CHAPTER 08
CMS・サーバー・ドメインの決め方
この章で分かること
- CMSで自社が触ってよい範囲の決め方(「管理画面から全部」が×である理由)
- フォームの送信先・保管・自動返信の決め方と、届かないフォームが生まれる仕組み
- ドメインとサーバーの名義、速度の合格ライン(数字)、更新作業を誰が持つか
この章の目次(9)
- 1発注側が実装で決めるのは5つだけ
- 2CMS:触ってよい範囲を、項目名で書く
- 3フォーム:この章で一番事故が多い場所
- 4ドメインとサーバー:名義と金額
- 5速度とスマホ:数字で合格を決める
- 6セキュリティとバックアップ:担当を名前で決める
- 7頼まないほうがよい実装
- 8よくある間違いを5つ
- 9この章の出口
実装で発注側が決めることは、技術の選択ではありません。「誰が、どこを、どうやって触るか」の割り振りです。 WordPressにするかどうか、どのサーバーを使うかは、制作側が決めればよいことです。発注側が決めないと誰も決められないのは、更新できる範囲・フォームの届き先・契約名義・速度の合格ライン・更新作業の担当の5つだけです。 この章は、その5つを○×の付く形にし、公開後に「触れない」「届かない」「止まった」が起きない状態で実装に入るための章です。
この章で分かること
- CMSで自社が触ってよい範囲の決め方(「管理画面から全部」が×である理由)
- フォームの送信先・保管・自動返信の決め方と、届かないフォームが生まれる仕組み
- ドメインとサーバーの名義、速度の合格ライン(数字)、更新作業を誰が持つか
発注側が実装で決めるのは5つだけ
2章で埋めた5枚の表を、そのまま実装の仕様に落とします。追加で決めるのは次の5つです。
| 決めること | 決めないと起きること | 決めるのは誰か |
|---|---|---|
| 自社で更新できる項目 | 公開後に「その欄は触れません」と言われる | 発注側(表3から) |
| フォームの送信先と保管 | 問い合わせが届かない・個人情報の置き場所が不明 | 発注側 |
| ドメインとサーバーの名義 | 制作会社と連絡が取れなくなった瞬間に全部失う | 発注側 |
| 速度の合格ライン | 「重い」「いや普通です」の水掛け論になる | 発注側(数字で) |
| 更新作業(CMS本体・プラグイン)の担当 | 放置され、改ざんの対象になる | 発注側と制作側の取り決め |
技術の指定は不要です。 「Next.jsで作ってほしい」「◯◯というプラグインを使ってほしい」と指定すると、後で直せる会社が減ります。指定してよいのは、社内に触れる人がいる場合だけです。
CMS:触ってよい範囲を、項目名で書く
2章の表3で「CMSを入れる」と決めた場合、次に決めるのはどこを入力欄にするかです。ここを曖昧にしたまま納品されると、必ずどちらかになります。触れなさすぎるか、触れすぎて壊すかです。
| 触り方 | 対象になる項目 | 壊れるか |
|---|---|---|
| 専用の入力欄で更新する | お知らせ・実績・社員紹介・価格・よくある質問 | 壊れない(推奨) |
| 文章だけ書き換える | 各ページの本文 | ほぼ壊れない |
| レイアウトを自由に組める | トップページの構成 | 壊れる。渡さない |
| テーマ・プラグインの設定 | サイト全体 | 壊れる。渡さない |
仕様書に書く形は「管理画面から更新できます」ではなく、項目名の一覧です。
お知らせ(タイトル・日付・本文・画像1枚)/実績(業種・課題・やったこと・結果・写真3枚まで)/社員紹介(氏名・部署・写真・コメント)/価格(金額のみ)
当社は更新頻度の高い項目だけを専用の入力欄にし、ページ構成やデザインは触らせない形で作ります。プラグインを増やさない作りにするのも同じ理由で、プラグインが多いほど、更新のたびに壊れる確率が上がるからです(WordPress構築 80万円〜・2ヶ月〜)。
操作説明の予定も、この段階で書面にしてください。 当社は公開前に1時間ほど操作説明を行い、手順書も渡します。手順書が無いまま納品されると、担当者が代わった瞬間に更新が止まります。
フォーム:この章で一番事故が多い場所
問い合わせが届かないサイトは、珍しくありません。フォーム自体は動いていて、送信完了画面も出るのに、メールだけが届かないという壊れ方をするためです。原因はたいてい次のどれかです。
| 原因 | 起きること | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| 送信先が制作側のテスト用アドレスのまま | 発注側に1件も届かない | 本番の宛先を書面で指定する |
| 送信先が個人のアドレス1つだけ | その人が休むと止まる。退職で消える | 共有アドレス+個人の2か所にする |
