CHAPTER 02
業務棚卸しの対象の決め方
この章で分かること
- 部門で切る棚卸しと、流れで切る棚卸しの違い(何が見えなくなるか)
- 追う流れの選び方3基準と、流れの端の決め方
- 流れに乗らない業務(月次・年次の事務)の扱い方と、対象外の宣言の仕方
この章の目次(10)
- 1ムダは部門の中ではなく、あいだにある
- 2追う流れの候補
- 31本に絞る3つの基準
- 4流れの端を決める(ここが一番もめる)
- 5大きすぎたら分割する(目安)
- 6流れに乗らない業務はどうするか
- 7自治体(庁内)で切るときの違い
- 8対象を紙に書いて宣言する
- 9よくある間違いを5つ
- 10この章の出口
会社全体を一度に棚卸ししてはいけません。1本の「流れ」を選んで、その入口から出口までを追います。 部門で切ると、部門と部門のあいだに落ちているムダが最後まで見えません。転記・確認待ち・二重入力は、ほとんどが受け渡しの場所で起きています。 この章は、追う流れを1本選び、その端(どこから・どこまで)を決め、対象外を紙に書いて宣言するための章です。
この章で分かること
- 部門で切る棚卸しと、流れで切る棚卸しの違い(何が見えなくなるか)
- 追う流れの選び方3基準と、流れの端の決め方
- 流れに乗らない業務(月次・年次の事務)の扱い方と、対象外の宣言の仕方
ムダは部門の中ではなく、あいだにある
「営業部の棚卸し」「経理部の棚卸し」という切り方をすると、各部門は自分の部門の中で完結する作業を書きます。書かれないのは次の3つです。
| 書かれないもの | 具体例 | なぜ書かれないか |
|---|---|---|
| 受け渡しの作業 | 営業が書いた注文票を、事務が販売管理に打ち直す | 打ち直す側は「自分の仕事」と思っているので書くが、書かせた側は自分のせいだと思っていない |
| 待ち時間 | 承認が回ってくるのを2日待つ | 待っている間は作業をしていないので、業務として意識されない |
| 確認のやり取り | 「この数量で合っていますか」のメール往復 | 例外対応だと思われていて、回数を数えた人がいない |
この3つは、片方の部門の表にしか載らないか、どちらにも載りません。合計すると一番大きいのに、一番見えないのがこの領域です。
だから、この本では対象を流れ(フロー)で切ります。 会社の中を通り抜けていくものを1つ選び、入ってきてから出ていくまでを、部門をまたいで追いかけます。
| 部門で切る | 流れで切る(本書) | |
|---|---|---|
| 対象の単位 | 営業部・経理部・業務課 | 受注から出荷まで/引合から契約まで |
| 見えるもの | 各部門の作業の一覧 | 受け渡し・待ち・差し戻しを含む全体 |
| 見えないもの | 部門のあいだ(転記・確認待ち) | 流れに乗らない定期業務(後述) |
| 集めた表の使い方 | 部門ごとの負荷比較 | どこで詰まっているかの特定 |
| 改善したときの効果 | 部門内で完結するものだけ | 受け渡しを消せるので大きくなりやすい |
| 現場の反応 | 「うちの部署を調べに来た」 | 「この流れを良くする」(矛先が人に向かない) |
最後の行は実務上とても大きい差です。部門で切ると、棚卸しは人事評価の調査に見えます。 流れで切ると、調べる対象が業務そのものになり、現場が身構えません(10章)。
追う流れの候補
どの会社にも、数本の流れがあります。まず自社の流れを書き出してください。
| 流れの名前 | 入口 | 出口 | 主に通る部門 |
|---|---|---|---|
| 受注から出荷まで | 注文が入る | 出荷・納品が終わる | 営業・業務・倉庫 |
| 引合から契約まで | 問い合わせが来る | 契約書を締結する | 営業・管理 |
| 請求から入金まで | 検収が終わる | 入金を消し込む | 業務・経理 |
