賃貸管理で落とすと一番痛いのは、契約更新と解約通知の期限です。物件数が増えると人の記憶では追えなくなり、気づいたときには通知期限を過ぎています。
kintoneで作るなら、まず「期限の日付」と「そこまでの残日数」を持ち、一覧で色を付ける。これだけで見落としはかなり減ります。原状回復の工事明細はそのあとです。
実際に動かしている見本は不動産会社のkintoneにあります。この記事は、その中の「契約」「賃貸管理(入居)」「原状回復・修繕」をどう設計したかの話です。
賃貸管理をExcelで回すときに詰まるところ
| 詰まるところ | 現場で起きること |
|---|---|
| 契約書はファイル、期限は別の一覧表 | 更新の案内が遅れ、気づいたら再契約の準備期間が足りない |
| 解約通知の期限が契約ごとに違う | 30日前と決めつけて運用し、契約書と合っていない |
| 入居者情報が契約書のPDFの中だけ | 緊急連絡先を探すのに、毎回PDFを開いて読む |
| 退去の予定が担当者の手帳にある | 原状回復の手配が遅れ、空室期間が伸びる |
| 原状回復の見積が工事会社ごとの様式 | 過去にいくらで直したかを比べられない |
共通しているのは、「日付が、探さないと出てこない場所にある」ことです。日付を台帳に出すだけで、かなりの問題が消えます。
3つのアプリに分ける
契約・入居・原状回復は、動くタイミングも、見る人も違います。1つのアプリに詰めると、絞り込みも集計もできなくなります。
| アプリ | 1レコードの単位 | 主な項目 |
|---|---|---|
| ④ 契約 | 1契約 | 契約番号・物件コード・顧客番号・契約開始日・契約終了日・敷金・礼金・賃料・更新までの残日数 |
| ⑤ 賃貸管理(入居) | 1入居 | 契約番号・物件名・顧客名・月額賃料・入居日・入居日(和暦)・退去日・解約通知期限 |
| ⑥ 原状回復・修繕 | 1工事 | 物件コード・退去日・工事明細(サブテーブル)・見積合計・業者・完了日 |
契約と入居を分けているのは、更新で契約が新しくなっても入居は続くからです。更新のたびに契約レコードが増え、入居レコードは1本のまま、という持ち方にすると、契約期間の履歴が残ります。アプリを分ける・分けないの判断は6章 複数アプリのつなぎ方にまとめています。
つなぎはルックアップです。入居アプリで契約番号を選ぶと、物件名・顧客名・月額賃料が自動で入ります(→kintoneルックアップ機能の使い方)。

入居中の一覧です。入居日は和暦でも表示し、退去日から解約通知の期限(30日前)を自動で計算しています。
契約番号を自動で振る
契約番号を手で振ると、必ず重複するか飛びます。見本では年度ごとの連番(K-FY2026-0001)にしていて、自動採番の設定だけで作れます。接頭辞「K-」/日付部分「年度(FY)」/区切り「-」/ゼロ埋め4桁/連番を1に戻す単位「年度(開始月4月)」の5つを選ぶだけです。
4月1日になると 0001 に戻ります。同時に保存して番号がぶつかった場合は、保存後に自動で振り直されます。採番の考え方はkintoneで連番・自動採番を作る方法に書きました。
契約更新の期限に色を付ける
契約一覧に「更新までの残日数」を出し、期限が近いものに色を付けています。

これは期限・残日数の設定だけで作っています。手順は4つです。
- アプリの設定 →「プラグイン」→「期限・残日数」の歯車アイコン
- 「+ ルールを追加」で、期限の項目に「契約終了日」、残日数を入れる項目に「更新までの残日数」を選ぶ
- 数え方(暦日/営業日)と、「残り何日以内を色付けするか」(見本では90日)と色を選ぶ
- 「保存する」→「アプリを更新」
ここで必ず先に知っておくべき挙動があります。
| 挙動 | 意味 |
|---|---|
| 残日数の数値は、保存したときの値 | 日がたっても自動では減らない |
| 一覧の色は、開いた日の日付で判定し直す | 色は常に正しい |
| 並べ替え・絞り込みに使うのは残日数ではなく期限の日付 | 「契約終了日が90日以内」の絞り込み条件を一覧に保存する |
つまり、「更新が近い契約」の一覧は、残日数ではなく契約終了日の条件で作るのが正解です。残日数は見るための数字、絞り込みは日付、と役割を分けます。期限表示の考え方はkintoneで期限・残日数を表示して色を付ける方法に詳しく書きました。
入居中の情報と、解約通知の期限
入居アプリには、契約書を開かなくても分かるべき情報を出します。
| 項目 | 型 | 補足 |
|---|---|---|
| 入居日 | 日付 | ー |
| 入居日(和暦) | 文字列1行 | 帳票や役所提出の書類にそのまま使う |
| 退去日 | 日付 | 退去が決まったら入れる |
| 解約通知期限 | 日付 | 退去日から自動計算 |
| 緊急連絡先・保証会社・鍵の本数 | 文字列 | 探す時間をなくすための項目 |
