忙期の後に改善すると、何もしなくても数字が下がる |
3番目が最も多い事故です。 繁忙期に着手して、閑散期に判定すると、改善が効いたように見えます。逆に、閑散期に着手して繁忙期に判定すると、効いていても数字は悪化します。
季節性が強い業務では、前年同月と比べるのが正解です。前年同月のデータが無い場合は、「前後比較に季節の影響が含まれる」と報告に1行書いてください。
時間削減で報告しない
4章で「時間ではなく手数で言う」と決めました。報告でも同じです。
| 書かない | 代わりに書く |
|---|---|
| 月20時間の削減 | 転記 9,600項目/年 → 0 |
| 業務負荷が軽減 | やり直し 月8件 → 月2件 |
| 効率が向上 | 受付から着手まで 平均2.0日 → 0.5日 |
| 生産性が◯%向上 | 1人あたりの処理件数 月53件 → 月80件 |
「月20時間の削減」と書くと、必ず「その20時間は何に使われたのか」と聞かれます。 答えられないと、効果そのものが疑われます。浮いた時間は他の仕事に吸われるので、追跡できません。
一方、「年9,600項目の転記が0になった」は、反論のしようがない事実です。 誰が何に時間を使ったかとは無関係に成立します。
報告は6行
判定日に、次の6行を書きます。1ページでもなく、6行です。
| 行 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 1 | 対象 | 業務07(受注内容を販売管理に登録する)・打ち手M-03 |
| 2 | 前 | 転記9,600項目/年・やり直し月8件・待ち2.0日(2026-10 時点) |
| 3 | 後 | 転記0・やり直し月3件・待ち0.5日(2027-01 時点・30日間) |
| 4 | 差 | 転記 -9,600項目/やり直し -5件/待ち -1.5日 |
| 5 | 原因 | 倉庫に閲覧権限を出し、Excelへの入力を12/1で停止したため |
| 6 | 次の一手 | やり直しの残り3件は品番の表記ゆれ。次はここを対象にする |
5行目(原因)を必ず書いてください。 数字が動いた理由を書いていない報告は、次に同じことをすればまた効くのかが分かりません。 効果の再現性は、原因の記録からしか生まれません。
6行目があると、報告が「終わりました」ではなく「次はここです」になります。12章の月次で、そのまま次の1本になります。
効果が出ないときの3つの原因
判定日に数字が動いていないとき、原因はほぼ3つです。打ち手が間違っていたと結論する前に、この3つを確認してください。
| 原因 | 症状 | 確認の仕方 | 手当て |
|---|---|---|---|
| 使われていない | 新しいやり方を一部の人しか使っていない | 実際の入力件数を数える。全体の何割か | 10章に戻る(3つの反対のどれか) |
| 並行運用が残っている | 旧の入れ物にもまだ入力されている | 旧への入力件数が0かを見る | 終了日を決めて止める(8章) |
| 元の業務が消えていない | 新しい作業が増えただけ | 改善カードの5欄(やめること)が実行されたか | 止めると決めたものを止める |
2番目と3番目が圧倒的に多い原因です。 新しいやり方を始めることは全員が覚えていますが、古いやり方を止めることは誰も覚えていません。 だから8章の改善カードに「やめること・止める日」の欄があります。
1番目の場合、使っていない人を責めても解決しません。 使われない理由は、たいてい10章の2番(今のやり方に理由がある)です。理由を聞いて、要件として拾い直してください。
金額に換算してよい場合・いけない場合
経営会議では、必ず金額を聞かれます。換算してよいのは、実際に支払っている金額が減る場合だけです。
| 換算してよい | 理由 |
|---|---|
| 外注費・委託費が減った | 請求書の金額が実際に下がる |
| 残業代が減った | 給与計算に実際に反映される(減ったことを人事で確認できる場合) |
| ライセンス・紙・郵送などの実費が減った | 支払いが減る |
| 遅延による違約金・値引きが減った | 支出が減る |
| 換算してはいけない | 理由 |
|---|---|
| 浮いた時間 × 時給 | その時間が他の仕事に使われた場合、支出は1円も減っていない |
| 「人員1名分に相当」 | 実際に減らさないなら、費用は変わらない |
| 将来の売上増の見込み | 前提の置き方で何倍にも変わる |
「浮いた時間 × 時給」を報告に書くと、一度は通りますが、次の年に「去年の◯百万円はどこに行ったのか」と必ず聞かれます。 そこで答えられないと、以後の改善提案すべての信用が落ちます。
時間が浮いたこと自体は成果です。書き方を「月◯時間分の作業が、別の業務に回せるようになった」とし、金額に換算しないでください。 回した先の業務名まで書ければ、それは立派な成果です。
悪くなったものも書く
改善すると、どこかが悪くなることがあります。隠すと、次の改善で必ず反撃されます。
