株式会社COTSUBU

CHAPTER 09

AI活用を社内に残す|属人化させない

この章で分かること

  • 1人に集中した状態が、どういう順番で壊れるか
  • 残すべき5つのものと、その置き場所の決め方
  • 2人目の作り方(説明ではなく、1人でやってもらう)
この章の目次(11)
  1. 11人に集中すると、こう壊れる
  2. 2残すものは5つだけ
  3. 3置き場所は1か所に決める
  4. 4手順書に書く5つ
  5. 52人目は、説明ではなく「1人でやってもらう」で作る
  6. 6うまくいかなかった記録を残す
  7. 7引き継ぎ物の一覧を先に作る
  8. 8外に頼む範囲を、自社に残す範囲と分けて書く
  9. 9わざわざ残さなくてよいもの
  10. 10よくある間違いを5つ
  11. 11この章の出口

AI活用が止まる一番の原因は、効果が出ないことではありません。詳しい1人に全部が集まり、その人が異動した日に止まることです。 残すのは、その人のうまさではありません。置き場所と、手順と、2人目です。この3つは、うまさと違って誰にでも渡せます。 この章は、担当者が抜けても翌月も同じ業務が回る状態を作るための章です。

この章で分かること

  • 1人に集中した状態が、どういう順番で壊れるか
  • 残すべき5つのものと、その置き場所の決め方
  • 2人目の作り方(説明ではなく、1人でやってもらう)

1人に集中すると、こう壊れる

属人化が厄介なのは、進行しているあいだ、すべてが良い兆候に見えることです。詳しい人が現れて、その人が速く、社内で評価される。ここまでは誰の目にも成功です。問題は、成功の形と属人化の形が、途中まで完全に一致していることにあります。だから止める理由が誰にも見つかりません。

もうひとつ、AIを使う業務に固有の事情があります。うまさが目に見えないことです。表計算のマクロなら、ファイルを開けば中身が読めます。AIを使った業務のうまさは、その人がどう指示を書き、出てきたものをどこで疑い、どう直したかという判断の積み重ねなので、外から見ても手順として現れません。隣で見ていても再現できない、という形の属人化が起きます。

この章で残すものを5つに絞っているのは、そのためです。判断の積み重ねを全部文書にしようとすると終わりませんし、書いても読まれません。代わりに、置き場所と、確認する場所と、2人目という、判断を必要としない3つを固定します。うまさは渡せませんが、この3つは誰にでも渡せます。

最初から壊れて見えないのが厄介なところです。順番があります。

時期 見えている状態 実際に起きていること
1ヶ月目 詳しい人が速い。社内で評価される その人のやり方が、その人の頭の中にだけ溜まる
3ヶ月目 仕事がその人に集まる 他の人が試す機会が無くなる
6ヶ月目 その人が忙しい。改善が止まる 指示文の更新が滞り、誰も直せない
異動・退職 業務が止まる アカウント・ファイル・指示文の所在が分からない

この表は、自社が今どの行にいるかを当てるために使ってください。左の列の時期ではなく、真ん中の列の「見えている状態」で判定します。時期は会社によってずれますが、見えている状態の順番はずれません。仕事がその人に集まり始めたと感じたら、それが3ヶ月目の行です。

右の列を読むときは、これが悪意のない人たちの間で起きることだと理解しておいてください。詳しい人は手を抜いていませんし、周りも怠けていません。速い人に頼むのは合理的な判断です。合理的な判断を積み重ねた結果として、この表の下の行に到達します。だから、個人の心がけでは止まりません。2人目を決めるという仕組みの側で止めます。

3ヶ月目が分かれ目です。 ここで2人目を作らないと、以降は「聞いたほうが早い」状態が固定します。速いことが、そのまま属人化の原因になります。 経営側から見ると、この状態は詳しい人を異動させられないという形で表に出ます。人事の自由度が下がって初めて気づく、という順番になりがちです。

残すものは5つだけ

全部を文書化しようとすると終わりません。残すのはこの5つです。

# 残すもの どの章で作ったか 無いとどうなるか
1 決めごと(線引き・社内ルール) 1章・3章 判断する人ごとに答えが変わる
2 指示文(ファイルの形) 5章 その人のチャット履歴と一緒に消える
3 手順書(業務ごとの順番と確認箇所) 6・7・8章 2人目が動けない
4 うまくいかなかった記録 この章 同じ失敗を別の人が繰り返す
5 引き継ぎ物の一覧 この章 退職時に何を回収すべきか分からない

この5つは、新しく書くものではありません。右から2列目を見れば分かるとおり、4と5以外はここまでの章で作り終えているはずのものです。この章の作業は、それらが本当に現物として存在し、全員が開ける場所にあるかを確かめることです。「作ったつもり」と「置いてある」の間には、かなりの距離があります。

全部が揃っていなくても構いません。順番があるとすれば、2と3を先に置いてください。指示文と手順書が無いと、2人目を作る工程そのものが始められないからです。1の決めごとは、すでに頭の中で運用されていることが多いので、文書化が後回しになっても実害が出るまでに時間があります。

