CHAPTER 02
生成AIの業務活用|どの作業から始めるか
この章で分かること
- 時間で探すと失敗し、やり直しの回数で探すとうまくいく理由
- やり直しを見つける4つの入口(差し戻し・白紙・転記・同じ説明)
- 最初の1つの選び方(毎週起きる・元の事実がある・止まっても困らない)
この章の目次(10)
- 1なぜ「一番時間がかかっている業務」を選ぶと失敗するのか
- 2やり直しを見つける4つの入口
- 3候補を10個書き出す(3列)
- 4候補を絞る4つの条件
- 5最初の1つは「効果が大きいもの」ではなく「回り切るもの」
- 6着手前に測る(これをやらないと、後で何も言えなくなる)
- 72つ目以降の選び方(最初の1つが回ってから)
- 8やめる条件を先に書く
- 9よくある間違いを5つ
- 10この章の出口
「時間のかかっている業務」から探すと、ほぼ失敗します。時間がかかる業務は、たいてい判断が多い業務だからです。 探すのは時間ではなく、やり直しの回数です。差し戻し・書き直し・聞き直し・入れ直しが多い場所に、AIは効きます。 この章は、自社の業務から候補を10個出し、最初の1つを決めて、着手前の数字を記録するまでの章です。
この章で分かること
- 時間で探すと失敗し、やり直しの回数で探すとうまくいく理由
- やり直しを見つける4つの入口(差し戻し・白紙・転記・同じ説明)
- 最初の1つの選び方(毎週起きる・元の事実がある・止まっても困らない)
なぜ「一番時間がかかっている業務」を選ぶと失敗するのか
棚卸しをすると、たいてい一番上に来るのは見積作成や顧客対応です。ところがこれらは、時間の大半が判断と調整でできています。 過去の類似案件を思い出す、値引きの余地を考える、相手の反応を予想する——この部分は手順として書けません。手順が書けなければ、指示も書けません(5章)。
| 選び方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 一番時間がかかる業務から | 判断が多く、手順が書けない。結局「参考程度」で終わる |
| 一番件数が多い業務から | 間違いが大量に出る。確認が追いつかない |
| 社長が一番面倒だと思う業務から | 現場が使わない。社長が1人で使って終わる |
| やり直しが多い業務から | 手順はあるのに何度も直している=手順が言葉にできる証拠。効く |
やり直しが起きている業務は、「やるべきこと自体は決まっている」業務です。 決まっているのに直しているのは、書き出す手間・抜け漏れ・書式のばらつきが原因です。ここはAIが得意な範囲です。 反対に、やり直しが起きない業務(1回で通る業務)は、すでにうまく回っているので触る必要がありません。
やり直しを見つける4つの入口
過去1ヶ月を振り返って、次の4つを数えます。記憶ではなく、実物(メール・チャット・ファイルの更新履歴)を見て数えてください。
| 入口 | 探し方 | 見つかる業務の例 |
|---|---|---|
| ① 差し戻し | 「修正してください」「これ違います」と言われたやり取りを数える | 報告書、申請書、提案書、請求内容の確認 |
| ② 白紙 | 作り始めるまでに時間がかかっている作業を数える | 提案書の構成、案内文、企画の骨子、求人票 |
| ③ 転記 | あるファイルから別のファイルへ書き写している作業を数える | 受注データの入力、請求書の作成、名簿の更新 |
| ④ 同じ説明 | 同じことを何度も口頭で説明している場面を数える | 新人への手順説明、問い合わせの定型回答、社内の申請方法 |
4つのうち、① と ② が最も効きます。 ③(転記)は、AIより先にシステム同士をつなぐほうが確実なことが多く(当社の既存システム連携や kintone の出番です)、④は手順書を1枚書けば済む場合があります。
「AIでやるべきか」を決める前に、「そもそもこの作業は要るのか」を1回問うてください。 無くせる作業を速くしても意味がありません。ここは当社の業務の棚卸し(1部門は無料)で最初にやることでもあります。
候補を10個書き出す(3列)
探した結果は、次の3列で書き出します。10個に満たない場合は、探し方が足りません。
| 業務 | 担当 | 頻度 |
|---|---|---|
| 打ち合わせ議事録の作成 | 営業担当 | 月12回 |
| 問い合わせの一次返信 | 事務 | 月40件 |
| 月次報告書の作成 | 部門長 | 月1回 |
