「Excelをやめましょう」という話は、庁内では進みません。Excelは悪くないからです。 表を作る道具としては優秀で、やめる理由が現場にありません。
進むのは、「どのExcelから移すか」という聞き方に変えたときです。この記事は、庁内に散らばっているExcel台帳を並べて、移す順番を決めるためのものです。
どの業務から着手するかの決め方は自治体DXの教科書 2章 業務の棚卸しの点数表にあります。ここで扱うのは、ファイルという物理的な単位での並べ方です。Excelからの移行の技術的な手順そのものはkintoneの教科書 11章 Excelからkintoneへの移行手順にあるので、繰り返しません。
まず、3つに仕分ける
庁内のExcelをすべて移す必要はありません。最初にやるのは、移さないものを外す作業です。
| 仕分け | 中身 | どうするか |
|---|---|---|
| 移す | 複数人が入力し、溜まっていき、検索する台帳 | この記事で順番を決める |
| 触らない | 計算そのものが目的の表(見積、シミュレーション、集計のひな形) | Excelのまま使う |
| 消す | 誰も開いていない、数年前の版が残っているだけのもの | 保存年限を確認して整理する |
2行目を移そうとしないでください。 計算の途中経過を並べる作業は、表計算のほうが速く、無理に移すと使いにくくなります。
3行目は、移す作業より先に効きます。共有フォルダの中身を1度並べるだけで、対象は目に見えて減ります。 ただし、消す前に保存年限の扱いを総務・文書担当に確認してください。
個人情報の重さで、3段階に並べる
移す順番は、個人情報の重さで決めます。 これは当社の決めごとで、自治体DXの教科書 2章の点数表でも「個人情報の軽さ」を軸のひとつにしています。理由は、重い台帳を1件目にすると、設計と庁内の協議が同時に走り、いつ終わるか読めなくなるからです。
| 段階 | よくある台帳 | 扱い |
|---|---|---|
| 軽い(個人情報をほぼ含まない) | 公用車の運行、備品・貸与品、会議室・施設の予約、施設の点検、入札案件、消耗品の発注、庁内照会の回答 | 1件目はここから |
| 中(氏名・連絡先を含む) | 研修の受講、審議会委員や団体の名簿、イベントの申込、補助金の交付先、空き家バンクの相談 | 2件目以降。権限を切って扱う |
| 重い(特に配慮が要る情報を含む) | 健診・保健の記録、福祉・こども・高齢分野の相談記録、支援の記録、各種の援助・給付の台帳 | 庁内に実績ができてから。設計と協議を先に |
この並びは「重いものは扱えない」という意味ではありません。 当社は島根県海士町で健康福祉課の定期健診の対象者管理を構築しています。これは健診の情報を扱う業務です。ただし、閲覧権限を担当課に限定し、操作ログを残し、外部に公開するビューを作らないという設計を着手前に決めたうえで進めました。
重い台帳に着手するときに先に済ませることは、自治体DXの教科書 6章 個人情報の扱いの6つの問いにまとまっています。 判断するのは所管課と個人情報保護の担当であって、現場でも事業者でもありません。
同じ重さなら、次は「何人が開いているか」で決める
軽い台帳が10も20も並んだとき、どれから手を付けるか。開いている人数で決めてください。
| そのExcelの使われ方 | 移したときの効き方 |
|---|---|
| 複数の課の職員が、同じファイルを順番に開いている | 最も効く。 排他の待ち、版の増殖、上書き事故がまとめて消える |
| 1つの課の複数人が開いている | 効く。入力の形を揃えられる |
| 1人が自分の端末で管理している | 後回しでよい。 本人が困っていないことが多い |
1行目の台帳は、「いま◯◯さんが開いています」という表示が毎日出ている状態です。公用車、備品、会議室の予約など、全庁が使う台帳がここに当たります。
3行目を先にやりたがる相談は多いのですが、1人で完結している台帳は移しても効果が見えません。 そして、その1人が異動すると台帳ごと止まります。移すべきではあるのですが、1件目にすると庁内に価値が伝わりません(自治体DXの教科書 2章の「隣の課から見えるか」)。
移す前に、その台帳の持ち主を確定させる
ここが抜けると、移した後に誰も更新しなくなります。
| 確認すること | なぜ |
|---|---|
| 直す権限を持っているのは誰か | 台帳の所管が課として決まっているか、個人に紐づいているか |
| 元データをどこから取っているか | 基幹システムから出力したものか、手で入れているものか |
| どこに置いてあるか | 共有フォルダか、個人フォルダか、個人の端末か |
| 他の台帳と重複していないか | 同じ人・同じ物を、2つの課が別々に管理していることがある |
3行目が「個人の端末」なら、移す前に共有の場所へ出す作業が先です。個人の端末にしかない台帳は、その時点で引き継ぎができない状態にあります。
2行目も重要です。基幹システムから出力したものを加工している台帳は、基幹との線を1行で書いてから移してください。線の書き方は自治体DXの教科書 8章にあります。これを書かないまま移すと、重複投資に見えて監査で問われます。
