CHAPTER 08
業務改善の手段の選び方|ツールは最後
この章で分かること
- 6つの選択肢と、上から順に試す理由(費用と可逆性)
- ムダの4種類(6章)ごとに、どの選択肢が効くかの対応表
- 打ち手を1枚にまとめる改善カード(7欄)と、判定日・戻し方の決め方
この章の目次(12)
- 1選択肢は6つ、順番が決まっている
- 21 やめる
- 32 減らす
- 43 まとめる
- 54 順番を変える
- 65 人を変える
- 76 道具を入れる(最後)
- 8ムダの4種類 × 効く選択肢
- 9改善カード(7欄)
- 10元に戻せる形にする
- 11よくある間違いを5つ
- 12この章の出口
打ち手は6つしかありません。やめる・減らす・まとめる・順番を変える・人を変える・道具を入れる。 この順番には意味があります。上ほど費用が小さく、上ほど元に戻しやすい。道具が6番目なのは、道具が悪いからではなく、1〜5を飛ばして入れた道具は、ムダをそのまま電子化してしまうからです。 この章は、6つを上から順に開き、選んだ打ち手を1枚のカードにして、判定日と戻し方まで決めるための章です。
この章で分かること
- 6つの選択肢と、上から順に試す理由(費用と可逆性)
- ムダの4種類(6章)ごとに、どの選択肢が効くかの対応表
- 打ち手を1枚にまとめる改善カード(7欄)と、判定日・戻し方の決め方
選択肢は6つ、順番が決まっている
当社の決めごととして、打ち手はこの6つに限定します。 6つに絞るのは、絞らないと議論が「もっと頑張る」「意識を変える」に流れるからです。どちらも表に書けず、翌月には消えています。
| 順 | 選択肢 | 中身 | 費用 | 元に戻せるか |
|---|---|---|---|---|
| 1 | やめる | その作業自体をなくす | ゼロ | 戻せる(また始めればよい) |
| 2 | 減らす | 回数・項目・対象を減らす | ゼロ | 戻せる |
| 3 | まとめる | 分かれている作業・台帳・窓口を1つにする | ほぼゼロ | 戻せる |
| 4 | 順番を変える | やる順序・タイミング・締切を変える | ほぼゼロ | 戻せる |
| 5 | 人を変える | 担当・分担・権限を変える | 教える時間 | 戻せる |
| 6 | 道具を入れる | 設定を変える/道具を買う/作る | 大きい | 戻しにくい |
この表は、メニューではありません。上から順に開く手順です。1で解決するなら2は開かず、2で解決するなら3は開きません。6つを並べて「どれが一番よさそうか」と選ぶ使い方をすると、この章の意味が消えます。並べて選べば、必ず6が選ばれるからです。
なぜ必ず6が選ばれるのか。右の2列を見てください。費用と可逆性は、上に行くほど有利です。ところが、会議の場で評価されるのは別の軸です。1の「やめる」は、提案した人が「それをやめて問題ないと誰が保証するのか」と問われます。6の「道具を入れる」は、誰も責任を問われません。予算を使うことは、会社の中では正当な行為だからです。
つまり、順番を決めておかないと、費用と可逆性で最も不利な選択肢が、社内力学によって自動的に選ばれます。この章が「6つの選択肢」ではなく「6つの順番」を主題にしているのは、そのためです。順番が先に決まっていれば、1を検討することは個人の提案ではなく、手順の一部になります。
上から順に「できない理由」を潰していきます。 1〜5で解決するなら、そこで終わりです。9章に進む必要はありません。
実務では、1〜5を検討せずに6から始めることが圧倒的に多く起きます。理由は単純で、6が一番考えなくて済むからです。「システムを入れる」は具体的に聞こえ、予算が付き、担当が決まります。一方「この確認をやめる」は、誰かが責任を取る必要があります。
たとえば、従業員60名ほどの製造業で、受注処理に時間がかかるという課題から、受注管理の仕組みを入れたとします。導入は無事に終わり、画面もきれいにできた。ところが半年後に数えてみると、担当者の手数はほとんど減っていない——これがこの形の典型です。
理由を追うと、たとえば入力項目が20項目あり、そのうち8項目は数年前に始まった集計のために足されたもので、その集計を今も見ている人は社内に誰もいない、ということがよくあります。新しい仕組みがその20項目をそのまま画面にしていれば、紙に書いていたものを画面に打ち込む形に変わっただけで、打つ回数は変わりません。
先に2(減らす)を開いていれば、8項目を削るだけで手数が4割減ります。費用はゼロ、期間は1週間ほどです。そのうえで残った作業について道具を検討すれば、入れる道具も小さく済みます。順番を守らないと、費用が増え、効果が減り、しかも「システムを入れても変わらない」という印象が社内に残ります。
