プロンプトエンジニアリングは、AIへの指示の書き方の技術です。特別な言い回しを覚えることではありません。AIが自分の知識で埋めてしまう隙間を、指示でどれだけ減らせるか、がほぼすべてです。
この記事では、実務で効く技法を5つに絞り、それぞれ直す前と直した後の指示文を並べます。ChatGPT・Claude のどちらでも同じように効きます。
→ うまくいった指示をファイルにして、別の人でも同じ結果が出るようにする話は教科書 5章 AIへの指示の書き方
5つの技法と、効く症状
| 技法 | 効く症状 | 効かない場面 |
|---|---|---|
| 1. 材料を渡す | 事実が違う・内容が一般論 | 材料そのものが手元に無い問い |
| 2. 例を見せる | 形式や言い回しが毎回ばらつく | 例が1つも無い、初めての成果物 |
| 3. 作業を分ける | 長い資料で抜けが出る・途中から雑になる | 1往復で終わる短い作業 |
| 4. 禁止事項を書く | 数字・出典・担当者が作られる | 禁止だけで、代わりにどうするかが無い場合 |
| 5. 出力形式を指定する | 毎回人が整え直している | 形式が決まっていない考えごと |
症状から逆引きしてください。全部を毎回入れる必要はありません。
1. 材料を渡す
AIは、材料が無いと自分の知識から書きます。事実誤認のほとんどはここから入ります。
直す前:
来週の営業会議で使う、先月の売上の振り返りを書いてください。
直した後:
以下の <売上データ> だけを材料に、先月の売上の振り返りを書いてください。
読み手は営業部の5人で、来週の会議で10分で読みます。
<売上データ>
(ここに表計算からコピーした表を貼る)
</売上データ>
ポイントは2つです。「〜だけを材料に」と書くことと、材料を記号で囲んで、指示と区別することです。囲まないと、貼った資料の中の文章を指示と取り違えることがあります。
材料を渡せない問い(「この業界の市場規模は?」など)は、指示の工夫では解決しません。人が一次情報を探し、それを材料として渡します。
2. 例を見せる
形式を言葉で説明するより、過去の完成物を1つ貼るほうが早く伝わります。
直す前:
日報をまとめてください。簡潔に、要点が分かるように、敬語は控えめで。
直した後:
以下の <メモ> を、<良い例> と同じ形の日報にしてください。
項目の順番と1項目あたりの長さは <良い例> に合わせてください。
<良い例>
■やったこと:A社へ見積提出(再提出2回目)
■気づいたこと:納期の質問が多い。FAQに足す候補
■明日やること:B社の請求書発行
</良い例>
<メモ>
(ここに今日のメモを貼る)
</メモ>
注意点は、例の中身まで写されることです。例の固有名詞が出力に混ざることがあるので、例は社名を伏せたものにするか、「例の内容は使わず、形だけ合わせて」と一言添えます。
3. 作業を分ける
「読んで・整理して・文章にして」を1回で頼むと、長い資料ほど抜けが出ます。抜き出す→並べる→書くの順に分け、各段階の出力を人が見てから次に進みます。
| 段階 | 指示の中身 | 人が見ること |
|---|---|---|
| 1. 抜き出す | 「決定事項と担当者を、発言の引用つきで一覧にして」 | 抜けがないか |
| 2. 並べる | 「1の一覧を、期限の早い順に並べ替えて」 | 期限が発言どおりか |
| 3. 書く | 「2を材料に、参加者向けの共有文を書いて」 | 1〜2に無いことが足されていないか |
判断を伴う作業では、結論の前に根拠を並べさせるのも分割の一種です。「先に判断の材料を箇条書きにし、そのあとに結論を書いて」と頼むと、結論がどの材料から出たかを人が追えます。
4. 禁止事項を書く
禁止事項は、代わりにどう書くかとセットにします。逃げ道が無いと、AIはそれらしい答えで埋めます。
直す前:
この議事録から、宿題の一覧を作ってください。
直した後:
この議事録から、宿題の一覧を作ってください。
・議事録に無いことは書かないでください。
・担当者や期限が明言されていない項目は「担当未定」「期限未定」と書いてください。
・出典のない数字は書かないでください。
「担当未定と書いて」の1行が無いと、会議に出ていた誰かの名前がもっともらしく埋められます。禁止事項は、実際に起きた失敗から1行ずつ足すのがいちばん効きます。
5. 出力形式を指定する
形式を決めると、人が整え直す手間が消え、確かめる場所も決まります。
| 指定のしかた | 例 |
|---|---|
| 表の列を決める | 「列は『項目/現状/直す案/根拠の行番号』の4つ」 |
