DXに取り組んだけど「失敗だった」と感じる会社が多い
不動産DXに取り組む会社が増えている一方で、「システムを入れたけど使われていない」「費用だけかかって効果がなかった」という声も少なくありません。
DXに取り組んだものの「期待した効果が出なかった」という話はよく聞きます。原因をたどると、多くは事前に避けられたパターンに当てはまります。
先に5つのパターンを一覧にします。どれも、始める前か最初の1か月で兆候が出ます。
| パターン | 早めに出る兆候 | この時点で止めて決めること |
|---|---|---|
| 1 ツール導入が目的 | 「何のアプリを作るか」の会議が2回続く | 解決する業務課題を1行で書く |
| 2 現場を巻き込まない | 試用期間に現場が一度も触っていない | 現場の推進役を1名決める |
| 3 一度に全部やる | 同時に動いている導入が2つ以上ある | 1つを残して後ろに回す |
| 4 データ移行を甘く見る | 移行の作業日が日程表に無い | 移行とテスト移行の日を先に入れる |
| 5 導入後のフォローがない | 本番開始後の定例の日付が決まっていない | 月1回の振り返りの日を先に入れる |
どの業務から手を付けるかを数で決める考え方は、業務棚卸しの教科書 1章にまとめています。この記事では、不動産会社で起きやすい形に絞って書きます。
失敗パターン1:ツール導入が目的になっている
症状
「DXといえばシステム導入」と考え、業務課題の整理をせずにツールを選定・導入してしまう。
具体例
- 「kintoneが流行っているから導入しよう」と始めたが、何のアプリを作るか決まらない
- 営業マンから「こんなツールがほしい」と言われるまま導入し、ツールが乱立
- ベンダーの営業トークに乗せられて、自社には過剰な機能のシステムを契約
回避策
ツールの前に「業務課題」を明確にする
「何のために」「誰の」「どんな課題を」解決するのかを明文化してからツールを選定しましょう。
✕ 「kintoneを導入する」
○ 「反響の対応漏れを防ぐために、反響管理を一元化する。そのためにkintoneを導入する」
失敗パターン2:現場を巻き込まずにトップダウンで進める
症状
経営者やIT担当者だけでシステムを選定・導入し、現場の営業マンに「来月からこれを使って」と通達する。
具体例
- 現場の業務フローを理解せずに設計したシステムが使いにくい
- 「今までのやり方で問題ない」と現場が反発
- 入力項目が多すぎて、営業マンが入力をサボる
- 結局Excelとの二重管理になる
回避策
現場のキーパーソンを巻き込む
- ツール選定の段階から現場の意見を聞く
- 無料トライアル期間中に現場で試用してもらう
- 「使いにくい点」のフィードバックを受けて改善する
- 現場から「DX推進リーダー」を1名任命する
失敗パターン3:一度に全部やろうとする
症状
「せっかくDXするなら全部一気にやろう」と、物件管理・顧客管理・会計・ペーパーレス化を同時に進めようとする。
具体例
- プロジェクトが大きすぎて、どれも中途半端に
- 社員の負荷が高すぎて、通常業務に支障
- システム間の連携が複雑になり、トラブルが頻発
- 導入から半年経っても本番運用に移行できない
回避策
1つずつ、小さく始める
最も効果の高い1つの施策に集中し、成功体験を積んでから次に進みます。
おすすめの優先順位:
- クラウドストレージとチャットツール(基盤整備)
- 反響管理のデジタル化(営業に直結)
- 物件管理のデジタル化
- 集客・マーケティングのデジタル化
- バックオフィスの効率化
次に進む条件は「前の段階が、担当者が休んでも回っているか」です。入力が特定の1人に頼っているうちは、次の段階に進まないでください。 賃貸管理が主業なら、2の反響管理より先に、更新・解約の期限管理を入れても構いません。
失敗パターン4:データ移行を甘く見る
症状
既存のExcelや紙のデータを新システムに移行する作業を「すぐ終わる」と考え、十分な時間を確保しない。
具体例
- Excelのデータに表記ゆれが大量にある(「渋谷区」「東京都渋谷区」「しぶやく」)
- 重複データが大量にある
- 必須項目が空欄のレコードが多い
- 文字コードの問題で文字化けする
- 移行後にデータの整合性が取れていないことに気づく
回避策
データクレンジングの工程を必ず設ける
- 移行前にデータの品質チェックを行う
- 表記ゆれのルールを定義して統一する
- 重複データを排除する
- テスト移行を最低2回は実施する
- 移行後の検証期間を1〜2週間確保する
失敗パターン5:導入後のフォローがない
症状
システムの導入・設定が完了した時点で「DX完了」と考え、その後のフォローアップを行わない。
具体例
- 操作方法がわからない社員が「なんとなく」使い、本来の機能を活かせない
- 入力ルールが徐々に崩れ、データの品質が低下
- 新しい社員が入社しても研修がなく、自己流で使う