楽なほうから始めた改善は、費用だけ増えて手数が減りません。
1 やめる
最初に必ず聞く質問は1つです。「これをやめたら、誰が、いつ、どう困りますか」
| 答え | 判定 |
|---|---|
| 具体的に誰がどう困るか即答できる | やめられない。2(減らす)へ |
| 「昔から決まっているので」 | やめる候補。 いつ誰が決めたかを調べる |
| 「念のため」「一応」 | やめる候補。 直近1年で役に立った回数を数える |
| 「上が見たいと言うから」 | 本人に見ているか聞く。見ていなければやめる |
「念のため」の作業は、回数で判定できます。 直近1年でその確認によって間違いが見つかった回数が0なら、確認ではなく儀式です(ただし、金銭・安全・法令の確認は6章で「残す」に分けたはずなので、ここには残っていません)。
承認については、6章で確認した否決の回数を使います。直近1年で否決が0回の承認は、意思決定ではなく通知です。通知なら、待つ必要はありません。 事後に見える形にすれば足ります。
報告資料は、読んでいる人に直接聞いてください。 「毎週作っているこの表、見ていますか」という質問に「実は見ていない」という答えが返ってくることは珍しくありません。
2 減らす
やめられないものは、量を減らせないかを見ます。減らす対象は3つです。
| 減らすもの | 具体例 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 回数 | 日次の集計を週次にする/毎回の承認を月まとめにする | その頻度が要る理由を聞く |
| 項目 | 入力20項目のうち、実際に使われている12項目だけにする | 各項目が、その後どこで使われているかを追う |
| 対象 | 全件確認をやめ、条件に当たるものだけ確認する | 例外の件数を数える(6章) |
項目を減らす効果は、見た目より大きくなります。 4章の「年間の手数=回数 × 1回の手数」で言えば、手数のほうを削るからです。年1,920件の作業で入力項目を20から12に減らせば、年38,400項目が23,040項目になります。作業の回数は1回も減っていないのに、手数は4割減ります。
項目を減らすときは、「その項目を、その後どこで使っていますか」と聞いて回ります。答えられない項目は、集めても誰も見ていません。
3 まとめる
分かれているものを1つにします。二重管理(6章)に最も効く選択肢です。
| まとめる対象 | やること |
|---|---|
| 台帳 | 正の台帳を1つ決める。 もう一方は「見るだけ」にする |
| 窓口 | 問い合わせの入口を1つにし、受け付けた人が振り分ける |
| 様式 | 部門ごとに違う様式を1つにそろえる(項目名から) |
| タイミング | 都度の依頼を、1日1回・決まった時刻にまとめる |
「正の台帳を1つ決める」は、今日・無料でできて、効果が最も確実な打ち手です。 道具を入れなくても、「食い違ったらこちらが正しい」を決めるだけで、確認の往復(6章のムダ2)が消えます。
ただし、正の台帳を決めても、もう一方への入力をやめさせなければ意味がありません。 「正はAです。Bにはもう入れません」まで決めて、初めてまとめたことになります。
4 順番を変える
作業の中身を変えずに、順序とタイミングだけを変えます。待ち(6章のムダ2)に効きます。
| 変え方 | 例 |
|---|---|
| 前に出す | 月末にまとめてやっていた確認を、受け付けた時点でやる |
| 後ろに回す | 全件を先に整えるのをやめ、必要になった時点で整える |
| 並行にする | 承認を待ってから準備していたものを、同時に進める |
| 締切をずらす | 他部門の締切と自部門の締切の間隔を空ける |
「前に出す」が最も効きます。 入口で不備を弾けば、後工程のやり直しが丸ごと消えるからです。注文書の記載不備を受付時に見つけるのと、入力後に見つけるのとでは、やり直しの手数が何倍も違います。
5 人を変える
担当・分担・権限を変えます。人を責めることではありません。 変えるのは、誰がやるかという配置です。
| 変え方 | 例 | 注意 |
|---|---|---|
| 担当を移す | 情報を持っている人がそのまま入力する | 移した先の負荷を確認する |
| 権限を出す | 倉庫が基幹を見られるようにして、転記をなくす | 見せてよい範囲を確認する |
| 分担を変える | 1人が全部やる形から、工程で分ける(またはその逆) | 属人化を増やしていないか |
| 決裁を下ろす | 一定金額以下は課長決裁にする | 規程の改定が要る(難易度が上がる) |
