株式会社COTSUBU
AI活用

AIで経理業務を効率化する方法

宇田川 将也|9分
AI経理会計業務効率化freee

経理でAIが効くのは、判断そのものではなく、判断の前後にある作業です。明細を並べる、証憑を読み取る、数字の変化を文章にする、税理士に聞くことを整理する。ここは速くなります。反対に、どの科目にするか、経費になるか、要件を満たしているか、という判断は速くなりませんし、AIに決めさせてはいけません。

この記事では、経理の業務を「AIに渡せる部分」と「人が決める部分」に分け、業務ごとの手順と指示文の型、当社が自社の会計でやっている形、失敗例までをまとめます。

経理業務を「渡せる部分」と「決める部分」に分ける

業務 AIや自動化に渡せる部分 人が決める部分
仕訳・記帳 銀行・カード明細からの仕訳の提案 科目の確定、初めての取引の扱い
証憑の取り込み 請求書・領収書の読み取り(日付・金額・取引先) 読み取り結果の照合、保存の運用
経費精算 レシートの読み取り、申請内容の転記 経費として認めるかどうか
入金の照合 入金と請求の突き合わせ候補の提示 一致しないものの原因調べ
月次の報告 数字の変化を文章にする 数字そのものの正しさ、打ち手
税務の疑問 税理士に聞く質問の整理 判断はすべて税理士

右の列は、道具を変えても人に残ります。短くなるのは、決める前の準備です。

会計ソフトの自動化と、対話型AIは役割が違う

会計ソフトの自動化機能 対話型AI(ChatGPT・Claude など)
得意なこと 明細の取り込み、仕訳の提案、証憑の読み取り 文章にする、整理する、質問を作る
数字の扱い 帳簿の数字をそのまま使う 計算させると間違えることがある
向く業務 記帳・照合・証憑 月次の説明文、税理士への質問メモ

帳簿の数字を作るのは会計ソフト、数字を読んで文章にするのが対話型AI、という分け方が基本です。対話型AIに明細を貼り付けて仕訳を作らせたり、合計を計算させたりするのはやめてください。桁や合計を間違えても、見た目は正しく見えます(→ 数字の確かめ方は教科書 7章 AIでExcelデータを集計・分類する)。

会計ソフト(freee、マネーフォワード など)の自動化機能の名前や範囲は、製品や契約プランで変わります。最新は各社の公式サイトで確認してください(2026年9月確認)。

業務ごとの手順

1. 仕訳の提案を「ルール」にしていく

手順 銀行口座・カードを会計ソフトに連携 → 提案された仕訳を確認して登録 → 毎月同じ取引は自動登録のルールにする
任せてよい範囲 毎月同じ相手・同じ金額帯・同じ科目の取引(家賃、通信費、定額のサービス料など)
つまずくところ 最初から全件をルール化すると、間違ったルールが毎月同じ間違いを繰り返す
確認すること ルールを作ったあと最初の2〜3か月は、ルールで登録された仕訳を月末に一覧で見る

判断が決まっていない取引はルールにしないでください。迷った取引は、後述の「税理士に確認する問い」に回します。

2. 証憑の読み取り

手順 請求書・領収書を撮影またはPDFで取り込む → 読み取られた日付・金額・取引先を確認 → 明細と紐付ける
つまずくところ 手書き・かすれ・複数ページの請求書は読み違いが出やすい
確認すること 金額と日付は元の紙と突き合わせる。 合計が合っていても、税率ごとの内訳が違うことがある

保存の方法(紙を残すか、どの形式で保存するか)は、電子帳簿保存法やインボイス制度に関わります。ここは道具の設定だけで決めず、後述の問いで税理士に確認してください。

3. 月次の数字を文章にする

月次の数字は会計ソフトから出し、対話型AIには「その数字から何が言えるか」だけを書かせます。

指示の型(毎月コピーして使う):

以下は当社の月次の損益の数字です(会計ソフトから出したもの)。
経営者向けに、次の3つを文章にしてください。
1. 前月・前年同月と比べて、大きく動いた項目(金額の差と、差の大きい順)
2. 動いた理由として考えられること(数字から言えることだけ。推測は「推測」と書く)
3. 来月に確認したほうがよいこと
計算をやり直さないでください。与えた数字以外の数字を書かないでください。
理由が数字から分からない項目は「理由不明・要確認」と書いてください。

最後の3行が無いと、前月比を勝手に計算し直したり、それらしい理由を作ったりします。

4. 税理士に聞くことを整理する

「この費用は経費になるか」をAIに聞いて、その答えで処理するのはやめてください。AIは、それらしい理由をつけて間違った結論を出すことがあります。

AIに頼むのは、税理士に聞く前の整理です。

指示の型:

以下の取引について、税理士に確認したいです。
判断はしないでください。税理士に送る質問メモを作ってください。
・取引の事実(いつ・誰に・何に・いくら・支払方法)を箇条書きにする
・確認したい点を、はい/いいえで答えられる質問の形にする
・判断に必要そうな資料(契約書、請求書など)を列挙する
事実に書いていないことは補わず、「不明」と書いてください。

税理士に確認する問い

インボイス制度・電子帳簿保存法・経費の扱いは、この記事では断定しません。要件は国税庁の公式の案内で確認し、自社の運用で足りているかは税理士に確認してください。聞くときは、次の形にすると答えが返ってきやすくなります。

