株式会社COTSUBU
AI活用

中小企業のAI導入セキュリティリスクと対策

宇田川 将也|7分
AIセキュリティ情報漏洩中小企業リスク管理

AIの事故というと「入力した情報が学習に使われる」話になりがちです。実務で起きるのはもっと手前で、APIキーがコードに書かれたまま共有される、AIに渡した権限が広すぎて消してはいけないものが消える、公開のつもりがないURLが開ける、といった設定と置き場所の問題です。

この記事は、事故の類型と、設定・鍵の置き場所・権限で防ぐ技術的な対策だけを扱います。

→ 入れてよい情報の線引きと社内ルールは教科書 3章 生成AIの社内ルール → 出してはいけない出力と、事故が起きたときの初動は教科書 10章 生成AIでやってはいけないこと

事故の5つの類型

類型 起きる場面 外に出るもの 防ぐ場所
1. 貼り付け チャットに顧客名簿や契約書を貼る 入力した情報 社内ルール(3章)+アカウントの設定
2. 鍵の漏れ APIキーをコードや共有ファイルに書く。チャットに貼る 認証情報。持った人がシステムを操作できる 鍵の置き場所
3. 権限の広すぎ AIや連携ツールに管理者の権限を渡す データそのもの(誤った更新・削除) 権限
4. 読ませた文書に従う 外部のWebページやメールをAIに読ませたら、中に書かれた指示に従って動いた 手元の情報、実行された操作 権限+人の承認
5. 公開設定の誤り 共有リンクや、AIで作った画面が「URLを知っていれば開ける」状態 画面に出る情報すべて 設定

1は人の判断の問題なので教科書3章に譲ります。2〜5は、ルールを読ませるより設定で止めたほうが確実な種類です。以下、この4つの対策を順に書きます。

対策1:アカウントと共有の設定を確かめる

契約しているAIの管理画面で、次の項目を確かめます。画面名は製品と時期で変わるので、最新は各社の公式ドキュメントで確認してください(2026年9月確認)。

確かめる設定 見ること 望ましい状態
会話の共有リンク 誰でも開けるリンクを作れるか 作れない、または社内の人だけ
外部サービスとの連携 メール・ストレージ・カレンダーなどとつないでよいのは誰か 管理者が許可したものだけ
利用者の一覧 退職者・外部の人が残っていないか 在籍者だけ
利用状況の記録 管理者が誰が何を使ったか見られるか 見られる

AIで作った社内向けの画面やアプリにも同じことが言えます。「URLを知っている人だけが開ける」は、URLが知られたら誰でも開けるという意味です。社内の情報が出る画面には、ログインを付けてください。

対策2:鍵(APIキー・トークン)の置き場所を決める

AIを業務システムとつなぐと、APIキーやトークンを扱う場面が必ず出てきます。鍵を持った人は、そのシステムを操作できます。

置いてはいけない場所 理由
コードの中(直書き) コードを共有・公開した時点で一緒に出る
AIに毎回読ませる指示ファイル(CLAUDE.md など) 共有される前提のファイル。書いた内容はAIとの会話にも毎回載る
チャットの本文 会話の履歴に残り続ける
共有フォルダのメモ・表計算 閲覧できる人が増えても気づけない

置く場所は次の形にします。

  1. アプリが読む設定ファイル(.env など)をコードの横に置き、バージョン管理の対象外にする
  2. 対象外になっているかを確かめる(下の手順)
  3. 設定ファイルの場所だけを手順書に書く。中身は書かない
  4. 本番の鍵と試験用の鍵を分ける

.gitignore に書く行の例です。

.env
.env.*
_secrets/

すでに書いてしまっていないかは、AIに点検させると速く済みます。

このリポジトリの中から、APIキー・トークン・パスワード・接続文字列が
直接書かれている箇所を探して、ファイル名と行番号の一覧にしてください。
値そのものは出力に書かず、先頭4文字だけにしてください。
見つけても書き換えないでください。一覧を出すところまでで止めてください。

見つかった鍵は、消すより先に失効させて再発行します。 一度でも共有・公開された鍵は、ファイルから消しても履歴に残っています。失効と再発行は発行元の管理画面で行います。

対策3:権限を絞る

AIに渡す権限は、業務に要る一番小さいものから始めます。

権限の段階 渡してよい場面 当社の扱い
読む 集計・レポート・点検 最初はここだけ
下書きを作る 人が見てから反映する業務 差分を人が見る
書き込む 検証環境で試したあと 本番は人が反映
削除する 渡さない 人が行う

