株式会社COTSUBU

CHAPTER 05

AIへの指示(プロンプト)の書き方

この章で分かること

  • 指示に必ず入れる6つの要素と、抜けたときに何が起きるか
  • 禁止事項を書く理由(「出典のない数字を書かない」を必ず入れる)
  • うまくいった指示をファイルにして、他人が再現できる形にする手順
この章の目次(9)
  1. 1「上手な聞き方」を覚えても、社内は変わらない
  2. 2指示に入れる6つの要素
  3. 3禁止事項を必ず書く
  4. 41回で完成させない(直し方を決めておく)
  5. 5指示をファイルにする(置き場所・版・担当)
  6. 6指示文が増えてきたときの整理
  7. 7指示文を作らないほうがよい場合
  8. 8よくある間違いを5つ
  9. 9この章の出口

指示のうまい書き方を覚えても、社内には広がりません。広がるのは、うまくいった1回がファイルになっているときだけです。 この章で扱うのは技法ではなく、再現性です。同じ指示を別の人が使って同じ結果が出るかどうか、それだけを見ます。 1回うまくいったものを資産にできる会社と、毎回ゼロから書き直す会社の差は、1年で開きます。

この章で分かること

  • 指示に必ず入れる6つの要素と、抜けたときに何が起きるか
  • 禁止事項を書く理由(「出典のない数字を書かない」を必ず入れる)
  • うまくいった指示をファイルにして、他人が再現できる形にする手順

「上手な聞き方」を覚えても、社内は変わらない

プロンプトの技法は世の中にたくさんあり、実際に効きます。ただし、技法は人に付きます。 覚えた人が異動すれば、その業務は元に戻ります。 会社に残るのは、技法ではなく文字になった指示です。

個人に残る形 会社に残る形
頭の中の「こう聞くとうまくいく」 ファイルに書かれた指示文
チャット履歴の中に埋もれている 共有フォルダ・リポジトリにある
その人だけが再現できる 別の人が開いて、同じ結果を出せる
直すのは本人だけ 更新日と直す担当が書いてある

当社の決めごと:本人以外が同じ結果を出せていない指示は、社内資産として数えない。 理由は、数えてしまうと「もう定着した」と誤解し、9章(社内に残す)を飛ばすためです。

技法そのものを知りたい場合は記事(プロンプトエンジニアリング入門)にまとめてあります。この章では、その成果を社内に固定する側だけを扱います。

指示に入れる6つの要素

6つに固定しているのは、書く人によって指示文の構成が変わらないようにするためです。構成が同じであれば、別の人が開いたときに、どこを直せばよいかがすぐ分かります。中身が洗練されているかどうかより、同じ形で並んでいることのほうが、社内に広げるうえでは効きます。

裏を返すと、この6つは「良い指示の条件」ではなく、欠けていると事故が起きる箇所の一覧です。右端の列に、抜けたときに何が起きるかを書いてあるのはそのためです。全部を丁寧に書く必要はなく、1行ずつでも埋まっていれば形になります。

# 要素 書くこと 抜けると何が起きるか
1 目的 誰が、何に使う成果物か 丁寧なだけで使えない文章が出る
2 材料 どの事実を見るか(元データ・原本・音声・過去の完成物) AIが知識から埋める。ここが事実誤認の最大の入口
3 出力の形 項目名・順番・長さ・形式(表/箇条書き/文章) 毎回ばらつき、結局人が整え直す
4 してはいけないこと 禁止事項(下で詳述) 数字や出典が作られる
5 確認の観点 人がどこを確かめるか 確認が省かれる。6章・7章につながる
6 良い例 過去の完成物を1つ添える 説明を何行足しても、例1つに及ばない

この表は、左から順に埋める表ではありません。右端の列を先に読んで、自社でいま実際に起きている症状を探してください。事実誤認が多いなら2、毎回人が整え直しているなら3と6、確認が省かれているなら5です。症状から入ると、埋めるべき欄が1つか2つに絞れます。全部を一度に埋めようとすると、指示文が長くなり、結局更新されなくなります。

2と6が効きます。 材料を指定すると、AIが自分の知識で埋める余地が減ります。良い例を添えると、書式の説明が要らなくなります。 逆に、1(目的)だけを丁寧に書いて満足する指示が多く見られます。目的は大事ですが、それだけでは出力は安定しません。

