株式会社COTSUBU

CHAPTER 12

自治体DXを単年度で終わらせない体制

この章で分かること

  • 毎月やること3つと、年度の節目にやること
  • 担当が異動しても続く形(所有者一覧)と、止まったことに気づく方法
  • この本の使い方(全12章・142項目の点検リストの引き方)
この章の目次(11)
  1. 1毎月やることは3つ。合計30分
  2. 2年度の節目にやること
  3. 3止まったことに、どうやって気づくか
  4. 4担当が異動しても続く形:所有者一覧
  5. 5内製化は4段階で上がる
  6. 6やめる判断も、続ける体制の一部
  7. 7よくある間違いを5つ
  8. 8費用について
  9. 9この本の使い方
  10. 10更新の約束
  11. 11相談したいとき

自治体でDXが止まるのは、飽きたからでも、効果が無かったからでもありません。 担当が変わり、予算の時期を逃し、誰も気づかないうちに止まるからです。 この章は、毎月30分で続ける形を決め、最後にこの本全体の使い方をまとめます。

この章で分かること

  • 毎月やること3つと、年度の節目にやること
  • 担当が異動しても続く形(所有者一覧)と、止まったことに気づく方法
  • この本の使い方(全12章・142項目の点検リストの引き方)

毎月やることは3つ。合計30分

長い会議は要りません。 9章で置いた月1回の定例で、次の3つを見ます。

30分という枠には理由があります。自治体でDXが止まる原因の多くは、やる気の欠如ではなく、担当者の持ち時間の奪い合いです。DX担当は情報政策の本来業務を抱えたまま、各課の相談を受けています。そこに1時間の定例と報告書の作成が乗ると、繁忙期の最初に切られるのがこの枠です。切られた月は誰も困りません。困らないまま半年が過ぎ、気づくと誰も見ていない——という順で止まります。30分は「忙しくても切らない」ために選んだ長さで、内容を削って達成する枠ではありません。

見る項目を3つに固定しているのも同じ理由です。毎月同じ3つを見るなら、前任者が異動しても、引き継ぎは「この3つを見てください」の一言で済みます。項目が増えるほど、引き継ぎは属人的になります。続ける仕組みの良し悪しは、担当が替わった翌月に動いているかどうかだけで決まります。

# 見ること 見方 時間
1 先月、誰が何を直したか 変更の記録を読む。1件も無ければ、層1が動いていない(7章) 10分
2 止まっている業務はないか 入力が途切れている、紙が復活している、問い合わせが窓口に戻っている 10分
3 新しい相談が来ているか 他の課から来た困りごとを1行で書き留める(2章の6列へ) 10分

この表は、上から順に見てください。順番に意味があります。1は過去(先月何が起きたか)、2は現在(いま止まっていないか)、3は未来(次に何をするか)で、この並びのまま定例の議事録に書けば、報告様式を別に作る必要がなくなります。時間が足りない月は3を削らず、2を短くしてください。2は兆候の確認なので翌月に回せますが、3で拾い損ねた相談は、二度と上がってこないことが多いからです。

1が、この本でいちばん見てほしい数字です。 「今月の変更:0件」が数か月続いたら、職員が触れない状態になっています。研修でも予算でもなく、触れる状態に戻すことが先です。

記録するのはこの3つだけにしてください。 定例の報告様式を作り込むと、報告を作ること自体が仕事になります(1章の「効果を厳密に測ろうとする」)。

年度の節目にやること

自治体では、続ける作業に時期があります。 3章の年度の暦と合わせて、暦に入れてください(時期は団体ごとに違います。自庁の財政担当に確認してください)。

時期 やること 効き方
4月(異動の月) 権限を外す・付ける。組織と通知の宛先を直す。引き継ぎの6つを渡す(8章・9章) ここを外すと、1年分の事故が起きる
初夏〜夏(予算要求の時期) 次年度に要求するものを決める。毎月ためた材料を使う 逃すと、まるごと1年待つ(3章)
秋〜冬(査定の時期) 削られる理由を潰す。前後の比較を1行で出す 「効果が語れない」で削られる
年度末 契約の更新、検収、引き継ぎ文書の更新、翌年度の担当の確認 年度をまたいで止まるのを防ぐ

2行目を逃すと、たとえばこうなります。現場の手応えは良く、他の課からの相談も増えている。ところが、要求の材料をまとめ始めたのが秋で、その年度の要求はすでに締まっており、翌年度の話になる。動いている業務はそのまま動き続けますが、新しい業務に着手できないまま1年が空き、その間に担当職員が異動する。戻ってきたときには、相談を上げていた課の側も熱が冷めている。失うのは予算ではなく、勢いのほうです。

