株式会社COTSUBU

CHAPTER 07

AIでExcelデータを集計・分類する

この章で分かること

  • 集計・分類・突合・推定は性質が違い、任せてよい範囲がそれぞれ違うこと
  • 検算の3点セット(件数・合計・抜き取り)の作り方と、抜き取りの件数の決め方
  • 数字が合わなかったときに、どこから疑うかの順番
この章の目次(13)
  1. 1文章の確認と、数字の確認は別物
  2. 2集計・分類・突合・推定は、任せてよい範囲が違う
  3. 3数えさせるのではなく、数える手順を作らせる
  4. 4検算の3点セット
  5. 5抜き取りは何件見るか
  6. 6分類は、定義を文章で書いてから
  7. 7突合は「合わなかった行」を出させる
  8. 8元データが汚いときにやること
  9. 9数字が合わないときに疑う順番
  10. 10定例化するときに残す記録
  11. 11データの仕事でAIを使わないほうがよい場合
  12. 12よくある間違いを5つ
  13. 13この章の出口

データの仕事の間違いは、読んでも気づけません。文章の間違いは声に出すと引っかかりますが、合計が3件ぶん足りない表は、見た目が完全に正しいからです。 だからこの章で決めるのは、上手な集計のさせ方ではなく、出てきた数字を機械的に確かめる形(検算)です。 検算を作れない集計は任せません。確かめようのない数字は、間違った数字よりも扱いに困ります。

この章で分かること

  • 集計・分類・突合・推定は性質が違い、任せてよい範囲がそれぞれ違うこと
  • 検算の3点セット(件数・合計・抜き取り)の作り方と、抜き取りの件数の決め方
  • 数字が合わなかったときに、どこから疑うかの順番

文章の確認と、数字の確認は別物

6章と同じやり方では止まりません。性質が違います。

文章の仕事(6章) データの仕事(この章)
間違いの出方 事実誤認、固有名詞のずれ 件数の欠落、二重計上、単位の取り違え
気づき方 読むと引っかかる 読んでも気づかない
確かめ方 元の事実と照らす 数で照らす(件数・合計)
見つかる時期 社外に出す前 数ヶ月後、別の資料と合わなくて発覚する
直す手間 その資料を直す その数字を引用した資料を全部たどる

4行目が、この章を独立させた理由です。文章の間違いは出す前に止められますが、数字の間違いは社内の共通認識になってから見つかります。 表計算ソフトのデータを実際に読ませる手順は記事(AIでデータ分析|Excelデータをもっと活用する方法)にあります。この章で扱うのは、出てきた数字を信じてよいかの決め方です。

集計・分類・突合・推定は、任せてよい範囲が違う

「データをAIに」とひとまとめにすると、確認の手順が書けません。4つに分けます。

仕事 中身 検算できるか 任せ方(1章の段階)
集計 決まった軸で数える・足す 件数と合計で確かめられる 段階3(実行)にできる
突合 2つの表を突き合わせて差を出す 両側の件数と、不一致の件数で確かめられる 段階3。ただし不一致の行は人が見る
分類 明細や文章に区分を付ける 件数は合う。中身の正しさは数で確かめられない 段階1〜2。抜き取り前提
予測・推定 来月の見込み、原因の推定 照らす先が無い 段階4(任せない)

4行目です。「なぜ先月の売上が落ちたのか」と聞けば、それらしい理由が返ってきます。しかし確かめる先がありません(1章の問い2)。 使うなら形を逆にします。人が仮説を立て、その仮説を数字で確かめる。仮説そのものをAIに作らせて、それを結論として資料に書かないでください。

数えさせるのではなく、数える手順を作らせる

これがこの章で一番効きます。

やり方 手元に残るもの 翌月どうなるか
出力として数字を出させる 数字だけ。途中が見えない 別の人がやると違う数字が出る
数える手順(式・スクリプト・手順書)を作らせる 手順が残る 同じ手順を再実行できる。差が出たら元データの変化と分かる

当社が受託で数字を扱うときの基本形がこれです。理由は、手順が残っていれば「先月と作り方が同じか」を確かめられるためです。数字だけを受け取ると、その確認ができません。 手順が残っていれば、検算も手順を読むだけで済みます。数字だけなら、全部を突き合わせるしかありません。

検算の3点セット

出力を受け取ったら、中身を読む前にこの3つを通します。

# 確かめるもの やり方 見つかる事故
1 件数 処理前と処理後の行数を数える 読み飛ばし、重複、出力が途中で終わっている
2 合計 金額・数量の合計を元データと突き合わせる 単位の取り違え、税込と税別の混在、符号の反転
3 抜き取り 決めた件数を人が1行ずつ元データと照らす 分類の誤り、桁の取り違え