悪い指示と、直した指示

悪い指示 何が問題か 直した指示
「議事録をまとめて」 材料も形も無い 「添付の文字起こしだけを材料に、①決定事項 ②宿題(担当・期限) ③保留 の3項目で、各項目を箇条書きにする。文字起こしに無いことは書かない」
「いい感じの提案書を作って」 目的も読み手も無い 「製造業の総務部長(決裁者)に、社内の申請業務を減らす提案を出す。添付の議事録とヒアリングメモだけを材料にする。A4 3枚相当。数字は添付にあるものだけを使う」
「この業界の市場規模を調べて」 照らす先が無い(1章の問い2) この指示は書かない。 一次情報(官公庁・業界団体の公表資料)を人が探し、その資料を材料として渡す

3つ目が重要です。材料を渡せない問いは、指示の書き方では解決しません。

禁止事項を必ず書く

禁止事項は3つ以上書きます。最低限、次の1行は全社共通で入れてください。

出典のない数字を書かない。材料に無い事実は「材料に無い」と書く。

この本の原稿も、この1行を入れて書いています。数字が必要な場面では、当社の実値か、人が調べた一次情報を材料として渡します。

禁止事項の例 入れる理由
出典のない数字を書かない もっともらしい数字が作られる。資料に載ると取り返しがつかない
材料に無い固有名詞を出さない 実在しない製品名・会社名・条文が混ざる
断定しない(推測は「推測」と書く) 断定された推測は、読む人が事実と受け取る
法的・医療的な判断を書かない 判断が要る場面では、確認先を書かせる
材料の文章をそのまま長く引き写さない 他者の文章がそのまま成果物に入る

この5行は、そのまま写して使って構いません。ただし、自社の業務で実際に起きた失敗を1行足したときに、初めて自社の禁止事項になります。汎用の5行だけが並んでいる指示文は、たいてい誰にも読まれていません。読まれている指示文には、必ず「なぜこれが書いてあるのか」を社内の誰かが説明できる行が混ざっています。

禁止事項は、事故が起きるたびに1行ずつ増やしてください。 これが社内の資産になります。

1回で完成させない(直し方を決めておく)

最初の出力は、たいてい7割です。ここで「使えない」と判断して終わる会社と、指示を直す会社に分かれます。

出力の不満 指示の直し方
内容が薄い 材料が足りない。元データや過去の完成物を足す
事実が違う 「材料だけを使う」を明記し、材料に無いことは書かせない
形式がばらつく 出力の形(項目名・順番)を指定する。例を1つ添える
言い回しが自社らしくない 自社の完成物を例として添える(説明より例)
長すぎる・短すぎる 長さを数字で指定する

直したら、指示文のファイルを更新します。 ここを口頭で直して終わると、次回また同じところから始まります。 3回同じ直しをしたら、それは指示文に足すべき行です。

指示をファイルにする(置き場所・版・担当)

決めること 具体
置き場所 共有フォルダかリポジトリ。道具の中だけに保存しない(4章)
ファイル名 業務名で始める(「議事録_指示.md」のように)
中身 6つの要素+禁止事項+良い例
更新日 ファイルの先頭に日付
直す担当 氏名を1人
使い方 誰が、いつ使うか(1行)

当社では、リポジトリごとに決めごとを書いたファイルを置き、AIが作業のたびにそれを読む形にしています。 この教科書の書き方(冒頭3行・点検リストを必ず置く・出典のない数字を書かない・1章5,000〜7,000字)も、そのファイルに書いてあります。 だから、書く人が変わっても本の形が揃います。仕組みの説明は記事(CLAUDE.mdとは?AIに仕事を覚えさせる方法)にあります。

この形の利点は、指示文を直すことが、業務改善そのものになることです。気づいたことを1行足せば、次回から全員に効きます。口頭の申し送りは、足しても消えます。

指示文が増えてきたときの整理

指示文は放っておくと増えます。増えること自体は問題ありませんが、どれが現役か分からなくなると、古い指示で作られた成果物が混ざります。

症状 手当て
同じ業務の指示文が2つある 1つに統合する。同じ業務の指示文を2つ持たない
半年以上使われていない指示文がある 削除するか、「使っていない」と先頭に書く
誰が直す担当か分からない 氏名を入れる。分からないなら、その業務の担当者にする
個人のフォルダに散らばっている 置き場所を1か所にまとめる(9章)