民間であれば、必要になった月に稟議を回せます。自治体では、必要になった月と、要求できる月が一致しません。この時間差を前提に動けるかどうかが、続く団体と止まる団体の分かれ目になります。毎月の定例が効くのは、月次の改善のためというより、この時間差を埋めるためです。

2行目のために、毎月ためてください。 予算要求の時期に「何を要求するか」を考え始めると、間に合いません。毎月の定例の3つめ(新しい相談)が、そのまま要求の材料になります。

止まったことに、どうやって気づくか

止まるときは、誰も報告しません。 静かに使われなくなります。兆候は決まっています。

兆候 見る場所 起きていること
入力が途切れている 直近の登録日 現場が別の方法に戻っている
紙が復活している 所管課の机 二重管理をやめる条件を決めていない(2章の点検11)
窓口への問い合わせが戻っている 担当課の体感 住民向けが使われていない(10章)
変更が0件のまま数か月 変更の記録 層1が動いていない(7章)
相談が来なくなった 定例の3つめ 庁内での信用が薄れている

この5つは、深刻さの順ではなく、気づきやすさの順に並べています。上の2つは見に行けば分かりますが、下の2つは意識していないと気づけません。とくに5行目——相談が来なくなった——は、静かすぎて兆候だと認識されません。「トラブルが無いので順調」と読んでしまうからです。定例の3つめで新しい相談を記録しているのは、件数が0になったことに気づくためでもあります。

この表を使うときは、5つ全部を毎月見る必要はありません。1つでも当てはまったら、その業務の所管課に足を運んでください。兆候は互いに連動しているので、1つ見つかれば他も起きていると考えてよく、逆に机の上で残り4つを確認しても意味がありません。

「紙が復活している」を、失敗の証拠として扱わないでください。 現場が紙に戻るのは、たいていデジタルの側に足りない理由があるからです。責めると次から報告されなくなります。戻った理由を1つ聞いてください。

担当が異動しても続く形:所有者一覧

この本の必須項目の多くは、「名前が書いてあるか」です。 最後にそれを1枚にまとめます。

列 書くこと
業務名 現場が呼んでいる名前
所管課 課名
層1を担当する職員 2人以上の氏名(7章)
層2の相談先 情報政策担当の氏名
契約の相手と期間 事業者名・契約の期間・更新の時期
年間の費用 ライセンス・保守・その他(3章)
次に見直す時期 いつ、誰が判断するか

この1枚を、DX担当が全庁分持ってください。 各課に持たせると、異動のときに消えます。

更新は年1回で足ります。 年度末に、空欄と「1人しか書いていない行」を探してください。1人しか書いていない行が、来年止まる行です。

内製化は4段階で上がる

一気に自走はしません。段階を飛ばすと戻ります。 自治体の場合、段階の途中で異動が起きる前提で考えます。

段階 状態 次に上がる条件
1. 触れる 職員が本番のアプリを触り、層1の変更ができる 2人以上が触れる。変更の記録が残っている
2. 直せる 困りごとが出たときに、自分たちで直している 月1件以上の変更が数か月続いている
3. 作れる 新しい業務を、自分たちでアプリにできる 1件を最初から最後まで庁内で作った
4. 教えられる 他の課に教えられる職員がいる 他の課から相談が来て、庁内で完結している

段階2で止めるか、3を目指すかで迷ったら、段階2で止めてください。判断の基準は「意欲」ではなく「人数」です。段階3——新しい業務を自分たちでアプリにする——には、まとまった時間がいります。その時間を出せるのは、層1を担当する職員が3人以上いて、かつ1人が数週間抜けても業務が回る課だけです。2人でこれをやると、片方が異動した瞬間に段階1にすら戻れなくなります。人数が足りないまま段階3に手を出して崩れるより、段階2を5年続けるほうが、結果として庁内に残るものは多くなります。

逆に、段階3に進む価値がはっきりある場合もあります。似た様式の業務が庁内にいくつも並んでいて、そのたびに外注していると費用が積み上がる——という形のときです。このときは段階3が費用の話になるので、予算要求の材料として説明できます。意欲ではなく、要求書に書ける理由があるかどうかで決めてください。

2で止まる団体が最も多く、それで十分な場合もあります。 全庁が4になる必要はありません。目指すのは「段階1を切らさないこと」です。 異動のたびに段階0に落ちるのが、いちばん損をする形です。

やめる判断も、続ける体制の一部

増やし続けると、見られなくなります。 使われなくなったものを閉じる判断を、年1回の場に入れてください。

判断 条件の例
閉じる 12か月、入力も閲覧も無い。所管課が「使っていない」と言う
統合する 似た業務が別のアプリに分かれている。入力する人が同じ
紙に戻す 件数が少なく、窓口のほうが速い。戻す判断も正しい判断です
残す(理由を書く) 年1回だが必ず使う。制度上必要

