CHAPTER 03
自治体DXの予算の取り方|当初・補正・繰越
この章で分かること
- 財布は4つ。それぞれ、いつまでに何を出すと間に合うか
- 予算要求で通る書き方(5行)と、金額の根拠の作り方
- 年度の途中から始める3つの道と、年度末にやってはいけないこと
この章の目次(10)
- 1財布は4つ
- 2年度の暦:いつ何が起きるか
- 3予算要求で通る書き方(5行)
- 4金額の根拠をどう作るか
- 5年度の途中から始める3つの道
- 6年度末に起きること
- 7国・県の財源を当てにするときの注意
- 8単年度で終わらせないための書き方
- 9よくある間違いを5つ
- 10この章の出口
自治体で使える財布は4つしかありません。当初予算・補正予算・既定予算の中でのやりくり・国や県の補助金です。 どれを狙うかで、動き出す時期が半年から1年変わります。「予算がないからできない」の多くは、要求の時期を逃しただけです。 この章は、4つの財布の使い分けと、要求書に書く5行を決めるための章です。
この章で分かること
- 財布は4つ。それぞれ、いつまでに何を出すと間に合うか
- 予算要求で通る書き方(5行)と、金額の根拠の作り方
- 年度の途中から始める3つの道と、年度末にやってはいけないこと
この章は制度の解説ではありません。 予算の編成の時期・様式・区分・限度額は、団体ごとに違い、毎年変わります。書いてあるのは確認する場所と、確認するときの問いです。数字はすべて自庁の財政担当と財務規則で確かめてください。
財布は4つ
| 財布 | 何か | 動き出せる時期 | 向いている案件 |
|---|---|---|---|
| 当初予算 | 年度の最初から積んである予算 | 次年度の4月から | 年間を通して使うもの。ライセンス、保守、複数業務の構築 |
| 補正予算 | 年度の途中で議会の議決を経て積む予算 | 議決後(年度内) | 年度途中に必要が生じたもの。国の補正や交付金に合わせるもの |
| 既定予算のやりくり | すでにある予算の中で組み替える | すぐ(財政担当の判断が要る) | 少額で、既存の科目に収まるもの |
| 国・県の補助金/交付金 | 事業に紐づく財源 | 募集の時期による | 補助の要件に合う事業。要件に合わせて中身が歪むことがある |
この表は、案件の性質から引いてください。年間を通して使い続けるものは1行目、年度の途中で必要が生じたものは2行目、既存の枠に収まる小さなものは3行目です。4行目は、事業の形が先に決まっている場合にだけ当たります。逆に、使えそうな財布のほうから案件を作ると、庁内で使われないものが残ります。
どれに当たるか判断が付かないときは、財政担当に「この内容だと、どの財布で考えることになりますか」と聞いてください。これは制度の解釈ではなく自庁の運用の話なので、その場で答えが出ます。
最初に見るのは4つめではなく3つめです。 補助金を探し始めると、要件に合わせて事業を作ることになり、本来やりたかった業務からずれます。当社が自治体に提案するときも、まず「既存の枠に収まる金額に切れないか」から見ます。
年度の暦:いつ何が起きるか
時期は団体ごとに違います。 自庁の暦を1枚に書き出してください。聞く相手は財政担当、聞く言葉は「次年度の予算要求の締切はいつですか」「要求の様式をもらえますか」の2つで足ります。
一般的な流れは次のようになっています。
| おおよその時期 | 庁内で起きていること | DX担当がやること |
|---|---|---|
| 前年の初夏 | 次年度の予算編成方針が示される | やりたいことを言葉にしておく。2章の1枚の表がここで効く |
| 前年の夏〜秋 | 各課が予算要求を出す | 要求書に載せる。ここを逃すと1年待ち |
| 前年の秋〜冬 | 財政担当の査定・ヒアリング | 質問に答える。削られる理由を先に潰す |
| 年度末の議会 | 予算の議決 | 議決されて初めて執行できる |
| 年度の始め | 執行開始。契約手続き | 4月にすぐ動けるよう、仕様書は前年度中に下書きする |
| 年度の途中 | 補正のタイミングが数回ある | 足りない分・新たに必要な分をここで拾う |
