物件管理をkintoneで作るとき、最初に決めるのは「1レコードを部屋にするか、棟にするか」の1つです。ここを間違えると、あとから直すのに移行作業が必要になります。賃貸の仲介・管理が中心なら、部屋単位にしてください。
そのうえで、物件台帳を中心に置き、反響・内見・契約・修繕を物件コードでつなぐ。これだけで「この部屋でこれまで何が起きたか」が1画面に集まります。
実際に動かしている見本は不動産会社のkintoneにあります。この記事は、その中の「物件台帳」をどう設計したかの話です。
Excelの物件台帳が詰まるところ
Excelが悪いわけではありません。物件数が少なく、触る人が1人の間は、Excelのほうが速いです。詰まるのは、管理戸数が増えて人が増えたときです。
| 詰まるところ | 現場で起きること |
|---|---|
| ファイルが賃貸用・売買用・管理用に分かれている | 同じ部屋の情報が3か所にあり、どれが最新か分からない |
| 募集条件を直しても、ポータル側が古いまま | 問い合わせを受けてから「その賃料はもう変わっている」と気づく |
| 空室かどうかが色付けで管理されている | 色の意味が人によって違い、絞り込みができない |
| 写真と図面が共有フォルダに別置き | 物件名のフォルダが「ハイツ大井町」「ハイツ大井町_新」に分かれる |
| 誰かが開いていると編集できない | 現地から更新できず、事務所に戻ってからまとめて直す |
2行目が一番重い問題です。募集条件は「どこかに書いてあるもの」ではなく「1か所が正で、そこから配る」ものとして持てると、二重管理はかなり減ります。
1レコードを部屋にするか、棟にするか
ここが設計の分かれ目です。用途で決めます。
| 単位 | 向いている業務 | 起きること |
|---|---|---|
| 部屋単位(1レコード=1室) | 賃貸仲介・賃貸管理・区分所有の売買 | 募集・契約・入居が部屋ごとに動くので、一覧・絞り込み・集計がそのまま使える |
| 棟単位(1レコード=1棟) | 一棟売買・投資用物件の販売 | 部屋ごとの賃料をサブテーブルに持つことになり、空室の絞り込みや部屋別の集計ができない |
見本では部屋単位にしています。物件コード(P-0001)は部屋ごとに振り、同じ棟の部屋は物件名が同じになります。

棟の情報が重複することの扱い
部屋単位にすると、住所・築年・構造・オーナーといった棟の情報が部屋の数だけ重複します。これを嫌って棟単位に戻したくなりますが、戻すと集計ができません。
取れる手は2つです。管理戸数が数百までで棟の情報がほとんど変わらないなら、棟の情報も部屋レコードに持つ(重複を許す)。オーナーが変わる・棟ごとの書類を持つなど棟に情報がたまるなら、建物マスタを別アプリにして部屋からルックアップで引く。
ルックアップにすると、建物マスタ側を直しても、すでに作った部屋レコードの値は自動では変わりません(更新ボタンを押すか、一括で再取得する必要があります)。この挙動は先に共有しておかないと必ず問い合わせになります。ルックアップの仕組みはkintoneルックアップ機能の使い方に、アプリを分ける・分けないの判断は6章 複数アプリのつなぎ方にまとめています。
物件台帳に持つ項目
見本の物件台帳は、次の項目で動いています。
| 項目 | 型 | 補足 |
|---|---|---|
| 物件コード | 文字列1行(必須・重複禁止) | 部屋ごとに振る。ほかのアプリはこの値でつなぐ |
| 物件名 | 文字列1行(必須) | 棟の名前。同じ棟の部屋は同じ値になる |
| 部屋番号 | 文字列1行 | 「101」「2A」「1F」など。数値にしない |
| 住所 | 文字列1行 | 棟の住所 |
| 種別 | ドロップダウン | マンション/アパート/戸建て/店舗・事務所 |
| 賃料・共益費 | 数値 | 募集条件。変えたら履歴を残す(後述) |
| 状況 | ドロップダウン | 空室/申込あり/入居中 |
| 写真 | 添付ファイル | 外観・内装・図面 |
部屋番号を数値にしないのは、「2A」「B1」「1F」が入るからです。数値にすると保存できず、あとから型を変えるのは手間がかかります。フィールドの型の決め方はkintoneのフィールド設計に書きました。
状況をドロップダウンにしておくと、一覧の絞り込みが「空室だけ」「申込ありだけ」で一発になります。Excelの色付けをそのまま持ち込まないのがコツです。色は条件書式であとから足せます。
募集条件の変更履歴をどう持つか
賃料・共益費・敷金・礼金・フリーレントは、募集中に何度も変わります。「いつ、いくらから、いくらに下げたか」を追えるかどうかで、次の値付けの精度が変わります。
やり方は3つあります。
| やり方 | できること | できないこと |
|---|---|---|
| kintone標準の「レコードの変更履歴」 | 誰がいつ何を変えたかを、レコードごとに見る | 一覧に並べる・集計する・グラフにする |
| 物件台帳のサブテーブルに履歴行を持つ | 詳細画面で過去の賃料を並べて見る | 全物件をまたいだ絞り込み・集計 |
| 募集条件履歴アプリを別に作る | 「今月値下げした部屋」の一覧、値下げ幅の集計 | ー(手間は増える) |