閉じるか残すかで迷ったときは、閉じる側に倒してください。残す判断には費用も手間もかからないように見えますが、実際には毎年の確認作業と、一覧の行数と、新任者が「これは何ですか」と聞く時間を消費し続けます。閉じて困ったときは作り直せます。作り直す手間より、誰も使っていないものを全庁の一覧に載せ続ける負担のほうが、年数が経つほど大きくなります。

ただし「紙に戻す」だけは、閉じるより先に検討してください。閉じると、その業務そのものが視界から消えます。紙に戻せば、業務は一覧に残ったまま、手段だけが変わります。件数が増えたときに、また戻せます。

閉じるときは、データの扱いを先に決めてください(保存期間・削除・移し替え。6章の点検10)。

よくある間違いを5つ

「続ける仕組みを、報告の様式で作る」 ——報告書を作ること自体が仕事になり、中身が空になります。直し方:毎月見るのは3つだけ(先月の変更・止まっている業務・新しい相談)。30分で終える。

「予算要求の時期に、何を要求するか考え始める」 ——間に合いません。直し方:毎月の定例で拾った相談を、そのまま要求の材料にためる。初夏には材料が揃っている状態にする。

「紙が復活したことを失敗として叱る」 ——次から報告されなくなり、気づけなくなります。直し方:戻った理由を1つ聞く。デジタルの側に足りない理由があることがほとんどです。

「全庁が自走することを目標にする」 ——段階4は全庁に要りません。直し方:目標を「段階1を切らさないこと」に置く。異動のたびに0に戻るのを防ぐほうが、効果が大きい。

「増やすことだけを続ける」 ——見られないアプリが増え、どれが本番か分からなくなります。直し方:年1回、閉じる・統合する・紙に戻すの判断を入れる。戻す判断も正しい判断です。

費用について

続ける費用は、構築費とは別に、最初から予算に入れてください(3章の点検9)。

費目 見落としやすい点
ライセンス 年度替わりの人数の増減。契約の更新時期とのずれ(8章)
保守・サポート 範囲(障害対応だけか、改修を含むか)。年度をまたぐ扱い
改修 層3の作業だけが対象。層1・層2は費用ゼロにできる(7章)
研修 異動のたびに要る。単発ではなく、毎年の費目として置く

当社の場合、構築は1業務30万円(税込33万円)・3業務パック75万円、自分でアプリを作れる状態まで引き上げる職員研修(3か月・4名まで)60万円です。これは当社の決めごとで、2026年9月時点の値です。最新は自治体DX支援・自治体向けkintone構築のページが正です。

少額随意契約の限度額は、団体区分と契約種別で異なります。必ず自庁の財務規則を確認してください(3章・4章)。

この本の使い方

12章を通しで読む必要はありません。自庁が今いる場所の章から読み、その章の点検リストに○×を付けてください。 全12章に12本・142項目の点検リストが入っています。

区分 今いる場所 読む章 手元に残る点検リスト(項目数)
前提 着手してよいかを判断する 1章 前提確認12(計12)
決める どの業務から、どの財布で、どう発注するか 2・3・4章 業務の選定12/予算と年度12/調達の設計12(計36)
守る 置く場所とデータの扱いを確認する 5・6章 セキュリティ14/個人情報14(計28)
作る 線を引いて、庁内で使える形にする 7・8章 内製と外注10/庁内kintone12(計22)
続ける 研修・住民向け・外部人材・体制 9・10・11・12章 研修と引き継ぎ12/住民向け12/外部人材10/続ける体制10(計44)

この区分は、工程の順ではなく「止まる順」です。 作ったのに使われないなら8章ではなく2章に、運用費が膨らむなら12章ではなく4章・7章に、差し戻されたなら5章に原因があります。後ろの章で困ったら、前の区分に戻ってください。

読み方は3通りあります。通しで読む(これから始める場合)、点検リストだけ抜いて○×を付ける(すでに動いている案件の健康診断)、5章と6章の28項目だけ通す(着手前に必ず通す工程)。

判断に迷ったときは、この本の骨になっている3つの原則に戻ってください。

  1. 制度の判断をしない。確認する場所と問いを持つ。 制度は毎年変わり、運用は団体ごとに違います。外部の事業者にも、本にも、「この業務はこの区分で扱える」と決める権限はありません(5章・6章・11章)
  2. 止まるのは技術ではなく、手続きと人。 だから「守る」を独立した区分にし、「決める」に3章を割いています。作る工程に割いているのは2章だけです
  3. 1人しか触れないものは、完成していない。 この本の必須項目の多くは「名前が2人以上書いてあるか」です。異動は事故ではなく、予定された仕様です(1章・7章・9章・12章)

