株式会社COTSUBU

CHAPTER 01

業務の棚卸しは何のためにやるか

この章で分かること

  • 棚卸しで手に入るもの3つと、期待しても手に入らないもの3つ
  • 棚卸しをやらずに進めた会社で起きること4つと、その共通の原因
  • かける時間の上限の決め方と、棚卸しをやらなくてよい場合
この章の目次(10)
  1. 1棚卸しは診断であって、治療ではない
  2. 2やらないと起きること4つ
  3. 3手に入るのは3つだけ
  4. 4期待してはいけないもの3つ
  5. 5先に決める6行(棚卸しの発注書)
  6. 6かける時間の上限を先に置く
  7. 7棚卸しをやらなくてよい場合
  8. 8誰がやるか(3つの役割)
  9. 9よくある間違いを5つ
  10. 10この章の出口

棚卸しは、業務を良くするためにやるのではありません。どの業務から手を付けるかを、人の実感ではなく数で決められるようにするためにやります。 やらずに進めると、声の大きい人の困りごとと、最初に来た営業の商品が、そのまま会社の投資先になります。 この章は、棚卸しの目的を1つに絞り、成果物を3つに決め、かける時間の上限を先に置くための章です。

この章で分かること

  • 棚卸しで手に入るもの3つと、期待しても手に入らないもの3つ
  • 棚卸しをやらずに進めた会社で起きること4つと、その共通の原因
  • かける時間の上限の決め方と、棚卸しをやらなくてよい場合

棚卸しは診断であって、治療ではない

健康診断で病気は治りません。治す順番を決めるためにやります。業務の棚卸しも同じです。

棚卸しでやるのは、誰が・何を・どれだけやっているかを、数えられる形で1枚に出すことだけです。直すのはそのあとです。ここを混ぜると、書き出しの途中で「その作業はこうすればいい」という話が始まり、半分書いたところで会議が終わります。書けていない業務は、結局その後も誰にも見えません。

この章の主張は1つです。棚卸しの出口は「一覧表」であって「改善案」ではありません。

棚卸し(この本の1〜7章) 改善(8章以降)
やること 業務を書き出す・数える・並べる やめる・減らす・まとめる・道具を入れる
出るもの 業務一覧表・数量・着手順 新しいやり方・新しい道具
判断の材料 数(頻度・件数・人数・やり直し) 数+現場の事情+費用
かける時間 1部門で2週間以内 業務による
失敗の形 途中で改善の議論が始まり、書き切れない 一覧が無いまま、目に付いた業務から手を付ける

「議論は書き切ってから」を最初に宣言してください。 書き出しの場で出た改善案は、捨てずに別の列(または別の紙)に逃がします。捨てると現場が黙ります。

やらないと起きること4つ

棚卸しをやらずにDXや業務効率化を進めた会社では、だいたい次の4つが起きます。

起きること 現場での見え方 元の原因
声の大きい人の業務から直す 一番忙しいはずの部署が後回しになる 困りごとの大きさは実感で、比べられない
道具を先に買う 契約したが、入力する業務が決まっていない 「何に使うか」を決める材料が無い
効果が説明できない 「で、よくなったの?」に答えられず、2件目の予算が出ない 始める前の数字を取っていない
同じ議論を毎年する 去年も同じ会議をした記憶がある 前回の結果が表になって残っていない

4つとも原因は同じです。比べられる形の材料が無いこと。

とくに2つ目が厄介です。道具を先に買うと、そのあとの議論がすべて「買ったものをどう使うか」に寄ります。本当は「その業務はやめればよかった」が答えだったとしても、契約した以上は使わなければならない空気になります。この本が「道具は最後」(8章)と決めているのは、この順番が一度狂うと戻せないからです。

4つ目も軽視できません。棚卸しを口頭でやると、結果は議事録の中に散らばり、担当が代わると消えます。表1枚で残すこと自体が成果物です。

手に入るのは3つだけ

棚卸しの出口は次の3つです。これ以上を目標にすると終わりません。

成果物 中身 これが無いと起きること
業務一覧表 1業務=1行。誰が・何を・どの入れ物で(3章) 議論が「うちは忙しい」で止まる
数量 頻度・件数・触る人数・やり直しの回数(4章) 効果が見積もれず、投資の判断ができない
着手順 効果と難易度の2軸で並べた順位(7章) 全部に同時に手を付けて、全部止まる

「業務フロー図」は成果物に入れていません。5章で書きますが、フローは一覧表を作る途中で使う道具であって、納品物ではありません。きれいなフロー図を作ることが目的になった瞬間、棚卸しは失敗します。