| 迷惑メールに入る | 届いているのに気づかない | 公開前に実送信し、迷惑メールも見る |
| 自動返信の文面が仮のまま | 会社名や署名が違う状態で客に届く | 文面を発注側が確認する |
| 受信側で誰も対応を持っていない | 届いても返信されない | 対応する担当者名を決める |
決めるのは4つです。
| 決めること | 合格の状態 |
|---|---|
| 必須項目 | 「無いと返信できないもの」だけ。数が決まっていて、理由が言える |
| 送信先 | 届くメールアドレス(共有+個人)と、対応する担当者名 |
| 自動返信 | 出す/出さない。出すなら文面と、返信までの日数が書いてある |
| データの保管先と期間 | 管理画面に残すのか、メールだけか。何年置くか |
4つ目を飛ばさないでください。 フォームを置く以上、氏名・連絡先という個人情報を預かります。「どこに何年置いて、誰が消すか」を決めていないと、退職者のメールボックスの中だけに顧客情報が残ります。管理画面に保存する設定なら、保存期間と削除の担当も決めます。
必須項目は少ないほど送信されます。会社名・氏名・メールアドレス・用件の4つで足りることがほとんどです。電話番号を必須にすると送信数は落ちますが、電話で返したい業種なら合理的です。増やす/減らすの判断は「返信できるか」だけで決めてください。
ドメインとサーバー:名義と金額
| 項目 | 決めること | 当社の勧め |
|---|---|---|
| ドメインの契約名義 | 誰の名義で契約するか | 発注側の名義。 管理の代行は可 |
| ドメインの年額 | いくらか、支払いは誰か | .jp や .com で年数千円程度が一般的 |
| サーバーの契約名義 | 誰の名義か | 発注側の名義 |
| サーバーの月額 | いくらか | 共用サーバーなら月1,000円台で足りることがほとんど |
| 管理画面のID | 誰が持つか | 発注側が持ち、制作側にも渡す |
名義が制作会社にあると、その会社と連絡が取れなくなった時点で、サイトとメールを同時に失います。 これは技術の問題ではなく契約の問題なので、後から直すには相手の協力が要ります。実装に入る前に確認してください(4章の点検リスト5と同じ項目です)。
メールも同時に確認します。サイトとメールが同じサーバーで動いている場合、サーバーを移すとメールも止まります。 10章の切り替えで最も損害が大きい事故がこれです。今の構成を先に把握しておきます。
速度とスマホ:数字で合格を決める
「速いこと」は仕様になりません。次の3つの数字を仕様に書きます。
| 指標 | 合格ライン | 何の速さか |
|---|---|---|
| LCP | 2.5秒以下 | 主要な内容が表示されるまで |
| INP | 200ms以下 | 押してから反応するまで |
| CLS | 0.1以下 | 表示中にレイアウトがずれない |
測るのは PageSpeed Insights で、見るのはモバイルの実データです。公開直後は実データが無いため、その場合はラボのスコアで代用し、公開30日後にもう一度測ります。測り方と、画像・サーバー側の具体的な直し方は SEOの教科書2章に譲ります。 同じ表を2冊に書きません。
スマホ対応は「スマホ用のページを別に作る」ことではありません。同じURLで、画面の幅に合わせて表示が変わる形にします。確認は実機で行います(9章)。
セキュリティとバックアップ:担当を名前で決める
| 決めること | 合格の状態 | 決めないと |
|---|---|---|
| HTTPS | 鍵マークが出る。証明書の更新方法が決まっている | 「保護されていない通信」と出て、フォームが送られない |
| バックアップの頻度 | 日次か週次か。どこに残るかも | 壊れた日に戻せない |
| 復旧の手順と担当 | 誰が、何分で戻すか | 誰も戻せないバックアップになる |
| CMS本体・プラグインの更新 | 担当者名か、保守契約の範囲に書いてある | 改ざんの対象になる |
| 問い合わせ窓口 | 障害時に連絡する先と、受付時間 | 落ちた夜に連絡先が分からない |
バックアップは「取っている」だけでは不合格です。 戻せることを1回試して初めて○になります(12章の点検リスト6で、実際に試した日付を求めています)。
更新の担当は、保守契約に含めるか自社で持つかの二択です。自社で持つなら、月1回の更新作業を誰かの業務として決めます。「気づいた人がやる」は、誰もやらないのと同じです。
頼まないほうがよい実装
制作側に頼まず、既製のサービスで足りるものがあります。作り込むほど、直せる人が減ります。
| やりたいこと | 作り込む前に | 判断 |
|---|---|---|
