起業人制度(総務省の地域活性化起業人制度)を、観光や地域振興ではなくIT・DX分野で使う自治体が増えています。この記事は、制度をDXに使うと庁内で何が変わるのかを、他の制度との違いと実際の使われ方から整理したものです。
制度の型・従事の条件・国の支援の額・受け入れの流れ・費用は、地域活性化起業人の受け入れ支援に1ページでまとめています。 手続きの要件を確認したい場合は、先にそちらをご覧ください。
先に結論です。
- 起業人制度は採用ではなく、自治体と企業(または企業に所属する個人)が協定を結ぶ形です。職員定数を増やさずに専門人材を庁内に置けます
- IT・DXで使うときの本当の利点は、費用よりも「庁内に居続けること」です。資料を納めて去る外注と、ここが決定的に違います
- 受け入れる側が先に決めることを決めないと、期間の短い受け入れは現状把握だけで終わります。決めることは自治体DXの教科書 11章 外部人材の使い方に並べています
起業人制度とは?
起業人制度とは、民間企業の社員等が、その身分のまま一定期間、地方自治体の業務に従事する制度です。総務省が推進する「地域活性化起業人制度」として知られ、民間のノウハウや専門知識を行政に活かすことを目的としています。
派遣期間中の給与等に係る経費は原則として自治体が負担し、その自治体負担分を国が支援します。令和6年度からは、企業に所属する個人と自治体が協定を結ぶ副業型と、退職したシニア人材の型が加わりました。令和7年度の実績は企業派遣型904名、副業型299名、シニア型12名、合計1,215名で過去最高でした。
型ごとの勤務の要件と国の支援の額は改定されます。 数字を含めた最新の整理は地域活性化起業人の受け入れ支援に置いてあります。制度の判断そのものは、必ず総務省の公表資料と自庁の人事・財政担当で確認してください。
地域おこし協力隊との違い
IT・DXで人を入れるとき、いちばん多い取り違えがこれです。
| 項目 | 起業人制度 | 地域おこし協力隊 |
|---|---|---|
| 身分 | 民間企業の社員のまま | 自治体の会計年度任用職員等 |
| 専門性 | 企業での実務経験を活かす | 幅広い活動(必ずしも専門特化ではない) |
| 期間 | 6ヶ月〜3年 | 1年〜3年 |
| 給与 | 派遣元企業が支払う | 自治体が支払う |
起業人制度はより高い専門性を持った人材を確保しやすいという特徴があります。業務システムを庁内で作る、という目的がはっきりしている場合は、こちらが向きます。
なお、外部人材の形は起業人と協力隊だけではありません。CIO補佐官・アドバイザー、任期付職員・会計年度任用職員、副業・兼業人材、業務委託。それぞれ指示できる範囲と費用の出どころが違います。5つの形の違いは自治体DXの教科書 11章の表で見比べられます。
なぜ自治体DXに起業人制度が有効なのか
理由1:即戦力のIT人材を確保できる
自治体内部でIT人材を採用・育成するには時間がかかります。起業人制度を活用すれば、すでにIT企業で実務経験を積んだ人材をすぐに迎えられるため、DXの推進スピードが格段に上がります。
理由2:財政負担を抑えられる
外部のITコンサルティング会社に依頼すると高額な費用がかかりますが、起業人制度では国の支援があるため、自治体の実質的な負担を抑えられます。
理由3:「作って去る」を防げる
一般的なITコンサルティングでは、レポートやシステムを納品して終了というケースが少なくありません。起業人制度では一定期間自治体内で働くため、以下が実現しやすくなります。
- 庁内の業務を深く理解した上でDXを設計できる
- 職員と日常的にコミュニケーションを取りながら進められる
- 知識やスキルを職員に移転し、自走体制を構築できる
3つめが本命です。1人が入って1人分の仕事をするだけなら、委託と変わりません。中にいる意味は、職員に移せることだけです。
起業人制度を活用した自治体DXの成功パターン
