資料作成にAIを使うとき、速くなるのは「書く」時間ではありません。白紙を前に構成を考えて止まっている時間と、初稿を起こす時間です。ここは実際に短くなります。
一方で、事実確認の時間は減りません。むしろ増えます。 AIはそれらしい数字と出典を作ってしまうことがあり、確認の手順を決めないと、全体では遅くなります。
資料の種類ごとの、効き方の違い
| 資料 | AIが効くところ | 効かないところ |
|---|---|---|
| 営業提案書 | 構成、課題の整理、文章の整え | 価格、実績、相手固有の事情 |
| 月次報告書 | 数字からの説明文、前月との比較の書き方 | 数字そのもの(集計は計算側で) |
| 企画書 | たたき台、対案を出させる | 判断、社内の力学 |
| 会議資料 | 論点の洗い出し、想定質問 | 結論 |
| 社内マニュアル | 手順の文章化、抜けの指摘 | 実際にやってみる検証 |
| プレスリリース | 型に沿った下書き | 事実関係、広報としての判断 |
共通しているのは、「AIは形を作る、人は中身を持ち込む」という分担です。中身(数字・実績・相手の事情)を持っていない状態でAIに書かせると、どの会社でも使える一般論が出てきます。
提案書の作り方
Step 1: 先に材料を集める
AIに渡す前に、次を箇条書きで用意します。ここが提案書の価値の全部です。
・相手:株式会社〇〇/不動産賃貸管理/社員25名
・聞き取った困りごと:内見予約が担当者の手帳で、ダブルブッキングが月2〜3件
・今やっていること:Excelの台帳+各自の手帳
・提案:kintoneで物件・顧客・内見予約をつなぐ
・費用:構築1か月0円/使うと決めたら月5万円〜(最低12ヶ月)/ライセンス別途
・期間:初回相談から1か月で運用開始
・懸念:現場のスマホ入力に慣れてもらえるか
「懸念」を必ず入れてください。 懸念に触れていない提案書は、読み手に「分かっていないな」と思われます。
Step 2: 構成を先に作らせる
いきなり本文を書かせません。構成だけ出させて、こちらで直します。
あなたは中小企業向けのIT導入を提案する立場です。
以下の情報をもとに、提案書の「見出しの一覧」だけを作ってください。本文は不要です。
読み手は不動産会社の経営者で、ITには詳しくありません。
見出しは6〜8個、各見出しに1行で「そこに何を書くか」を添えてください。
(Step 1 の箇条書きを貼る)
構成が合っていれば、本文は後からいくらでも直せます。逆に、構成が違う本文を直すのが一番時間を食います。
Step 3: 本文を書かせる(禁止事項つき)
上の構成に沿って本文を書いてください。次を守ってください。
・私が渡した情報にないことは書かない
・市場規模や一般的な導入効果などの数字は書かない
・出典やURLは書かない
・1セクション200〜300字
・専門用語を使うときは、その場で1行で説明する
この4つの禁止事項が、手戻りを一番減らします。 とくに2つめと3つめを入れないと、それらしい統計と実在しないURLが混ざり、確認に時間を取られます。
Step 4: 自社の型に寄せる
過去に実際に通った提案書をAIに読ませ、「この構成と語調に合わせて書き直して」と指示します。これがいちばん効く手順です。
- 使うのは「通った」資料に限る(出さなかった資料の型を学ばせない)
- 顧客名・金額は伏せてから渡す
- 2〜3本読ませると、語調が安定する
Step 5: 人が足す
AIが書けない部分を、最後に人が足します。
- 相手の現場を見て気づいたこと
- 実際の画面や実績(→不動産会社のkintone・建設会社のkintone・製造業のkintoneのように、見せられるもの)
- 「やらないこと」の宣言(提案の範囲外を明示する)
月次報告書の作り方
報告書は提案書と手順が違います。数字が先にあるからです。
| 順番 | やること | 注意 |
|---|---|---|
| 1 | 数字を集計側で確定させる | AIに計算させない |
| 2 | 確定した数字だけをAIに渡す | 「この数字以外は使わない」と明記 |
| 3 | 変化点と、考えられる要因を書かせる | 要因は「候補」として出させる |
| 4 | 人が要因を判断し、所感を足す | ここが報告書の価値 |
| 5 | 数字を元データと突き合わせる | 合計・件数を目で確認 |
1の「AIに計算させない」が要点です。AIは桁や合計を間違えることがあり、報告書では致命的です。集計は表計算ソフトか、システムの集計機能で行います。kintoneを使っているなら、グラフ機能で月別・担当者別の集計が標準で出せます(→kintoneのグラフ・レポート機能)。
指示文の例:
以下は当社の今月の実績です。この数字だけを使って、月次報告書の本文を書いてください。
・ここに書かれていない数字は一切使わないでください
・前月比の計算は、私が示した数値からのみ行ってください
・要因は断定せず、「〜の可能性があります」という形で3つまで挙げてください
(確定した数字を貼る)
チェックの手順
AIが書いたものをそのまま出さないための、最低限の確認リストです。上から順に、5分で終わります。
| # | 確認すること | 見つかる問題 |
|---|---|---|
| 1 | 固有名詞(社名・人名・部署名) | 「株式会社」「御社」の表記ゆれ、別の会社名 |
| 2 | 数字(金額・件数・期間・日付) | 桁違い、渡していない数字の混入 |
| 3 | 出典・URL | 実在しないURL、出典のない断定 |
| 4 | 自社の料金・サービス名 | 実際と違う条件が書かれている |