確認したいこと 確認先 確認するときの問い
受け取った請求書の保存方法 税理士 「今の受け取り方(紙・PDF・メール添付)と保存の仕方で、当社の運用は要件を満たしていますか。足りない点はどこですか」
発行する請求書の記載 税理士 「当社の請求書の見本を見て、記載に不足がないか確認してもらえますか」
会計ソフトの自動化の設定 税理士・会計ソフトの公式の案内 「自動登録のルールにしている取引の一覧を見て、科目の付け方に問題がないか見てもらえますか」
迷った取引の扱い 税理士 上の「質問メモ」をそのまま送る

見本や一覧の現物を持っていくのがポイントです。「インボイスは大丈夫ですか」と聞くと、答えは一般論になります。

当社でのやり方

当社(株式会社COTSUBU)の会計は freee です。freee の API を使う自前のスクリプトで、損益計算書・貸借対照表と、融資の審査で見られる項目を3期分まとめて出しています。

決めているのは1点だけです。このスクリプトは読み取りだけで、仕訳の登録はさせていません。 帳簿に書き込む操作は、間違えたときに気づきにくく、直す手間も大きいからです。数字を集めて並べるところまでを自動にし、帳簿の中身を決めるのは人と税理士、という線を引いています。

APIのトークンは、スクリプトやAIへの指示書に書かず別の場所に置いています。経理のデータをAIに渡すなら、渡してよい範囲を先に決めてください(→ 入れてよい情報の線引きは教科書 3章 生成AIの社内ルール)。

失敗例と、人が確かめる場所

失敗 起きること 人が確かめる場所
対話型AIに明細を貼って仕訳を作らせる 科目や金額の間違いが帳簿に入る 仕訳は会計ソフトで作り、AIに作らせない
AIの「経費になります」で処理する 税務調査で説明できない処理が残る 判断は税理士。AIは質問メモまで
迷った取引を自動登録のルールにする 同じ間違いが毎月繰り返される ルール化前に1件ずつ確認する
読み取り結果をそのまま登録する 税率の内訳や日付のずれに気づかない 金額・日付・税率ごとの内訳を原本と照合
月次コメントの数字をAIに計算させる 前月比などが違う数字で報告される 数字は会計ソフトから。AIの文章中の数字を元の表と突き合わせる

導入の順番

時期 やること
1か月目 経理の作業ごとに、かかった時間を記録する。銀行・カードの連携を済ませる
2か月目 毎月同じ取引だけを自動登録のルールにする。迷った取引は質問メモにして税理士に送る
3か月目 月次の説明文をAIで下書きする。保存の運用を税理士に確認する
4か月目 1か月目と同じ記録を取り、減った作業と増えた確認を比べる

1か月目の記録を飛ばさないでください。 経理は「楽になった気がする」が最も起きやすい業務です。どの業務から手を付けるかの考え方は教科書 2章 生成AIの業務活用|どの作業から始めるかにまとめています。

費用対効果の出し方

ツールの料金は製品と契約プランで変わるので、各社の公式サイトで最新を確認してください(2026年9月確認)。 効果は、自社の数字で出します。

月あたりの削減時間 = (導入前の作業時間 − 導入後の作業時間 − 増えた確認時間)× 月の回数

「増えた確認時間」を必ず引いてください。読み取り結果の照合やルールの見直しは、導入後に新しく生まれる作業です。これを含めずに計算すると、効果を大きく見積もります(→ 効果の測り方は教科書 11章 AI導入の効果測定)。

まとめ

  • 経理でAIが効くのは、判断の前後にある作業(読み取り・整理・文章化)
  • 帳簿の数字を作るのは会計ソフト、数字を文章にするのが対話型AI。AIに計算させない
  • 自動登録のルールにするのは、判断が決まっている定型の取引だけ
  • 「経費になるか」はAIに聞かない。税理士への質問メモを作らせる
  • インボイス制度・電子帳簿保存法の要件は公式の案内で確認し、自社の運用は税理士に確認する
  • 効果は、増えた確認時間を引いて出す

経理の前後の業務(請求の元になる受注・案件の記録など)を整える段階では、業務効率化(構築まで無料・利用開始後 月5万円〜・税別)でお手伝いしています。

→ AI活用支援 → AIで業務自動化|中小企業が今すぐ始められる5つのこと → AIでデータ分析|Excelデータをもっと活用する方法 → 中小企業のAI導入セキュリティリスクと対策

よくある質問

AIに仕訳を任せても大丈夫ですか

会計ソフトが明細から出す仕訳の提案は、登録前に人が確認する前提で使えます。任せてよいのは、毎月同じ相手・同じ科目で発生する定型の取引です。初めての取引、金額の大きい取引、どの科目にするか迷う取引は、人が決めてください。迷ったものは税理士に確認する問いとして残します。

「この費用は経費になるか」をAIに聞いてもいいですか

答えそのものには使わないでください。対話型AIは、それらしい理由をつけて間違った結論を出すことがあります。使い方は逆で、税理士に聞く前に「何を聞けばよいか」を整理させるのに向いています。取引の事実を書き出し、確認したい点を質問の形にするところまでをAIに手伝わせ、判断は税理士に委ねます。

インボイス制度や電子帳簿保存法への対応もAIでできますか

AIや会計ソフトの機能は、書類の読み取りや保存の手間を減らすことはできますが、自社の運用が要件を満たしているかを判断するものではありません。要件は国税庁の公式の案内で確認し、自社の運用で足りているかは税理士に確認してください。この記事では要件の中身は断定しません。

宇田川 将也/ 代表取締役

2024年に総務省の地域活性化起業人として島根県海士町に着任。役場に住み込んで業務改善に従事し、kintoneで電子決裁や定期健診管理を構築しました。

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