CHAPTER 02
サイトの要件定義|発注側が埋める表
この章で分かること
- 発注側が埋める5枚の表(ページ一覧・素材の担当・更新項目・機能・制約)の書き方
- CMS(WordPressなど)を入れるか入れないかの決め方。入れないほうがよい条件
- 見積書の「一式」を要件の行に分解して、複数社を比べられる形にする方法
この章の目次(9)
- 1要件は5枚の表で足りる
- 2表1:ページ一覧
- 3表2:原稿と素材の担当
- 4表3:更新する項目と頻度(CMSの要否はここで決まる)
- 5表4:機能
- 6表5:制約
- 7見積もりの読み方
- 8よくある間違いを5つ
- 9この章の出口
要件とは、仕様書のことではありません。「このサイトに何が載っていて、誰が、いつ、どうやって直すか」を書いた表のことです。 この表は制作会社が書くものではなく、発注側が埋めるものです。埋めずに相見積もりを取ると、各社が違う前提で見積もるので、金額を比べること自体ができません。 この章は、発注側が埋める表を5枚に絞り、CMSの要否を「更新する人が社内にいるか」の1軸で決め、見積書の行を表の行に突き合わせるための章です。
この章で分かること
- 発注側が埋める5枚の表(ページ一覧・素材の担当・更新項目・機能・制約)の書き方
- CMS(WordPressなど)を入れるか入れないかの決め方。入れないほうがよい条件
- 見積書の「一式」を要件の行に分解して、複数社を比べられる形にする方法
要件は5枚の表で足りる
分厚い要件定義書は要りません。必要なのは次の5枚です。この5枚は、制作会社に会う前に、発注側だけで7割まで埋まります。
| 枚 | 表の名前 | 何を決める表か | これが無いと起きること |
|---|---|---|---|
| 1 | ページ一覧 | 何ページ作るか、各ページの役割 | 見積が「一式」になり、比べられない |
| 2 | 原稿と素材の担当 | 誰が書き、誰が写真を出すか | 公開が数ヶ月ずれる |
| 3 | 更新する項目と頻度 | 公開後に何をどれだけ直すか | CMSの要否が決められない |
| 4 | 機能 | フォーム・多言語・会員などの要否 | 後から追加見積もりが積み上がる |
| 5 | 制約 | ドメイン・サーバー・既存資産・期日・予算 | 公開直前に事故が出る |
残りの3割(実現方法・工数・技術の選択)は制作側が埋めます。発注側が技術を指定する必要はありません。 指定すべきは「何が載っていて、誰が直すか」だけです。
表1:ページ一覧
最初に書くのはこれです。列は5つで足ります。
| ページ名 | このページで起こさせたい行動 | 必ず載せる情報 | 原稿を書く人 | 更新頻度 |
|---|---|---|---|---|
| トップ | サービスページへ進ませる | 何の会社か・誰向けか・実績の数字 | 制作側(取材) | 年1回 |
| サービス◯◯ | 問い合わせフォームへ進ませる | 対象・進め方・価格の目安・よくある質問 | 制作側(取材) | 年1回 |
| 実績 | サービスページへ戻す | 業種・課題・やったこと・結果 | 自社 | 月1回 |
| 会社概要 | 信用を確認させる | 商号・所在地・代表者・設立・法人番号・許認可 | 自社 | 変更時のみ |
| 採用 | 応募フォームへ進ませる | 職種・待遇・働く様子・都合の悪いことも | 制作側(取材) | 募集時 |
| 問い合わせ | 送信させる | 項目・返信までの日数・その後の流れ | 自社 | 変更時のみ |
2列目(起こさせたい行動)が全ページ埋まることが重要です。 埋められないページは、読んだ人が次に行く場所が無いページ=行き止まりです。1章で決めた目的の1行が、ここで全ページに分配されます。
ページ数は10ページ前後から始めてください(当社のコーポレートサイト制作 80万円〜 はこの規模を想定しています)。増やす前に「このページが無いと誰が困るか」を1行で書き、書けないページは作りません。3年間更新しないページは、公開した時点から古くなっていきます。
リニューアルの場合は「新規で作る/既存から移す」の列を足します。移す記事の本数が、そのまま金額と期間に効きます。
表2:原稿と素材の担当
サイト制作が止まる原因の第1位は、原稿待ちです。 技術的な難所ではありません。ここを表にして、行ごとに担当と期限を決めます。
| 素材 | 出す人 | 期限 | 無い場合の代替 |
|---|---|---|---|
| 各ページの原稿 | 制作側が取材して書く/自社で書く | 取材日または締切 | — |