和暦と日付の引き算は、日付計算の設定で入ります。見本では2つのルールを置いています。
- 入居日 →「令和8年9月1日」の形で入居日(和暦)に入れる
- 退去日 → 30日前の日付を解約通知期限に入れる(日数に負の数を指定)
和暦の出し方はkintoneで日付を和暦で表示する方法にまとめています。
「30日前」を決め打ちにしない
見本は分かりやすさのために30日前で固定していますが、何日前の通知が必要かは契約書の条項によって違います。 借主からの解約と貸主からの解約でも扱いが違い、通知を受けた日から起算する契約もあります。
実務で作るときは、通知日数を契約レコード側に数値で持ち、そこから計算する形にしてください。アプリの設定に数字を埋め込むと、条項の違う契約が入ったときに直せません。
借地借家法・契約条項の解釈に関わる部分です。システムは期限を見落とさないための道具でしかないので、最終的な適合判断は御社の顧問(宅建士・弁護士等の専門家)にご確認ください。
退去から原状回復への流れ
退去日が決まったら、原状回復のレコードを作ります。手で作ると忘れるので、退去日が入った時点で自動的に1件作る形にできます。
(() => {
'use strict';
const REPAIR_APP = 6; // 原状回復・修繕アプリのID
const LEAVE = '退去日';
const CODE = '物件コード';
kintone.events.on('app.record.edit.submit.success', async (event) => {
const leave = event.record[LEAVE] && event.record[LEAVE].value;
const code = event.record[CODE] && event.record[CODE].value;
if (!leave || !code) return event;
// すでに作ってあれば作らない(同じ操作を繰り返しても増やさない)
const found = await kintone.api('/k/v1/records', 'GET', {
app: REPAIR_APP,
query: `${CODE} = "${String(code).replace(/"/g, '\\"')}" and 退去日 = "${leave}" limit 1`,
fields: ['$id'],
});
if (found.records.length > 0) return event;
await kintone.api('/k/v1/record', 'POST', {
app: REPAIR_APP,
record: { [CODE]: { value: code }, 退去日: { value: leave } },
});
return event;
});
})();
30行ほどです。すでに作ってあれば作らない判定を必ず入れてください。これがないと、保存し直すたびにレコードが増えます。edit.submit.success は保存が終わってから動くので、ここで失敗しても保存自体は成功している点にも注意が必要です(→13章 JavaScript・API・外部連携)。自動化まではやらない場合でも、物件台帳の関連レコード一覧に修繕履歴を出しておけば、部屋を開けば過去にいくらで何を直したかが並びます(→不動産の物件管理をkintoneで作る方法)。
工事明細と見積合計
原状回復の見積は、サブテーブルで持ちます。
| 列 | 型 | 設定 |
|---|---|---|
| No | 数値 | テーブル行番号で自動 |
| 工事項目 | 文字列1行 | クロス張替え・ハウスクリーニングなど |
| 数量 | 数値 | ー |
| 単価 | 数値 | ー |
| 金額 | 計算 | 数量*単価 |
| 見積合計 | 計算(テーブル外) | SUM(金額) |

行番号は、行を途中で削除したり並べ替えたりすると手では振り直せません。プラグインに任せると常に 1, 2, 3… に保たれます(→kintoneのサブテーブルに行番号を振る方法)。
工事項目の言葉をそろえる
「クロス張替え」「壁紙交換」が混ざると、過去の金額と比べられません。工事項目はドロップダウンにして、選択肢を会社で決めてください。業者が違っても同じ言葉で並ぶようにしておくと、単価の比較ができるようになります。
ここは建設業の原価管理でも同じ話です(→建設業の原価管理をkintoneで作る方法)。
見積が確定したら触れなくする
業者と金額が決まったあとに明細を直されると、請求と合わなくなります。状況フィールドを持ち、「確定」にしたら明細と見積合計を編集できなくする設定が条件付き入力禁止でできます。
オーナー報告をどう出すか