更新の約束

  • 正本は docs/textbook/jichitai/ のMarkdownです。 ホワイトペーパー(PDF)・スライド・研修のテキストは、すべてここから作ります。内容が食い違ったら、こちらが正しいと考えてください
  • 法令・制度の判断は書きません。 制度・補助金・要綱の数値は「最新は総務省/自庁の要綱で確認」とし、探す言葉を添えています。5章・6章・11章は冒頭に「法的な助言ではない」と明記しています
  • 出典のない統計・相場は書きません。 「◯%の自治体が…」は使いません。数値は、自庁で確認できる場所と、その場で○×が付く合格ラインに置き換えています
  • 自治体名は公開済みの範囲だけを出します。 島根県海士町・西ノ島町・知夫村、三重県名張市、神奈川県藤沢市、神奈川県。それ以外は「人口◯万人規模の町」のように書きます
  • 当社の料金は時点を明記します。 本書の記載は2026年9月時点です。最新は各サービスページが正です
  • 重なる範囲は他の教科書に譲っています。 アプリ設計・権限・移行はkintoneの教科書、サイトの作り方と公開前チェックはサイト制作の教科書、通知と予約はLINEの教科書、計測は計測の教科書です。同じ表を2冊に書きません
  • 制度の改定や料金の改定があったときは、該当する章を直し、更新履歴に残します

相談したいとき

  • 自分で点検したい — 5章と6章の28項目は、情報政策担当・所管課と一緒に通せば1日で終わります。着手前に必ず通してください。費用はかかりません
  • どの業務から始めるか決めたい — 自治体DX支援。初回相談(30分)と現状調査は無料です。資料の送付だけでも構いません
  • 次年度の予算に載せたい — 提案と見積は無料です。要求の時期は前年の初夏から夏です(3章)。時期を逃さないうちにご相談ください
  • 1業務を形にしたい — 自治体向けkintone構築(1業務30万円・1か月・職員への操作説明を含む)。情報政策担当との事前協議に同席します
  • 職員が自分で直せる状態にしたい — 職員研修(3か月・4名まで 60万円)。海士町で実証したカリキュラムです
  • 庁内に人を置きたい — 地域活性化起業人の受け入れ支援。副業型(月4日から)で試し、成果が出てから企業派遣型に切り替える形をお勧めしています(11章)

点検リストに×が付いた項目を持ってきていただくのが、いちばん早い相談のしかたです。 どこが×かが分かっていれば、話は「何をやるか」ではなく「何から直すか」から始められます。

そして、×が1つも無い団体に、当社から売るものはありません。 そのときは、この本を庁内の手順書としてそのまま使ってください。それが、この本を書いた理由です。

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:続ける体制(10項目)

年度末に1回、DX担当が通します。

# チェック項目 合格ライン
1 月1回の定例が動いている 直近3回の開催の記録がある(9章)
2 所有者一覧がある 業務・所管課・担当2人・相談先・契約・費用・見直し時期が埋まっている
3 変更の記録が1行ずつ残っている 直近3か月に記録がある
4 止まりの兆候を見る場所を決めた 入力の最終日・紙の復活・問い合わせ・変更0件・相談の有無
5 年度の節目にやることを暦に入れた 4月・予算要求の時期・査定・年度末が書いてある
6 次年度に要求する材料を、毎月ためている 相談の記録が要求書の材料になっている(3章)
7 契約の更新時期と年間費用が一覧になっている 更新の1か月以上前に気づける形
8 使われなくなったものを閉じる判断の場がある 年1回。閉じるときのデータの扱いも決まっている
9 層1の担当が2人以上いる状態を保っている 所有者一覧に、1人しか書いていない行が無い
10 困ったときに相談できる外の相手を決めてある 事業者・外部人材・県の窓口のいずれかが書いてある

合格ライン=10項目中8以上。ただし 2・5・9 のどれかが×なら、来年度は止まると考えてください。

  • 2が×:誰が持っている業務か分からなくなります。異動のときに引き継ぎが起きません
  • 5が×:予算要求の時期を逃し、まるごと1年待つことになります
  • 9が×:1人しか触れない行は、次の異動で止まります。完成した時点で未完成です

読んでも決めきれないところは、一緒に決めます

30分の相談は無料です。役場に常駐して進めた実例をお見せします。引き受けられる範囲は自治体DX支援・地域活性化起業人にまとめています。

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更新日 2018年10月20日