| 仕入から支払まで | 発注する | 支払が終わる | 購買・経理 |
| 問い合わせから対応完了まで | 電話・メール・フォーム | 完了を相手に伝える | 窓口・技術 |
| 応募から入社まで | 応募が来る | 初日を迎える | 人事・配属先 |
| 見積から発行まで | 依頼を受ける | 見積書を渡す | 営業・積算 |
| 日報から集計まで | 現場が書く | 集計・請求の根拠になる | 現場・管理 |
自社の言葉で構いません。大事なのは、入口と出口が「出来事」で書けていることです。「営業活動」は出来事ではないので流れになりません。「問い合わせが来る」「契約書に押印する」は出来事です。
1本に絞る3つの基準
候補が5本も6本も出たら、次の3つで1本に絞ります。3つとも満たす流れがあるなら、迷わずそれです。
| 基準 | 見方 | なぜこれで選ぶか |
|---|---|---|
| 1. お金が乗っているか | 売上・原価・支払が動く流れか | 効果を金額で説明できる。経営会議で通りやすい |
| 2. 件数が多いか | 月に何十件・何百件と通るか | 1件あたり数分の改善でも、件数が効く。効果が計算できる |
| 3. 詰まっている実感が、2つ以上の部署から出るか | 「あそこで止まる」が複数部門から出る | 1部門だけの不満は個人差のことがある。2部門から出れば本物 |
3つとも満たすものが無い場合は、2番(件数)を優先します。件数が多い流れは、数えれば効果が出るからです。件数が少ない流れは、どれだけ苦しくても改善の効果が金額になりません。
逆に選んではいけない流れもあります。
| 選ばない流れ | 理由 |
|---|---|
| 年に数回しか通らない流れ | 数えられない。改善しても次が来るまでに忘れる |
| いま制度・ルールが変更中の流れ | 書いた端から変わる。決まってから着手する |
| 社長・特定の1人しか通っていない流れ | 業務ではなく属人的な判断。棚卸しではなく引き継ぎの問題 |
| 外部の相手の都合で形が決まっている流れ(親会社の指定様式など) | 自社で変えられない範囲が大きい。改善の選択肢が「道具」しか残らない |
流れの端を決める(ここが一番もめる)
流れを選んだら、どこから始まり、どこで終わるかを1行で書きます。ここを曖昧にすると、書き出しが永遠に終わりません。営業の話をしていたはずが、いつのまにか広告の話になり、採用の話になります。
端の書き方には型があります。
| 端 | 悪い書き方 | 良い書き方(出来事で書く) |
|---|---|---|
| 入口 | 「営業が動き出したとき」 | 「顧客から見積依頼のメール・電話を受けた時点」 |
| 出口 | 「お客様が満足したら」 | 「請求書を発行し、販売管理に計上した時点」 |
出口は「自社の中で何かが確定した瞬間」に置きます。 相手の行動(入金・満足・リピート)を出口にすると、待ち時間が無限に伸びて表が閉じません。入金まで見たいなら、「請求から入金まで」を別の流れとして立てます。
端を決めたら、次の3つを書き足してください。
- 入口の手前にあるもの(対象外)。例:広告・展示会・既存顧客への定期訪問
- 出口の先にあるもの(対象外)。例:入金消込・督促・アフターフォロー
- 例外の扱い。例:直送・特急・返品は今回は追わない(件数を数えるだけ)
3つ目が重要です。例外を全部追うと、量が3倍になります。 まず8割が通る道を書き切り、例外は「件数だけ数えて、後ろに一覧で並べる」にしてください。例外の扱いは3章と6章でもう一度出てきます。
大きすぎたら分割する(目安)
1本の流れが大きすぎると、2週間では書き切れません。次のどれかに当たったら分割します。
| 大きすぎる合図 | 分割の仕方 |
|---|---|
| 関わる人が15人を超える | 途中の確定点(受注確定・出荷指示など)で2本に割る |
| 通る部門が4つ以上 | 同じく確定点で割る。先に前半だけをやる |