4が抜けがちです。 成功だけが残ると、「なぜそれをやらないのか」が説明できません。使わないと決めた業務(1章・2章で対象外にしたもの)も、理由ごと残してください。

置き場所は1か所に決める

置き場所が分かれた時点で、更新されるのは片方だけになります。

決めること ○の状態 ×の状態
場所 1か所。全員が開ける共有フォルダ、または社内システム 個人の端末、個人のチャット履歴、個人のメモ帳
権限 業務に関わる全員が読める。書ける人も決まっている 作った人しか開けない
検索 業務名で探せる ファイル名が「最新版2」
更新の担当 業務ごとに氏名がある 気づいた人が直す(=誰も直さない)

当社の決めごと:指示文と手順は、道具の外に置く。 理由は2つあります。乗り換えるときに持ち出せること(4章の点検項目9)と、その道具を契約していない人でも読めることです。 置き場所そのものの作り方——ルールを書いたファイルをAIに毎回読ませる形——は記事に譲ります(CLAUDE.mdとは?AIに仕事を覚えさせる方法)。どこに置くかが決まっていないうちは、書き方を調べても意味がありません。

手順書に書く5つ

長い手順書は読まれません。1業務あたり1枚で、この5つが埋まっていれば2人目は動けます。

項目 書くこと
材料 何を用意してから始めるか(元データ・音声・原本のファイル名)
順番 操作の順番。番号を振る
人が確かめる場所 どこを見るか(6章・7章・8章で決めたもの)
やり直す条件 「件数が合わなければ最初からやり直す」など
困ったときの連絡先 氏名

3番目と4番目が、普通の手順書との違いです。AIを使う業務の手順書は、操作の順番より「どこを疑うか」のほうが重要です。 操作は迷いませんが、出力を信じてよいかは迷います。

2人目は、説明ではなく「1人でやってもらう」で作る

教える工程を、見せる・一緒にやる・1人でやってもらう、の順に分けます。

順 やること 終わったと判断する条件
1 見せる 何をしている業務かを言葉で説明できる
2 手順書を渡して、横で一緒にやる 手順書の足りない箇所を2人目に書き足してもらう
3 1人でやってもらう。教えた人は席を外す 質問なしで最後まで終わった
4 出力を見比べる 1人目がやった場合と、結果が同じ

2人目を誰にするかで迷ったら、意欲ではなく在籍の見込みで選んでください。詳しい人に憧れて手を挙げた若手より、その業務の周辺に数年いる予定の人のほうが適任です。2人目を作る目的は、能力を増やすことではなく、業務が1人の予定に縛られない状態にすることだからです。意欲のある人は、放っておいても3人目になります。

もう1つの基準は、その業務の出力を受け取る側にいる人かどうかです。議事録なら会議に出ている人、報告書なら報告を読む人。受け取る側の人は、出力のどこが変だと困るかを体で知っているので、確認する場所の意味がすぐ分かります。作業として覚えた人より、間違いに早く気づきます。

たとえば、従業員25名ほどの卸売の会社で、2人目を作らないまま1年が過ぎたとします。詳しい担当者が受注データの整理を回していて、社内では効率化の成功例として扱われている。その人が家庭の事情で1ヶ月休むと、業務が止まります。手順書があっても、操作の順番しか書かれておらず、出てきた結果のどこを確認すべきかが抜けていれば、代わりに入った人は出力をそのまま信じて処理を進めます。取引先向けの数字が合わない状態が何週間も続く、という形の失敗です。

この場合に足りないのは、手順書の分量ではありません。確認する場所とやり直す条件の2行です。その2行を足し、2人目に1人でやってもらえば、休んでも止まらなくなります。作業としては半日です。その半日を取らないことのほうが高く付きます。

2の「足りない箇所を書き足してもらう」が効きます。 書いた本人には、抜けている前提が見えません。2人目がつまずいた箇所こそが、手順書に足りない行です。 3で席を外してください。 横にいると質問で解決してしまい、手順書は完成しません。点検項目4(2人目が1人で実行できた)は、この工程の記録です。

うまくいかなかった記録を残す

成功事例より、こちらのほうが後から効きます。1行で足ります。

書くこと 例
何をやろうとしたか 見積書の作成を段階3(実行)で試した
どうなったか 金額の転記が合わず、確認に元の作業以上の時間がかかった
どう決めたか 段階1(下書き)に戻した。金額欄は人が入力する

「やってみたが戻した」を残さないと、半年後に別の人が同じことを提案します。 反対に、残しておけば、条件が変わったとき(元データが整った、担当が変わった)に再挑戦する判断もできます。

引き継ぎ物の一覧を先に作る

退職・異動が決まってから作ると、必ず漏れます。運用を始めた時点で作っておきます。

種類 中身
アカウント 使っている道具の一覧と、管理者(3章の点検項目13)
ファイル 指示文・手順書・記録の置き場所
つながっている先 連携している社内システム、外部サービス(8章の通信先一覧)
動いているもの 自動で動いている処理と、その止め方(4章)
外に頼んでいる範囲 委託先、契約期間、連絡先

