株式会社COTSUBU

CHAPTER 02

自治体DXは何から始めるか|業務の棚卸し

この章で分かること

  • 棚卸しでやる範囲とやらない範囲(全業務を並べないための線)
  • 最初の1業務を選ぶ点数表(6軸・12点満点)と、やめておく業務5つ
  • 予算年度・人事異動・議会という3つの時計が、選べる業務と着手できる時期をどう変えるか
この章の目次(10)
  1. 1棚卸しは「全部」をやらない
  2. 2拾う言葉は4つ
  3. 31課30分。書き留めるのは6列
  4. 4最初の1業務を選ぶ点数表(6軸・12点満点)
  5. 5効果の大きさではなく「隣の課から見えるか」で選ぶ
  6. 6庁内には、動かせない時計が3つある
  7. 7やめておく業務5つ
  8. 8棚卸しの結果をどう残すか
  9. 9よくある間違いを5つ
  10. 10この章の出口

庁内業務の棚卸しは、全業務を並べる作業ではありません。 全部並べた一覧は、作るのに半年かかり、誰も見返しません。 拾うのは4つの印(紙・二重入力・突き合わせ・探す)が付く業務だけで、1課あたり30分で足ります。 そして最初の1業務は、効果の大きさではなく「隣の課から見えるか」で選びます。

この章で分かること

  • 棚卸しでやる範囲とやらない範囲(全業務を並べないための線)
  • 最初の1業務を選ぶ点数表(6軸・12点満点)と、やめておく業務5つ
  • 予算年度・人事異動・議会という3つの時計が、選べる業務と着手できる時期をどう変えるか

棚卸しは「全部」をやらない

自治体の業務は、法定受託事務から窓口対応まで膨大にあります。全部を対象にした瞬間に、棚卸しが目的になります。

当社が庁内の棚卸しに入るときに引く線は、次のとおりです。

やる やらない
職員が自分の手で作業しているもの 基幹システムの中で完結しているもの
紙・Excel・メール・電話で回っているもの 専用システムの計算そのもの(税・会計・給与の計算)
同じ情報を2か所以上に入れているもの 法令で様式と経路が固定されていて、変えようがないもの
年に何度も繰り返すもの 数年に1度しか発生しないもの

「やらない」に入れたものは、永久に対象外という意味ではありません。 最初の1周では触らない、という意味です。1件目が動いて庁内の信用ができてから戻ってきます。

なお、棚卸しの一般的な進め方はこの本では繰り返しません。 対象の切り方(部門ではなく「流れ」で切る理由、1本に絞る3基準、対象の宣言書)は業務改善の教科書2章、書き出しの粒度と聞き取りの質問の型は同3章、kintoneで作る前提での最初の1業務の選び方はkintoneの教科書4章にあります。この章で扱うのは、自治体でしか効かない軸だけです。

拾う言葉は4つ

職員に「困っている業務はありますか」と聞いても、ほとんど出てきません。困っていることが日常になっているからです。出てくるのは、次の4つの言葉を具体的に聞いたときです。

拾う言葉 具体的な聞き方 海士町・名張市で実際に出てきたもの
紙 「紙で回しているものはありますか」 決裁の回覧、申請書、日誌
二重入力 「同じことを2回入力している場所はありますか」 電話メモとExcelの名簿、紙の台帳とExcel
突き合わせ 「2つを見比べる作業はありますか」 電話で受けた受付メモと健診の対象者名簿
探す 「どこにあるか探す時間はありますか」 決裁が今どこにあるか、過去の入札案件の前例

海士町で一番効いたのは、「突き合わせ」で拾った定期健診の対象者管理でした。電話で受け付けたメモとExcelの名簿が別々にあり、毎日突き合わせが発生していた。1つのアプリに統合したら、突き合わせが消えました。