| 入口から出口までが1か月を超える | 前半(成立まで)と後半(履行まで)に割る |
| 書き出した行が60行を超えそう | 粒度が細かすぎる可能性がある(3章)。まず粒度を見直し、それでも多ければ割る |
割るときは、必ず「確定点」で割ってください。 確定点とは、そこを過ぎたら前に戻らない場所です(受注が確定した・出荷指示を出した・検収が済んだ)。部門の境界で割ると、一番見たかった受け渡しの部分が両方の表から落ちます。
流れに乗らない業務はどうするか
会社の業務には、流れに乗らないものがあります。月次決算、給与計算、勤怠の締め、棚卸、年末調整、保険・税の手続き、社内の備品管理、定期報告。 これらは「通り抜けるもの」がなく、カレンダーで動きます。
流れの棚卸しに混ぜないでください。混ぜると、1本の流れの表の中に月1回の業務が並び、頻度も件数も比べられなくなります。別の表を1枚作ります。
| 表 | 対象 | 並べる軸 | 数えるもの |
|---|---|---|---|
| 流れの表(本体) | 通り抜けるもの1本 | 入口から出口への順番 | 件数・人数・転記・待ち |
| 定期業務の表(別紙) | カレンダーで動く事務 | 発生周期(月次・四半期・年次) | 発生回数・所要日数・担当人数 |
定期業務の表は10〜15行で足ります。月次決算・給与・勤怠締め・請求書発行・入金消込・棚卸・法定調書・保険の更新——この程度です。着手順を決めるとき(7章)は、両方の表を同じ2軸に並べて比較します。
なお、定期業務だけを対象にした棚卸しは、切り方として成立します。 管理部門が3名以下で、流れの業務には関与していない会社では、こちらから始めたほうが早いことがあります。その場合は「部門で切ってよい例外」として扱います。
自治体(庁内)で切るときの違い
対象の切り方の考え方は同じですが、庁内では、先に動かせない制約が3つ入ります。 予算の年度、4月の人事異動、議会の会期です。さらに、選ぶ軸に「扱う個人情報の重さ」と「隣の課から見えるか」が加わります。
庁内で進める場合は、この章(流れで切る・端を決める・宣言書)を土台にしたうえで、自治体DXの教科書2章を重ねて読んでください。庁内でしか効かない軸だけを、あちらにまとめてあります。
対象を紙に書いて宣言する
対象が決まったら、次の8行を1枚にして、関係者全員に配ります。口頭で伝えた対象は、必ずずれます。
| 行 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 1 流れの名前 | 追うものの名前 | 受注から出荷まで |
| 2 入口 | 出来事 | 顧客から注文書・注文メールを受け取った時点 |
| 3 出口 | 出来事 | 出荷完了を販売管理に登録した時点 |
| 4 対象の部門と人数 | 部門名と実人数 | 営業3名・業務課4名・倉庫2名(計9名) |
| 5 対象外(手前) | 書かないもの | 引合・見積・与信 |
| 6 対象外(先) | 書かないもの | 請求・入金消込・アフター対応 |
| 7 例外の扱い | 追うか、数えるだけか | 直送・特急・返品は件数のみ数える |
| 8 期間 | いつからいつまでの実績を見るか | 直近3か月(◯月〜◯月) |
8行目を忘れないでください。 4章で件数を数えるとき、期間がそろっていないと合計できません。繁忙期を含むか含まないかで数字が変わるので、直近3か月を基本にし、季節変動が大きい業種は直近12か月にします。
この宣言書は、聞き取りの冒頭で相手に見せる紙でもあります。「今日はここからここまでの話を伺います。その手前と先は今回は聞きません」と最初に言えると、聞き取りが30分で終わります。
よくある間違いを5つ
「まず組織図を見て、部門ごとに担当を割り振る」 ——部門の中の作業しか出てきません。転記も待ちも差し戻しも、部門のあいだにあります。直し方:組織図ではなく、注文書・案件・申込書といった「通り抜けるもの」を1つ選ぶ。
