従来型雇用モデルの限界
「優秀な人材を正社員として囲い込み、フルコミットしてもらう」。多くの企業が当たり前としてきたこの雇用モデルが、いま大きな転換点を迎えています。
特に中小企業やスタートアップにとって、従来型のフルタイム雇用には以下の課題があります。
- 人件費の固定化: 売上に関わらず毎月の給与が発生する
- 採用の困難: 優秀な人材ほど大企業やフリーランスを選ぶ
- 人材の流動性の低さ: 一度採用すると、ミスマッチの解消が難しい
- スキルの偏り: 少人数の組織では、特定領域の専門家を雇う余裕がない
- メンバーの成長停滞: 同じ環境に長くいると、刺激が減り成長が鈍化する
これらの課題に対する解決策として、複業を前提とした新しい会社経営モデルが注目されています。
複業前提の会社経営モデルとは
基本的な考え方
複業前提の経営モデルは、従来の「会社がメンバーの労働時間を100%確保する」という前提を手放し、メンバーの時間と能力の一部を借りるという発想に転換するものです。
従来型と複業前提型の違いを整理してみましょう。
| 項目 | 従来型 | 複業前提型 |
|---|---|---|
| 雇用形態 | 正社員(フルタイム) | 業務委託 + 固定報酬 |
| 拘束時間 | 週40時間 | 週15〜30時間(柔軟) |
| 副業 | 原則禁止 or 許可制 | 自由(推奨) |
| 収入源 | 自社給与のみ | 自社 + 他社の複数収入 |
| スキル開発 | 社内研修中心 | 複業を通じた実践学習 |
| 組織の境界 | 明確 | 流動的 |
経営者にとってのメリット
複業前提の経営モデルには、経営者にとって以下のメリットがあります。
1. 人件費の最適化
フルタイムの正社員を雇うと、給与に加えて社会保険料・福利厚生費・オフィスコストなど、給与の1.5〜2倍のコストがかかります。複業前提で業務委託契約にすると、必要な稼働分だけのコストで済むため、特にスタートアップや中小企業にとっては大きなメリットです。
2. 優秀な人材へのアクセス
フルタイムでは採用できないレベルの人材でも、複業・業務委託であれば関わってもらえる可能性があります。大企業のエース級人材が、週10時間だけ自社のプロジェクトに参画してくれるケースも珍しくありません。
3. 多様なスキルの確保
少人数の組織でも、複業メンバーを含めればマーケティング・開発・デザイン・法務・財務など、幅広い領域の専門家とチームを組むことができます。
4. 組織の新陳代謝
複業メンバーは外部の知見を常に取り入れてくれるため、組織が内向きになりにくいという利点もあります。
複業前提の経営を実現する仕組み
評価制度の再設計
従来の「プロセス評価」から「アウトプット評価」への転換が必要です。複業メンバーの勤務時間を管理することは現実的ではないため、成果物の品質と納期で評価する仕組みを構築します。
具体的には以下の要素で評価します。
- 合意した成果物の達成度
- プロジェクトへの貢献度(定性評価)
- コミュニケーションの質と頻度
- ナレッジ共有への貢献
コミュニケーション設計
物理的に同じオフィスにいない複業メンバーとの連携には、意図的なコミュニケーション設計が不可欠です。
- 非同期コミュニケーション: SlackやNotionでの情報共有を基本とする
- 同期コミュニケーション: 週1回のチームミーティングで方向性を合わせる
- ドキュメント文化: 口頭での伝達を避け、判断の背景や経緯を文書化する
- オフラインの場: 四半期に1回の対面ミーティングで関係性を深める
契約と法務
複業前提の経営で特に注意すべき法務面のポイントです。
- 秘密保持契約(NDA): 複業先との情報の区分を明確にする
- 競業避止義務: 過度な制限は避け、合理的な範囲にとどめる
- 知的財産権: 成果物の権利帰属を契約書で明確にする
- 偽装請負の防止: 業務委託と雇用の区別を法的に適切に行う
COTSUBUが実践する複業経営モデル
株式会社COTSUBUでは、設立当初から複業を前提とした経営モデルを採用しています。具体的には、メンバーに最低限の固定給(企業版ベーシックインカム)を支給しつつ、他社からの業務委託収入も自由に得られる仕組みです。
このモデルが機能する理由
COTSUBUの複業経営モデルが機能している背景には、明確なValueの共有があります。
「一箇所に留まるな」 というValueは、メンバーが複数のフィールドで活躍することを積極的に推奨する姿勢を表しています。会社がメンバーを「囲い込む」のではなく、外で得た経験を組織に還元してもらうことで、少人数でも幅広い知見を蓄積できます。
「速さと行動量は全てを凌駕する」 は、複業環境で特に重要です。限られた時間で最大の成果を出すためには、完璧主義を捨てて高速にアウトプットを出す必要があります。
「まずやります、と言える人」 は、採用基準でもあります。複業前提の組織では、指示待ちの姿勢では機能しません。自律的に動ける人材を集めることが、このモデルの前提条件です。
COTSUBUモデルの具体的な運用
- メンバーはCOTSUBUの案件(マーケティング支援、システム開発、CxO支援、自治体DXなど)に参画
- 稼働時間はプロジェクトの状況に応じて柔軟に調整
- COTSUBU以外の業務委託案件も自由に受注可能
- 定期的な1on1でキャリアの方向性とプロジェクトのアサインを調整
複業前提の経営に向いている業種・組織
すべての企業が複業前提のモデルに移行できるわけではありません。このモデルが特に有効なのは以下のような組織です。
- 知識労働中心の企業: IT、コンサル、クリエイティブ、マーケティングなど
- プロジェクト型の業務が多い企業: 案件ごとにチーム編成が変わる組織
- リモートワークが可能な企業: 場所に依存しない業務プロセスが整っている
- 成長フェーズのスタートアップ: フルタイム採用のコストを抑えつつ、多様なスキルが必要
逆に、製造業のライン作業や、常時対面が必要な接客業など、時間と場所に強く紐づく業務には不向きです。
複業前提の経営を始めるための3ステップ
ステップ1: 業務の棚卸しと切り出し
まず、自社の業務を「コア業務」と「切り出し可能な業務」に分類します。切り出し可能な業務から複業メンバーへの委託を始めましょう。
ステップ2: 小さく始める
いきなり全員を複業前提にするのではなく、1〜2名の業務委託メンバーを迎え入れるところから始めます。運用上の課題を発見し、仕組みを改善していきます。
ステップ3: 文化の醸成
複業前提の経営は、制度だけでなく文化が重要です。「メンバーを信頼し、自律性を尊重する」という価値観を、経営者自らが体現する必要があります。
まとめ:複業前提の経営は「制約」ではなく「解放」
複業を前提とした会社経営モデルは、経営者にとって「メンバーの時間を確保できない」という制約に見えるかもしれません。しかし実際には、人件費の最適化、優秀な人材へのアクセス、組織の多様性という大きなメリットをもたらします。
そして何より、メンバーが自律的に成長し、外部で得た知見を組織に還元してくれるサイクルが生まれることで、少人数でも大きな価値を生み出せる組織へと進化できるのです。