2つ目の「権限を出す」は、転記をなくす最短経路です。 転記の原因の多くは「見られないから、見られる人が書き写している」です。閲覧できるようにするだけで、転記チェーンが1本消えます。
6 道具を入れる(最後)
1〜5を通して、それでも残るものだけが道具の対象です。残ったものには、次の特徴があります。
| 特徴 | 例 |
|---|---|
| 件数が多く、人が手で捌く限界を超えている | 月数百件の入力・突合 |
| 同じ情報を複数人が同時に使う必要がある | 進捗の共有・在庫の照会 |
| 記録を残すこと自体が求められている | 履歴・監査・トレーサビリティ |
| 人がやると必ず間違える種類の作業 | 大量の照合・転記 |
道具の選び方・予算・発注先の決め方は、この章では扱いません。9章(道具を入れると決めたとき)に進んでください。
ここで1つだけ決めておきます。「1〜5では足りない理由」を1行で書いてください。 これが書けないなら、まだ1〜5に戻れます。
1〜5で粘るか、6に進むかで迷ったときの決め方を書いておきます。判断の基準は、残っている手数がどこから来ているかです。手数の大半が「項目が多い」「回数が多い」「確認が多い」から来ているなら、まだ1〜5に戻れます。これらは決めごとを変えれば減ります。一方、手数の大半が「件数そのものが多い」から来ているなら、6に進んでください。件数は商売の規模なので、減らすことが目的にならないからです。
言い換えると、減らしてよいものが残っているうちは1〜5、減らしてはいけないものだけが残ったら6、という線引きです。この線引きができていれば、9章で見積を取るときにも「何を機械にやらせたいのか」を一言で説明できます。説明できない状態で相手に会うと、相手の得意な範囲に話が寄ります。
ムダの4種類 × 効く選択肢
6章で拾ったムダの種類ごとに、最初に開くべき選択肢が違います。
| ムダの種類 | まず試す | 次に試す | 道具が要る場合 |
|---|---|---|---|
| 転記 | 5 人を変える(権限を出して見に行かせる) | 3 まとめる(正の台帳を1つに) | 件数が多く、形の変換が毎回必要なとき |
| 確認待ち | 1 やめる(否決0回の承認) | 4 順番を変える/2 減らす(まとめて承認) | 依頼と状況が見えないことが原因のとき |
| 探す | 3 まとめる(置き場を1か所に) | 2 減らす(命名規則・保存期間) | 量が多く、人の記憶に頼っているとき |
| 二重管理 | 3 まとめる(正の台帳を1つに) | 5 人を変える(入力者を1人に) | 両方に業務上の理由があるとき |
この表は、6章のムダ棚卸し表を横に置いて使ってください。ムダの行を1つ取り、種類の欄を見て、この表の該当する行に進みます。「まず試す」の選択肢から検討を始め、外した理由を書いて「次に試す」へ移ります。右端まで行き着いたときだけ、9章に進む資格が生まれます。
4行のうち、最も多くの会社で効くのは4行目です。二重管理は、どの会社にも必ずあり、しかも正の台帳を決めるだけなら費用も期間もかかりません。着手の順番で迷ったら、二重管理の行から始めてください。成果が早く出るので、社内の空気が変わります。空気が変われば、手強い転記の行に進むときの協力も得やすくなります。
転記の第一手が「道具」ではないことに注意してください。 転記は、権限と台帳の問題であることが多く、その場合は道具を入れても転記元が残ります。
改善カード(7欄)
打ち手が決まったら、1つの打ち手につき1枚のカードにします。長い計画書は作りません。
| # | 欄 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 対象 | 業務一覧表の行番号とムダの番号 | 業務07・M-03 |
| 2 | ムダ | 何を消すのか(1行) | 基幹の受注データをExcelに手入力している |
| 3 | 選択肢 | 6つのどれか | 5 人を変える(倉庫に閲覧権限を出す) |
| 4 | やること | 誰が、いつまでに、何をするか | 情シス◯◯が11月30日までに倉庫端末に閲覧権限を付与 |
| 5 | やめること | 何を止めるか・止める日 | Excel出荷予定表への入力を12月1日で停止 |
| 6 | 戻し方 | 失敗したときどう戻すか | Excelは3ヶ月残す。問題があれば入力を再開 |
| 7 | 判定 | いつ・何がどうなったら成功か | 3月1日。転記9,600項目/年が0、出荷ミスが増えていない |
5欄目(やめること)が、このカードの核です。 新しいやり方を始めても、古いやり方が止まらなければ、作業は増えただけになります。11章で効果が出ない最大の原因がこれです。「止める日」を日付で書いてください。