「探す」で拾ったのが電子決裁と入札関連情報の一元管理です。紙の回覧の問題は、遅いことではなく、どこで止まっているか分からないことでした。入札は、新しい案件のたびに「前はどうしたか」を探すところから始まり、担当が変わるとその記憶ごと消えていました。

この4つ以外の言葉で出てきた要望は、いったん保留にします。 「新しいシステムが欲しい」「AIを使いたい」から始まった話は、対象の業務が特定されていないため、そのままでは点数が付きません。

1課30分。書き留めるのは6列

棚卸しは会議室でやらないでください。その課の席に行って、実物(紙・Excel)を見せてもらいます。 聞き取りの質問の型と、書かれにくい業務の引き出し方は業務改善の教科書3章にあります。自治体版で足すのは、書き留める表の1列だけです。

書き留めるのは6列。これ以上増やすと埋まりません。

列 書くこと 例
業務名 現場が呼んでいる名前 定期健診の受付
所管課 課名・担当者名 健康福祉課・◯◯
件数 年間・月間のおおよそ 年◯件
今の道具 紙/Excel/メール/電話/システム名 電話メモ+Excel
二重になっている場所 どことどこ 受付メモと対象者名簿
扱う個人情報 無し/氏名・連絡先/機微なもの 健診結果を含む

「扱う個人情報」の列を最初から持つのが、自治体版の棚卸しの肝です。 ここが後から効いてきます(5章・6章)。

最初の1業務を選ぶ点数表(6軸・12点満点)

棚卸しで20件、30件と挙がります。全部やろうとすると、どれも半端に終わります。 1件に絞るための点数表です。軸は当社の決めごとです。

軸 0点 1点 2点
1. 所管課の意思 言われたからやる 困ってはいる その課から相談が来た
2. 突き合わせ・転記の量 ほぼ無い 週に数回 毎日発生している
3. 個人情報の軽さ 要配慮個人情報を含む 氏名・連絡先を含む 個人情報をほぼ含まない
4. 庁内での見えやすさ その課で閉じる 2〜3課が関わる 多くの課が関わる/全庁が使う
5. 制度改正の少なさ 直近に改正が予定されている 数年ごとに変わる 当面変わらない
6. 年度をまたがないか 年度をまたぐ必要がある 一部またぐ 年度内で完結する

合計8点以上で着手。ただし軸1が0点なら着手しない。

軸1が0点、つまり「上から言われたからやる」業務は、作っても使われません。ここはまず例外がありません。予算より先に、所管課の意思を確認してください(1章の点検リスト2)。

軸3(個人情報の軽さ)を高く評価しているのは、最初の1件で止まるのを避けるためです。要配慮個人情報を含む業務は扱えないという意味ではありません。海士町の定期健診管理は健診情報を扱っています。ただし、閲覧権限を担当課に限定し、操作ログを残し、外部公開のビューを作らないという設計を先に行っています(6章)。1件目にこれをやると、設計と庁内調整が同時に走り、時間が読めなくなります。

軸4(庁内での見えやすさ)が、この本で最も重視する軸です。理由は次の節で書きます。

効果の大きさではなく「隣の課から見えるか」で選ぶ

民間なら、削減効果の大きい業務から着手します。自治体ではそれより先に、庁内に前例を1件作ることが効きます(1章の違い4)。

海士町で最初に作ったのは、全庁のシステムではなく健康福祉課の定期健診管理でした。担当者の負担が目に見えて減り、この1件が庁内の信用になりました。 以降、他の課からも相談が来るようになっています。

「見えやすさ」には2種類あります。

見え方 例 効き方
多くの課が使う業務 決裁、公用車、備品、研修受講 全庁の職員が触るので、存在が知られる
負担の重さが知られている業務 突き合わせが毎日ある、電話が鳴り続ける 「あの課が楽になった」が伝わる

