総務課や財政課から全課に送られる「◯◯の状況について(照会)」。Excelの様式が添付されていて、各課が記入して返信し、担当者が1つのファイルに貼り合わせる。この作業は、多くの庁舎で月に何本も走っています。
この記事は、それをkintoneで回す形に変えるときに、どの順番で何を決めるかを書いたものです。やることの大半は、集計の自動化ではありません。
庁内照会でいちばん時間を食っているのは、催促
担当者に「何がいちばん大変ですか」と聞くと、たいてい「集計」と答えが返ってきます。実際に時間を測ると、違います。
| 工程 | 実際の中身 |
|---|---|
| 様式を作る | 前回のファイルを探して、日付と締切を直す |
| 配る | 全課の担当者のアドレスを集めて、一斉送信する |
| 待つ・催促する | 誰が出していないかを手で確かめ、個別に電話・メールをする |
| 集める | 返ってきたファイルをフォルダに集める |
| 貼り合わせる | 1つのファイルに転記する。行がずれる、列が増えている |
| 直してもらう | 記入の仕方が違うものを、書き直してもらう |
3行目と6行目が本体です。 集計そのものは、形が揃ってさえいれば長くかかりません。時間を食うのは、出していない課を特定する作業と、形が揃っていないものを揃え直す作業です。
この2つは、自治体DXの教科書 2章 業務の棚卸しで拾う4つの印のうち「探す」と「突き合わせ」にそのまま当たります。庁内照会は、棚卸しをすれば必ず上位に出てくる業務です。
Excelを配ると、様式の版が増える
Excelの様式をメールで配った瞬間に、その様式は庁内に何十個もコピーされます。
- 前年のファイルを流用して、古い様式で返ってくる
- 行が足りないので、各課が勝手に行を挿入する
- 「備考」に書ききれず、セルの中で改行される
- 該当が無い課が、何も返さない(無回答と該当無しの区別が付かない)
- ファイル名が「照会(◯◯課)最終_修正版」になる
どれも職員が悪いのではありません。Excelは、配った側が形を守らせる仕組みを持っていないだけです。
kintoneに移すときに効くのは、この「形を守らせる」部分です。必須項目、選択肢、入力できる文字の種類。何を標準機能で縛れるかはkintoneの教科書 7章 入力チェックにまとまっています。
回答のレコードを、全課ぶん先に作っておく
この記事で最も伝えたいのがここです。
kintoneで照会を回すとき、各課に「新しいレコードを追加して回答してください」とすると、Excelのときと同じ問題が残ります。回答していない課は、レコードが存在しないので画面に出てきません。
| 作り方 | 未回答の課はどう見えるか |
|---|---|
| 各課にレコードを追加させる | 出てこない。 名簿と突き合わせないと分からない |
| 照会を作った時点で、全課ぶんの空レコードを先に作る | 未回答のステータスのまま一覧に残る。そのまま催促の一覧になる |
先に作っておけば、「未回答」で絞った一覧が、そのまま催促リストになります。 担当者がやることは、その一覧を見て声をかけるだけです。名簿を別に持つ必要がなくなります。
アプリの形は2つに分けます。
| アプリ | 1レコードの単位 | 持つもの |
|---|---|---|
| 照会 | 1件の照会 | 件名、担当課、依頼日、締切、目的、根拠 |
| 回答 | 1件の照会 × 1課 | 照会、回答課、回答者、回答日、回答内容、ステータス |
2つに分ける理由と、つなぎ方の考え方はkintoneの教科書 6章 アプリ連携にあります。翌年度は、照会のレコードを複製して、回答を作り直すだけで同じ照会が回ります。前年の回答がそのまま残るので、「去年はどう答えたか」を探す作業も消えます。
自由記述を減らす。選択肢にできるものは選択肢にする
Excelの様式には、書く側が迷う欄がたくさん残っています。これをそのまま画面にすると、集計できない回答が集まります。
| 元の欄 | 変える先 |
|---|---|
| 「実施状況」(自由記述) | 選択肢:実施済/実施予定/未定/該当なし |
| 「台数」(自由記述で「約20台」と書かれる) | 数値。単位は項目名に書く |
| 「担当者」(フルネームを手入力) | 回答者の項目を自動で入れる |
| 「備考」 | 残す。ただし集計には使わないと決める |
4行目が大事です。備考を残すこと自体は構いません。備考を集計に使おうとすると、結局そこを読んで手で分類する作業が戻ってきます。 分類したいものは、選択肢の項目として先に用意してください。
「該当なし」の選択肢を必ず入れてください。これが無いと、該当が無い課は無回答と同じ状態で放置され、催促の対象として残り続けます。
他の課の回答を見せるかどうかで、返ってくる速さが変わる