期待してはいけないもの3つ

逆に、棚卸しでは手に入らないものがあります。ここを期待すると、途中で「思ったのと違う」となります。

手に入らないもの 理由 代わりにどうするか
正確な作業時間 自己申告の時間は当てになりません(4章) 回数・件数・人数で代用する
改善案そのもの 案は現場から出ますが、棚卸しの場では選べません 別の列に逃がし、8章で選ぶ
現場の納得 表ができても、現場が動く理由にはなりません 10章で別に手当てする

1つ目は、この本の4章の主題です。「この作業に月20時間かかっています」という申告は、多くの場合に本人の体感であり、実測ではありません。時間を信じて計画を立てると、効果の見込みが最初から狂います。

先に決める6行(棚卸しの発注書)

棚卸しを始める前に、次の6行を紙1枚に書いてください。社内でやる場合も、この6行は書きます。 書かずに始めた棚卸しは、ほぼ必ず途中で目的がずれます。

行 書くこと 悪い例 良い例
1 目的 何を決めるためにやるか(1行) 「業務を見える化する」 「来期、最初に手を付ける業務を1つ決める」
2 対象 どこを見るか(2章) 「全社」 「受注から出荷までの流れ。営業事務3名・業務課4名」
3 期限 いつまでに一覧表が出るか 「なるべく早く」 「◯月◯日。着手判断の会議はその翌週」
4 出すもの 成果物の形 「報告書」 「業務一覧表(1業務1行・12列)と、着手順の表」
5 使い道 誰が何に使うか 「経営会議で共有」 「社長が、最初の1業務と予算枠を決める」
6 決める人 着手を決裁する人の氏名 「経営層」 「◯◯(取締役)。代理は◯◯」

6行目が一番大事です。 決める人の氏名が書いていない棚卸しは、表が出たあとに「では検討します」で止まります。棚卸しは決裁の材料なので、材料を受け取る人を先に決めます。

3行目の「着手判断の会議はその翌週」も外せません。表が出てから会議までが空くと、数字が古くなり、もう一度数え直すことになります。

かける時間の上限を先に置く

棚卸しが失敗する最も多い形は、終わらないことです。全部門・全業務を正確に出そうとすると、半年かかり、その間に組織が変わり、最初に書いた部門の表が古くなります。

当社の決めごとは次のとおりです。

規模 かける時間の上限 根拠
1部門(従業員10名程度まで) 延べ5人日・2週間以内 聞き取りは1人30分〜1時間。10人で最大10時間。集計と整理を足しても5人日に収まる
3部門以上 部門ごとに2週間。同時に回さない 同時に回すと、粒度がそろわず(3章)、あとで合体できない

2週間を超えそうなら、対象が広すぎます。 範囲を狭めてください(2章)。期間を延ばして精度を上げるより、狭い範囲を2週間で出し切って着手するほうが、結果的に早く進みます。

当社が業務の棚卸しで1部門を無料にしているのも同じ理由です(業務の棚卸し)。1部門の表を見ないと、そもそも手を付ける価値があるかを双方が判断できません。全社(3部門以上)は30万円〜、改善計画の作成まで含めると50万円〜です(すべて税別)。

棚卸しをやらなくてよい場合

この本は、やらなくてよい場合を先に書きます。 次の3つに当たるなら、棚卸しに時間を使わず、そのまま進めてください。

場合 代わりにやること
止まっている業務が1つに決まっている(毎日残業が出ている場所が全員一致で同じ) その1業務だけを3〜6章の形で書き出し、7章を飛ばす
法令・制度の変更で、やり方を変えるしかない(インボイス・電子帳簿・法改正) 期限が決まっているので、着手順を決める意味がない。対象業務だけを書き出す
従業員5名以下で、全員が全部の業務を見ている 表を書く価値はあるが、半日で終わる。会議を開かずに1人で書く

逆に、次のどれかに当たるなら棚卸しは必要です。 部署によって「忙しい」の意味が違う、同じ数字を複数の部署が別々に管理している、退職や異動のたびに業務が止まる、去年も同じ改善の議論をした——このどれかがあるなら、実感で決めると必ず外します。

誰がやるか(3つの役割)

棚卸しは1人ではできません。ただし、人数が増えると粒度がばらつきます。役割は3つ、人数は最小限にします。

役割 やること 人数 向く人
旗振り役 目的の6行を書く。期限を守らせる。決裁者に渡す 1人 対象部門の外にいる人(管理部門・経営企画)
書く人 聞き取りをして、一覧表の行を埋める。粒度をそろえる責任を持つ 1〜2人 全部門の業務を少しずつ知っている人
数える人 件数・回数を、システムや帳票から実際に数える(4章) 1人 実データを取り出せる人(経理・情シス)

