道路や河川のパトロール、災害時の被害報告、公共施設の点検、不法投棄や鳥獣被害の確認。庁舎の外に出て、見て、戻ってから報告書を作る業務は、どの自治体にもあります。
この記事は、この形の業務を「現場で記録する」形に変えるときに、何を決めるかを書いたものです。庁内の机の上で完結する業務とは、決めることが違います。
消えるのは、見る作業ではなく「戻ってから作る」工程
現場を見る時間は減りません。減るのはその後です。
| 工程 | 現場で記録しない場合 | 現場で記録する場合 |
|---|---|---|
| 現場を見る | 同じ | 同じ |
| 記録する | 手帳・野帳にメモ、カメラで撮影 | その場で入力。写真も同時 |
| 戻ってから報告書を作る | メモと写真を突き合わせて清書する | 不要 |
| 台帳に転記する | Excelの一覧に打ち直す | 不要 |
| 対応を依頼する | 別に文書を作る | 記録に担当を付けるだけ |
3行目と4行目が丸ごと消えます。 ここが、自治体DXの教科書 2章で拾う4つの印のうち「二重入力」と「突き合わせ」にあたる部分です。
現場に出る業務は、戻ってきた時点で他の仕事が溜まっているので、報告書の作成が後回しになります。後回しになった記録は、記憶が薄れた状態で書かれるか、そのまま書かれません。現場で記録が終わっていれば、この問題ごと消えます。
まず、庁外の端末から使えるかを確認する
作り始める前です。ここを確認せずに進めると、完成してから使えないことが分かります。
自治体のネットワークは区分が分かれており、庁外の端末からどの経路で入るかは、団体ごとに違います。 使う端末(職員の業務用スマートフォン、タブレット、貸与品)と、その端末がどの区分に属しているかも確認が要ります。
| 確認する相手 | 聞くこと |
|---|---|
| 情報政策担当 | 庁外の端末から使う場合の手続き。どの経路が認められるか |
| 情報政策担当 | 手続きにどれだけ日数がかかるか |
| 所管課 | 現場に持ち出す端末が、いま何台あるか |
4つの問いの立て方は自治体DXの教科書 5章 情報セキュリティポリシーと三層分離にあります。この記事では適否の判断を書きません。 確認した日付と相手の氏名を残しておいてください。
2行目を忘れないでください。手続きにかかる日数が、工程の律速になります。
入力は、圏外と片手を前提にする
山間部、離島、地下、大規模な施設の奥。現場は、電波が届かないことがあります。
当社は島根県の離島に常駐して業務改善を行っていた会社です。圏外は例外ではなく、日常です。 そのうえで言えるのは、圏外でも入力できる仕組みを作ろうとするより、圏内に戻ってから3分で終わる形にするほうが続くということです。
| やり方 | 現実性 |
|---|---|
| 圏外でも入力できるようにする | 仕組みが複雑になり、直せる職員がいなくなる |
| 現場では写真を撮る。圏内で入力する | 確実。写真に日時が残るので順番は再現できる |
| 紙の野帳を併用する | 二重入力が戻る。移行期だけにする |
2行目にするなら、入力が3分で終わる形になっていることが条件です。戻ってから10分かかる入力は、結局後回しになります。
そのための条件がもうひとつあります。立ったまま、片手で、手袋をしたまま入力できること。 現場で入れる項目を、この数に絞ります。
| 現場で入れるもの | 形 |
|---|---|
| 日付・時刻 | 自動で入る |
| 場所 | 路線名・施設名を選択肢から。補足だけ自由記述 |
| 区分 | 舗装のひび/落下物/倒木/設備の不具合 など選択肢 |
| 状態 | 至急/要対応/経過観察 の3つ程度 |
| 写真 | 1〜3枚 |
| 自由記述 | 1つまで |
戻ってから足すものは別に分けます。対応の方針、依頼先、費用の見込み、完了の記録。現場の項目と、事務所の項目を同じ画面に並べないでください。 並べると、現場で空欄が大量に残り、後から誰が埋めるのか分からなくなります。
選択肢をどう縛るか、必須をどこに付けるかはkintoneの教科書 7章 入力チェックにあります。現場で入れる項目には、必須を最小限にしてください。 必須が多いと、電波が不安定な場所で保存できず、入力そのものが捨てられます。
地図の上に表示したい、という要望はよく出ます。最初からは作らないでください。 kintoneで地図を扱うにはプラグインが要ります。入れる前の判断は12章 プラグインの選び方を見てください。まずは路線名や施設名の選択肢で足ります。
写真は「撮る枚数」ではなく「後で見つかるか」で決める
現場記録のアプリで、1年後に困るのは写真です。
- どの記録の写真か分からない写真が、端末に大量に残る
- 同じ場所を撮った写真が、いつのものか分からない
- 容量が大きく、一覧を開くのが遅い
決めることは3つです。
| 決めること | 決め方 |
|---|---|
| 1件あたりの枚数の上限 | 3枚程度。全景・近景・銘板や標識 |
| 撮る順番 | 決めておく。順番が決まっていれば、後から見る人が迷わない |
| 端末に残った写真をどうするか | 入力後に端末から消すのか、残すのか。個人情報が写り込む場合は特に先に決める |