多くのシステムは、APIキーやトークンを作るときに権限を選べます。たとえば kintone のAPIトークンは、アプリごとに「閲覧」「追加」「編集」「削除」などを選んで発行できます。集計に使うトークンなら、閲覧だけにして発行してください。

AIにパソコン上でコマンドやファイル操作をさせる道具(Claude Code など)には、実行や書き換えの前に確認を求める設定があります。許可するコマンドを絞れるものもあります。最初は確認を求める設定のまま使い、繰り返し承認している安全な操作だけを許可に回します。

類型4(読ませた文書の中の指示に従ってしまう)への対策も、ここに入ります。外部から来た文書を読ませる作業では、同じ作業の中で送信・書き込み・削除をさせないようにします。読む作業と、外に出す作業を分けておけば、文書に何が書いてあっても外には出ません。

当社でのやり方

当社は開発・執筆・社内業務の自動化を、Claude Code で日常的に回しています。鍵と権限はこう決めています。

決めごと 中身
鍵の置き場所 トークンや接続文字列の実値は案件フォルダの _secrets/ か、ホームディレクトリの設定ファイル。git に入れない
指示ファイルとの分け方 AIが毎回読む CLAUDE.md には鍵を書かない。接続先の一覧(_env.md)にも、どこにあるかだけを書く
会計の連携 freee のAPIから決算書類を出すスクリプトは読み取りだけ。仕訳の登録はさせていない
開発の試験 kintone の開発・検証は開発者向けの検証環境で行い、顧客の本番環境で試さない
反映 AIが書いたコードは、人が差分を見てから反映する

フォルダの形はCLAUDE.mdとは?AIに仕事を覚えさせる方法に書いています。

失敗例と、人が確かめる場所

失敗例 起きること 人が確かめる場所
動作確認のためにコードへ鍵を直書きし、そのまま共有 鍵を持った人がシステムを操作できる 共有・公開の前に上の点検をかける
「とりあえず全部の権限」でトークンを発行 AIの誤操作でデータが消える 発行画面で選んだ権限を、手順書に書き残す
本番環境でAIに試させる 顧客のデータが書き換わる 試す場所がどこかを作業前に確認する
社内向けに作った画面にログインが無い URLが転送された先で開ける 公開前に、ログアウトした状態で開いてみる
退職者のアカウントが残る 辞めた人が会話履歴や連携先を見られる 月1回、利用者の一覧を在籍者と突き合わせる
漏れた鍵をファイルから消して終わり 履歴から拾われる 失効させたかを発行元の画面で確認する

まとめ

  • AIの事故は「貼り付け・鍵の漏れ・権限の広すぎ・読ませた文書に従う・公開設定の誤り」の5つに分けて考える
  • 鍵の漏れ以降の4つは、ルールより設定で止めるほうが確実
  • 鍵はコードにも指示ファイルにも書かない。設定ファイルに分け、バージョン管理から外す
  • 漏れた鍵は、消す前に失効させて再発行する
  • 権限は「読む」から始め、書き込みは検証環境で試してから。削除は人が行う
  • 外部の文書を読ませる作業と、送信・書き込みの作業を分ける

鍵の置き場所や権限の設計を含めた環境整備は、インハウス化支援でお手伝いしています(環境整備15万円〜・税別)。

→ AI活用支援 → CLAUDE.mdとは?AIに仕事を覚えさせる方法 → MCP連携とは?AIと外部ツールを繋ぐ新しい方法 → 中小企業のサイバーセキュリティ対策|最低限やるべきこと → 教科書 3章 生成AIの社内ルール → 教科書 10章 生成AIでやってはいけないこと

よくある質問

AIを業務で使うとき、いちばん起きやすい事故は何ですか

チャットに情報を貼り付けてしまう事故と、APIキーなどの認証情報がコードや共有ファイルに書かれたまま外に出る事故です。前者は社内ルールで、後者は置き場所と権限の設定で防ぎます。この記事は後者の技術的な対策を扱います。

APIキーはどこに置けばいいですか

コードの中や、AIに毎回読ませる指示ファイルには書きません。アプリが読む設定ファイル(.env など)をコードの横に置き、バージョン管理の対象外にします。当社は実値を案件フォルダの _secrets/ かホームディレクトリの設定ファイルに置き、git には入れていません。

AIに社内システムを操作させても大丈夫ですか

権限を絞れば使えます。最初は読み取りだけの権限で始め、書き込みは検証環境で試してから、削除は人が行う形にします。当社も会計の連携は読み取りだけにしており、仕訳の登録はAIにさせていません。

宇田川 将也/ 代表取締役

2024年に総務省の地域活性化起業人として島根県海士町に着任。役場に住み込んで業務改善に従事し、kintoneで電子決裁や定期健診管理を構築しました。

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