値付けを見直すつもりがあるなら、3つめをおすすめします。形は単純で、物件コード(物件台帳からのルックアップ)・変更日(日付)・区分(ドロップダウン:賃料/共益費/敷金/礼金/条件)・変更前と変更後(数値)・理由(文字列複数行)の5つだけです。
物件台帳側に関連レコード一覧を置けば、部屋を開いたときに履歴が下に並びます。ただし関連レコード一覧に合計は出ません。値下げ幅の集計はグラフ機能で出します(→kintoneのグラフ・レポート機能)。
募集を止めた部屋の条件を、編集できなくする
申込が入ったあとに賃料を触られると、履歴と合わなくなります。状況が「申込あり」「入居中」になったら賃料・共益費を編集できなくする、という設定が条件付き入力禁止でできます。
ポータル出稿との二重管理を減らす
「レインズやポータルと自動で連携できますか」は必ず聞かれます。標準ではできません。 ポータル側の入稿方式に合わせたCSVを書き出す形が現実的です。なお、レインズは出稿先である前に成約事例のデータ元です。成約価格・売出期間・値引き率をエリアごとに集計して相場を数字で持つ話はレインズデータの活用方法に分けて書いています。
ただ、連携の仕組みを作る前にやることがあります。どの項目を自社台帳の正とするかを決めることです。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| 賃料・共益費の正はどこか | 物件台帳。ポータルは台帳から配る |
| 募集を止める判断は誰がするか | 管理担当。状況を「申込あり」にした時点で出稿を止める |
| 写真の正はどこか | 物件台帳の添付ファイル。ポータルへは都度アップロード |
| 更新のタイミング | 毎営業日の朝、状況が変わった部屋だけ確認する |
これが決まっていないと、CSVを自動で作れるようにしても「どちらが新しいか」の確認作業が残ります。二重管理の正体は作業ではなく、正が決まっていないことです。出稿の費用対効果を反響側から見る話はポータルサイトの費用対効果を数字で見るに、業界全体のDXの進め方は不動産業のDXにまとめています。
写真・図面の持ち方
添付ファイルフィールドに、物件レコードごとに入れます。共有フォルダに置いてリンクを書くより、物件を開いたらそこにある形のほうが探す時間が短くなります。
| 気をつけること | 対応 |
|---|---|
| 容量 | kintoneの契約容量は1ユーザーあたり5GB(全体で合算)。高解像度の原本を全部入れると足りなくなる |
| ファイル名 | 「IMG_0123.JPG」のままだと中身が分からない。「外観」「間取り」など日本語で付け直す |
| 原本の置き場 | 撮影原本はクラウドストレージ、台帳には出稿用に縮小したものを入れる、という分け方が現実的 |
| 図面の差し替え | 古い図面を消さずに残すと、どれが最新か分からなくなる。1レコードに最新だけ置く |
二重登録を止める
同じ部屋が2件登録されると、片方だけ賃料を直すことになります。物件名+部屋番号の組み合わせで重複を止めます。物件コードは重複禁止にしてあっても、人が別のコードを振ってしまえば止まりません。
重複チェック Proの設定は3手です。
- アプリの設定 →「プラグイン」→「重複チェック Pro」の歯車アイコン
- 判定する項目に「物件名」「部屋番号」を選び、動作を「保存を止める」にする
- 「保存する」→「アプリを更新」
全角・半角や前後の空白の違いはそろえて比べるので、「101」と「101」も重複として見つかります。入力のゆれ自体を保存時にそろえたい場合は入力値の整形を併用します。
棟ごとの空室数を詳細画面に出す(JavaScript)
部屋単位にすると「この棟に空室が何部屋あるか」がぱっと見えません。詳細画面にスペースフィールドを1つ置いて、同じ物件名のレコードを数えます。
(() => {
'use strict';
const APP = kintone.app.getId();
const NAME = '物件名';
const STATUS = '状況';
const SPACE = 'vacancy'; // スペースフィールドの要素ID
kintone.events.on('app.record.detail.show', async (event) => {
const el = kintone.app.record.getSpaceElement(SPACE);
if (!el) return event;
const name = event.record[NAME].value;
if (!name) return event;
const resp = await kintone.api('/k/v1/records', 'GET', {
app: APP,
query: `${NAME} = "${String(name).replace(/"/g, '\\"')}" limit 500`,
fields: [STATUS],
});
const all = resp.records.length;
const vacant = resp.records.filter((r) => r[STATUS].value === '空室').length;
el.textContent = `${name}:${all}戸中 ${vacant}戸が空室`;
el.style.color = vacant > 0 ? '#c00' : '#333';