| 事実確認 | 自社(必須) | 提出から3営業日以内 | 代替不可 |
| 社屋・現場の写真 | 撮影する/既存を使う | 撮影日 | イラスト・図で構成する |
| 社員の写真 | 撮影する | 撮影日 | 後ろ姿・手元のみ・イラスト |
| ロゴデータ | 自社 | 着手前 | 作り直す(ロゴ制作 20万円〜) |
| 実績の数字 | 自社 | 原稿執筆前 | 載せない |
| 許認可番号・法人番号 | 自社 | 着手前 | 代替不可 |
ここで当社の決めごとを書きます。当社は「原稿をください」と言いません。 1回1〜2時間の取材を数回行い、こちらで書きます。発注側にお願いするのは事実確認だけで、取材と原稿執筆は制作費に含みます(コーポレートサイト制作・採用サイト制作・WordPress構築 いずれも同じ)。理由は、原稿待ちで止まるのが最も多い失敗だからです。
他社に頼む場合も「原稿は誰が書きますか」は必ず聞いてください。 答えが「御社」なら、その見積もりは安く見えているだけで、自社の作業時間が別に積まれています。
写真は当社でも別途です。撮るかどうかは目的で決まります。 採用が目的なら、働いている人が写っていないサイトは役に立ちません。信用の確認が目的なら、社屋と代表者の写真で足ります。用意が難しければ、イラストや図で構成します。事実確認の期限を決めないと、ここだけで1ヶ月ずれます。1章で決めた窓口が取りまとめてください。
表3:更新する項目と頻度(CMSの要否はここで決まる)
この表が、この章で最も重要です。 WordPressを使うかどうかは、技術の好みでも流行でもなく、公開後に何を、どれくらいの頻度で、誰が直すかで決まります。
| 更新する項目 | 頻度 | 社内でやる人 | 1回の作業 |
|---|---|---|---|
| お知らせ | 月1回 | 総務・◯◯さん | 文章を1本追加 |
| 実績 | 月1回 | 営業・◯◯さん | 写真1枚+文章 |
| ブログ・コラム | 週1回 | いない | — |
| 社員紹介 | 年1回 | 総務・◯◯さん | 写真+文章の差し替え |
| 価格 | 年1回 | いない | 数字の差し替え |
| 会社概要 | 変更時のみ | 総務・◯◯さん | 数行の書き換え |
「社内でやる人」の列に名前が入らない行は、更新されません。 「あとで決める」と書いた行は、公開後に空欄のまま固定されます。名前が入らないなら、正直に「いない」と書いてください。それが正しい要件です。
判定:CMSを入れるか
上の表から、次のように決めます。
| 名前が入った行の数 | 頻度 | 判定 |
|---|---|---|
| 3行以上 | 月1回以上 | 全体をCMSで作る |
| 1〜2行 | 月1回以上 | その項目だけCMSにする(残りは固定) |
| 1〜2行 | 年1回程度 | CMSなし。 変更時に制作側へ依頼するほうが安い |
| 0行 | — | CMSなし。 入れても誰も触らない |
当社の判断を書きます。10ページ程度の会社案内で、お知らせも記事も更新しないのであれば、WordPress を使わないほうが速くて安全です。 更新を止めたWordPressは改ざんの対象になるため、本体とプラグインを更新し続ける担当を決めなければならず、プラグインが多いほど更新のたびに壊れる確率も上がるからです。誰も使わない機能のために、事故の可能性だけが増えます。
逆に、更新する項目が3行以上ある会社にとっては、CMSは必須です。更新のたびに見積もりが出る状態は、3年で制作費を超えることがあります。 文言を1行変えるのに数万円かかり、結局放置される——この状態を避けるためにCMSを入れます。
CMSを入れる場合、もう1つ決める
管理画面をそのまま渡すと、間違えてレイアウトが崩れます。お知らせ・実績・社員紹介・価格など更新頻度の高い項目だけを専用の入力欄にし、ページ構成やデザインは触らせない形にしてください。当社は公開前に1時間ほど操作説明を行い、手順書も渡します(WordPress構築 80万円〜・保守は月5万円〜。社内で更新できる人がいる場合は、手順書だけ受け取って自社対応でも構いません)。
表4:機能
○×で埋めます。判定は「使う人の名前と、運用の担当が言えるか」だけです。 言えないものは×にしてください。「あったら便利」は全部×です。
| 機能 | ○× | 使う人 | 運用する人 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせフォーム | ○ | 見込み客 | 営業・◯◯さん |
| 資料ダウンロード | |||
| 多言語対応 | |||