パターン1:庁内業務の効率化
IT人材が庁内に常駐することで、日常的に職員の困りごとを拾い上げ、デジタルで解決していくアプローチが可能になります。
具体的な取り組み例は以下です。
- 紙の申請書をkintoneなどのノーコードツールでオンライン化
- Excel管理していたデータをクラウドデータベースに移行
- 定型業務のRPA化(データ転記、レポート作成など)
- 庁内の情報共有基盤の構築(グループウェア導入など)
パターン2:IT人材育成の推進役
起業人として派遣された人材が、庁内の「DX推進リーダー」を育てるパターンも効果的です。
- 職員向けのデジタルスキル研修の企画・実施
- 各課にDX推進担当を配置し、継続的にサポート
- 最新技術のトレンドを庁内に共有する勉強会の開催
パターン3:住民サービスのデジタル化
外向けの取り組みとして、住民向けサービスのデジタル化を推進するケースもあります。
- オンライン申請・届出の仕組み構築
- 住民向けアプリやLINEでの情報発信
- デジタルデバイドへの配慮を含めた設計
実際に制度を使った事例
株式会社COTSUBU(東京都千代田区、代表:宇田川将也)の代表は、2024年に本制度で島根県海士町に着任し、役場でkintoneによる電子決裁、入札関連情報の一元管理、健康福祉課の定期健診管理を構築しました。
あわせて、職員と、大人の島留学で島に来ている若者を対象にkintoneの研修を行いました。以降の改修は庁内で回っています。3つのアプリの設計と、押印・要配慮個人情報をどう扱ったかは自治体のkintone活用事例:海士町で作った3つのアプリに書いています。
2026年6月1日には、三重県名張市と本制度に基づく派遣協定を締結しました。名張市では着任の前から「担当室が自らアプリを作成し、困った部分を支援側がサポートする」という方針が庁内で決まっており、支援はその方針に沿って組まれています。海士町で育った人材が、次の自治体の戦力として着任しています。
受け入れる前に、庁内で決めておくこと
制度を使うと決めたあと、成果を分けるのは受け入れる側の準備です。人が来てから決めると、期間の短い受け入れでは最初の1か月が消えます。
特に効くのは3つです。
- 業務の範囲を業務名で書く。「DX推進」ではなく「◯◯課の受付管理の構築と職員への引き継ぎ」
- 職員に移すことを、業務の中に入れる。研修・引き継ぎを別料金の前提にしない
- 終わり方を最初に決める。期間・更新の判断時期・引き継ぎ先・アカウントの扱い・作ったものの扱い
席の置き方、アカウントの名義、決裁と文書の扱いまで含めた10項目は、自治体DXの教科書 11章 外部人材の使い方にまとめてあります。人事・財政・情報政策の担当と一緒に通す形で作ってあります。
受け入れの手続きそのもの(相談から協定締結までの6ステップ)は、地域活性化起業人の受け入れ支援でご説明しています。
まとめ
起業人制度は、IT人材の確保が難しい地方自治体にとって、DXを推進するための強力な仕組みです。財政負担を抑えながら即戦力のIT人材を迎えられ、かつ庁内の人材育成にもつなげられるという点で、大きなメリットがあります。
- 起業人は採用ではなく協定。地域おこし協力隊とは身分も専門性も費用の出どころも違う
- IT・DXで使う利点は費用より「庁内に居続けること」。職員に移せるかどうかが成果を決める
- 成果を分けるのは受け入れ側の準備。業務の範囲・職員への移管・終わり方の3つを先に決める
株式会社COTSUBUでは、起業人制度のIT/DX版として、社員を全国の自治体に派遣する事業を展開しています。海士町・西ノ島町・名張市での実績(西ノ島町は代表が前職で社員として担当した案件です)をもとに、庁内のDX推進と人材育成を一体で支援しています。制度の活用方法からご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。