| 長さを数字で決める | 「各項目40字以内」「全体で400字前後」 |
| 順番を決める | 「重要度の高い順。同じなら期限の早い順」 |
| 取り込み先に合わせる | 「表計算に貼るので、タブ区切りで。見出し行を1行目に」 |
「簡潔に」「分かりやすく」は形式の指定になりません。数字か、列名か、例で指定してください。
仕上げに:出力を材料と突き合わせさせる
5つの技法の仕上げとして、書かせたあとに、同じ会話の中で点検させるやり方があります。書く指示と点検する指示を分けるのがコツです。
いま書いた文章の中の数字と固有名詞を、すべて一覧にしてください。
それぞれについて、<売上データ> のどこに書いてあるかを示してください。
<売上データ> に見つからないものは「材料に無い」と書いてください。
これで、人が確かめる場所が一覧になります。ただし、点検させた結果も材料と照らすのは人の仕事です。AIが「材料にある」と書いた箇所が、本当にあるとは限りません。点検の一覧は、人が見る順番を決めるために使ってください。
当社でのやり方
当社は、記事や教科書の執筆・点検を Claude Code で回しています。記事を追加・更新したときは、サイト全体の記事をAIで点検し、出典のない数字・古いサービス名・リンク切れなどを洗い出しています。直すかどうかは、人が1件ずつ決めています。
このときの指示は、上の5つの技法をそのまま組み合わせた形です。
content/blog/ の記事を1本ずつ読み、次の3種類を探してください。
1. 出典の書かれていない数字(「◯%」「◯割」「平均◯時間」など)
2. 以下の <旧サービス名> に載っている名前
3. 存在しないページへのリンク
出力は表にし、列は「ファイル名/種類/該当箇所の引用/行番号」の4つにしてください。
該当箇所は記事の文をそのまま引用し、要約しないでください。
見つけても記事は書き換えないでください。
<旧サービス名>
(一覧を貼る)
</旧サービス名>
「書き換えないで」と「引用して」が効いています。書き換えまで任せると、どこを直したかを人が追えなくなります。引用があると、人は元の記事を開かずに要否を判断できます。
失敗例と、人が確かめる場所
| 失敗例 | 原因 | 人が確かめる場所 |
|---|---|---|
| 数字がもっともらしいが、元データと合わない | 材料を渡していない/計算をさせた | 数字を1つずつ元データと突き合わせる |
| 例に入れた社名が出力に混ざった | 例の中身が写された | 固有名詞を全部目で追う |
| 長い資料の後半が薄い | 1回で全部頼んだ | 段階ごとの一覧で抜けを見る |
| 担当者と期限が埋まっている | 「未定と書いて」が無い | 議事録の該当発言を探す |
| 毎回形がばらつく | 形式を言葉でしか指定していない | 列名・長さを数字で入れたか見直す |
まとめ
- 技法は「材料・例・分割・禁止事項・出力形式」の5つで足りる。症状から逆引きして選ぶ
- 材料は「〜だけを材料に」と書き、記号で囲んで指示と分ける
- 形式の説明より、過去の完成物を1つ貼る。ただし例の中身が写ることに注意
- 長い作業は「抜き出す→並べる→書く」に分け、段階ごとに人が見る
- 禁止事項には「代わりにどう書くか」を添える
- 数字と固有名詞は、どの技法を使っても人が確かめる
社内で指示の型を作る勉強会は、Claude Code導入支援の中で行っています(社内勉強会10万円〜/回・税別)。
→ AI活用支援 → AIで業務自動化|中小企業が今すぐ始められる5つのこと → CLAUDE.mdとは?AIに仕事を覚えさせる方法 → AIで提案書・報告書を自動作成する方法 → 教科書 5章 AIへの指示の書き方
よくある質問
「あなたは〇〇の専門家です」と役割を与えるのは効果がありますか
役割だけでは出力はあまり変わりません。効くのは、元データや過去の完成物といった材料を渡すことと、良い例を1つ貼ることです。役割を書くなら、誰に向けた成果物かという読み手の情報と組み合わせてください。
指示は長く詳しく書いたほうがいいですか
長さより中身です。材料・出力の形・禁止事項が入っていれば、短い指示でも出力は安定します。説明を何行も足すより、完成物の例を1つ貼るほうが早く伝わります。一度に頼む作業が多すぎる場合は、指示を長くするより分割してください。
AIが事実と違うことを書くのは指示で防げますか
減らせますが、ゼロにはなりません。「材料に無いことは書かない」「分からない場合は分からないと書く」と指示に入れると、作り話の余地は小さくなります。それでも数字と固有名詞は、人が材料と突き合わせて確かめてください。