移せない、移さないほうがよいExcelの見分け方
点数に関係なく外すものです。
| 外すもの | 理由 |
|---|---|
| 法令や国・県が様式を指定している帳票 | 様式を変えられない。移しても最後に転記が残る |
| 基幹システムの中で完結している業務の控え | 重複する。基幹の外に出ている部分だけを対象にする |
| 年に1回しか使わない集計表 | 覚える前に1年空く。Excelのほうが速い |
| 直近に制度改正が予定されている台帳 | 作り直しになる。改正の中身が固まってから |
| 表の形が壊れているもの(セル結合、1件が複数行、年度ごとにシートが分かれている) | 移せないのではなく、直してから移す。 直す作業のほうが本体になる |
5行目は、外すのではなく見積りの話です。セルが結合され、1件が2行3行に分かれ、シートが年度ごとに30枚ある台帳は、そのままでは取り込めません。表の形を直す作業が先に発生します。 横に長い表を縦に組み替える手順はkintoneの教科書 11章にあります。
この作業を職員が自分でやると、その課の理解が一気に進みます。 外に丸投げできる作業ですが、1件目だけは一緒にやることをおすすめしています。
移した後も、Excelは残る
Excelをゼロにする計画を立てないでください。 残る場所があります。
| 残る場所 | 扱い |
|---|---|
| 国・県への提出(指定様式) | 書き出して転記する。転記する人を1人に固定する |
| 議会・会議に出す資料 | 書き出して整形する |
| 年に1回の集計 | 書き出して計算する |
| 一時的な突き合わせ作業 | 書き出して使う。ただし書き出したファイルの扱いを決める |
4行目に注意してください。個人情報を含むファイルを書き出せる人を限り、書き出した後の扱いを決めるのが、事故を防ぐ基本です(自治体DXの教科書 6章の「事故が起きやすい6か所」)。
「Excelでの書き出しを認める」と最初に言ってください。 禁止すると、隠れてExcelが使われ、そちらが最新になります。認めたうえで、正の台帳はどちらかを1行で決めておくほうが安全です。
そして、紙とExcelをいつやめるかの条件を、始める前に数字で書いてください。 両方動いている間は誰も困らないので、条件が無いと二重のまま固定します。並行運用の終わらせ方はkintoneの教科書 11章にあります。
当社が自治体の業務をkintoneで構築する場合は1業務30万円(税込33万円)、3業務パックで75万円です。職員が自分でアプリを作れる状態まで引き上げる職員研修は3か月・4名までで60万円です(自治体向けkintone構築)。台帳を1つ移すところまでは外に出して、2つ目からは庁内で、という切り方をよくお受けしています。
まとめ
- 「Excelをやめる」ではなく「どのExcelから移すか」に聞き方を変える
- まず、移す/触らない/消すに仕分ける。計算が目的の表はExcelのまま使う
- 移す順番は個人情報の重さで並べる。軽い台帳(公用車・備品・予約・点検)が1件目
- 重い台帳は扱えないのではなく、設計と協議を先に済ませてから着手する
- 同じ重さなら、複数の課が同じファイルを開いている台帳から移す
- 移す前に、持ち主・元データ・置き場所・重複の4つを確認する
- 移した後もExcelは残る。書き出しを認め、正の台帳がどちらかを1行で決める
→ 自治体向けkintone構築(1業務30万円から) → 自治体DXの教科書 2章 何から始めるか|業務の棚卸し → kintoneの教科書 11章 Excelからkintoneへの移行手順 → 自治体のペーパーレス化|紙・Excel業務をデジタル化する具体的な方法 → 自治体の電子決裁をkintoneで作る|回議ルート・合議・紙との並行運用 → 地域活性化起業人の受け入れ支援(庁内に人ごと置く形)
よくある質問
庁内のExcel台帳は、どれから移すのがいいですか
個人情報が軽いものからです。公用車の運行、備品・貸与品、会議室の予約、研修の受講、施設の点検といった台帳は、扱う情報が軽く、多くの課が触るため庁内から見えやすく、1件目に向いています。相談記録や健診の記録のように特に配慮が要る情報を含む台帳は、庁内に実績ができてから、設計と協議を先に済ませて着手してください。
移す前に、そのExcelについて何を確認すればいいですか
持ち主です。そのファイルを直す権限を持っているのが誰か、いま何人が開いているか、元データをどこから取っているか。持ち主がはっきりしない台帳は、移した後に誰も更新しなくなります。ファイルが個人の端末や個人フォルダにある場合は、移す前に共有の場所へ出す作業が先になります。
移した後、Excelは完全になくなりますか
なくなりません。国や県へ提出する指定様式、議会や会議に出す資料、年に1回だけ作る集計表など、Excelのほうが速い作業は残ります。残す場所を先に決めてください。なくす前提で進めると、隠れてExcelが使われ、台帳とずれていきます。書き出して使う運用として認めるほうが安全です。