整理は、3ヶ月に1回・30分で足ります。見るのは「現役かどうか」「担当がいるか」の2つだけです。中身の良し悪しは、使っている人が都度直せばよいので、棚卸しでは見ません。

当社の決めごと:指示文の置き場所は業務ごとに1か所。同じ内容を2か所に置かない。 理由は、2か所あると必ず片方だけが更新され、どちらが正しいか誰も判定できなくなるためです。

指示文を作らないほうがよい場合

すべての業務に指示文を作る必要はありません。

状況 判断
月1回未満の業務 作らない。作る手間が上回る
毎回やることが違う業務 作らない。手順が言葉にできない
1回しか使わない調べもの 作らない。その場で聞いて終わる
出力をそのまま使わず、考える材料にするだけ 作らない

作るのは、「週1回以上・同じ形の成果物が出る」業務だけです。それ以外に作ると、使われないファイルが増え、どれが現役か分からなくなります。

判断に迷ったら、3回やってから作ると決めてください。3回やれば、毎回同じ形なのか、毎回違うのかが分かります。1回目で指示文にすると、たまたまうまくいった形を固定してしまいます。

よくある間違いを5つ

「役割を与えると精度が上がると聞いたので、冒頭に肩書きだけ書いている」 ——肩書きだけでは材料が増えません。直し方:肩書きより、材料(元データ・過去の完成物)を1つ添える。効果はそちらのほうが大きい。

「長く詳しく書くほど良いと思って、指示が2,000字になった」 ——長い指示は、更新されなくなります。読む人も直せません。直し方:6要素で構造を作り、説明の代わりに良い例を1つ貼る。

「うまくいった指示をチャットの履歴から毎回探している」 ——探す時間がかかり、他人は見つけられません。直し方:ファイルにして共有フォルダかリポジトリに置く。ファイル名は業務名で始める。

「指示を直したが、直したことを他の人が知らない」 ——古い指示と新しい指示が社内に並存します。直し方:ファイルを1か所にし、更新日と直す担当を書く。同じ業務の指示文を2つ持たない。

「うまくいったので定着したと判断した」 ——書いた本人が使っている間だけです。直し方:本人以外が1回、その指示だけで実行して確認する(点検項目10)。ここが再現性の唯一の判定基準。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 最初の1業務の指示文ファイル(6要素+禁止事項+良い例)
  2. 置き場所(共有フォルダかリポジトリ)と、更新日・直す担当の氏名
  3. 本人以外が実行して同じ結果になった記録

指示の形はできました。ここから3章分は、仕事の種類ごとに人が確かめる場所を決めていきます。 最初は文章の仕事です。AIで最も使われる範囲であり、速くなる部分と、まったく速くならない部分がはっきり分かれる範囲でもあります。

次の章へ:6章 AIで議事録・報告書を作る|人が確かめる場所

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:指示文の資産化(10項目)

1つの指示文につき、10分で通ります。 業務ごとに通してください。

# チェック項目 合格ライン
1 指示にその業務の目的が書いてある 「誰が何に使うか」が1行ある
2 材料(事実の出どころ)を指定している 元データ・原本・音声のどれを見るか書いてある
3 出力の形が決まっている 項目名・順番・長さのどれかが指定してある
4 してはいけないことが書いてある 「出典のない数字を書かない」を含む禁止が3つ以上
5 人が確かめる観点が書いてある 確認する箇所が列挙してある
6 良い例が1つ添えてある 過去の完成物が1つ貼ってある
7 指示文がファイルとして保存してある 個人のチャット履歴の中だけになっていない
8 置き場所を全員が開ける 共有フォルダかリポジトリにあり、権限がある
9 更新日と直す担当が書いてある 日付と氏名がある
10 本人以外が同じ指示で同じ結果を出せた 別の人が1回実行して確認した

合格ライン=10項目中8以上。ただし 4・7・10 のどれかが×なら、その指示文は社内資産として数えない。

  • 4が×:数字や固有名詞が作られたまま資料に載ります。6章・7章の確認では追いつきません
  • 7が×:本人しか使えません。異動・退職でその業務は元に戻ります
  • 10が×:再現できていません。「うまくいった」のは1回であって、仕組みではありません

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更新日 2018年10月20日