| 年度末 | 検収・支払い | 年度内に終わらせる。これが工程を縛る |
この暦は、眺めるためではなく、自分の手帳に落とすための表です。行のうち、DX担当が能動的に動くのは上から2行だけで、あとは決まった手続きが進みます。逆に言えば、上2行の時期に何も出していなければ、その年度は何も起きません。1年のうち動ける窓が数か月しかない、と考えておくのが実態に近いです。
当社が自治体に「次年度予算に載せるなら前年の6月から8月です」と案内しているのは、この暦の最初の2行にあたるからです。逆に言えば、それ以外の時期に相談を受けたときは、当初予算ではなく年度内の道を一緒に探します。
予算要求で通る書き方(5行)
要求書の様式は団体ごとに違いますが、財政担当が見ているものは似ています。 次の5行が埋まっていれば、少なくとも「よく分からないので削る」は避けられます。
| 行 | 書くこと | 悪い例 | 良い例 |
|---|---|---|---|
| 1 | どの課の、どの業務か | 全庁のDX推進 | ◯◯課の定期健診の受付事務 |
| 2 | 今どうなっているか | 業務が非効率 | 電話で受けたメモとExcelの名簿を毎日突き合わせている |
| 3 | 何がなくなるか | 業務を効率化する | 突き合わせの作業がなくなる/案内の作成が一括出力になる |
| 4 | いくらか、その根拠は何か | 一式 | 1業務あたり◯円(見積◯社)。内訳は構築・操作説明 |
| 5 | なぜ今年度でなければならないか | 早期の対応が必要 | 施設の開設に合わせる/制度改正に間に合わせる/担当の異動前に引き継ぎを終える |
5行は、順番どおりに埋めてください。1行目が決まらないまま4行目の金額を考え始めると、金額に合わせて業務の範囲が動きます。範囲が動くと、2行目と3行目が書けなくなります。書けない要求書は、査定する側から見ると「何が良くなるのか分からない支出」になります。
2行目と3行目が、この本の主張です。 1章で書いたとおり、効果は削減時間で語らなくて構いません。「何と何を突き合わせていたか」「それが要らなくなる」で書けば、議会にも決算審査にも通ります。
5行目(なぜ今年度か)が空欄のままだと、査定で最初に後ろ倒しされます。理由は無理に作るものではありません。無ければ、来年度に回すのが正解です。
金額の根拠をどう作るか
「一式」で出すと必ず聞かれます。根拠の作り方は3つです。
| 作り方 | 使う場面 | 注意 |
|---|---|---|
| 参考見積を取る | 相場が分からない段階 | 見積を取った相手が、そのまま契約相手になるとは限らない。仕様を固めるためのものと割り切る |
| 他団体の実績を聞く | 同規模の団体がやっている場合 | 契約金額は公表されていることが多い。公表資料を探す |
| 単価×数量に割る | 業務が複数ある場合 | 1業務いくら、研修1回いくら、の形にすると比較できる |
当社が自治体向けに1業務30万円(税込33万円)/3業務75万円(1業務あたり25万円)/職員研修60万円(3か月・4名まで)という切り方をしているのは、3つめの理由からです。金額を業務の数で割ると、予算の枠に合わせて発注の単位を選べます。 枠が小さい年は1業務、付いた年は3業務、という調整ができます。
税込の金額で考えてください。 契約の限度額は税込で判断されることが多く、30万円のつもりが33万円で枠を超える、という事故が起きます。限度額は団体区分と契約種別で異なるため、自庁の財務規則を必ず確認してください(4章)。
年度の途中から始める3つの道
「今年度はもう予算がない」と言われたときに残る道は3つです。
| 道 | 動き方 | 現実的な条件 |
|---|---|---|
| 1. 既定予算の中でやりくりする | 既存の需用費・委託料などの枠に収まる金額にする | 金額を枠に合わせて切る。財政担当に先に相談する |
| 2. 補正予算に載せる | 年度途中の議会に出す | 議会の日程から逆算する。議決前に契約しない |
| 3. 少額随意契約で発注する | 財務規則の限度額内で契約する | 限度額の確認が先。分割発注にならない形にする(4章) |