| 会員・ログイン | |||
| サイト内検索 | |||
| 予約 | |||
| 決済 | |||
| MA・CRMとの連携 | |||
| ブログ・記事 |
フォームについては、要件の中身までここで決めます。
| 決めること | 目安 |
|---|---|
| 必須項目の数 | 少ないほど送信されます。増やす項目は「無いと返信できないもの」だけ |
| 送信先 | 届くメールアドレスと、対応する担当者名 |
| 自動返信 | 出すか出さないか。出すなら文面と、返信までの日数 |
| データの保管先と期間 | 個人情報を受け取る以上、どこに何年置くかを決める |
送信先が決まっていないフォームは、公開後に問い合わせが届きません。 実際に起きます(9章の公開前チェックで必ず実送信します)。
表5:制約
先に出しておかないと、公開直前に事故になる項目です。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| ドメイン | 誰の名義か。 自社名義でないなら移管の段取りが要る |
| サーバー | 現在の契約先・月額・契約名義 |
| 既存サイト | 記事の本数とURL一覧が出せるか(10章の転送表の元になる) |
| 現制作会社との関係 | 連絡が取れるか。契約が続いているか。管理画面のIDが手元にあるか |
| メール | サイトと同じサーバーで動いていないか |
| 公開希望日 | 日付と、その理由(1章) |
| 予算の上限 | 1つの金額(幅ではない) |
| 社内の承認フロー | 誰の承認が何段階必要か |
ドメインとサーバーの契約名義は、発注側にしてください。 当社は管理を代行しますが、名義は発注側のままにすることを勧めています。名義が制作会社にあると、その会社と連絡が取れなくなった時点で、サイトとメールを同時に失います。なおサーバー費用は、共用サーバーなら月1,000円台で足りることがほとんどです。
見積もりの読み方
5枚の表が埋まっていれば、見積書は読めます。読み方は1つだけです。
見積書の行が、表1〜表5の行と対応しているか。
対応していない行、つまり「制作一式」「サイト構築一式」の行がある見積書は、比べられません。何が入っていて何が入っていないかが分からないためです。
| 見積書にあるべき行 | 無いと後で何が起きるか |
|---|---|
| ページ数(または制作するページの一覧) | ページを足すたびに追加見積もり |
| 原稿執筆・取材(含む/別途) | 「御社で用意」になっていて、自社の工数が積まれる |
| 写真撮影(含む/別途) | 公開直前に撮影費が出る |
| デザイン(何案・修正何回まで) | 修正の往復で追加費用 |
| CMSの構築範囲(どの項目を入力欄にするか) | 更新したい項目が触れない |
| 既存記事の移行(本数) | 本数分の作業費が後から出る |
| 旧URLからの転送設定 | 検索からの流入を失う(10章) |
| フォームの構築と設定 | 送信先の設定が入っていない |
| 公開後の修正(何回・いつまで無料) | 公開翌日の誤字修正に費用が出る |
| 保守・運用(月額と、含まれる時間・回数) | 「質問窓口代」になる |
| サーバー・ドメイン(別途か) | ほぼ別途。実費の目安を聞く |
「相場はいくらですか」には、この教科書は答えません。 サイト制作の価格は、ページ数・原稿の担当・撮影の有無・移行本数で何倍にも変わるので、相場という1つの数字が存在しないためです。代わりに、当社の料金を一例として置きます(いずれも税別)。
| 当社のサービス | 金額(税別) | 含まれるもの |
|---|---|---|
| コーポレートサイト制作 | 80万円〜(10ページ前後・2ヶ月〜) | 取材・原稿執筆。初回相談と構成の提案は無料 |
| LP制作 | 40万円〜(1枚・最短2週間) | 原稿執筆 |
| WordPress構築 | 80万円〜(2ヶ月〜) | 取材・原稿執筆・操作説明 |
| 採用サイト制作 | 80万円〜(2ヶ月〜) | 社員取材・原稿執筆 |
| ECサイト構築 | 100万円〜(30商品まで・2ヶ月半〜) | 商品説明の執筆は10商品まで |
| サイトリニューアル | 80万円〜 | 現状分析(残す・捨てるの仕分け)は20万円〜 |
| 公開後の運用・保守 | 月5万円〜 | — |
この表は「当社の値段」であって、「正しい値段」ではありません。他社の見積もりがこれより高くても安くても、判断は金額ではなく、上の11行が揃っているかどうかでしてください。