| よくある副作用 | 扱い |
|---|---|
| 別の部門の作業が増えた | 増えた量を数えて報告に書く。全体で減っているかを見る |
| 一時的にミスが増えた | 移行期のものか、定着後も続くかを分けて見る |
| 例外の処理が重くなった | 例外の件数と処理時間を数える(8割の道を軽くした代償として妥当か) |
「全体で減っているか」が判断基準です。 自部門の手数だけが減り、隣の部門で同じだけ増えているなら、それは改善ではなく移動です。2章で「流れで切る」と決めたのは、この移動を見抜くためです。
数字を取り続ける必要はない
効果の測定は、判定日で終わりにしてください。 毎月ずっと測り続ける必要はありません。
| 測る | 測らない |
|---|---|
| 着手前(1回) | 毎月の定点観測 |
| 判定日(90日後・1回) | 改善の全項目を継続監視 |
| 次の1本の着手前(1回) | — |
測定を業務にすると、測定そのものが新しいムダになります。定期的に見るのは、12章で決める月次の30分だけで十分です。
なお、Webサイト・広告からの問い合わせ件数のように、Web側で自動的に取れる数字は、この本の範囲外です。取り方は計測設計の教科書に譲ります。
よくある間違いを5つ
「着手前の数字を取らずに始める」 ——後から推測で書いた数字は、必ず都合よく寄ります。直し方:実行日の前に5つを日付付きで記録する。取り忘れたら「測れない」と正直に書く。
「月◯時間削減と報告する」 ——「その時間はどこへ行ったのか」に答えられず、効果ごと疑われます。直し方:手数・件数・やり直し・待ち日数で書く。
「繁忙期と閑散期を比べる」 ——何もしなくても数字が動きます。直し方:同じ季節、できれば前年同月と比べる。無理なら影響を1行書く。
「効果が出ない=打ち手が間違い、と結論する」 ——実際は「古いやり方が止まっていない」ことがほとんどです。直し方:使われているか・並行運用が残っていないか・元の業務が消えたかの3つを先に確認する。
「浮いた時間を金額に換算する」 ——支出は減っていないので、翌年に必ず追及されます。直し方:実際に減る支出だけを金額にし、時間は「別の業務に回せた」と書く。
この章の出口
この章を終えたとき、手元にあるべきものは3つです。
- 着手前の数字(5つ・日付付き)
- 判定日の報告6行(対象・前・後・差・原因・次の一手)
- 副作用の記録(悪くなったものがあれば、量とともに)
1本目が終わり、数字で語れる結果が残りました。ここで止まる会社と、続く会社が分かれます。 業務一覧表は作った日から古くなり、担当は替わり、1年たてば別の流れが詰まってきます。最後の章は、この棚卸しを1回きりの行事にしないための章です。
次の章へ:12章 業務改善を続ける体制の作り方
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:効果の測り方(12項目)
1つ目は着手の前に、2つ目以降は判定日に付けます。
| # | チェック項目 | ○の条件 |
|---|---|---|
| 1 | 着手前の数字を取ったか | 5つが、着手日より前の日付で残っている |
| 2 | 数字の定義を書いたか | 「1件とは何か」が1行ある |
| 3 | 比較の期間をそろえたか | 同じ長さ・同じ季節性の期間で比べている |
| 4 | 比べる日を先に決めたか | 90日後の日付が着手時に決まっている |
| 5 | 手数で報告しているか | 「月◯時間削減」だけの報告になっていない |
| 6 | やり直しの回数を前後で比べたか | 比べている |
| 7 | 待ち日数を前後で比べたか | 比べている |
| 8 | 並行運用が終わっているか | 旧の入れ物への入力が0件になっている |
| 9 | 元の業務が消えたことを確認したか | 「新しい作業が増えただけ」になっていない |
| 10 | 効果が出ない場合、原因を3つで仕分けたか | 仕分けてある |
| 11 | 金額に換算した場合、実際に減る支出だけを使ったか | 時給換算を効果として報告していない |
| 12 | 報告を6行に収めたか | 対象・前・後・差・原因・次の一手が書いてある |
合格ライン=12項目中9以上。ただし 1・3・8 のどれかが×なら、効果を報告しない。
- 1が×:比べる相手がありません。この状態の報告はすべて推測です。「測れない」と書くほうが、会社に与える害が小さい
- 3が×:季節の違いを改善の効果として報告することになります。翌年の同じ月に必ず露見します
- 8が×:並行運用が残ったまま「効果が出ない」と報告すると、打ち手のせいにされ、正しい改善が潰れます
自社で数字を取る手が足りない場合は、業務の棚卸しの改善の実行支援(月5万円〜・税別)のように、集計と判定だけを外に出す形もあります。ただし、着手前の数字を取るのは、外の誰かではなく自社です。 ここだけは代われません。
更新日 2018年10月20日