「大事な流れが3本あるので、3本同時にやる」 ——書く人が分かれ、粒度がばらつき、あとで並べられません。直し方:1本ずつ。1本目が着手まで進んでから2本目に入る。2本目は1本目の型を使えるので、半分の時間で終わる。
「出口を『お客様が満足するまで』にした」 ——終わりが来ないので、表が閉じません。直し方:出口は自社の中で何かが確定した瞬間(計上した・発行した・登録した)に置く。
「例外も全部書かないと正確にならない」 ——量が3倍になり、2週間で終わりません。しかも改善するのは8割の道です。直し方:8割の道を書き切り、例外は件数だけ数えて一覧の後ろに置く。
「対象は決めたが、現場には伝えていない」 ——聞き取りのたびに範囲外の話が始まり、1人1時間の予定が2時間になります。しかも「何を調べられているのか分からない」という不安が残ります。直し方:8行の宣言書を配り、聞き取りの冒頭で読み上げる。
この章の出口
この章を終えたとき、手元にあるべきものは3つです。
- 8行の対象宣言書(流れの名前・入口・出口・対象人数・対象外2行・例外・期間)
- 12項目の○×(1・3・5 がすべて○)
- 定期業務の置き場所(別表にすると決めてある)
どこを見るかが決まりました。次はその流れの中身を、どの大きさで何行に書き出すかです。ここで粒度がばらつくと、あとで数えることも並べることもできなくなります。1業務=1行にする基準を決めるのが次の章です。
次の章へ:3章 業務の書き出し方|粒度をそろえる
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:対象の切り方(12項目)
聞き取りを始める前、宣言書を配る直前に付けます。
| # | チェック項目 | ○の条件 |
|---|---|---|
| 1 | 対象が「部門」ではなく「流れ」で書かれているか | 「◯◯から◯◯まで」の形になっている |
| 2 | 入口が出来事で書かれているか | 「〜を受け取った時点」のように、日時を特定できる |
| 3 | 出口が出来事で書かれているか | 自社の中で確定する瞬間になっている(相手の行動ではない) |
| 4 | 対象の流れが部門をまたいでいるか | 2部門以上を通る(1部門で完結するなら、定期業務の表に回す) |
| 5 | 追う流れが1本に絞られているか | 1本。複数を同時に走らせていない |
| 6 | その流れに月何件通るかを、おおよそ把握しているか | 月の件数の桁が言える(数十件か、数百件か) |
| 7 | 関わる人数が15人以内か | 15人以内。超えるなら確定点で分割した |
| 8 | 対象外(手前・先)が紙に書いてあるか | 手前と先のそれぞれが書いてある |
| 9 | 例外をどう扱うかが決まっているか | 「追う」か「件数だけ数える」かが決まっている |
| 10 | 数字を見る期間が決まっているか | 直近3か月(季節変動が大きければ12か月) |
| 11 | 流れに乗らない定期業務の置き場所が決まっているか | 別表にする、と決まっている |
| 12 | 宣言書を対象部門の全員に配ったか | 配布済み。聞き取り対象者は内容を見ている |
合格ライン=12項目中9つ以上。ただし 1・3・5 のどれかが×なら聞き取りを始めない。
- 1が×:部門で切った棚卸しは、一番大きいムダを構造的に見逃します。切り直してください
- 3が×:出口が相手の行動だと、表が閉じません。書き出しが終わらない原因の筆頭です
- 5が×:同時に走らせた複数の流れは、粒度がそろわず、最後に合体できません
6番(件数の桁)が×でも始められますが、4章の最初にここを潰します。 件数の桁が分からない流れは、改善しても効果を計算できません。
更新日 2018年10月20日