| 予約を受け付けたい | 予約サービスを埋め込む | 月数千円で足りるなら、作らない |
| 決済したい | 既製のECサービスを使う | 決済とセキュリティを自前で持つ理由が無ければ、作らない(3章) |
| 会員機能が欲しい | 使う人の名前が言えるか | 言えないなら作らない |
| 多言語にしたい | 問い合わせが来ているか | 来ていないなら後回し |
| チャットを置きたい | 応答する人がいるか | いないなら置かない(無人のチャットは信用を下げる) |
判断の基準は2章の表4と同じです。「使う人の名前と、運用する人の名前が言えるか」。 言えない機能は、作った日が一番きれいな日になります。
よくある間違いを5つ
「管理画面から全部更新できるようにしてほしい」 ——全部触れる状態は、全部壊せる状態です。レイアウトを崩した状態で数日公開されることがあります。直し方:更新したい項目を名前で挙げる。挙げた項目だけを入力欄にしてもらう。
「フォームは動いているから大丈夫」 ——送信完了画面が出ることと、メールが届くことは別です。テスト用の宛先のまま公開された例は実際にあります。直し方:公開前に、発注側が自分で実送信する(9章の必須項目3)。届いた/自動返信が来た/文面が正しい、の3つを確認する。
「サーバーは制作会社に任せる」 ——任せるのは管理であって、名義ではありません。名義まで渡すと、契約の更新も移転も相手の同意が要ります。直し方:名義は自社、管理は代行、のセットにする。請求書の宛名で確認できる。
「速いかどうかは見れば分かる」 ——作る側の回線と端末では速く見えます。読み手は電波の悪い場所でスマホから開きます。直し方:PageSpeed Insights のモバイルで測り、LCP 2.5秒以下を仕様に書く。数字なら揉めない。
「プラグインで機能を足せばいい」 ——足すほど、更新のたびに壊れる確率が上がり、脆弱性の入口も増えます。公開後に「更新すると壊れるので更新しない」状態になると、最悪です。直し方:プラグインを足す前に、使う人と運用する人の名前を言う。言えないものは足さない。
この章の出口
この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。
- 更新できる項目の一覧(項目名で書かれていて、触ると壊れる場所と分かれている)
- フォームの4点(必須項目・送信先・自動返信・保管先と期間)
- 名義と数字(ドメイン・サーバーの契約名義、速度の合格ライン、更新作業の担当名)
ここまでで「決める」と「作る」が終わりました。次は出す工程です。ただし、作る側が「できました」と言った時点では、まだ公開してはいけません。 発注側が自分の手で確かめる検査が要ります。この本で最もよく使われるのが、次の章です。
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:実装の仕様確認(12項目)
着手前に、見積書と仕様書を見ながら発注側だけで埋められます。
| # | チェック項目 | 合格ライン |
|---|---|---|
| 1 | 自社で更新できる項目が一覧になっている | 項目名で書いてある(「管理画面から全部」は×) |
| 2 | 触ると壊れる場所が分けてある | 更新用の入力欄と、構造を変える部分が別になっている |
| 3 | 操作説明の予定がある | 日程か、手順書の納品が書面にある |
| 4 | フォームの項目が必要最小限 | 必須項目の数が決まっていて、理由が言える |
| 5 | フォームの送信先が決まっている | 届くメールアドレスと、担当者名 |
| 6 | 送信データの保管場所と期間が決まっている | 保管先と期間が言える |
| 7 | ドメインの契約名義が自社 | 自社名義(管理代行は可) |
| 8 | サーバーの契約名義と月額が分かっている | 名義と金額が言える |
| 9 | HTTPSで表示される | 鍵マークが出る/証明書の更新方法が決まっている |
| 10 | 表示速度の合格ラインを決めた | モバイル実データで LCP 2.5秒以下・INP 200ms以下・CLS 0.1以下 |
| 11 | バックアップの頻度と復旧手順がある | 頻度と、誰が戻すかが書いてある |
| 12 | CMS本体とプラグインの更新を誰がやるか決まっている | 名前か、保守契約の範囲に書いてある |
合格ライン=12項目中10以上。ただし 5・7・12 は必須。
- 5が×:問い合わせが届きません。サイトを作った意味が無くなります
- 7が×:サイトごと人質になります。制作会社を変えられません
- 12が×:更新されないCMSは改ざんの対象になります。他社の踏み台にされると、自社の責任になります
更新日 2018年10月20日