4行目を落とさないでください。止め方が分からないまま動き続けている処理は、担当者が抜けたあとに最も困ります。

外に頼む範囲を、自社に残す範囲と分けて書く

内製化は「全部自社でやること」ではありません。決める部分を自社が持ち、作る部分の一部を外に頼むのは、内製化した状態です。

種類 自社に残す 外に頼んでよい
線引き・ルール ◯ 必ず自社 —
業務の選定 ◯ 自社が決める 棚卸しの進め方は手伝ってもらえる
指示文 ◯ 自社で直せる状態にする 最初の型づくりは頼める
作り込み(開発) 直せる人がいないなら外 ◯
効果の判定 ◯ 自社 数え方の設計は頼める

指示文を自社で直せるかどうかが分かれ目です。 ここを外に持たれると、業務が変わるたびに費用と時間がかかり、現場は使うのをやめます(12章の必須項目3)。 外に頼む範囲を決めるときは、金額と期間もあわせて書いてください(点検項目9)。

わざわざ残さなくてよいもの

何でも文書にすると、更新されない文書が増えます。残さない判断も要ります。

対象 判断
1回きりの作業 残さない。手順書を書く時間のほうが長い
月1回未満の業務 残すのは結果だけ。手順は都度でよい
試している最中のやり方 固まるまで置かない。固まっていない手順は混乱を生む
道具の操作説明 書かない。提供元の公式ドキュメントへのリンク1行にする

4行目は重要です。画面の操作説明を自社で書くと、道具が更新された日から間違った文書になります。 自社が書くのは、自社でしか決められないこと(材料・確認箇所・責任者)だけです。

よくある間違いを5つ

「詳しい人が全部やるほうが速いので、そのままにした」 ——速いのは事実です。そして3ヶ月で改善が止まり、その人を異動させられなくなります。直し方:3ヶ月以内に2人目を決める。速さを少し捨てる。

「勉強会を開いて、全員に説明した」 ——説明を聞いただけでは、誰も1人ではできません。直し方:業務を1つ決めて、2人目に1人でやってもらう。教えた人は席を外す。

「指示文を個人のチャット履歴に置いたままにした」 ——その人が退職した日に消えます。共有もされません。直し方:ファイルにして、全員が開ける場所に置く(5章の点検項目7・8)。

「道具の操作マニュアルを社内で作り込んだ」 ——更新に追われ、いずれ実態と合わなくなります。直し方:操作は公式ドキュメントに任せる。自社は材料・確認箇所・責任者だけを書く。

「うまくいかなかったことは、わざわざ書かなかった」 ——半年後、別の人が同じ提案をして、同じところでつまずきます。直し方:試してやめたものを1行ずつ残す。理由を添える。

この章の出口

この章を終えたとき、手元に残っているべきものは3つです。

  1. 置き場所を書いた1行(全員が開ける場所)
  2. 業務ごとの2人目の氏名と、1人でやってもらった記録
  3. 引き継ぎ物の一覧(アカウント・ファイル・連携先・動いている処理)

社内に残す形はできました。次は、やってはいけない使い方です。 ここまでの章は「やり方」でしたが、次の章は1つでも欠けたら運用を止める種類の話になります。点数で通す章ではありません。

次の章へ:10章 生成AIでやってはいけないこと

この章の点検リストを開く(自社の状態を○×で判定する用)

点検リスト:社内に残す(10項目)

四半期に1回通してください。 人の異動が決まってからでは間に合いません。

# チェック項目 合格ライン
1 指示文の置き場所が1か所に決まっている 場所が書いてあり、関係者全員が開ける
2 手順書がある 業務ごとに、材料・順番・確認箇所・やり直す条件・連絡先がある
3 使える人が2人以上いる 業務ごとに2人目の氏名がある
4 2人目が1人で実行できた 教えた人が席を外した状態で、最後まで終わった記録がある
5 決めごと(線引き・ルール)が文書になっている 1章・3章の成果物が現物としてある
6 更新の担当と頻度が決まっている 氏名と頻度(例:四半期に1回)がある
7 うまくいかなかった例も残している 試してやめたものが、理由つきで残っている
8 退職・異動時の引き継ぎ物が一覧になっている アカウント・ファイル・連携先・動いている処理の4種類がある
9 外部に頼んでいる部分が明示されている 頼む範囲・自社に残す範囲・金額・期間が書いてある
10 社内で共有する場が月1回以上ある 開催日が決まっている

合格ライン=10項目中8以上。ただし 1・3・6 のどれかが×なら、内製化できていないと判断する。

  • 1が×:残っているつもりのものが、個人の手元にしかありません。退職の連絡と同時に失われます
  • 3が×:業務ではなく、その人の作業です。休めない・異動できない状態が固定します
  • 6が×:置き場所があっても更新されません。半年で実態と合わなくなり、読まれなくなります

10(共有の場)が×でも回りますが、うまくいかなかった記録が集まらなくなります。 既存の定例会議に15分を足すだけで足ります。新しい会議体を作る必要はありません。

読んでも決めきれないところは、一緒に決めます

30分の相談は無料です。任せる範囲の線引きから一緒に決めます。引き受けられる範囲はAI活用・内製化支援にまとめています。

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更新日 2018年10月20日