3行目は、個人情報の事故が起きやすい場所です。現場の写真には、通行人や車のナンバー、表札が写り込みます。端末に残ったまま、その端末が別の用途に回ることがあります。扱いを所管課と個人情報保護の担当に確認してください(自治体DXの教科書 6章の事故が起きやすい6か所)。
見つけた人と、直す人は別の課
ここが、現場記録の設計でいちばん抜けるところです。記録を取る課と、対応する課は違います。
道路のひび割れを見つけるのは巡回している職員ですが、補修を発注するのは別の担当です。記録を取っただけでは、何も直りません。
| 決めること | 中身 |
|---|---|
| 誰に渡すか | 区分ごとの受け先。「倒木は◯◯課」まで具体的に |
| どうやって気づくか | 通知か、一覧を見る運用か。通知を全件に出さない |
| 対応中・完了をどう表すか | 状態の項目で表す。5つ以内 |
| 完了の確認 | 完了の写真を撮るか。誰が確認するか |
| 対応しないと決めたもの | 「対応不要」も記録として残す。 消さない |
5行目を必ず入れてください。対応しないと判断したものを削除すると、同じ場所が何度も報告されます。 判断した記録が残っていれば、次に見た職員がそれを見て通り過ぎられます。
状態の数え方と、通知を増やしすぎたときに起きることはkintoneの教科書 9章 プロセス管理と通知の設計にあります。
災害のときは、平時に使っているものしか使えない
被害報告を目的に作る場合の、いちばん大事な話です。
災害の当日に、初めて使う仕組みは使われません。 通信が不安定で、担当が交代し、普段と違う職員が現場に出ている状況で、覚えていない操作はできません。
| 決めること | なぜ |
|---|---|
| 平時に同じ仕組みを使っておく | 日常のパトロールと同じ画面にする。災害用に別のものを作らない |
| 記録が取れなかった場合の代替を書いておく | 紙の様式を1枚、印刷して備えておく |
| 誰が集約するかを先に決めておく | 当日に決めると決まらない |
1行目が本体です。 日常の点検やパトロールで毎月触っている仕組みなら、災害時も同じ手が動きます。災害対応専用に作ったものは、たいてい最初の1回で使われません。
1年分たまると、予算要求の材料になる
記録が溜まると、件数・場所・区分・対応にかかった時間が数えられます。
これは次年度の予算要求でそのまま使えます。「補修が必要な箇所が年間◯件あり、そのうち◯件が未対応」という数字は、体感で語るより通ります。要求書の書き方は自治体DXの教科書 3章 予算の取り方にあります。
ただし、数えられるのは記録を取っていた分だけです。 記録を取り始めた初年度の数字は、実態より少なく出ます。増えたのは件数ではなく、記録された件数だということを、説明に一言添えてください。ここを省くと、「去年より倍に増えた」という誤解が独り歩きします。
当社が自治体の業務をkintoneで構築する場合は1業務30万円(税込33万円)、3業務パックで75万円です(自治体向けkintone構築)。現場記録は、扱う個人情報が軽く、複数の課で同じ形が使えるため、庁内の1件目としても向いています。
まとめ
- 消えるのは現場を見る時間ではなく、戻ってから報告書を作る工程
- 作る前に、庁外の端末から使う経路と手続きの日数を情報政策担当に確認する
- 圏外で入力できる仕組みを作らない。現場は写真、入力は圏内に戻ってから3分で
- 現場の項目は5つ程度。自由記述は1つまで。必須を最小限に
- 写真は枚数・順番・端末に残ったものの扱いを先に決める。写り込みに注意する
- 見つけた人と直す人は別。受け先と状態を決め、「対応不要」も記録に残す
- 災害時に使うなら、平時の業務で同じ仕組みを毎月触っておく
→ 自治体向けkintone構築(1業務30万円から) → 自治体DXの教科書 5章 情報セキュリティポリシーと三層分離 → kintoneの教科書 7章 入力チェック|標準機能でできること → 地方創生におけるデジタル活用事例 → 自治体の施設予約・貸出管理をkintoneで作る → 地域活性化起業人の受け入れ支援(庁内に人ごと置く形)
よくある質問
現場でスマートフォンから入力する仕組みは、自治体でも使えますか
使えるかどうかは、庁外のどの端末から、どのネットワーク経由で入るかによります。自治体のネットワークは区分が分かれており、庁外の端末から入る経路の扱いは団体ごとに違います。作る前に情報政策担当に確認してください。作ってから確認すると、その経路では使えないという結論が出ることがあります。
山間部や離島で電波が届かない場所があります。どうすればいいですか
圏外で入力できない前提で設計してください。現場では写真を撮り、圏内に戻ってから写真と一緒に入力する流れにします。撮影した写真には日時が記録されるので、後から並べれば順番は再現できます。圏外での入力を成立させようとして仕組みを複雑にするより、戻ってから3分で入力が終わる形にするほうが続きます。
現場で入力する項目は、いくつくらいが限界ですか
立ったまま片手で終わる数です。日付・場所・区分・状態・写真の5つ程度に絞り、それ以外は戻ってから足す形にしてください。現場で書ける量には限りがあるので、項目を増やすと記録そのものが取られなくなります。自由記述は1つまでにしてください。