| 求人票の作成 | 総務 | 年2回 |
頻度は必ず数字で書いてください。 「よくある」「たまに」は判定に使えません。ここが曖昧なまま進むと、11章(効果の測り方)で何も言えなくなります。
候補を絞る4つの条件
10個の候補に、次の4つで○×を付けます。
| # | 条件 | ○の状態 | ×だとどうなるか |
|---|---|---|---|
| 1 | 元になる事実があるか | 音声・元データ・原本がある | 出力が合っているか確かめられない(1章の問い2) |
| 2 | 入力がすでに電子になっているか | ファイル・メール・システムの中にある | 先に電子化の作業が要る。そちらが本題 |
| 3 | 間違っても業務が止まらないか | 止まらない。直せる | 最初の1つには選ばない |
| 4 | 毎週以上、起きているか | 週1回以上 | 効果が数字にならない。覚える前に忘れる |
4つとも○のものだけが、最初の1つの候補です。 3つ以下しか○が付かない業務は、2つ目・3つ目に回します。
この条件で絞ると、多くの会社で最初に残るのは議事録の作成です。元の音声という事実があり(条件1)、録音はすでに電子で(条件2)、間違っていても業務は止まらず(条件3)、毎週起きます(条件4)。当社が受託先に最初に勧めるのもこれです。 手順そのものは記事にまとめてあります(AIで業務自動化|中小企業が今すぐ始められる5つのこと)。この章で決めるのは、どれを選ぶかまでです。
最初の1つは「効果が大きいもの」ではなく「回り切るもの」
最初の1業務は、成果を出すためではなく、社内に確認の癖を作るために選びます。だから、効果の大きさより「最後まで回り切るか」を優先します。
| 最初の1つに向く | 最初の1つに向かない |
|---|---|
| 毎週起きる | 月1回・年1回 |
| 担当者が1人〜2人 | 部署をまたぐ |
| 出来上がりの良し悪しが見て分かる | 良し悪しが専門知識に依存する |
| 間違っても、その場で直せる | 外に出たら取り消せない |
| 担当者本人が「やってみたい」と言っている | 上からの指示だけ |
最後の行が効きます。実際にその業務をしている人が「やる」と言っていない業務は、選ばないでください。 導入が止まる原因のほとんどは、性能ではなく、使う人が置き去りになっていることです。
着手前に測る(これをやらないと、後で何も言えなくなる)
選んだら、手を付ける前に次の3つを記録します。1週間分で構いません。
| 測るもの | 測り方 | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 所要時間 | 1件あたり何分かかっているか。着手から完成まで | 11章で比べる基準になる |
| やり直しの回数 | 直近1ヶ月の差し戻し・書き直しの件数 | 本当に減ったかを見る |
| 確認にかかる時間 | 出来上がりを誰かが見る時間 | AI導入後はここが増える。 含めないと効果を過大評価する |
3つ目を必ず入れてください。AIを入れると、作る時間は減り、確認の時間は増えます。 合計で減っていなければ効果はありません。着手前の確認時間を測っていないと、この比較ができません。
当社の決めごと:着手前の数字が無い業務は、効果を語らない。 理由は、測っていない効果は「便利になった気がする」で終わり、次の投資判断ができないためです。
2つ目以降の選び方(最初の1つが回ってから)
最初の1業務が1ヶ月回ったら、2つ目に進みます。同時に2つ始めないでください。 どちらが効いたのか分からなくなり、うまくいかなかったときの原因も特定できません。
| 2つ目の選び方 | 理由 |
|---|---|
| 1つ目と同じ担当者の、別の業務 | 確認の勘が付いている人が回すので、立ち上がりが速い |
| 1つ目と材料が同じ業務 | 指示文の材料の指定を使い回せる(5章) |
| 1つ目で出た「ついでに効きそう」な業務 | 現場から出てきた候補は、使われる確率が高い |
逆に、2つ目を別の部署に広げるのは3つ目以降にしてください。部署をまたぐと、材料の置き場所も、確認する人も、判断の基準も別になります。1つ目の型がそのまま使えないので、実質「もう一度1つ目をやる」ことになります。
社内に広げる順番そのものは9章で扱います。ここでは、1つずつ・同じ担当者からとだけ覚えてください。
やめる条件を先に書く
始める前に、「どうなったらやめるか」を1行決めます。後から決めると、投じた手間が惜しくなって止められません。