return event;
});
})();
25行ほどです。1棟が500戸を超える場合はカーソルを使った取得に書き換えが必要です。またこの数え方は物件名の表記が完全に一致していることが前提なので、物件名はドロップダウンか建物マスタからのルックアップにしておくほうが安全です。JavaScriptの入れ方は13章 JavaScript・API・外部連携にまとめています。
実際の画面
物件を開くと、その部屋の内見・契約・修繕が下に並びます。関連レコード一覧を物件コードでつないでいます。

「内見の予定」には日時・顧客名・担当者・結果、「契約」には契約番号・顧客名・契約期間、「修繕履歴」には退去日・見積合計・業者・完了日が出ます。部屋を開けば、その部屋で起きたことが全部そこにある状態です。データはすべて架空で、同じ画面は不動産会社のkintoneで全部見られます。
正直に言っておく限界
| 限界 | どうするか |
|---|---|
| レインズ・ポータルとの自動連携はできない | CSVで受け渡す。先に「自社台帳が正」を決める |
| 地図表示・沿線検索は標準にない | 住所を持っておき、必要なら外部の地図サービスと組み合わせる |
| 物件情報の公開サイトにはならない | 台帳は社内用。募集ページは別に持つ |
| 添付ファイルの容量制限 | 原本は別のストレージ、台帳には出稿用の軽いものを入れる |
| 無料プラグインはパソコンの画面のみ対応 | 現地からの写真登録はkintoneのモバイルアプリで行う(プラグインの動作は事務所のPCで) |
宅地建物取引業法で備え付けが必要な帳簿の代わりにする場合は、記載事項と保存年限を満たす設計が要ります。kintoneで記録して印刷・PDF保存する運用にはできますが、最終的な適合判断は御社の顧問(宅建士・行政書士等の専門家)にご確認ください。
進め方と費用
初回30分で業務を聞き、その場で画面の形を出します。そこから1〜4週目で構築し、動くアプリを現場の声で直します。ここまでが0円です(1業務1アプリまで、最大1か月)。1ヶ月後に使うか使わないかを決めていただき、使うと決めた場合だけ月額5万円から(最低12ヶ月)で改善と追加を続けます。
kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。使い続けるといくらかかるかは2章 費用の全体像にまとめています。物件管理だけでなく、電子契約やポータル出稿まで含めた不動産DX全体の予算感を先に置きたい場合は不動産DXの費用相場に会社規模別のモデルがあります。
まとめ
- 賃貸の仲介・管理が中心なら、1レコード=1部屋。棟単位にすると集計ができなくなる
- 棟の情報がたまるなら建物マスタを別アプリにして、部屋からルックアップで引く
- 部屋番号は文字列。「2A」「1F」が入る
- 募集条件の変更を分析したいなら、履歴は別アプリに1変更=1レコードで残す
- ポータルとの二重管理は、連携の仕組みより先に「どの項目が正か」を決めると減る
- 物件名+部屋番号の重複チェックで、同じ部屋の二重登録を止める
- 帳簿としての適合判断は専門家に確認する
→ 不動産会社のkintone(実際の画面つき) → 不動産の反響・追客管理をkintoneで作る方法 → 賃貸管理(入居中〜退去・原状回復)をkintoneで作る方法 → kintoneで物件管理を効率化する方法(考え方の整理) → 製造業の在庫管理をkintoneで作る方法 → kintone導入支援の詳細 → kintone無料プラグイン一覧
よくある質問
kintoneで物件管理はできますか
できます。ただし不動産専用ソフトがそのまま入っているわけではなく、物件台帳・反響顧客・内見予約・契約といったアプリを自分で作り、物件コードでつなぐ形になります。募集条件の管理と、その物件で起きたこと(内見・契約・修繕)の履歴を1か所で見るのが目的なら、この形で足ります。
1レコードは部屋にすべきですか、棟にすべきですか
賃貸の仲介・管理が中心なら部屋単位をおすすめします。募集も契約も入居も部屋ごとに動くためです。棟単位にすると、空室の数や1部屋ごとの賃料をサブテーブルに閉じ込めることになり、一覧での絞り込みや集計ができなくなります。棟の情報(オーナー・建物名・築年)は別アプリ(建物マスタ)に置き、部屋からルックアップで引くと重複しません。
募集条件を変えた履歴は残せますか
kintoneの標準機能でも「レコードの変更履歴」で誰がいつ何を変えたかは追えます。ただし一覧や集計の対象にはならないため、「いつ賃料をいくらに変えたか」を並べて見たい場合は、募集条件の履歴を別アプリに1変更=1レコードで残す形にします。
SUUMOやHOME'Sなどのポータルと自動で連携できますか
標準では自動連携はできません。ポータル側の入稿方式に合わせたCSVを書き出す形が現実的です。連携の仕組みを作るより先に「自社台帳のどの項目を正とするか」を決めるほうが、二重管理は減ります。
作るのにいくらかかりますか
構築は1業務1アプリまで最大1か月0円です。使うと決めていただいた場合だけ、月額5万円から(最低12ヶ月)で改善と追加を続けます。kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。


