株式会社COTSUBU

CHAPTER 10

自治体の住民向けサービス|申請・予約・通知

この章で分かること

  • 住民向けを作る前の6つの問いと、やめる判断
  • 様式を減らしてから電子化する順番と、受け付けた後の事務の作り方
  • 紙・窓口を残す範囲と、片方を止める条件の書き方
この章の目次(10)
  1. 1庁内業務と、3つ違う
  2. 2作る前に答える6つの問い
  3. 3様式を減らしてから電子化する
  4. 4受け付けた後の事務を、同時に作る
  5. 5時間がかかる工程を、先に置く
  6. 6説明する相手は、住民だけではない
  7. 7紙と窓口を、いつやめるか先に書く
  8. 8通知は「届いた」ではなく「読まれた」で見る
  9. 9よくある間違いを5つ
  10. 10この章の出口

住民向けのサービスは、庁内の業務改善と別の判定が要ります。使う人が職員ではないからです。 職員は業務命令で使いますが、住民は使わない自由があります。作っても使われなければ、窓口と二重になるだけです。 この章は、作る前に「使われるか」を判定し、受け付けた後の庁内事務まで同時に設計するための章です。

この章で分かること

  • 住民向けを作る前の6つの問いと、やめる判断
  • 様式を減らしてから電子化する順番と、受け付けた後の事務の作り方
  • 紙・窓口を残す範囲と、片方を止める条件の書き方

庁内業務と、3つ違う

庁内の業務改善がうまくいった団体ほど、その勢いで住民向けに進みたくなります。手順も道具も同じに見えるからです。ところが、ここで一度つまずく団体が多くあります。つまずきの原因は技術ではなく、成功の条件が入れ替わっていることに気づかないまま進めることです。

庁内の業務改善では、多少使いにくくても使われます。職員は業務としてその作業をするので、慣れるまで我慢してくれますし、分からなければ隣の席に聞けます。だから、作りながら直していく進め方が成り立ちます。住民向けはそうなりません。分かりにくければ、その場で離脱して窓口に電話がかかってきます。作った側には、離脱したことすら見えません。

もうひとつ、失敗したときの後始末が違います。庁内のアプリが使われなければ、閉じれば終わりです。住民向けは、一度公開したものを閉じるのに説明が要ります。広報に載せ、窓口で案内し、場合によっては議会でも触れたものを、数か月で引っ込めるのは簡単ではありません。だから、作る前の判定をこの章で重く扱っています。

庁内の業務改善 住民向けサービス
使う人 職員。毎日使う。慣れる 住民。年に1回使うかどうか。慣れない
使われなかったとき 業務命令で使わせられる 窓口と二重になり、事務が増える
作る範囲 アプリだけで足りることがある 受け付けた後の庁内の事務まで作らないと終わらない

3行目が、最も多い失敗の形です。 オンラインで受け付ける入口だけを作ると、受け付けた後は職員が手で処理することになり、紙より手間が増えます。 入口と事務は必ずセットで作ってください。

なお、サイトそのものの作り方はサイト制作の教科書に譲ります。 構成と導線は5章、フォームやサーバーの実装で決めることは8章、公開前の受入検査は9章です。LINEで通知や予約を受ける場合の設計はLINEの教科書 6章・8章にあります。同じ表を2冊に書きません。

作る前に答える6つの問い

この6つに答えられないうちは、作らないでください。

# 問い なぜ聞くか
1 誰が使うか 年齢層・使う場所・使う端末。高齢の方が中心なら設計が変わる
2 年に何回使われるか 回数が少ないものは覚えられない。窓口のほうが速いこともある
3 今はどうやっているか 来庁か、郵送か、電話か。何が面倒なのか
4 期限があるか 期限のある手続きは使われやすい。任意のものは使われにくい
5 本人確認・添付・手数料が要るか 要るほど、デジタルで完結しにくくなる
6 受け付けた後、庁内で誰が何をするか ここが設計できないなら、まだ作らない

