自治体が出す側の補助金(住民や事業者向けの助成)は、申請の受付だけを見ると単純な業務に見えます。ところが実際に担当してみると、受付より後ろの工程で時間が溶けます。
この記事は、補助金の事務をデジタル化するときに、どこを対象にして、何を決めるかを書いたものです。住民向けサービス全般の作り方は自治体DXの教科書 10章にあるので、ここでは補助金に固有の論点だけを扱います。
なお、補助率・上限額・対象経費・根拠となる要綱の解釈について、この記事は判断を書きません。 すべて自庁の要綱で定まっていることなので、確認する相手と聞き方だけを書きます。
対象を「申請の受付」で切らない
補助金の事務は、1本の長い流れです。入口だけを電子にすると、その先で手作業が増えます。
| 工程 | 何が起きるか |
|---|---|
| 要綱・様式の準備 | 前年度の様式を直す |
| 公募・周知 | 広報、ホームページ、関係団体への案内 |
| 申請の受付 | 記入漏れ・添付漏れの確認 |
| 審査 | 要件の確認、合議、決裁 |
| 交付決定の通知 | 通知文の作成・発送 |
| 実績報告の受付 | 証拠書類の確認。ここで不備が最も多い |
| 額の確定・支払 | 確定通知、支出の手続き |
| 台帳・公表 | 交付先の一覧、翌年度への引き継ぎ |
太字の4工程が同じ台帳に載っていないと、事務は減りません。 受付だけを電子にして、審査以降をExcelと紙で回すと、担当者は画面と紙の両方を見ることになります。紙だけのときより手間が増えます。
順番としては、庁内の台帳を先に1本にして、住民が触る入口は後から開けるのが安全です。台帳が回っていれば、入口が紙のままでも事務は軽くなります。逆は成り立ちません。
先に効くのは、申請ではなく実績報告
意外に思われますが、負担が大きいのは実績報告のほうです。
申請は、要綱と様式が示されている状態で書きます。書くことが決まっているので、不備は限定的です。実績報告は違います。領収書、写真、支払の証拠、完了を示す書類。申請者の手元にあるものを揃えて出すため、不足と不鮮明が頻発します。
| 工程 | 不備の出方 | 担当者の作業 |
|---|---|---|
| 申請 | 記入漏れ、押印漏れ | その場で直せることが多い |
| 実績報告 | 添付の不足、写真が不鮮明、宛名が違う領収書 | 連絡して、再提出を待ち、また確認する |
不備の連絡と再提出の往復が、時間をいちばん食います。 そしてこの往復は、電話と個人のメールで行われるため、記録がどこにも残りません。
デジタル化で効くのは、ここです。不備の内容と連絡した日を、申請のレコードにそのまま書き込めるようにすると、次の3つが同時に片付きます。
- いま何件が「不備の連絡中」で止まっているかが見える
- 担当が変わっても、経緯が引き継げる
- 監査や議会で経緯を聞かれたときに、そのまま答えられる
様式は、電子化する前に並べて減らす
紙の様式をそのまま画面にするのが、最も多い失敗です。
当社が神奈川県藤沢市で市営住宅の空き住戸の利活用をお手伝いしたときも、まず様式を並べるところから始めました。申出書・許可申請・誓約書・許可証・更新・使用状況報告・終了届といった様式を整理し、申込と誓約を1枚にまとめ、活動の中身と収支を1枚に集約する形に再構成しています。経緯は自治体DXの教科書 10章の「様式を減らしてから電子化する」にあります。
減らす基準は1つです。「この欄が無いと決裁できないか」。 無くても決裁できる欄は、あれば便利なだけの欄です。入力するのが住民や事業者である以上、便利さよりも入力の少なさを取ってください。
様式を変えるには要綱の改正が要ることがあります。要否と手順は所管課と法規の担当に確認してください。 探す言葉は「(自庁名)(補助金名)交付要綱」「要綱 改正 手続」です。
添付書類で決める4つ
補助金は、添付が事務の中心にある業務です。先に4つ決めてください。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| どの形式を受けるか | 写真(スマートフォンで撮ったもの)を認めるか。PDFに限るか |
| 1件あたりの容量と枚数 | 上限を決めて案内に書く。上限を書かないと、出す側が困る |
| ファイル名の付け方 | こちらで決めて案内に書く。決めないと「IMG_0431」が並ぶ |
| 原本を求めるか | 要綱と会計の担当に確認する。 原本が要るなら、そこだけ窓口・郵送を残す |
4行目が分かれ目です。原本の提出が必要な書類が1つでもあると、その手続きは完全にはデジタルで完結しません。 これは設計の失敗ではなく、そういう業務だということです。完結しない前提で、どこまでを電子にするかを決めてください。
原本が要るかどうかは、ここでは判断を書きません。所管課と、会計・契約の担当に確認してください。
審査の記録は、後から監査で聞かれる
補助金は、数年後に経緯を問われることがある業務です。「なぜこの申請が採択されて、こちらは不採択だったのか」に答えられる状態を、最初から作ってください。
