株式会社COTSUBU
自治体DX

自治体の電子決裁をkintoneで作る|回議ルート・合議・紙との並行運用

宇田川 将也|8分
自治体DX電子決裁kintone文書管理業務改善

島根県海士町で、紙で回っていた決裁をkintoneに載せました。作ったものそのものは自治体のkintone活用事例:海士町で作った3つのアプリに書いています。この記事は、もう一度同じものを作るとしたら、どの順番で何を決めるかです。

先に言っておくと、電子決裁でつまずくのは画面ではありません。合議と代決をどう表すか、決裁が終わったレコードをどう固定するか、紙をいつ終わらせるかの3つです。

なお、押印の扱いと文書の保存年限について、この記事は判断を書きません。 どちらも庁内の規程で決まっていることなので、確認する相手と聞き方だけを書きます。

電子決裁で消えるのは、押印の手間ではない

庁内で電子決裁の話を始めるとき、「押印をなくします」と言うと、その場で規程の話に飛んで止まります。押印は目的ではありません。

紙の回覧で本当に困っているのは、遅いことではなく、いま誰のところにあるか分からないことです。海士町でもそうでした。急ぎの案件を追いかけるために、起案した職員が各課を歩いて探すという作業が、毎回発生していました。

説明する順番を変えてください。

言い方 相手の反応
「押印をやめます」 規程の話になり、結論が出ないまま次回へ
「いまどこで止まっているかが、一覧で見えるようにします」 困っている本人が賛成する

押印の扱いは、作ると決めた後に、規程を持っている課と詰める話です。順番を逆にすると、賛成者がいないまま制度の議論だけが始まります。

そして詰めるときは、「電子決裁はできますか」ではなく「この決裁を電子で残す場合、庁内のどの規程を直す必要がありますか」と聞きます。海士町で最も時間がかかったのもここで、決裁の記録がkintone上に残ることをもって押印に代える運用を、内部規程で定める必要がありました。情報政策担当だけに聞いても答えは出ません。決裁と押印の規程を持っているのは総務・文書担当です。 聞く相手と聞き方は自治体DXの教科書 8章 庁内kintoneの型に整理してあるので繰り返しません。1点だけ足すと、規程を直すのにかかる期間を、工程表に日数で入れてください。 「規程の改正」と1行書いて日数を書かないと、構築だけ終わって半年使えない状態になります。

作る前に集める現物は3枚

会議室で仕様を書かないでください。起案の実物を見ます。

集めるもの そこから読むこと
起案用紙(かがみ)の現物 欄の数、実際に埋まっている欄と空欄のまま回っている欄
直近3か月ぶんの回議の履歴 何人を通っているか、合議がどれだけ入るか、差し戻しの頻度
決裁区分の表(専決・代決の定め) 金額や区分で決裁者がどう変わるか

2枚目が効きます。「うちは課長・部長・町長の3段階です」という説明と、実物の回議欄の数は、たいてい合いません。 合議の欄が2つ3つ付いているのが普通で、そこが設計の本体になります。

3枚目は、庁内の規程そのものです。読んで判断しようとしないでください。 「この区分のとき、誰が決裁しますか」という質問を作るために見ます。

1レコードを何と呼ぶかを、先に1文で決める

フィールドを並べる前です。1レコード=1起案なのか、1レコード=1文書なのか。

  • 1起案:起案から決裁完了までを1件として持つ。多くの庁内業務はこちらで足ります
  • 1文書:施行する文書ごとに持つ。1回の決裁で複数の文書を出す業務では、こちらが要ることがあります

決め方の考え方そのものはkintoneの教科書 5章 1レコードの決め方にあります。自治体で足すのは、文書番号をどちらが持つかという論点だけです。

決めること 確認する相手
文書番号を、このアプリで採番するか 総務・文書担当
既存の文書管理システムの番号を転記するか 総務・文書担当、情報政策担当
年度で番号をリセットするか、課ごとに分けるか 総務・文書担当

既存の文書管理システムがある庁舎では、番号は向こうが持っているのが普通です。 その場合、kintone側は「回すための道具」に徹して、番号は転記するだけにしてください。両方で採番すると、どちらが正なのかが分からなくなります。

合議と代決を、ステータスで表さない

kintoneのプロセス管理は、順番に回るものを表すのが得意です。決裁は順番に回る部分(起案→課長→部長→決裁)と、並行で回る部分(合議)が混ざっています。

紙での動き 表し方
課長→部長→決裁者と順に回る ステータスで表す。5つ以内に収める
複数の課に同時に合議する 合議先を行(サブテーブル)で持ち、確認日と結果を記録する
決裁者が不在で代決になる 作業者を個人名で固定せず、組織やグループで指定する
金額や区分で決裁者が変わる 決裁区分の項目を持ち、一覧で絞れるようにする

2行目を守らないと事故ります。合議先ごとにステータスを足すと、ステータスが10も20も増えます。増えた時点で「どこで止まっているか見える」という当初の目的が消えます。 ステータスの数え方と、作業者を個人名で固定してはいけない理由はkintoneの教科書 9章 プロセス管理と通知の設計にあります。