この6つは、順番に答えていく形で使ってください。上から下へ、だんだん答えにくくなるように並べています。1と2は数えれば分かります。3と4は所管課に聞けば分かります。5と6は、関係する担当と話さないと答えが出ません。つまり、下に行くほど庁内の調整が要る、という並びです。

答えが出ない問いが1つでもあるなら、その時点で立ち止まってください。とくに6番が空欄のまま着手すると、この章の冒頭で書いた「入口だけができる」状態に必ずなります。6番は、作る側ではなく受ける側の話なので、所管課が自分ごととして考えていないと埋まりません。埋まらないということ自体が、まだ所管課が本気で困っていない、という判定にもなります。

2の「年に何回」が判定の軸です。 年に1回しか使わない手続きは、住民が使い方を覚えません。毎年決まった時期に全員が出すもの(施設の利用申込、イベントの申込、報告書の提出など)は使われやすく、一生に数回のものは窓口のほうが確実です。

5は、判断ではなく確認の項目です。本人確認の方法、添付書類の扱い、手数料の納付の方法は、その手続きの根拠となる法令・要綱と、自庁の運用で決まります。所管課と、必要なら法規・会計の担当に確認してください。 この本では判断を書きません。

探す言葉:「(手続き名)オンライン化 手順」「行政手続 オンライン 本人確認」「(自庁名)電子申請 運用」。

様式を減らしてから電子化する

紙の様式をそのまま画面にするのが、最も多い失敗です。 紙の様式には、紙だからこそ必要だった欄が残っています。

順番はこうです。

順 やること
1 様式を並べる。 同じことを2枚に書かせていないか
2 項目を減らす。 庁内で分かる情報を書かせていないか
3 1枚にまとめられるものをまとめる
4 そのうえで電子化する

当社が神奈川県藤沢市で市営住宅の空き住戸の利活用をお手伝いしたときも、この順で整理しました。他団体の要綱には申出書・許可申請・誓約書・許可証・更新・使用状況報告・終了届など7〜8種の様式がありましたが、申込と誓約を1枚にまとめ、活動の中身と収支を1枚に集約して、申請から採択・実施・終了までが7枚で回る形に再構成しています。

減らさずに電子化すると、入力項目の多い画面ができ、途中で離脱されます。 減らす作業は、電子化の前にやってください。

この順番を飛ばすと、たとえばこうなります。施設の利用申込をオンライン化するときに、30以上の欄がある紙の様式を、そのまま入力画面にする。動作は問題ありません。ところが公開から数か月たっても、オンラインでの申込はごくわずか。窓口に来た人に聞くと、「途中で分からなくなってやめた」という答えが返ってきます。

様式を見直すと、庁内の台帳を見れば分かる項目や、同じ内容を2か所に書かせている欄が見つかることがよくあります。それを減らして作り直せば、技術的な作業は最初に作ったときとほとんど変わりません。違うのは、減らす作業を先にやったかどうかだけです。

この順番を飛ばしたくなる理由は、減らす作業に決裁が絡むからです。様式を変えるには所管課の合意が要り、場合によっては要綱の改正も要ります。電子化そのものより面倒に見えます。それでも先にやってください。電子化してから様式を変えると、画面も作り直しになり、二度手間になります。

減らす範囲で迷ったら、「この欄が無いと決裁できないか」を基準にしてください。無くても決裁できる欄は、あれば便利なだけの欄です。便利さのために入力を1つ増やすかどうかは、入力する人が職員か住民かで答えが変わります。住民に入力させる場面では、減らす側に倒してください。

受け付けた後の事務を、同時に作る

入口だけを作ると、職員の手作業が増えます。受け付けた後の流れを、先に書いてください。

決めること 中身
誰が最初に見るか 受付の担当。届いたことに気づく仕組み(通知)
何を確認するか 記入漏れ、添付、要件の充足
不備のときどうするか 連絡の方法。差し戻すのか、電話で聞くのか
決定までに誰を通るか 合議の相手、決裁のルート
住民にいつ何を返すか 受付の返信、決定の通知、期限
記録をどこに残すか 台帳。翌年度の担当が見られる場所

