不動産業界は紙が多すぎる
不動産の仕事は紙が多くなりがちです。物件資料、契約書、重要事項説明書、各種届出書類——相手(売主・買主・貸主・入居者・管理会社・行政)が多く、それぞれの求める形で書類を渡してきた歴史があるからです。
2022年5月の宅建業法改正で、重要事項説明書や契約書を電子で提供できる道が開かれました。それでも紙が減らないのは、法令より先に社内の書類の流れが紙を前提に組まれているからです。この記事では、社内で完結する紙から順に減らす手順を書きます。
ペーパーレス化で得られる3つの効果
効果1:コスト削減
削減額は会社によって大きく違うので、自社の数字を1年分拾ってから判断してください。
| 項目 | 拾う場所 |
|---|---|
| コピー用紙代 | 消耗品の請求書・購入履歴 |
| トナー・インク代 | 同上、複合機の保守契約 |
| 複合機リース料 | リース契約書(台数・残期間) |
| 書類保管スペース | 書庫・倉庫の面積、外部倉庫の請求書 |
| 郵送費 | 郵便・宅配の請求書(契約書類の送付分) |
複合機はリースの残期間があるため、紙が減ってもすぐには費用が下がりません。次の更新時期を先に確認しておくと、台数を減らす判断ができます。
効果2:業務効率の向上
- 書類を探す時間が減る(どれだけ減ったかは、導入前に「月に何回探したか」を数えておくと分かる)
- 外出先からスマホで書類を確認できる
- 書類の承認がオンラインで進む
- ファイリングや保管の手間が減る
効果3:災害・紛失リスクの低減
紙の書類は、火災や水害で失われるリスクがあります。クラウドに保管しておけば、事務所が使えないときも別の場所から確認できます。ただし、誰が見られるかの権限を決めずにクラウドへ移すと、紛失の代わりに漏えいのリスクが増えます(→不動産会社の情報セキュリティ対策)。
始める前に:紙を3つに分ける
いきなり電子化せず、社内の紙を次の3つに分けます。
| 区分 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| やめられる紙 | 印刷して回覧するだけの会議資料、画面で見られる物件一覧の印刷 | 電子化せずやめる |
| 電子に置き換える紙 | 日報、稟議、物件写真、社内の申請書 | 入力の場所を決めて置き換える |
| 残す・確認してから扱う紙 | 契約関係の書類、法令で保存が求められる帳簿類、お客様が紙を希望する書類 | 保存の要件を確認するまで捨てない |
3つ目は判断を書きません。宅建業者が備える帳簿や契約書類の保存は、国土交通省・所管の行政庁・所属団体の案内で、税務書類の保存は国税庁の資料と顧問税理士で確認してください。迷ったら「残す」側に倒すのが原則です。紙を探す・転記する・二重に持つといった事務のムダの拾い方は、教科書 業務棚卸し 6章にまとめています。
ペーパーレス化の5段階ロードマップ
第1段階:社内書類のデジタル化(難易度:低)
まずは社内で完結する書類から始めます。
- 日報・週報: Googleフォームやkintoneで入力
- 稟議書・申請書: ワークフローツールで電子承認
- 会議資料: 印刷せず画面共有
- 名刺管理: 名刺管理アプリで取り込む
第2段階:物件資料のデジタル化(難易度:低〜中)
- 物件チラシ: PDF化してクラウドに保管
- 物件写真: 物件ごとのフォルダで一元管理
- 間取り図: デジタルデータで管理
- マイソク: テンプレートからデジタル作成
ここでの分かれ目はフォルダの切り方です。物件名だけで切ると、同じ建物の別の部屋が混ざります。物件コード+部屋番号でフォルダ名を決めてください。当社の kintone 不動産見本(/kintone/for/fudosan)も、物件名+部屋番号の二重登録を防ぐ作りにしています。
第3段階:顧客対応のデジタル化(難易度:中)
- 物件提案書: PDFで送付
- 内見時の資料: タブレットで表示
- 見積書: システムから作成してPDFで送付
- アンケート: QRコードからスマホで回答
第4段階:契約書類のデジタル化(難易度:中〜高)
- 重要事項説明書の電子交付
- 賃貸借契約書・売買契約書の電子化
- IT重説: ビデオ通話での重要事項説明
この段階は法令が絡むので、判断はこの記事では書きません。対象の書面、承諾の取り方、IT重説の手順は、国土交通省の公開資料と所属団体の案内で確認してください。社内で決めることと試す順番は不動産電子契約の導入ガイドに書いています。
第5段階:行政手続きのデジタル化(難易度:高)
- 宅建業免許の更新などの手続き: 電子申請に対応しているかは、免許権者(都道府県・国土交通省)の案内で確認
- レインズへの登録: すでにオンライン
- 各種届出: 自治体によって対応状況が異なる
業態で何が変わるか
| 業態 | 紙が多い場所 | 先に手をつける所 |
|---|---|---|
| 売買仲介 | 査定資料、媒介契約、物件調査の資料 | 物件調査の資料を物件ごとのフォルダに集める |
| 賃貸仲介 | 申込書、入居審査の書類、鍵の受け渡し記録 | 申込書の入力をフォーム化する(個人情報の権限を先に決める) |
| 賃貸管理 | オーナー報告、更新・解約の通知、修繕の見積 | 更新・解約の期限管理を台帳に移す |