kintoneに載せると、他の課の回答が見える状態を簡単に作れます。 これは照会の中身によって、効いたり逆効果になったりします。
| 照会の中身 | 締切前に他課の回答を見せるか |
|---|---|
| 事実を書くだけ(台数、件数、有無、日付) | 見せる。 書き方の見本になり、早く返る |
| 判断・方針を書く(今後の方向、課題認識) | 見せない。 先に出した課の書き方に全課が寄る |
| 個人情報を含む(相談件数の内訳など) | 見せない。 権限を照会の担当課に限定する |
3行目は権限の設計の話になります。切り方はkintoneの教科書 10章 権限設計に、自治体で先に確認することは自治体DXの教科書 6章 個人情報の扱いにあります。集計した結果を庁内のどこまで見せるかも、照会を出す前に決めてください。
国・県からの照会は、最後の転記が残る
庁内の照会には、自庁で完結するものと、国や県への回答を庁内から集めているものがあります。後者は、提出先の様式が指定されていることが多くあります。
この場合、kintoneで集めた後、指定の様式に転記する作業は残ります。 ここを無くそうとしないでください。様式は相手が決めているので、こちらの都合では変えられません。
やるのはこれだけです。
- 転記する人を1人に固定する。 全課に指定様式を配らない
- 庁内の回答は、kintoneだけで受ける。 メールでの回答を受け付けると、両方を見ることになる
- 提出先の締切から逆算して、庁内の締切を先に置く
各課に指定様式を直接配ると、様式の版が増えて集約できなくなります。 1人が転記する形のほうが、結果として早く終わります。
照会の本数そのものを、一度数える
最後に、仕組みの外の話をひとつ。自庁が年間に何本の照会を出しているかを、数えてみてください。
照会は、出す側にとっては1本ですが、受ける側にとっては全課ぶんの作業です。数えると、次の3つが見えてきます。
- 同じことを2つの課が別々に聞いている(統合できる)
- 毎年ほぼ同じ回答が返ってきている(隔年にできる、または庁内の台帳から取れる)
- 集めた後、使われていない(やめられる)
数える作業は、照会の発議文書を1年ぶん並べるだけです。仕組みに載せる前に減らせるものは、減らしてから載せてください。 減らさずに電子化すると、同じ本数の照会が速く回るだけになります。
当社が自治体の業務をkintoneで構築する場合は1業務30万円(税込33万円)、3業務パックで75万円です(自治体向けkintone構築)。庁内照会は多くの課が触る業務なので、庁内に存在を知ってもらう1件目としても向いています。三重県名張市で支援している案件にも、全庁に関わる集約の業務(会計年度任用職員の勤務報告や時間外の集計)が並んでいます。
まとめ
- 時間を食っているのは集計ではなく、催促と、形を揃え直す作業
- 照会アプリと回答アプリに分け、全課ぶんの空レコードを先に作る。未回答がそのまま一覧に残る
- 「該当なし」の選択肢を必ず入れる。無いと無回答と区別が付かない
- 自由記述を選択肢に置き換える。備考は残してよいが集計には使わない
- 事実の照会は他課の回答を見せる。判断を書く照会は締切まで見せない
- 国・県への回答は、転記する人を1人に固定する。指定様式を全課に配らない
- 載せる前に、照会の本数を1年ぶん数えて減らす
→ 自治体向けkintone構築(1業務30万円から) → 自治体DXの教科書 2章 何から始めるか|業務の棚卸し → kintoneの教科書 7章 入力チェック|標準機能でできること → 自治体のペーパーレス化|紙・Excel業務をデジタル化する具体的な方法 → 自治体のExcel台帳をどこから移すか|個人情報の重さで並べる → 自治体DX支援・地域活性化起業人
よくある質問
庁内照会をkintoneにすると、何がいちばん変わりますか
集計ではなく催促が変わります。回答のレコードを全課ぶん先に作っておくと、未回答の課がその場で一覧に出ます。Excelを配って回収する形では、出していない課は「メールが来ていない」という形でしか分からないので、名簿を別に作って突き合わせる作業が毎回発生します。
他の課の回答を、回答中に見せてもいいものですか
照会の中身によります。事実を書くだけの照会(台数、件数、有無)は見せたほうが早く返ってきます。判断や方針を書かせる照会は、先に出した課の書き方に引きずられるので、締切まで隠して締切後に公開するほうが素直な回答が集まります。どちらにするかを照会ごとに決めてください。
国や県から来た照会も、kintoneで回せますか
庁内から集める部分は回せます。ただし、提出先の様式が指定されている場合、最後にその様式へ転記する作業は残ります。転記する人を1人に固定し、庁内の回答はkintoneだけで受けてください。各課に指定様式を直接配ると、様式の版が増えて集約できなくなります。