この6つを書いた紙が、庁内の事務要領になります。 藤沢市では、対外向けの募集要項(ガイドライン)と、庁内向けの事務要領を、役割を分けて別に作りました。 募集要項は住民・事業者が読むもの、事務要領は職員が手順どおり進めるためのものです。

事務要領には、担当が変わっても同じ手順で進められることを目的だと明記してください。 自治体では、これが引き継ぎの本体になります(9章)。

時間がかかる工程を、先に置く

住民向けの手続きには、自庁の判断だけでは進まない工程が混じります。そこが全体の律速になります。

藤沢市の事務要領では、相談の受付から終了までを11段階で整理し、そのうち時間がかかる2段階(庁内・自治会との事前協議と、国の承認)を明示しました。 国の承認には1〜2か月かかるため、使用開始の希望日から逆算してスケジュールを組むという形にしています。

先に置くもの 確認すること
外部の承認・協議が要る工程 誰に、いつ出し、どれだけかかるか
庁内の合議・決裁 何人を通るか。夏季休暇・年度末で止まらないか
地域への説明 自治会・関係団体への説明の場。日程が取れるか
告示・公表の時期 広報紙の締切、ホームページの公開の手続き

「日数の見込みが分からない工程」を放置したまま公開日を決めないでください。 5章で情報政策担当に「手続きにどれだけかかるか」を先に聞くのと同じ理由です。

説明する相手は、住民だけではない

住民向けのサービスや事業は、使う人だけに説明しても進みません。 地域の団体、自治会、関係する事業者にも説明の場が要ります。

藤沢市の案件では、自治会・近隣の住民向けの説明資料を別に作りました。そこに書いたのは、次の5つです。

書いたこと なぜ要るか
なぜ市が取り組んでいるのか(経緯) 唐突に見えると反対の理由になる
なぜこの場所なのか 「うちの近くである理由」に答える
何をするのか(活動・時間) 想像で補われるのを防ぐ
周りにどう影響するか(工事・人数) 心配の中身を具体的にする
苦情・意見の連絡先 言う先があること自体が安心になる

5つめを必ず入れてください。 連絡先が書いていない説明は、説明した実績にはなっても、納得にはなりません。

紙と窓口を、いつやめるか先に書く

デジタルに一本化する前提で作らないでください。 使えない人が必ずいます。同時に、両方を永久に続ける前提でも作らないでください。 事務が二重のまま固定します。

決めること 書き方の例
残す範囲 「窓口と郵送は当面残す。オンラインは選択肢として追加する」
やめる条件 「オンラインの利用が申込全体の◯割を超えた年度の翌年度から、郵送を終える」
やめないと決める場合 「窓口は残す。理由:本人確認と相談が同時に必要なため」
使えない人への手当て 窓口での代理入力、電話での受付、支所での対応

この表は、公開の前に埋めてください。公開してから決めようとすると、決める人がいなくなります。オンラインを始めた時点では、紙をやめる話は誰にとっても急ぎません。窓口も郵送も動いているので、困っている人がいないからです。困っていないことは、庁内では議題になりません。そうして数年たつと、二重の事務が当たり前の状態として固定します。

条件を数字で書いておけば、判断する人がいなくても条件のほうが先に来ます。「◯割を超えた年度の翌年度から」と書いてあれば、その年度に誰かが気づきます。書いていなければ、誰も気づきません。この違いだけです。

「やめる条件」を数字で書いておくのが肝です。 条件が無いと、判断する人がいないまま二重の事務が続きます(2章の点検11と同じ考え方)。

やめない、という判断も正しい判断です。 ただし理由を書いてください。書いてあれば、次の担当が蒸し返さずに済みます。

通知は「届いた」ではなく「読まれた」で見る

通知をデジタルにするときは、送った数ではなく、読まれた数と、その後の行動で見てください。

見る数 見方
送った数 成果ではない
読まれた数 開封・閲覧の記録が取れる手段か
その後の行動 申込・来庁・返信につながったか
問い合わせの件数 減っていれば効いている。増えていれば分かりにくい

