CHAPTER 05
業務フローの書き方|清書しない
この章で分かること
- フロー図を清書してはいけない理由と、描く形(レーン・記号3つ・A3横1枚)
- 矢印に何を書くか(受け渡しを図に出す方法)と、待ちの描き方
- 45分の指差し会の進め方と、そこで出た指摘を表に戻す手順
この章の目次(9)
- 1フローの目的は、表を疑ってもらうこと
- 2描く形:レーン・記号3つ・A3横1枚
- 3矢印に「何を・どの形で」を書く
- 4現状だけを描く(あるべき姿を同じ紙に描かない)
- 5指差し会(45分)
- 6指摘を表に戻す
- 7デジタルで描く場合
- 8よくある間違いを5つ
- 9この章の出口
業務フロー図は納品物ではありません。一覧表の間違いを見つけるための道具です。 だから清書しません。きれいに描いた瞬間に、現場は「もう決まったこと」として受け取り、間違いを指摘しなくなります。手描きのまま、関係者に指を差してもらうのが正解です。 この章は、記号3つ・A3横1枚で現状フローを描き、45分の指差し会で表を直すための章です。
この章で分かること
- フロー図を清書してはいけない理由と、描く形(レーン・記号3つ・A3横1枚)
- 矢印に何を書くか(受け渡しを図に出す方法)と、待ちの描き方
- 45分の指差し会の進め方と、そこで出た指摘を表に戻す手順
フローの目的は、表を疑ってもらうこと
3章と4章で作った一覧表には、必ず間違いが入っています。理由は単純で、聞き取りは1人ずつ行うからです。
| 表に入る間違い | 例 | 表だけでは気づけない理由 |
|---|---|---|
| 受け渡しの食い違い | 営業は「メールで送った」、事務は「共有フォルダを見ている」 | 双方が自分の認識で答えている |
| もうやっていない業務 | 半年前にやめたが、聞かれたので答えた | 本人も「今もやっている気がする」 |
| 誰も引き取っていない仕事 | 渡したつもりだが、実際は別の人が拾っている | 渡す側の表にしか出ない |
| 抜けている業務 | 例外対応・月末だけの作業 | 「昨日の朝から」の質問では出ない |
| 順番の違い | 実際は承認の前に発注している | 手順書と現実が違う |
この表は、自社の一覧表に何が起きているかを推し量るためのものです。5行のうちどれが自社で起きていそうかを当てる必要はありません。聞き取りを1人ずつ行った以上、5行とも起きていると考えてください。程度の問題ではなく、やり方に由来する問題です。1人ずつ聞く方式からは、この5種類が必ず出ます。
これらは、全員が同じ紙を同時に見たときにだけ出ます。フロー図は、そのための紙です。
したがって、フロー図に求められるのは美しさではなく、指を差して「違う」と言いやすいことです。
| 清書したフロー図 | 手描きのフロー(本書) | |
|---|---|---|
| 作る時間 | 半日〜数日 | 1〜2時間 |
| 現場の反応 | 「よくできていますね」(で終わる) | 「ここ違います」 |
| 直しやすさ | 直すのに作った人が要る | その場でペンで直る |
| 議論の中身 | 記号の使い方・レイアウト | 業務の中身 |
| 使い道 | 報告書に貼る | 表を直す |
| 寿命 | 貼った瞬間から古くなる | 指差し会が終われば役目が終わる |
この表で見てほしいのは、作る時間の行ではなく、現場の反応の行です。清書したフロー図に返ってくる「よくできていますね」は、褒め言葉ではなく、議論が始まらなかった合図です。きれいに仕上がった紙を前にすると、人はそれを直す対象ではなく完成物として扱います。手描きのまま持っていくのは、手を抜いているのではなく、指摘を引き出すための形です。
清書版が必要になる場面は1つだけです。 外部に業務を委託する、または監査・認証で提出を求められるとき。この場合も、まず手描きで確定させてから清書します。 順番を逆にしないでください。
描く形:レーン・記号3つ・A3横1枚
レーン(横の帯)
紙を横に置き、担当ごとに横の帯を引きます。 上から順に、流れの入口に近い担当を置きます。
顧客 ─────────────────────────────
営業 ─────────────────────────────
業務課 ─────────────────────────────
倉庫 ─────────────────────────────
レーンにすると、帯をまたぐ矢印=受け渡しが一目で分かります。この矢印の本数が、そのままムダの候補の数になります(6章)。
外部(顧客・仕入先・外注)のレーンも必ず作ってください。自社の中だけを描くと、一番待たされている場所が消えます。
記号は3つだけ
| 記号 | 意味 | 中に書くこと |
|---|---|---|
| □ 箱 | 作業(表の1行に対応) | 業務名(動詞で終える) |
| → 矢印 | 渡す | 何を・どの形で(注文書PDF/紙/口頭/共有フォルダ) |
| ◇ ひし形 | 分かれ道 | 条件(1行で。「在庫あり/なし」) |