書く人を3人以上にしないでください。 人が増えると、同じ会社の中で「1業務」の大きさが人によって変わり、あとで並べられなくなります。3章で扱う粒度の問題は、ほぼ全部ここから来ます。

対象部門の現場担当者は「書く人」ではなく「答える人」です。自分の業務を自分で書くと、大事な作業ほど省略されます(毎日やっていることは、本人には業務として意識されません)。

よくある間違いを5つ

「まず全社の業務を全部洗い出そう」 ——3か月かかり、終わる頃には最初の部門の表が古くなっています。しかも、全社の表があっても着手するのは1業務です。直し方:対象を1つの流れに絞る(2章)。全社版は、1本目の改善が終わってから足す。

「棚卸しの会議で改善案も一緒に決める」 ——書き出しが半分で時間切れになり、その日に話題に出た業務だけが改善対象になります。直し方:書き出しの会で改善案が出たら「別の列」に書いて先に進む。選ぶのは8章。

「現場に業務を書いて提出してもらう」 ——提出されるのは「本人が業務だと思っているもの」だけです。探す時間・確認の待ち時間・やり直しは、まず書かれません(6章)。直し方:書く人が聞き取る。1人30分〜1時間。

「時間を集計すれば効果が出る」 ——自己申告の時間を足すと、たいてい1人の業務時間が所定労働時間を超えます。超えた表は経営会議で信用されません。直し方:時間ではなく回数と件数を数える(4章)。時間は最後に、実測できたものだけ添える。

「棚卸しの結果を報告書にまとめる」 ——報告書は読まれず、翌年また同じ会議をします。直し方:成果物は表(一覧・数量・着手順)にする。文章は6行の発注書と、着手する1業務の理由だけでよい。

この章の出口

この章を終えたとき、手元にあるべきものは2つです。

  1. 6行の発注書(目的・対象・期限・出すもの・使い道・決める人)
  2. 12項目の○×(1・4・10 がすべて○)

目的と決裁者が決まりました。決まっていないのはどこを見るかです。ここを「営業部」「経理部」のような部門で切ると、部門をまたぐ場所にあるムダが最後まで見えません。切り方を変えるのが次の章です。

次の章へ:2章 業務棚卸しの対象の決め方

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:棚卸しを始める前の判断(12項目)

棚卸しの初日、聞き取りを始める前に付けます。 受託で入る場合は、初回打ち合わせでこの12項目をそのまま質問します。

# チェック項目 ○の条件
1 棚卸しで何を決めるかが1行で書いてあるか 「見える化」ではなく、決める対象(最初の1業務・予算枠など)が書いてある
2 対象の範囲が書いてあるか 部門名と人数、または対象の流れ(受注〜出荷など)が特定できる
3 一覧表を出す期限が決まっているか 日付が入っている
4 着手を決める人の氏名が決まっているか 役職ではなく氏名。代理者も決まっている
5 表が出たあとの会議の日程が押さえてあるか 期限から2週間以内に入っている
6 成果物の形が決まっているか 一覧表・数量・着手順の3つ、と書いてある
7 書く人が2人以内に決まっているか 氏名が決まっていて、他の業務から時間を空けてある
8 現場の担当者に、聞き取りの時間が通知されているか 日時が本人に伝わっている(30分〜1時間)
9 件数・回数を実データから数えられる人がいるか 販売管理・会計・メール等から数字を出せる担当がいる
10 かける時間の上限が決めてあるか 1部門あたり2週間以内
11 「この場では改善案を決めない」と関係者に伝えてあるか 伝えてある(改善案の逃がし先も決まっている)
12 過去に同じ棚卸しをしていないか確認したか 前回の資料の有無を確認した。あるなら差分から始める

合格ライン=12項目中9つ以上。ただし 1・4・10 のどれかが×なら始めない。

  • 1が×:目的が無い棚卸しは、書き出しの途中で粒度も範囲も漂流します
  • 4が×:表を受け取る人がいないので、出しても決まりません
  • 10が×:上限の無い棚卸しは終わりません。終わらなかった棚卸しは、翌年ゼロからやり直しになります

9〜12番が×でも始められますが、その場合は12番(過去の資料)を必ず先に潰してください。 3年以内に同じ調査をしていた会社は珍しくありません。あるなら、それを下敷きにして差分だけ埋めるほうが圧倒的に早く終わります。

この章に関係する記事

読んでも決めきれないところは、一緒に決めます

30分の相談は無料です。一覧表の作成から、着手順の決定まで伴走します。引き受けられる範囲は業務の棚卸しにまとめています。

30分相談を予約する

更新日 2018年10月20日