1と2が×なら、中身は読みません。 やり直しです。件数が合っていない表を読み込むのは、時間の使い方として最も効率が悪い作業です。 1と2は機械が数えられます。人の時間を使うのは3だけです。ここを設計しておけば、確認は現実的な時間で回ります。

抜き取りは何件見るか

全件見ると続きません。かといって「2〜3件見て大丈夫そう」では、確認とは言えません。件数を先に決めます。

段階 見る件数
最初の3回 全件。どういう間違い方をするかを把握する
4回目以降 20件、または全体の1割のうち多いほう
元データの形が変わったとき 全件に戻す
金額が確定する業務(請求・支払) 全件。抜き取りにしない

当社の決めごと:抜き取りは20件または1割の多いほう。最初の3回は全件。 理由は、最初の3回で間違い方の癖が分かり、それ以降は同じ観点だけを見れば足りるようになるためです。 最終行は1章の問い1(取り消せるか)が×だからです。請求金額は出した後に直せません。

分類は、定義を文章で書いてから

分類は、件数が合っていても中身が間違っている唯一の仕事です。判定の基準が文章になっていないと、出力の正しさを誰も判定できません。

決めること 書き方 ありがちな抜け
区分の定義 区分ごとに1行。「◯◯を含むもの」 区分名だけを並べる
両方に当てはまる場合の優先順位 「AとBの両方に当たるときはAにする」 書かない。毎回違う結果になる
どれにも当てはまらない場合 「保留」として出させる 無理やりどれかに入る

保留の欄を必ず作ってください。 保留が無い分類では、迷った行が黙ってどこかに入ります。保留として出ていれば、人はそこだけを見れば済みます。 保留が全体の1割を超えるなら、定義が足りていない印です。行を1つずつ直すのではなく、定義を直して分類をやり直します。

突合は「合わなかった行」を出させる

入金と請求、名簿と名簿、在庫と実地棚卸し。突合の成果物は「合いました」ではありません。

出させるもの 扱い
両方にあって一致した行 件数だけでよい
片方にしかない行 全部出す。人が見る
金額・日付が違う行 全部出す。差額を付ける
判断がつかない行 保留として出す

似た名前を寄せて一致させる処理を、黙ってやらせないでください。 「株式会社◯◯」と「◯◯株式会社」は寄せてよくても、「◯◯工業」と「◯◯工業所」は別の会社かもしれません。 寄せる規則は人が決めて変換表にします。規則に無いものは保留に出す——この形なら、寄せ間違いが人の目に触れます。

元データが汚いときにやること

AIは汚いままでも読んでしまうので、掃除を飛ばせます。ここが分かれ目です。

汚れ方 先にやること
表記ゆれ(全角半角、法人格の有無) 寄せる規則を決めて変換表を作る。毎回AIに判断させない
1つのセルに複数の情報が入っている 分ける。分けられないなら、分ける規則を書く
結合セル・小計行が混ざった表 台帳の形そのものを直す(kintoneの教科書の範囲)
同じ意味の列が複数ある どれが正本かを決める(点検項目1)
紙・手書きしかない 2章の判定に戻る。電子化が先

1行目が肝心です。都度判断させると、月ごとに違う寄せ方になり、前月と比較できない数字ができます。 変換表にすれば、翌月も同じ結果になります。 そして、3回続けて同じ整形をしているなら、元データの側を直したほうが早い。出力だけを整え続けると、この手間は毎月かかり続けます。

数字が合わないときに疑う順番

合わなかったときに、いきなり中身を読まないでください。順番があります。

順 疑うところ 確かめ方
1 範囲 期間・対象の条件が同じか。締め日のずれが最も多い
2 件数 入力と出力の行数。途中で切れていないか
3 重複 同じ行が二重に入っていないか
4 単位 税込と税別、千円単位、通貨
5 除外の扱い 取消・返品・社内取引が含まれているか
6 計算そのもの 1〜5が全部合ってから疑う

実務で最も多いのは1です。 「AIが計算を間違えた」と思って中身を読み始めると時間が溶けますが、実際には人が渡した条件と、比べた相手の条件が違っているだけ、という場合が多くあります。 この順番を自社の言葉で1枚にして、数字を扱う人に配ってください(点検項目10)。