| 5 | 「〜と言われています」の類 | 根拠のない一般論。落とすか書き換える |
| 6 | 相手固有の事情が書かれているか | 一般論だけになっていないか |
5番を毎回引っかけてください。 「〜と言われています」「一般的に〜」は、出典が無いことを隠す言い回しです。根拠があるなら出典を書き、無いなら落とします。
やってはいけないこと
| やってはいけないこと | 何が起きるか |
|---|---|
| AIに市場規模や導入効果の数字を出させる | 実在しない統計が資料に載る |
| 出典のURLをAIに書かせる | 開けないURLが載り、信用を失う |
| 他社の実績を「事例」として書かせる | 事実でない事例が作られる |
| 顧客から預かった機密をそのまま入力する | 契約上の問題になり得る |
| 生成された文章を一度も読まずに送る | 相手の業種と違う内容が混ざる |
| 価格をAIに考えさせる | 実際の料金体系と食い違う |
指示文を資産にする
同じ指示を毎回書かないために、型として保存します。変わるのは( )の中だけにします。
【役割】(中小企業向けにITを提案する立場)
【読み手】( )業の( )。ITには詳しくない
【目的】( )
【構成】(見出しの一覧をここに貼る)
【分量】1セクション( )字
【禁止】渡した情報にないことは書かない/統計や一般的な効果の数字は書かない/
出典やURLは書かない/断定を避ける表現でごまかさない
【材料】(箇条書き)
チームで使うなら、この型を1つのファイルに置いて共有します。うまくいった型を共有することが、AI活用の実体です。組織として定着させる進め方はAI活用のインハウス化支援とはにまとめました。
情報の扱い
資料作成では顧客の情報を扱うので、配る前にルールを決めます。
| 区分 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 入力してよい | 公開情報、自社のサービス説明 | 可 |
| 確認してから | 社名・業種・規模 | 契約しているプランの条件を確認してから |
| 入力しない | 先方から預かった機密、個人情報、見積の原価 | 不可 |
法人向けのプランには入力内容を学習に使わない設定があるサービスが多いので、契約前に各社の公式の記載を確認してください。考え方はAI活用のセキュリティリスクと対策にまとめています。
費用と効果
AIツールの個人向け有料プランは月額3,000〜5,000円程度が目安です(各社の公式サイトで最新をご確認ください)。効果は次の式で見ます。
月あたりの削減時間 = 1本あたりの短縮分 × 月の本数 × 作る人数
提案書を月4本作る人が、1本あたり1時間短くなれば月4時間です。ただし、短縮分の一部は確認の時間に回ります。 正味で半分残れば十分と考えてください。
導入の進め方はAIで業務自動化|中小企業が今すぐ始められる5つのことに、組織への広げ方はAI活用支援にまとめています。
まとめ
- 速くなるのは「構成」と「初稿」。事実確認の時間は減らない
- AIは形を作る、人は中身(数字・実績・相手の事情)を持ち込む
- いきなり本文を書かせず、構成だけ出させて直す
- 禁止事項(渡した情報以外は書かない/統計を書かない/URLを書かない)を毎回入れる
- 過去に通った資料を読ませて型に寄せるのが、いちばん効く手順
- 報告書は数字を先に確定させる。AIに計算させない
- 「〜と言われています」を見つけたら、出典を付けるか落とす
- うまくいった指示文を型にして共有する。これがAI活用の実体
→ AI活用支援 → AIで業務自動化|中小企業が今すぐ始められる5つのこと → AIでメール業務を効率化する方法 → AI活用のセキュリティリスクと対策 → AI活用のインハウス化支援とは
よくある質問
AIで資料作成はどれくらい速くなりますか
速くなるのは構成づくりと初稿の作成です。白紙から書き始めて止まる時間が消えるので、提案書1本で1〜2時間程度の短縮が目安になります。一方で、事実確認と数字の突き合わせにかかる時間は減りません。むしろ確認の手順を決めておかないと、全体では遅くなります。
AIが出した数字をそのまま資料に載せてよいですか
載せないでください。AIは市場規模や導入効果のような数字を、それらしい形で作ってしまうことがあります。出典のURLも実在しないものが出ることがあります。数字は自社のデータか、一次情報(官公庁や業界団体の公表資料)で必ず裏を取り、取れないものは資料から落としてください。
提案書に顧客の情報を入力してもいいですか
先に社内のルールを決めてください。目安は、公開情報は可、顧客の個人情報や先方から預かった機密は不可、社名と業種程度は契約しているプランの条件を確認してから、の3段階です。法人向けプランには入力内容を学習に使わない設定があるサービスが多いので、契約前に各社の公式の記載をご確認ください。
AIが作った文章は自社の資料として使えますか
下書きとしては使えます。ただし、そのままでは自社の言い回しや強みが反映されず、どの会社の提案書にも見える文章になります。過去に実際に通った資料をAIに読ませて「この構成と語調に合わせる」と指示し、最後に人が具体例と自社の実績を足す前提で使ってください。
毎回うまくいく指示文を作るコツはありますか
役割・読み手・構成・分量・禁止事項の5つを固定した型を作り、変わる部分だけ差し替える形にします。とくに「事実として確認できないことは書かない」「数字は入力した情報からのみ使う」という禁止事項を毎回入れることが、手戻りを減らす一番の近道です。