3つのうちどれを狙うかで迷ったら、1から順に当たってください。1が最も速く、関係する人が少なく、外れても失うものがありません。2は議会の日程に縛られるので、時期によっては当初予算を待つのと変わらない結果になります。3は限度額の確認が前提なので、財務規則を読む時間を工程に入れる必要があります。
当社が「1業務30万円」という単位を持っているのは、1と3の道を残すためです。HPにも「多くの市町村で少額随意契約の限度額内に収まります」と書いていますが、これは「収まる」と断定しているのではありません。 団体区分と契約種別で限度額が違うため、必ず自庁の財務規則を見てください。
やってはいけないのは、限度額を超える発注を意図的に分割することです。 4章で扱いますが、これは監査で最初に見られる場所です。1業務ずつ発注するのは、業務ごとに成果物が独立していて、それぞれ単独で使えるからです。1つの仕事を金額のために割るのとは別物です。
年度末に起きること
年度末には、全庁の契約が3月に集中します。 検収も支払いも同じ時期に来るため、次のことが起きます。
| 起きること | 対策 |
|---|---|
| 契約担当・財政担当が動けない | 3月に新規の相談を持ち込まない |
| 検収が形式的になる | 検収の基準を契約時に決めておく(4章) |
| 現場が忙しく、触ってもらえない | 3月納期の構築案件を作らない。2月までに使い始める |
| 支払いが年度内に終わらない | 支払いまでの日数を逆算して納期を決める |
当社の決めごととして、自治体案件は「3月に納品して終わり」の形にしません。 動くものを早い段階で渡し、触ってもらいながら直します(1業務あたり1か月)。理由は単純で、3月に納品したものは、現場が触るのが4月以降になり、そのときには担当が変わっている可能性があるからです。
年度をまたぐ必要がある場合は、繰越(明許繰越など)や債務負担行為といった仕組みがあります。 ただし要件と手続きは団体と案件で違うので、「この事業は年度内に終わらない可能性がある。繰越か債務負担行為のどちらかに当たるか」を財政担当に早い段階で聞いてください。 年度末に相談すると間に合いません。
国・県の財源を当てにするときの注意
補助金・交付金は、金額が大きい代わりに、事業の形を規定します。
確認するのは次の4つです。
| 確認すること | 確認するときの問い |
|---|---|
| 募集の時期 | いつ公表され、いつ締め切られるか。次の回はいつか |
| 補助の対象 | 構築費は対象か。ライセンス料・保守は対象か。人件費は対象か |
| 年度の縛り | 単年度で完了する必要があるか。繰越は認められるか |
| 終了後の扱い | 補助で作ったものを、補助期間後も維持する義務があるか |
探す言葉:総務省・デジタル庁・所管省庁の「公募」「募集要領」「交付要綱」、県の市町村支援の担当課。 制度名と金額は毎年変わります。 記事や本に書かれた制度名で探すのではなく、所管省庁のページで今年度の要領を直接見てください。
外部人材に関する財源(地域活性化起業人の特別交付税措置など)は、仕組みが他と違うため11章で扱います。制度の要件と支援の上限は、総務省の「地域活性化起業人」のページで最新を確認してください。
もう1つ、補助金で作ったものには財産の処分の制限が付くことがあります。当社が神奈川県藤沢市でお手伝いした市営住宅の空き住戸の利活用でも、補助で整備された財産を本来の目的以外で使うために、国の承認を得る手続きが工程に入っていました。「補助で作ったものを、後から別の使い方をしてよいか」は、必ず所管課と財政担当に確認する事項です。 この本は法的な判断をしません。確認先を書くところまでです。
単年度で終わらせないための書き方
DXは1年で終わりません。当初予算の要求の段階で、翌年度以降にかかる費用を並べておきます。
| 費目 | 初年度 | 次年度以降 |
|---|---|---|
| 構築 | 掛かる | 追加分だけ |
| ライセンス・利用料 | 掛かる | 毎年掛かる(ここを忘れると翌年止まる) |
| 保守・改修 | 契約による | 毎年見込む |
| 研修 | 掛かる | 異動のたびに掛かる(9章) |