そして、相見積もりは全社に同じ表1〜表5を渡したときだけ成立します。 渡さないと、A社は原稿込み・B社は原稿別途・C社は撮影込みの見積もりが並び、一番抜けの多い見積書が最安に見えます。声をかける社数と契約の確認点は4章で扱います。
よくある間違いを5つ
「要件定義書を完璧にしてから発注する」 ——実物を見ないと、本当に必要な項目は分かりません。時間をかけて書いた仕様は、画面を見た瞬間に半分が変わります。直し方:発注側が書くのは5枚の表まで。実現方法は制作側に任せ、早い段階で画面の形を見せてもらう。
「CMSは入れておけば損はない」 ——損はします。更新しないCMSは、本体とプラグインを更新し続ける手間と、改ざんのリスクだけを残します。直し方:表3の「社内でやる人」の列を見る。名前が0行ならCMSは入れない。
「ページ数は多いほうが得」 ——ページが増えるほど、古くなる情報が増えます。更新されない30ページより、正確な10ページのほうが信用されます。直し方:ページを足す前に「無いと誰が困るか」を1行書く。書けないページは作らない。
「フォームの項目は多いほうが営業しやすい」 ——項目を増やすほど送信数が減ります。増やした項目で得られる情報より、失う問い合わせのほうが多いことがあります。直し方:必須項目は「無いと返信できないもの」だけにする。残りは返信のときに聞く。
「公開日は早いほうがいい」 ——早く出すこと自体に価値はありません。原稿が仮のまま、写真が無いまま公開すると、直すために二度手間になります。直し方:1章で決めた「動かせない理由のある日付」だけを締切にする。理由が無いなら、原稿と写真が揃う日を締切にする。
この章の出口
この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。
- 5枚の表(ページ一覧・素材の担当・更新項目・機能・制約)
- CMSの要否の判定(全部CMS/一部だけ/なし。根拠は表3の「社内でやる人」の列)
- 見積書を読む11行(対応していない「一式」の行が無いことの確認)
この3つが揃えば、何が載っていて、誰が直すかが決まっています。決まっていないのは何を作るか(サイトの種類)と誰に頼むかです。同じ80万円でも、コーポレートサイトを作るのか、LPを作るのか、今あるサイトを直すのかで、結果はまったく変わります。
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:要件の固まり具合(12項目)
相見積もりを取る前に、発注側だけで埋められます。
| # | チェック項目 | ○の条件(合格の状態) |
|---|---|---|
| 1 | ページ一覧が表になっている | ページ名・目的・必須情報・原稿の担当・更新頻度の5列が埋まっている |
| 2 | 各ページに「起こさせたい行動」が1つ書いてある | 全ページに書いてある(「紹介」だけのページが無い) |
| 3 | 原稿を誰が書くかが、ページごとに決まっている | 発注側/制作側が行ごとに書いてある |
| 4 | 事実確認をする人が決まっている | 名前と期限(◯営業日以内)が書いてある |
| 5 | 写真・ロゴ・図の出所が決まっている | 撮影する/既存を使う/代替案、のどれかが行ごとに決まっている |
| 6 | 公開後に更新する項目が一覧になっている | 項目名と頻度(週・月・年)が書いてある |
| 7 | その更新を社内の誰がやるか決まっている | 名前が書いてある。いなければ「いない」と書いてある |
| 8 | CMSの要否が6・7から決まっている | 全部CMS/一部だけCMS/CMSなし、のどれかが決まっている |
| 9 | 機能の表が○×で埋まっている | 「あったら便利」が×になっている |
| 10 | ドメイン・サーバーの契約名義が確認できている | 自社名義である/移管の段取りがある |
| 11 | 既存サイトの資産(記事数・URL)を数えた | 本数とURL一覧がある。無い場合は「無い」と分かっている |
| 12 | 見積書の行が、1〜11の表の行と対応している | 「一式」の行が無い/別途になるものが明記されている |
合格ライン=12項目中9つ以上で相見積もりに進んでよい。ただし 1・4・7 のどれかが×なら、何点でも相見積もりを取らない。
- 1が×:各社が違う前提で見積もるので、比較が成立しません
- 4が×:原稿の確認で止まり、公開日が動きます
- 7が×:CMSを入れるかどうかが決められません。ここを決めずに「とりあえずWordPress」にすると、保守費と事故のリスクだけが残ります
更新日 2018年10月20日