| 買取再販 | 仕入れの検討資料、リフォームの見積・工程 | 仕入れの検討資料を物件ごとに1か所へ |
賃貸管理は、紙の量より期限の見落としが痛い業態です。当社の見本では、退去日から解約通知の期限(30日前)を計算して台帳に出しています。紙を減らすと同時に、期限を人の記憶から台帳へ移すのが効きます。
おすすめツール
料金や仕様は変わるので、用途と確かめることだけ並べます。最新は各社の公式サイトで確認してください(2026年9月確認)。
| 用途 | ツール名の例 | 確かめること |
|---|---|---|
| クラウドストレージ | Google Drive / Dropbox | フォルダ単位の権限設定、退職者のファイルの引き継ぎ |
| 電子署名 | クラウドサイン / DocuSign | 締結済み書類の持ち出し形式 |
| ワークフロー | ジョブカン / kintone | スマホからの承認、差し戻しの記録 |
| スキャン | ScanSnap などのスキャナ | 読み取った書類の保存先とファイル名のルール |
| 名刺管理 | Eight / Sansan | 顧客台帳と二重管理にならないか |
| 帳票作成 | マネーフォワード / freee | 会計との連携範囲 |
ペーパーレス化を成功させるコツ
コツ1:全社一斉ではなく段階的に
第1段階から順番に進めます。一気に変えると、紙とデジタルのどちらが正か分からない書類が増えます。
コツ2:紙との併用期間を設ける
移行期間中は紙とデジタルの両方を運用します。ただし、併用期間に期限を設けないと、いつまでも紙が残ります。「3ヶ月後にはデジタルのみ」と明確な期限を決めてください。
コツ3:経営者がまず実践する
経営者自身が紙を使い続けていると、社員は「結局紙でいいんだ」と感じます。承認を紙で求めるのをやめるのが、いちばん早い合図です。
コツ4:小さな成功体験を共有する
「探す回数が減った」「外出先から確認できた」を社内で共有し、次の段階に進む理由にします。
失敗例
従業員10名ほどの売買仲介会社で、書類を全部スキャンしてクラウドに入れた場合に起きやすい失敗です。ファイル名は担当者ごとにばらばらで、物件名だけのフォルダに同じ建物の別の部屋の書類が混ざりました。結局「紙のほうが早い」となり、紙のファイルも残したままになりました。
原因は、置き場所と名前の付け方を決める前にスキャンを始めたことです。先に物件コード+部屋番号のフォルダ規則を決め、新しく発生する書類から適用し、過去分は必要になった物件から移していけば、二重管理になりませんでした。
まとめ
- 紙を「やめる・置き換える・残す」に分けてから始める。保存が要るかは確認先で確かめ、迷ったら残す
- 社内書類 → 物件資料 → 顧客対応 → 契約 → 行政の順に進める
- 契約書類の電子化は法令が絡むので、国土交通省の資料と所属団体で確認する
- 業態ごとに紙が多い場所が違う。賃貸管理は期限の管理を台帳に移す
- コストの効果は、自社の請求書を1年分拾って測る
当社代表は2014〜2018年、投資用不動産販売会社のバックオフィス(経理・契約・督促)で kintone の社内アプリを作ってきました。紙の台帳を kintone に移すご相談はkintone導入支援で受けています(構築は最大1ヶ月0円)。
関連リンク
- 不動産DX支援
- 不動産電子契約の導入ガイド
- 不動産会社のクラウド化ガイド
- 2026年の不動産テックトレンド5選|業界を変えるテクノロジーの最前線
- AIで物件説明文を自動生成する方法|不動産会社の業務効率化テクニック
よくある質問
重要事項説明書や契約書は電子化してもいいのですか
2022年5月の宅建業法改正で、重要事項説明書や契約書を電磁的方法で提供できる道が開かれました。ただし対象の書面や相手方の承諾の取り方には決まりがあるので、国土交通省の公開資料と所属団体の案内で最新の内容を確認してから進めてください。ペーパーレス化の順番としては最後のほうに置きます。
ペーパーレス化でどれくらいコストが下がりますか
会社の規模や紙の使い方で大きく変わるので、一律の数字は出せません。用紙・トナー・複合機のリース・郵送費・保管場所の費用を、自社の請求書から1年分拾って合計してください。その合計と、紙が減った分を比べるのが確実です。
ペーパーレス化はどこから始めるのが簡単ですか
社内で完結する書類からです。日報・週報をGoogleフォームやkintoneで入力し、稟議書はワークフローツールで電子承認、会議資料は画面共有に切り替えます。その後、物件資料、顧客対応、契約書類、行政手続きの順に難易度が上がっていきます。
ペーパーレス化に必要なツールの費用はどれくらいですか
用途ごと・契約人数ごとに変わり、料金も改定されます。最新は各社の公式サイトで確認してください。すでに契約しているグループウェアや会計ソフトの機能で足りることも多いので、新しく契約する前に手持ちのツールで何ができるかを確かめます。
紙とデジタルを併用してもいいですか
移行期間中の併用は問題ありませんが、必ず期限を決めてください。期限を設けないといつまでも紙が残るので、「3ヶ月後にはデジタルのみ」と明確に区切ります。あわせて経営者自身が率先してデジタルツールを使う姿を見せることが重要です。