どちらかに当てはまれば十分です。逆に、1つの課で閉じていて、負担も外から見えない業務を1件目にすると、うまく作っても2件目が来ません。

名張市で支援に入っている案件の並びも、この順で見ると読めます。子ども・若者の居場所の受付と来館者管理(施設の開設日が決まっており、期限がはっきりしている)、公用車の運行管理(多くの課が使う)、会計年度任用職員の勤務報告や時間外の集計(全庁に関わる)、そして地域包括支援センターの相談記録(個人情報を含むため、セキュリティ面に十分配慮しながら進める)。個人情報の重い業務は、庁内の実績が積み上がってから着手する順番になっています。

庁内には、動かせない時計が3つある

民間の棚卸しと最も違うのがここです。業務の中身が同じでも、予算年度・人事異動・議会という3つの時計のどこに当たるかで、1件目にできるかどうかが変わります。どれも業務の良し悪しとは無関係です。 それでも、ここを外すと点数の高い業務が止まります。

時計 何が決まってしまうか 棚卸しの側でやること
予算年度 使えるお金は、要求した年度の中だけ。年度をまたぐ契約には別の手続きが要る 着手順の表に財源の見込みの列を持つ。次年度に要求する分を、予算要求の締切までに特定する(3章)
人事異動 4月に担当が替わる。相談してきた職員が、着手のときにはいない 所管課の意思を、個人ではなく課として確認する。 1件目は異動をまたがない範囲に切る
議会 定例会の前後は、所管課が説明の準備に取られて動けない 聞き取り・検証・検収の日程を、会期を外して置く

年度と異動から出てくる、実務上の決めごと5つ

決めごと 理由
1件目は年度内で完結する範囲に切る(点数表の軸6) 年度をまたぐと、予算の手続きと担当の交代が同時に来る
棚卸しの終わりを、予算要求の締切から逆算して決める 間に合わないと、着手が1年先になる
着手そのものは、異動の直後(4〜5月)を避ける 新しい担当が業務を覚えている最中に、業務の作り替えを重ねない
相談の経緯を、個人のメールではなく課の文書に残す 「誰がなぜ始めたか」が消えると、担当が替わった時点で止まる
1件目の成果を、異動の前(2〜3月)に見える形にする 実績が庁内に残り、引き継ぐ相手にも渡せる

最後の行が、自治体では最も効きます。 「あの課が楽になった」という話は、人と一緒に異動して庁内に広がります。逆に、年度末までに形にならなかった1件目は、翌年度には誰の案件でもなくなっています。

やめておく業務5つ

点数に関係なく、1件目にしない業務です。

やめておくもの 理由 どうするか
法令で様式と経路が固定されている帳票 変えられない。作っても二重になるだけ 対象外にする。根拠を1行書いて残す
基幹システムの中で完結している業務 重複投資になる。監査で問われる 基幹の外に出ている部分だけを対象にする
要配慮個人情報が主役の業務 設計と庁内調整が同時に走る 2件目以降に回す(6章)
直近に制度改正が予定されている業務 作り直しになる。予算も二重にかかる 改正の内容が固まってから
全庁一斉に切り替える計画 現場が戻る。止めどころが無い 1つの課の1業務に割る

「全庁一斉」は、最も多い失敗の形です。 急に切り替えると現場は元に戻します。当社は、既存の文書管理システムなどと当面は二重で構わないという前提で進めます。使われる実績が積み上がってから、片方を落とします。二重管理の時期を工程に入れておくのが、自治体では現実的です。

棚卸しの結果をどう残すか

棚卸しの成果物は、着手順の付いた1枚の表です。分厚い報告書ではありません。

順 業務名 所管課 点数 個人情報 着手時期 財源の見込み
1 (最初の1業務) ◯◯課 10 無し 今年度内 少額随意契約
2 9 氏名・連絡先 次年度 当初予算に要求
3 8 要配慮を含む 次年度以降 未定

この表があると、次の3つが同時に片付きます。

  1. 議会・上長への説明(なぜこの業務からか、が点数で言える)
  2. 予算要求の材料(次年度に要求する分が特定できる。3章)
  3. 外部人材・委託の範囲(どこまで頼むかの線が引ける。7章・11章)