| やめる条件の例 |
|---|
| 1ヶ月使って、確認まで含めた合計時間が減っていなければ元に戻す |
| 担当者が週1回も使わなければ、業務の選定からやり直す |
| 同じ種類の間違いが3回出たら、指示文を直す。直しても出るなら段階を下げる(1章) |
やめるのは失敗ではありません。 選んだ業務が合わなかっただけで、2つ目に移ればよいだけです。やめる条件を書いておくと、社内で「失敗した」という話になりません。
よくある間違いを5つ
「全部門から要望を集めてから決める」 ——要望は集まりますが、どれも「あったらいいな」で、担当が決まりません。集めている間に熱が冷めます。直し方:4つの条件で絞って、1つだけ決める。他部門は2つ目以降に回すと明言する。
「一番効果が大きそうな業務から始める」 ——効果が大きい業務は、たいてい部署をまたぎ、関係者が多く、判断が絡みます。回り切らずに止まります。直し方:最初の1つは「回り切るもの」を選ぶ。効果は2つ目から取りに行く。
「とりあえず全員に使ってもらって、良かったものを残す」 ——誰が何に使ったか分からず、良かったかどうかの判定もできません。直し方:業務を1つに絞り、着手前の数字を測ってから配る。
「紙の書類を読み取らせるところから始める」 ——読み取りの精度確認に手間がかかり、しかも元の紙が無くならないので、確認作業だけが増えます。直し方:すでに電子になっている入力から始める。紙は電子化の計画(別の課題)として切り出す。
「時間がどれくらい減ったか、後から思い出して書く」 ——思い出しの数字は、良くなった方向に寄ります。社内で信用されません。直し方:着手前の1週間、実測して記録する。測っていないなら、効果は「不明」と書く。
この章の出口
この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。
- 候補10個の一覧(業務・担当・頻度)
- 最初の1業務の名前と、担当者の氏名
- 着手前の数字(所要時間・やり直し回数・確認時間)と、判定日、やめる条件
やることは決まりました。ただし、まだ道具を契約しないでください。 その業務のデータをAIに入れてよいのか、入れた情報がどう扱われるのかを決めていないからです。順番を間違えると、後から取り返せない事故になります。
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:AIを効かせる業務の見つけ方(12項目)
1業務あたり30分、候補出しを含めて半日で通ります。 道具を契約する前に通してください。
| # | チェック項目 | 合格ライン |
|---|---|---|
| 1 | 候補を10個以上書き出した | 業務名・担当・頻度の3列がそろっている |
| 2 | 頻度を数字で書いた | 「月◯回」と書いてある(「よくある」は×) |
| 3 | やり直しの回数を数えた | 直近1ヶ月の差し戻し・書き直しの件数を、実物を見て数えた |
| 4 | 元になる事実がある業務に印を付けた | 音声・元データ・原本のどれがあるか書いてある |
| 5 | 入力が電子になっているか確認した | 紙・手書きしかない業務に×を付けた |
| 6 | 間違っても業務が止まらない業務を選んだ | 最初の1つは、止まらない業務である |
| 7 | 最初の1つが決まっている | 業務名が1つだけ書いてある |
| 8 | 着手前の数字を記録した | 所要時間・やり直し回数・確認にかかる時間の3つ |
| 9 | 対象外にした業務と理由が書いてある | 理由が1行ずつある |
| 10 | 担当者本人が「やる」と言っている | 実際にその業務をしている人の氏名がある |
| 11 | 判定日が決まっている | 1ヶ月以内の日付が入っている |
| 12 | やめる条件が決まっている | 「◯◯なら元に戻す」と1行書いてある |
合格ライン=12項目中9以上。ただし 7・8・10 のどれかが×なら着手しない。
- 7が×:同時に複数を始めると、どれも中途半端になります。効果の原因も分かりません
- 8が×:1ヶ月後に効果を判定できません。この項目だけは、後から取り返せません
- 10が×:使われません。担当者が納得していない仕組みは、必ず元のやり方に戻ります
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更新日 2018年10月20日