- 業務フローの変化に合わせたシステムの改善が行われない
回避策
運用体制と改善サイクルを構築する
- 月1回のDX振り返りミーティングを実施
- 入力ルールの遵守状況を定期チェック
- 新入社員向けの操作研修を必ず実施
- 四半期に1回、運用ルールの見直しを行う
- ユーザーからの改善要望を収集し、反映する
業態で失敗しやすい場所が違う
| 業態 | 失敗しやすい場所 | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| 売買仲介 | 反響管理を入れたが、営業マンが追客の記録を入れない | 入力するのは「次にいつ連絡するか」だけ、と最小にする |
| 賃貸仲介 | 繁忙期に導入し、入力が後回しになって定着しない | 導入と切り替えは繁忙期を外す |
| 賃貸管理 | 入居・契約・修繕を一度に移し、どれも途中で止まる | 更新・解約の期限管理のように、漏れると困る1業務から |
| 買取再販・投資用販売 | 物件ごとの収支が営業と経理で別々のExcelに残る | 物件の番号を1つに決め、両方がそれで引く |
当社のkintoneの不動産見本は、物件台帳・反響/顧客・内見予約・契約・賃貸管理(入居)・原状回復/修繕の6アプリで組んでいますが、6つを同時に入れることは勧めていません。 最初は1業務1アプリから始め、使い続けると決めたものだけ次に進みます。構築は最大1か月0円なので、使わないと分かった時点で止められます。
よくある失敗の形
従業員10名ほどの賃貸管理会社で、入居者管理を新しい仕組みに移す場合に起きやすい失敗です。 移行の日を決めずに「空いた時間に入力する」としたため、新旧の台帳が半年並び、更新の案内を旧台帳の担当者だけが出していました。原因は、パターン4とパターン5が重なったことです。切り替え日を決めて旧台帳を読み取り専用にし、切り替え後1か月は週1回、入力漏れを一覧で確認する時間を取っておくべきでした。
代表の宇田川も、投資用不動産販売会社のバックオフィスにいた2014〜2018年にkintoneで社内アプリを作っていました。そのころから変わらない教訓は、使われなくなるアプリは、作る前に「誰が、いつ入力するか」が決まっていないということです。
失敗を防ぐためのチェックリスト
DXプロジェクトを始める前に、以下を確認しましょう。
- 解決すべき業務課題が明文化されている
- 現場のキーパーソンがプロジェクトに参加している
- 導入範囲を絞り、優先順位が決まっている
- データ移行の計画と十分な期間が確保されている
- 導入後の運用体制(担当者、振り返り頻度)が決まっている
- 研修の計画がある
- 予算に、データ移行と研修の費用・社内の作業時間が入っている
- 旧いやり方をやめる日(切り替え日)が決まっている
まとめ
不動産DXの失敗は、技術的な問題よりも「進め方」の問題であることがほとんどです。
- ツール導入を目的にしない
- 現場を巻き込む
- 小さく始める
- データ移行を甘く見ない
- 導入後のフォローを怠らない
どのパターンも、始める前か最初の1か月で兆候が出ます。兆候が出た時点で止めて決め直すほうが、半年後にやり直すより手戻りが小さく済みます。
関連リンク
よくある質問
不動産DXが失敗する一番の原因は何ですか
技術ではなく進め方の問題がほとんどです。業務課題を整理しないままツール導入そのものが目的になると、何のアプリを作るかも決まらないまま止まります。「反響の対応漏れを防ぐために反響管理を一元化する」というように、誰のどんな課題を解決するのかを先に明文化してください。
システムを入れたのに現場が使ってくれません
現場を巻き込まずにトップダウンで導入したことが原因です。入力項目が多すぎて営業マンが入力をサボり、結局Excelとの二重管理になるパターンが典型です。ツール選定の段階から現場の意見を聞き、現場からDX推進リーダーを1名任命してください。
DXは全部一気に進めたほうが早いのではないですか
一度に全部やろうとするのは失敗パターンの1つです。物件管理・顧客管理・会計・ペーパーレス化を同時に進めると、どれも中途半端になり、半年経っても本番運用に移行できません。最も効果の高い1つに集中し、成功体験を積んでから次に進むほうが結果的に早く進みます。
Excelからのデータ移行はどれくらい時間を見ておけばいいですか
データクレンジングの工程を必ず別に確保してください。「渋谷区」「東京都渋谷区」のような表記ゆれ、重複データ、必須項目の空欄、文字コードによる文字化けが必ず出てきます。テスト移行は最低2回、移行後の検証期間は1〜2週間を見込むのが安全です。
導入が終わったらDXは完了ですか
導入完了はスタート地点で、その後のフォローがないと入力ルールが徐々に崩れてデータの品質が落ちます。月1回の振り返りミーティング、入力ルールの遵守状況の定期チェック、新入社員向けの操作研修、四半期ごとの運用ルール見直しをセットで用意してください。