台帳に持たせる項目は、おおむね次のとおりです。
| 区分 | 持つもの |
|---|---|
| 申請 | 受付番号、受付日、申請者、対象事業、申請額 |
| 確認 | 要件の確認項目(チェック)、確認した職員、確認日 |
| 不備 | 連絡した日、内容、再提出を受けた日 |
| 判断 | 採択/不採択、理由、合議・決裁のルート |
| 交付決定 | 決定日、決定額、通知の発送日 |
| 実績 | 報告の受付日、確認結果、確定額、支払日 |
「確認した職員」と「確認日」を、記憶に頼らせないでください。 紙の台帳でもExcelでも、この2列は空欄のまま運用されがちです。画面上で確認のチェックを付けたときに自動で入るようにすれば、書く手間はゼロになります。
申請者の情報をどこまで庁内に見せるか、公表するのはどの範囲かは、着手前に所管課と個人情報保護の担当に確認してください(自治体DXの教科書 6章の6つの問い)。交付先の一覧を公表する補助金では、公表用の一覧を別に作り、内部の審査メモと混ぜない設計にします。
1レコードの単位と、年度をまたぐ扱い
1レコードを何と呼ぶかを、先に1文で決めます。補助金では「1レコード=1件の申請」が基本です。同じ申請者が複数年度に申請するため、申請者を1レコードにすると、年度ごとの履歴が持てなくなります。
| 持ち方 | 向き不向き |
|---|---|
| 1レコード=1申請 | 基本。 年度・回次ごとに1件。申請者は別のマスタで持つ |
| 1レコード=1申請者 | 履歴が持てない。過去の交付歴を見たい補助金では特に不向き |
申請者をマスタとして分けると、「この事業者は過去に何回交付を受けているか」が1画面で分かります。 マスタと記録を分ける考え方はkintoneの教科書 5章 1レコードの決め方にあります。
年度をまたぐ点にも注意が要ります。申請が今年度で、実績報告が翌年度になる補助金では、1件が2つの年度に載ります。年度の項目を「申請年度」と「支出年度」に分けて持つか、繰越の扱いをどう表すかを、財政担当に確認してください(自治体DXの教科書 3章 予算の取り方)。
紙と窓口を、どこまで残すか
デジタルに一本化する前提で作らないでください。 同時に、両方を永久に続ける前提でも作らないでください。
残す範囲と、やめる条件の書き方は自治体DXの教科書 10章にあります。補助金で足す論点は2つです。
- 原本が要る書類だけ、窓口・郵送を残す。 全部を残さない
- 申請の入口が紙でも、庁内の台帳は1本にする。 窓口で受けた申請も、職員が同じ台帳に入れる
2つめを守ると、入口が何通りあっても、進捗と残件は1画面で見られます。
当社が自治体の業務をkintoneで構築する場合は1業務30万円(税込33万円)、3業務パックで75万円です(自治体向けkintone構築)。補助金は、庁内の台帳を1本にするところから始めれば、1業務として切り出せます。
まとめ
- 受付だけを電子にしない。審査・交付決定・実績報告・額の確定まで同じ台帳に載せる
- 負担が大きいのは申請より実績報告。不備の連絡と再提出の往復を記録できる形にする
- 様式は電子化の前に並べて減らす。基準は「この欄が無いと決裁できないか」
- 添付は形式・容量・ファイル名・原本の要否の4つを先に決める。原本が要るなら完結しない前提で作る
- 「確認した職員」と「確認日」を必ず残す。後から経緯を聞かれる業務
- 1レコード=1申請。申請者はマスタに分ける。申請年度と支出年度のずれを財政担当に確認する
→ 自治体向けkintone構築(1業務30万円から) → 自治体DXの教科書 10章 住民向けサービス|申請・予約・通知 → 自治体DXの教科書 6章 個人情報の扱い|目的外利用・匿名加工 → 自治体DX支援・地域活性化起業人 → 自治体の施設予約・貸出管理をkintoneで作る → 地域活性化起業人の受け入れ支援(庁内に人ごと置く形)
よくある質問
補助金の申請受付だけを先に電子化してもいいですか
おすすめしません。受付だけを電子にすると、そこから先の審査・交付決定・実績報告・額の確定が手作業のまま残り、担当者は画面と紙の両方を見ることになります。紙だけのときより手間が増えます。受付から支払までの流れを1本の台帳に載せてから、住民が触る入口を開けてください。
補助金のどの工程がいちばん事務の負担になりますか
多くの場合、申請ではなく実績報告です。申請は要綱と様式が示されている状態で書きますが、実績報告は領収書や写真など証拠書類を揃える必要があり、不備が出やすくなります。不備の連絡と再提出の往復が、担当者の時間をいちばん食います。
審査の記録はどこまで残せばいいですか
誰が、いつ、何を確認し、どう判断したかが後から追える形にしてください。不備の連絡をした日と内容、再提出を受けた日も含みます。補助金は後から監査や議会で経緯を聞かれる可能性がある業務なので、担当者の記憶と個人のメールの中にしか残っていない状態を避けてください。