7欄目は、成功の条件を数で書きます。 「効率化される」は判定できません。「転記が0になり、出荷ミスが増えていない」なら、90日後に○×が付きます。
元に戻せる形にする
すべての打ち手に戻し方を書くのは、現場の反対を消すためでもあります(10章)。「3ヶ月やってみて、ダメなら戻す」と言える改善は、合意が桁違いに取りやすくなります。
| 戻せる形にする工夫 | 中身 |
|---|---|
| 並行運用の期間を置く | 旧を残したまま新を始める。ただし終了日を先に決める |
| 消さずに残す | 台帳・様式・手順書は消さず、「旧」として保管する |
| 一部から始める | 特定の顧客・特定の区分だけで先に試す |
| 記録を取る | 変えた日・変えた内容・誰が決めたかを1か所に書く |
並行運用の終了日を決めずに始めないでください。 終了日が無い並行運用は、永久に終わりません。結果として、二重管理(6章のムダ4)を自分で作ったことになります。
よくある間違いを5つ
「システムを入れる、から議論を始める」 ——1〜5を飛ばすと、今のやり方をそのまま電子化することになり、ムダが固定されます。直し方:1〜5を検討した記録(外した理由1行ずつ)を残してから6に進む。
「新しいやり方を始めたが、古いやり方を止めていない」 ——作業が増えただけになり、現場の信用を失います。直し方:改善カードの5欄に「止めるもの」と「止める日」を書く。
「正の台帳を決めたが、もう一方への入力を許している」 ——食い違いが必ず起き、確認の往復が戻ってきます。直し方:正を決めたら、もう一方は閲覧専用にする。
「6章で『残す』としたムダに手を付ける」 ——金銭・安全・法令の確認を外すと、事故のときに改善の責任になります。直し方:残す行は対象から除く。やり方を変えるのは可。
「打ち手の担当を部門名で書く」 ——「営業部」と書かれた打ち手は、誰も自分の仕事だと思いません。直し方:氏名を書く。1つの打ち手に担当は1人。
この章の出口
この章を終えたとき、手元にあるべきものは3つです。
- 改善カード(打ち手1つにつき1枚・7欄すべて記入済み)
- 1〜5を検討した記録(外した理由付き)
- 止めるものと止める日の一覧
打ち手のうち、1〜5で片づくものは、このまま実行に移せます。残ったのが6(道具を入れる)だけになったとき、初めて次の章に進んでください。次の章は、要件を書き始める手前で止まる章です。そこから先は、道具ごとの教科書に渡します。
次の章へ:9章 業務改善でツールを入れると決めたとき
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:打ち手の選び方(12項目)
改善カードが書き上がった時点、実行に入る前に付けます。
| # | チェック項目 | ○の条件 |
|---|---|---|
| 1 | 打ち手を改善カード(7欄)で書いたか | 7欄すべてが埋まっている |
| 2 | 1〜5の選択肢を検討した記録があるか | 外した理由が1行ずつある |
| 3 | 「やめる」を最初に検討したか | 「やめたら誰が困るか」の答えが書いてある |
| 4 | 承認について、直近1年の否決回数を確認したか | 回数が分かっている |
| 5 | 例外のために全件が重くなっていないか確認したか | 例外の件数と、8割の道の分け方が書いてある |
| 6 | 「正の台帳」を1つ決めたか | 二重管理の行について、どちらが正かが決まっている |
| 7 | 打ち手ごとに、元に戻す方法を書いたか | 全カードに戻し方がある |
| 8 | 打ち手ごとに、判定の条件と日を決めたか | 何がどうなったら成功かと、日付がある |
| 9 | 6章で「残す」としたムダに手を付けていないか | 対象に入っていない |
| 10 | 打ち手の担当者が1人に決まっているか | 氏名(部門名ではない) |
| 11 | 手順書・様式を直す担当と期日が決まっているか | 氏名と日付 |
| 12 | 道具を選んだ行について、1〜5では足りない理由が書いてあるか | 理由が1行ある |
合格ライン=12項目中9以上。ただし 2・7・9 のどれかが×なら、実行に入らない。
- 2が×:検討していないのではなく、検討の記録が無いことが問題です。半年後に「なぜシステムを入れたのか」と聞かれたとき、答えられません
- 7が×:戻せない改善は、現場が全力で抵抗します。合意に必要なのは説得ではなく、戻せるという事実です
- 9が×:消してはいけないムダに手を付けています。ここだけは点数に関係なく止めてください
5が×でも進めますが、例外の件数を数えていないと、「例外があるから全件やるしかない」という反論に勝てません。
この章に関係する記事
更新日 2018年10月20日