問い合わせの増減が、いちばん素直な指標です。 電話が減ったかどうかは、担当課が体感で答えられます。計測の考え方そのものは計測の教科書にあります。

個人情報を含む通知(個別の決定、健診の案内など)は、手段の選択そのものが協議の対象になります。 6章の6つの問いに戻ってください。

よくある間違いを5つ

「窓口の手続きをそのまま画面にする」 ——紙だから必要だった欄が残り、入力項目の多い画面になって離脱されます。直し方:様式を並べ、項目を減らし、まとめてから電子化する。減らす作業を先にやる。

「入口だけ作る」 ——受け付けた後は職員が手で処理することになり、紙より手間が増えます。直し方:受け付けた後の6つ(誰が見る・何を確認・不備の扱い・決裁・住民への返し・記録)を先に書く。それが庁内の事務要領になる。

「年に1回の手続きから始める」 ——住民が使い方を覚えず、窓口と二重になります。直し方:毎年決まった時期に全員が出すものから始める。回数を数えてから決める。

「デジタルに一本化する計画を立てる」 ——使えない人が残り、現場が戻ります。直し方:当面は併存させる。ただし「やめる条件」を数字で先に書く。やめないなら理由を書く。

「説明したことを実績にする」 ——説明会を開いても、連絡先が無ければ納得になりません。直し方:経緯・場所の理由・中身・影響・連絡先の5つを資料に入れる。苦情と意見の宛先を明記する。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 6つの問いの答え(特に「年に何回使われるか」と「受け付けた後の事務」)
  2. 2つの文書(対外向けの案内と、庁内向けの事務手順。担当が変わっても同じ手順で進められる形)
  3. 12項目の○×(必須3項目がすべて○)

庁内も、住民向けも、進め方は揃いました。ここまでを回すには人が要ります。自治体の中だけで足りないとき、外から人を入れる方法があります。ただし、入れること自体は成果ではありません。 選び方と、使い方を決めます。

次の章へ:11章 自治体の外部IT人材と地域活性化起業人

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:住民向けサービス(12項目)

作ると決める前に、所管課と一緒に通します。

# チェック項目 合格ライン
1 使う人を具体的に書いた 年齢層・使う場所・使う端末が書いてある
2 今どうやっているかを書いた 来庁・郵送・電話のどれか。何が面倒かが1行で書ける
3 年に何回使われるかを数えた 件数と時期が書いてある(推測ではなく実績)
4 本人確認・添付・手数料の扱いを所管課に確認した 確認した日付と相手の氏名がある
5 様式を並べて、項目を減らした 減らす前と後の枚数・項目数が分かる
6 対外向けの案内と、庁内向けの事務手順を分けて作った 2つの文書がある
7 受け付けた後の6つを書いた 誰が見る・何を確認・不備の扱い・決裁・住民への返し・記録
8 時間のかかる工程を洗い出し、日数を工程に入れた 外部の承認・合議・地域への説明・告示の時期
9 紙・窓口を残す範囲と、やめる条件を決めた やめる条件が数字で書いてある(やめない場合は理由)
10 使えない人への手当てを決めた 窓口での代理入力・電話・支所のどれか
11 個人情報の扱いを6章の6つの問いで確認した 協議の記録がある
12 何を数えるかを決めた 読まれた数・その後の行動・問い合わせの増減

合格ライン=12項目中10以上。ただし 3・7・9 のどれかが×なら着手しない。

  • 3が×:使われるかどうかの判定ができていません。回数の少ない手続きは、窓口のほうが速いことがあります
  • 7が×:入口だけができて、事務が増えます。紙より手間がかかる状態になります
  • 9が×:二重の事務が固定します。やめる条件を決める人が、後からは現れません

4・11 は、個人情報や本人確認が絡まない手続き(施設の空き状況の公開など)では、確認した記録があれば○として構いません。

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更新日 2018年10月20日