逆に言うと、この表が無いまま外部に相談すると、相手の得意な範囲に話が寄ります。 棚卸しは、発注する側が主導権を持つための作業でもあります。

よくある間違いを5つ

「全業務を洗い出してから着手する」 ——網羅的な業務一覧は、作るのに数ヶ月かかり、完成したころには担当が変わっています。直し方:4つの印(紙・二重入力・突き合わせ・探す)が付くものだけを拾う。1課30分。全課を回り終える前に、点数の高いものから着手してよい。

「困っていることはありますか、と聞く」 ——出てきません。日常になっているからです。直し方:「同じことを2回入力している場所はありますか」「2つを見比べる作業はありますか」と具体的に聞く。実物の紙とExcelを見せてもらう。

「効果の大きい業務から着手する」 ——大きい業務は、関係者が多く、調整に時間がかかり、1件目としては重すぎます。直し方:庁内から見える業務を1件目にする。効果の大きい業務は、庁内の信用ができてから。

「要望の多い業務から着手する」 ——要望の多さは、担当者の声の大きさと一致することがあります。直し方:点数表の軸1(所管課の意思)と軸4(見えやすさ)で並べ直す。声の大きさは軸に入れない。

「棚卸しを外部に丸投げする」 ——業務を知っているのは職員です。外部が作った一覧は、現場の言葉になっていないため、現場が自分のこととして読めません。直し方:聞き取りには必ず職員が同席する。書き留める6列は職員が埋める。外部が担うのは、点数の付け方と着手順の整理まで。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 着手順の付いた1枚の表(業務名・所管課・点数・個人情報・着手時期・財源の見込み)
  2. 最初の1業務(点数8点以上・所管課から相談が来たもの・庁内から見えるもの)
  3. 12項目の○×(必須3項目がすべて○)

やる業務は決まりました。次に要るのはお金です。自治体では、決まった時期に、決まった形で出さないと、1年待つことになります。年度の使い方を先に押さえます。

次の章へ:3章 自治体DXの予算の取り方|当初・補正・繰越

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:最初の1業務の選定(12項目)

棚卸しが終わり、着手を決める直前に通します。

# チェック項目 合格ライン
1 4つの印で業務を拾った 紙・二重入力・突き合わせ・探す、の観点で聞いた
2 実物(紙・Excel)を見た 会議室の話だけで決めていない
3 6列の表が埋まっている 業務名・所管課・件数・今の道具・二重の場所・個人情報
4 所管課から相談が来た業務である 上から降りてきた業務ではない(点数表の軸1)
5 点数表で8点以上ある 6軸で採点した結果が残っている
6 要配慮個人情報が主役の業務を1件目にしていない 1件目は個人情報が軽い業務になっている
7 庁内から見える業務である 多くの課が使う/負担の重さが知られている
8 年度内に完結する範囲に切った 年度をまたぐ設計になっていない
9 やめておく業務5つに当たっていない 法定帳票・基幹の領域・制度改正直前・全庁一斉ではない
10 基幹システム・既存システムとの線を書いた どこまでをこちらで扱うかが1行で書いてある
11 二重管理の期間を工程に入れた いつ片方を落とすかの条件が書いてある
12 着手順の付いた1枚の表を作った 2件目・3件目と財源の見込みまで並んでいる

合格ライン=12項目中9つ以上。ただし 4・6・10 のどれかが×なら着手しない。

  • 4が×:作っても使われません。所管課の意思が無い業務は、納品した日が最後に使われた日になります
  • 6が×:設計と庁内調整が同時に走り、期間が読めなくなります。1件目でこれをやると、2件目にたどり着きません
  • 10が×:基幹システムと重複した投資になり、監査で説明できません

11(二重管理の期間)が×でも着手はできますが、現場が元に戻る最大の原因です。 いつ、どの条件で紙をやめるかを先に書いてください。

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更新日 2018年10月20日