BPMN や JIS の記号を覚える必要はありません。記号を増やすと、描く人以外が読めなくなります。 3つで足ります。
足すとしたら、次の2つまでです。
| 追加記号 | 意味 | 書き方 |
|---|---|---|
| ⏳ 待ち | 次の人が着手するまでの間 | 「待ち 2日」と日数を書く(4章で数えた値) |
| ↺ 戻り | 差し戻し・やり直し | 戻り先へ点線の矢印。「月8件」と件数を書く |
待ちと戻りを描かないフロー図は、描く意味が半分ありません。 ムダの本体がそこにあるからです。
大きさはA3横1枚
A3横1枚に収まらないなら、対象が広すぎます(2章に戻って分割してください)。25〜50行の表なら、箱は25〜50個。A3横で、1行あたり8〜12個の箱を置けば収まります。
複数枚に分けると、紙の境目にある受け渡しが議論から落ちます。 1枚が鉄則です。
矢印に「何を・どの形で」を書く
この本のフロー図が普通のフロー図と違う点は、ここだけです。矢印に必ず2つ書きます。
| 矢印に書くこと | 例 |
|---|---|
| 何を | 注文書/出荷指示/見積書/口頭の連絡 |
| どの形で | メール添付PDF/紙(棚に置く)/基幹の画面/電話/チャット |
3章の表の9列(前から受け取るもの)と10列(次へ渡すもの)が、そのまま矢印に乗ります。
書いてみると、次のことが図の上に現れます。
- 同じ情報が、途中で形を変えている(PDF → 手入力 → Excel → 印刷 → 紙)。形が変わる回数が転記の回数です
- 同じ情報が、2本の矢印で別々に流れている(メールと口頭の両方)。二重連絡です
- 矢印の行き先が、誰も受け取っていない(渡しっぱなし)
これらは表からは見えにくく、図にすると数秒で分かります。矢印に形を書かないフロー図は、この機能を失います。
現状だけを描く(あるべき姿を同じ紙に描かない)
フローを描き始めると、必ず「本当はこうあるべき」が混ざります。混ぜないでください。
| 現状フロー(描く) | あるべき姿(描かない) | |
|---|---|---|
| 描く対象 | 昨日、実際に起きたこと | これから目指す形 |
| 判断の基準 | 事実かどうか | 良いかどうか |
| 混ぜると | 「これは今やっていない」が言えなくなる | — |
この表の3行目は、混ぜた場合に何が失われるかだけを書いてあります。右側が空欄なのは、あるべき姿の側に問題があるという意味ではありません。描く時期が違うだけです。
あるべき姿は、8章で選択肢を並べてから描きます。 この段階で描くと、そこから先の議論が全部「その案が良いか悪いか」になり、現状の事実確認が終わりません。
「本当はこうしたい」が出たら、紙の外の余白か、3章で作った「気づき」列に逃がします。
指差し会(45分)
フローが描けたら、関係者を集めて、立ったまま45分で見ます。会議室の壁に紙を貼ります。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 0〜5分 | 目的を言う。「この紙の間違いを見つける会です。良い悪いは今日は決めません」 |
| 5〜10分 | 描いた人が、入口から出口まで声に出して読む(説明しない、読むだけ) |
| 10〜35分 | 全員が前に出て、シールを貼る。話さずに貼る時間を10分取ってから、貼った人に理由を聞く |
| 35〜45分 | 直す場所を確定し、誰がいつまでに確認するかを決める |
この配分で最も削られやすいのが、10〜35分の中にある「話さずに貼る10分」です。沈黙が長く感じられるので、進行役がつい説明を始めてしまいます。ここを削ると、会の質がはっきり落ちます。先に誰かが話すと、その内容に引きずられた指摘しか出なくなるためです。時間が足りないときは、最後の10分を短くして、貼る時間のほうを守ってください。
参加者は5〜8人。対象の流れに実際に手を動かして関わっている人だけを呼びます。上司が同席すると出る指摘が減ります。 決裁者に見せるのは、直したあとの版です。
シールは3色
| 色 | 意味 | 貼られたら |
|---|---|---|
| 赤 | 事実が違う(順番・渡し先・回数) | その場でペンで直す。表も直す |
| 黄 | ここで止まる・待つ・やり直す | 6章のムダの候補。回数を数えていなければ数える |
| 青 | 今はやっていない/別のやり方をしている | 表の行を消すか、書き換える |
色は3つ以上に増やさないでください。 増やすと、貼る前に色を選ぶことで手が止まります。
シールが無ければ、3色のペンで丸を付けるだけでも同じです。大事なのは、話す前に、まず黙って貼る時間を作ることです。先に声の大きい人が話し始めると、他の人は貼らなくなります。
指摘を表に戻す
指差し会の出口は、フロー図の修正ではなく、一覧表の修正です。紙のフローは役目を終えたら捨てて構いません(写真だけ撮っておきます)。
| シール | 表への戻し方 |