定例化するときに残す記録

毎月回す形にするなら、実行の記録を残します(4章の自動化と同じ考え方です)。

残すもの 使いどころ
実行日時 いつ時点の数字かが分かる
入力の件数・出力の件数 後からでも検算できる
使った指示文の版 数字が変わったとき、指示が変わったのか元データが変わったのかを切り分けられる
実行した人(または自動実行の別) 数字の責任者がたどれる(点検項目11)

3行目が効きます。先月と数字の作り方が変わったかどうかは、指示文の版が分からないと切り分けられません(5章)。

データの仕事でAIを使わないほうがよい場合

状況 判断
件数・合計で検算できない 使わない。確かめられない数字は業務に使えない
毎月まったく同じ形の集計 使わない。一度作った式を使い回すほうが速く、結果もぶれない
元が紙・手書きしかない 電子化が先(2章)
公的な届出・申告に出す数字 人がやる。確認の手間が元の作業を超える(1章)
個人情報を含み、3章で「入れない」段階に当たる 入れない。迷ったら窓口(3章の点検項目4)

2行目が抜けがちです。AIが向くのは、形が毎回違う集計と、その式を作る作業のほうです。 形が固定された集計を毎月AIに投げるのは、検算の手間だけが増えます。

よくある間違いを5つ

「出てきた表をそのまま資料に貼った」 ——件数も合計も確かめないまま貼ると、間違いは数ヶ月後、別の資料との食い違いで見つかります。そのときには、その数字を引用した資料が社内に何本もあります。直し方:件数と合計を先に確かめる。合わなければ中身を読まない。

「長い表を一度に処理させた」 ——途中が省略されたり、途中で終わったりすることがあります。しかも終わり方はきれいです。直し方:処理前と処理後の件数を必ず数える。合わなければ分けて処理する。

「分類の基準を口頭で伝えた」 ——基準が文章になっていないと、出力が正しいかどうかを判定できません。判定できないものは、確認したことになりません。直し方:区分ごとに定義を1行書く。迷う行は保留に出させる。

「元データを直接書き換えさせた」 ——元に戻せず、何が変わったのかも追えません。直し方:元データは読むだけにする。出力は必ず別ファイルに出す(点検項目8)。

「1回うまくいったので、翌月から中身を見なくなった」 ——元データの形が変わると、同じ指示でも結果が変わります。変わったことは出力の見た目からは分かりません。直し方:抜き取りの件数を決めて続ける。形が変わった月は全件に戻す。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 正本を書いた1行(どのファイル・どのシステムが正か)
  2. 検算の形(件数・合計・抜き取りの件数)
  3. 数字が合わないときに疑う順番の表と、数字の責任者の氏名

数字は、数で確かめられました。次はコードです。 開発が厄介なのは、動いてしまうことです。動いたものは正しく見えますが、権限・秘密情報・戻し方は、画面を触る確認では表に出てきません。

次の章へ:8章 AIにコードを書かせるとき人が決めること

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:データの仕事(12項目)

1つの集計につき通します。定例化するものは、最初の3回は毎回通してください。

# チェック項目 合格ライン
1 元データの正本が1つに決まっている どのファイル・どのシステムが正かが書いてある
2 件数を先に数えている 処理前と処理後の件数が一致している
3 合計が一致することを確かめている 金額・数量の合計を元データと突き合わせた
4 抜き取り検査の件数と基準が決まっている 「◯件を人が全部見る」と数字がある
5 分類は判断基準が文章で書いてある 区分ごとの定義が1行ずつある
6 判断に迷う行を「保留」に出す仕組みがある 保留行が出力に含まれる
7 個人情報の扱いが3章のルールに沿っている 入れてよい段階か確認した
8 元データを書き換えていない 出力は別ファイルに出している
9 同じ入力で2回実行して結果を比べた 差分を確認した
10 数字が合わないときの調べる順番が決まっている 手順が1枚になっていて、担当者が持っている
11 最終的な数字に責任を持つ人がいる 氏名がある
12 定例化する場合、実行記録が残る 実行日時・件数・指示文の版が残る

合格ライン=12項目中10以上。ただし 2・3・11 のどれかが×なら、その数字を業務に使わない。

  • 2が×:出力が途中で切れていても気づけません。件数は、中身を読む前の入口です
  • 3が×:単位の取り違えや重複が、そのまま社外の資料に載ります。桁や税の間違いは相手に必ず見つかります
  • 11が×:責任者のいない数字は、間違いが見つかったときに誰も訂正できません。訂正されない数字は社内に残り続けます

9(2回実行して比べる)が×でも業務には使えますが、定例化する前に一度は確かめてください。 毎回違う結果が出る作り方になっていると、翌月以降の比較がすべて無意味になります。

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更新日 2018年10月20日