初年度の構築費だけを要求して通した案件は、2年目に止まります。 クラウドサービスの利用料は毎年発生し、職員は毎年入れ替わります。要求書の欄外でよいので、「次年度以降、年◯円程度の継続費用が見込まれる」と書いておいてください。査定で削られるより、翌年に説明できないほうが痛いからです。
よくある間違いを5つ
「予算がないからできない、で止まる」 ——止まっているのは予算ではなく、要求の時期を逃したことです。直し方:財政担当に「次年度の要求の締切はいつか」を聞く。同時に、既定予算・補正・少額随意契約の3つの道を当たる。
「一式で要求する」 ——査定で最初に削られます。中身が分からない支出は説明できないからです。直し方:単価×数量に割る。1業務いくら、研修1回いくら。参考見積を取って内訳を作る。
「補助金を探すところから始める」 ——要件に合わせて事業を作ることになり、本来やりたかった業務からずれます。作ったものが庁内で使われない原因になります。直し方:やる業務を先に決める(2章)。財源はその後に当てる。
「初年度の構築費だけを要求する」 ——ライセンス料と研修費が翌年度に載っておらず、2年目に止まります。直し方:要求の段階で次年度以降の継続費用を並べる。金額が未定でも「継続費用が発生する」と書く。
「3月納期で契約する」 ——検収が形式的になり、現場が触るのは4月以降。そのときには担当が変わっています。直し方:2月までに使い始める工程にする。動くものを早く渡し、触ってもらいながら直す。
この章の出口
この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。
- 自庁の予算の暦(要求の締切・査定・議決・執行の時期)
- 要求書の5行(どの業務・今の状態・なくなる作業・金額と根拠・なぜ今年度か)
- 12項目の○×(必須3項目がすべて○)
お金の目処は立ちました。次は、そのお金をどの契約方式で使うかです。随意契約か、プロポーザルか、入札か。ここを間違えると、予算が付いていても発注できません。仕様書に何を書くかも、ここで決まります。
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:予算と年度の段取り(12項目)
要求書を出す前、または年度途中の発注を決める前に通します。
| # | チェック項目 | 合格ライン |
|---|---|---|
| 1 | 自庁の予算編成の暦を書き出した | 要求の締切・査定・議決の時期が書いてある |
| 2 | 財政担当に直接確認した | 伝聞ではない。確認した日付と相手がある |
| 3 | 4つの財布のどれを使うか決めた | 当初/補正/既定予算/補助金のいずれか |
| 4 | 要求書の5行が埋まっている | どの業務・今の状態・なくなる作業・金額と根拠・なぜ今年度か |
| 5 | 金額に根拠がある | 参考見積/他団体の実績/単価×数量のいずれか |
| 6 | 税込の金額で判断している | 契約の限度額を税込で確認した |
| 7 | 自庁の財務規則で限度額を確認した | 団体区分・契約種別ごとの限度額を見た |
| 8 | 分割発注になっていない | 業務ごとに成果物が独立している(4章) |
| 9 | 次年度以降の継続費用を並べた | ライセンス・保守・研修が書いてある |
| 10 | 年度内に検収・支払いが終わる工程になっている | 3月納期になっていない |
| 11 | 年度をまたぐ可能性を財政担当に相談した | 繰越・債務負担行為の要否を聞いた |
| 12 | 補助金を使う場合、終了後の扱いを確認した | 維持の義務・財産の処分の制限を確認した |
合格ライン=12項目中10以上。ただし 4・6・9 のどれかが×なら要求書を出さない。
- 4が×:査定で削られます。特に「なぜ今年度か」が空欄の要求は、後ろ倒しの筆頭になります
- 6が×:30万円のつもりが税込で枠を超え、契約方式ごとやり直しになります
- 9が×:初年度は通っても2年目に止まります。この本で最も多い止まり方です
12は補助金を使わない場合、対象外として構いません。
更新日 2018年10月20日