|---|---|
| 赤 | 該当行の3・4・9・10列(始まり・終わり・受け渡し)を直す |
| 黄 | 該当行の12列(引っかかること)に書き足し、4章の数え方でやり直し・待ちを数える |
| 青 | 行を削除するか、業務名を書き換える。削除した行は消さずに取り消し線にして残す(同じ業務がまた出てくることがある) |
青で消えた行こそ記録してください。 「半年前にやめた業務が、まだ手順書に残っている」は、その手順書全体が更新されていない証拠です。
修正が終わった表が、7章の入力になります。
デジタルで描く場合
作図ツールでも構いません。ただし守ることは同じです。
| ○ | × |
|---|---|
| レーン・記号3つ・1画面に収める | 記号を増やす。色を凝る |
| 矢印に「何を・どの形で」を書く | 矢印を線だけにする |
| その場で直せる状態で投影する | 完成版を画面共有して説明する |
| 待ちと戻りを描く | 正常系だけ描く |
| 直したらすぐ保存し、版を1本にする | 版が分かれて、どれが最新か分からなくなる |
リモートで指差し会をやる場合は、シールの代わりにコメント機能を使い、「10分間、発言せずにコメントだけ付ける」時間を必ず取ってください。 対面より、先に話し始める人の影響が強く出ます。
よくある間違いを5つ
「フロー図をきれいに作ってから見せる」 ——現場は「よくできていますね」で終わり、間違いが出ません。清書に使った半日が丸ごと無駄になります。直し方:手描き・A3横1枚で持っていく。直す前提であることを最初に言う。
「現状とあるべき姿を並べて描く」 ——議論が全部「その案の是非」になり、現状の事実確認が終わりません。直し方:現状だけ描く。改善案は余白か「気づき」列に逃がす。
「矢印を線だけで描く」 ——受け渡しの形(紙・メール・口頭)が消え、転記も二重連絡も見えなくなります。フローを描く最大の利点を捨てています。直し方:全部の矢印に「何を・どの形で」を書く。
「正常系だけ描く」 ——差し戻し・やり直し・待ちが図に出ません。改善の効果が一番大きい場所が、図からも表からも消えます。直し方:戻りは点線+件数、待ちは日数で描く。
「上司や役員に同席してもらって意見をもらう」 ——現場が本当のことを言わなくなります。とくに「実は手順書と違うやり方をしている」は絶対に出ません。直し方:指差し会は手を動かす人だけ。決裁者には直した版を見せる。
この章の出口
この章を終えたとき、手元にあるべきものは3つです。
- 現状フロー1枚(手描き。写真で残す)
- 指摘が反映された業務一覧表(赤・黄・青の3種類を戻し済み)
- 黄シールの一覧(止まる・待つ・やり直す場所のリスト)
事実が固まりました。次は、この表と図からムダを見つけます。 ムダは4種類しかありません。探す場所が決まっていれば、見つけるのは難しくありません。
この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)
点検リスト:フローと指差し会(12項目)
指差し会が終わり、表を直し終えた時点で付けます。
| # | チェック項目 | ○の条件 |
|---|---|---|
| 1 | フローがA3横1枚(または1画面)に収まっているか | 1枚。複数枚に分かれていない |
| 2 | 担当ごとのレーンになっているか | 帯が引かれ、誰の作業か一目で分かる |
| 3 | 外部(顧客・仕入先・外注)のレーンがあるか | ある |
| 4 | 記号が3つ(+待ち・戻り)に収まっているか | 記号の種類が5以内 |
| 5 | すべての矢印に「何を・どの形で」が書いてあるか | 空の矢印が0 |
| 6 | 待ちが日数付きで描いてあるか | 主要な受け渡しに待ち日数が入っている |
| 7 | 差し戻し・やり直しが点線+件数で描いてあるか | 戻りの線が1本以上ある(無いなら、本当に無いかを確認した) |
| 8 | 現状だけを描いているか | あるべき姿が同じ紙に混ざっていない |
| 9 | 指差し会を、手を動かす人5〜8人でやったか | 決裁者が同席していない |
| 10 | 貼る前に、黙って貼る時間を10分取ったか | 取った |
| 11 | シールの指摘を、一覧表に戻したか | 赤・黄・青がそれぞれ表の該当列に反映されている |
| 12 | 青(今はやっていない)の行を、消さずに取り消し線で残したか | 残っている |
合格ライン=12項目中9つ以上。ただし 5・8・9 のどれかが×なら、指差し会をやり直す。
- 5が×:矢印の形が無い図は、転記も二重連絡も見えません。描いた意味が半分無くなります
- 8が×:あるべき姿が混ざった図では、現場が「事実が違う」と言えません
- 9が×:決裁者が同席した会で出た指摘は、当たり障りのないものだけです
7番(戻りの線が0本)が×になる会社は、本当に差し戻しが無いのか、数えていないだけかを必ず確認してください。ほとんどは後者です。
更新日 2018年10月20日