管理会社の仕事は、オーナーに報告するところまでです。kintoneで出せるものと、出せないものを分けておきます。
| 出したいもの | 出し方 |
|---|---|
| 物件ごとの入居状況 | 物件台帳を「物件名で絞り込んだ一覧」で表示。印刷用の表示にしてPDF保存 |
| 今月の修繕費の合計 | 原状回復アプリのグラフ(集計)で、物件名ごとに見積合計を合計 |
| 契約更新の予定 | 契約アプリの一覧に「契約終了日が90日以内」の条件を保存しておく |
| オーナー本人に直接見せたい | ゲストスペースに招く(人数分のライセンス・権限設計が要る) |
| 送金明細・入出金の帳票 | kintoneの標準機能だけでは作れない。CSVで出して会計側で作る |
オーナーをkintoneに招くかどうかは、慎重に決めてください。 見せられる範囲を作るには、アプリ単位・レコード単位・フィールド単位の権限を設計する必要があります(→kintoneの権限設計)。最初は「PDFを出して送る」で回し、要望が固まってから招く形をおすすめします。
正直に言っておく限界
| 限界 | どうするか |
|---|---|
| 家賃の入金消込は標準にない | 銀行明細のCSVを取り込み、契約番号で突き合わせる仕組みを別に作る。まずは会計ソフト側で行う |
| 期限が近いことのメール通知は標準にない | 一覧の絞り込みを毎朝開く運用から始める。自動通知は運用が固まってから |
| 残日数は保存時の値で、毎日は更新されない | 絞り込みと並べ替えには期限の日付を使う |
| 通知日数・更新料の条件は契約ごとに違う | 数値フィールドで契約ごとに持つ。アプリの設定に埋め込まない |
| 無料プラグインはパソコンの画面のみ対応 | 現地での記録はkintoneのモバイルアプリで。計算・チェックは事務所のPCで |
進め方と費用
初回30分で業務を聞き、その場で画面の形を出します。そこから1〜4週目で構築し、動くアプリを現場の声で直します。ここまでが0円です(1業務1アプリまで、最大1か月)。1ヶ月後に使うか使わないかを決めていただき、使うと決めた場合だけ月額5万円から(最低12ヶ月)で改善と追加を続けます。
kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。使い続けるといくらかかるかは2章 費用の全体像にまとめています。
まとめ
- 契約・入居・原状回復は別アプリにする。更新で契約は増え、入居は続く
- 契約番号は自動採番で年度ごとの連番に
- 更新期限は期限・残日数で色を付ける。絞り込みは残日数ではなく期限の日付で
- 解約通知の日数を30日で決め打ちにしない。契約ごとに数値で持つ
- 退去日が入ったら原状回復のレコードを作る。自動化するなら重複作成の判定を必ず入れる
- 工事明細はサブテーブル+計算フィールド。工事項目はドロップダウンで言葉をそろえる
- 契約条項の解釈に関わる判断は専門家に確認する
→ 不動産会社のkintone(実際の画面つき) → 不動産の物件管理をkintoneで作る方法 → 不動産の反響・追客管理をkintoneで作る方法 → 建設業の原価管理をkintoneで作る方法 → 不動産業のDX(全体の考え方) → kintone導入支援の詳細 → kintone無料プラグイン一覧
よくある質問
kintoneで賃貸管理システムを自作できますか
できます。契約・入居(賃貸管理)・原状回復の3アプリを作り、契約番号と物件コードでつなぐ形になります。家賃の入金消込や送金明細の作成まで含めると専用ソフトの領域になりますが、契約期限の管理・入居者情報・退去から原状回復までの流れは自作で十分回ります。
契約更新の期限を自動で知らせられますか
期限までの残日数を自動で入れ、一覧で期限切れ・期限間近に色を付けるところまでは無料プラグインでできます。メールやチャットへの自動通知は標準にはないため、「更新が近い契約」の一覧を毎朝開く運用にするか、kintoneの通知設定・外部連携を組み合わせます。
解約通知の期限はどう計算しますか
見本では、退去(予定)日から30日前を自動で入れています。ただし何日前の通知が必要かは契約書の条項によって違い、通知を受けた日から起算する契約もあります。日数はアプリ側に固定せず、契約ごとに持てるようにしておくほうが安全です。
原状回復の工事明細と合計は作れますか
作れます。サブテーブルに工事項目・数量・単価を持ち、金額は計算フィールド(数量×単価)、見積合計はSUM関数で出します。行番号は無料プラグインで自動的に振れます。
作るのにいくらかかりますか
構築は1業務1アプリまで最大1か月0円です。使うと決めていただいた場合だけ、月額5万円から(最低12ヶ月)で改善と追加を続けます。kintoneのライセンス料(スタンダードコース 1ユーザー月1,800円・税抜/最小10ユーザー)は別途、サイボウズ社とのご契約です。