3行目は自治体で特に効きます。代決・専決は、人ではなく職で決まっています。 個人名で作業者を指定すると、その職員が異動した4月にルートが全部止まります(自治体DXの教科書 8章の「人事異動の月に、何が起きるか」)。

決裁が終わったレコードを、どうやって固定するか

ここが、紙と最も違うところです。 紙は押印した瞬間に物理的に固まりますが、レコードは決裁後も編集できてしまいます。

決めること 具体的にやること
決裁後は編集させない 決裁完了のステータスでは、編集の権限を外す
添付の確定版を分ける 起案時の添付と、決裁後の確定した文書を別の欄にする
誰が何を変えたかを残す 変更履歴とログを残す設定にしておく
保存年限をどう扱うか 年限の定めを総務・文書担当に確認し、過ぎた後の扱いを決める

4行目は判断を書きません。 文書の保存年限は庁内の規程で定まっているので、「この決裁の文書は何年保存ですか」「年限を過ぎたものは、どう扱っていますか」と所管課と総務・文書担当に聞いてください。探す言葉:「(自庁名)文書管理規程」「文書 保存年限 表」。

権限をステータスで切り替える作り方はkintoneの教科書 10章 権限設計にあります。

紙をいつ終わらせるか、始める前に書く

両方動いている間は、誰も困りません。 困らないので議題にならず、二重のまま数年が経ちます。

段階 状態 次に進む条件(書き方の例)
1 紙が正。kintoneは記録のために並行入力 「1か月、記録の漏れがゼロだった」
2 kintoneが正。紙は決裁後に打ち出して保存 「起案の◯割が電子で完結した」
3 紙の回覧を終える —

条件を数字で書いておけば、判断する人がいなくても条件のほうが先に来ます。 段階1を飛ばさないでください。並行入力の期間は無駄に見えますが、ここで現場が操作に慣れます。急に切り替えると現場は紙に戻ります。

対象の切り方も、最初は狭くしてください。全庁の全決裁ではなく、1つの課の、金額の小さい定型の起案からです。業務の選び方は自治体DXの教科書 2章 業務の棚卸しの点数表で決められます。

費用と、1件目にするかどうか

当社が自治体の業務をkintoneで構築する場合、1業務30万円(税込33万円)、3業務パックで75万円です。職員への操作説明を含みます。金額と進め方は自治体向けkintone構築に出しています。

ただし、電子決裁を庁内の1件目にするかどうかは、慎重に判断してください。 多くの課が触るので庁内から見えやすい一方で、規程の調整が工程に入るため、いつ動き出すかが読みにくくなります。庁内に前例がまだ1件も無い段階なら、規程が絡まない業務を先に1つ通したほうが、結果として早く進みます。

まとめ

  • 「押印をやめます」ではなく「どこで止まっているかが見えます」と説明する
  • 起案用紙・直近3か月の回議履歴・決裁区分の表の3枚を、作る前に集める
  • 1レコード=1起案か1文書かを先に決める。文書番号は既存システムがあればそちらが正
  • 合議はステータスを増やさず、行で持つ。作業者は個人名で固定しない
  • 決裁後は編集の権限を外す。保存年限は総務・文書担当に確認する
  • 紙をやめる条件を、始める前に数字で書く

→ 自治体向けkintone構築(1業務30万円から) → 自治体DXの教科書 8章 庁内kintoneの型 → 自治体のkintone活用事例:海士町で作った3つのアプリ → 自治体のペーパーレス化|紙・Excel業務をデジタル化する具体的な方法 → 自治体の庁内照会・庁内アンケートをkintoneで回す|Excelの往復をやめる → 自治体DX支援・地域活性化起業人

よくある質問

電子決裁をkintoneで作るとき、最初に決めることは何ですか

1レコードを何と呼ぶかです。1起案を1レコードにするのか、1文書を1レコードにするのかで、合議の表し方も文書番号の付け方も変わります。ここを決めずにフィールドを並べ始めると、合議が入った瞬間に作り直しになります。

合議(並行で複数の課に回す決裁)はkintoneで表せますか

表せますが、合議先ごとにステータスを増やす形にはしないでください。ステータスが増えると、どこで止まっているかが逆に分からなくなります。合議先を行で持ち、それぞれの確認日と結果を記録する形が扱いやすいです。順番に回る部分だけをステータスにしてください。

紙の決裁はいつやめればいいですか

やめる条件を、始める前に数字で書いておいてください。「起案の◯割が電子になった月の翌月から、この業務の紙の回覧を終える」という形です。条件を書かずに始めると、両方が動いている限り誰も困らないので、二重のまま何年も続きます。

宇田川 将也/ 代表取締役

2024年に総務省の地域活性化起業人として島根県海士町に着任。役場に住み込んで業務改善に従事し、kintoneで電子決裁や定期健診管理を構築しました。

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